蠍の尻尾   作:深波 月夜

60 / 80
・7-5

 パワーアップフォーム。それはレジェンド・バトルにおいて、特定のキャラクターのステータスが上がったり、特別な技が解放されたりする、ボーナススキルだ。デメリットがある場合もあるが、多くの場合はゲーム的な縛りとして、制限時間が設けられている。それは、エクストリームにおいても同様だ。

 制限時間は、約五分。その間に、ザンダクロスの頑強な装甲を突破し、勝負を決めなければならない。そうでなければ、通常のスキルでさえ傷ひとつ付かなかったザンダクロスを攻略することは叶わない。そのためには、どうすればいいか……。

「感じるな、考えろ。勝利への道筋を」

 その昔、教えてもらった言葉を、口の中で転がす。この言葉が、困難な試合に臨む前の俺のお守り代わりだった。そして、今も。

「さあ、行くぜ……ハードボイルドにな……」

 ハードボイルドを気取った台詞は、昔の癖だ。今となってはただの虚仮だったということがよく分かる。だが、それでも染み付いた習性のように、気取った台詞が口を衝く。

「口ばかりは達者だな。大層なことを言う前に、このザンダクロスの装甲に傷ひとつでもつけて見せろ」

 重厚な鎧を纏った戦士のような威圧を放ちながら、ザンダクロスが突撃してくる。その大振りの一撃を避けるが、床面に敷き詰められた瓦礫が大きく弾け飛ぶ。決して装甲だけが取り柄というわけではない。まったく、厄介だ。だが、それを乗り越えないことには花道も、白雪も、そしてシャウも取り戻せない。

「プリズムビッカー!」

 手に握られた、エクストリーム専用の剣、プリズムビッカー。その攻撃力は、エクストリームになって強化されたこともあり、通常フォームのWとは比べ物にならない。だが、それすらも硬質な手ごたえと共に弾き返される。

「無駄だ。その程度では」

 通常、胴体部分には駆動の中枢となるパーツが組み込まれていることが多い。だが、それゆえ頑強な装甲に覆われていることも、また多い。逆に言えば、これだけ頑丈であるということは、そここそが心臓部であるはずだ。相手はその装甲に、絶対の自信を持っている。それこそが、いわば俺のつけ入る隙になる。

 振るわれる拳を、ビッカーシールドで受け流す。その隙に、二閃、三閃と剣を振るう。だが、胸の装甲は堅く、手ごたえと言うには足らない。それでも、俺は剣を振るう。パワータイプのザンダクロスを相手取るのに、この距離は危険だ。しかし、そこに留まるしか勝機はない。

 再び振るわれる鉄拳。それを受けたビッカーシールドごと、俺の体が吹き飛ばされる。受け流すのをしくじった。だが、ダメージ自体はない。距離が開いたのを契機に、ザンダクロスの腹が開く。あそこには、レーザーキャノンが格納されていたはずだ。

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

『サイクロン! マキシマムドライブ!』

『ヒート! マキシマムドライブ!』

『ルナ! マキシマムドライブ!』

 寸刻の間に、四本のガイアメモリをビッカーシールドに挿入。ガイアウィスパーが響き、四本のメモリの力が最大限に引き出される。通常フォームでは困難な、二本以上のメモリのマキシマムを同時に扱えるのが、エクストリームの特徴だ。

「ビッカー! ファイナリュージョン!」

 シールドから放たれる虹色の光と、ザンダクロスの腹から放たれる白い閃光が、二人の間でぶつかり合う。力の奔流が押し合い、どちらが押し込まれるともなく、爆発する。

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

『サイクロン! マキシマムドライブ!』

『ヒート! マキシマムドライブ!』

『ルナ! マキシマムドライブ!』

その炎に紛れて、一気に距離を詰める。同時に、再び四本のメモリの力を引き出す。

「ビッカー! チャージ・ブレイク!」

 七色の光を纏った剣撃が、ザンダクロスの胸部装甲を捉える。次いで起こる爆発が、ザンダクロスを飲み込む。だが、これで終わらせはしない。

『プリズム! マキシマムドライブ!』

「止めだ……プリズム・ブレイク!」

 腰のマキシマムスロットに挿入しておいた、もう一本のメモリ。その最大限の力を受けて、もう一撃、プリズムシールドで殴りつける。今の俺に出来る、最大級の攻撃だ。煙がもうもうと立ち込め、ザンダクロスの姿は確認出来ない。

「やったか……?」

 少なくとも、無事なままとは思えない。そう呟いた刹那、煙を切って無数のマイクロミサイルが飛来する。

 回避しようとした刹那、俺の後ろにシャウが倒れていることを思い出す。避けるわけにはいかない。シールドを構えて防御姿勢をとるが、ビッカーシールドは小型の盾だ。防御性能が高いものではない。それを承知でも、シャウを庇わないわけにはいかなかった。解放されたとは言っても、ゲームマスターが未だ相手の制圧下にあるかもしれない。もしそうならば、ダウンしたシャウへの攻撃が通らないとは言い切れないのだ。

「くっ……」

 爆炎の中から、装甲板に覆われた腕が現れる。その腕は俺の頭を掴むと、そのまま地面に叩きつける。声を出す暇もなく、二発、三発、繰り返し頭の芯まで震わせる衝撃が襲う。そして、そのまま空中に投げ出される。

「普通に相手をしてたら、さっきのでケリがついててもおかしくなかったんだろうな。だが、俺の機体も特別製だ。押しがもうひとつ、足りなかったな」

 まったくの無傷ではないのだろう。しかし、外から見ればそれがどの程度だか分からない。それくらいに、ザンダクロスの動きからは、ダメージが感じられなかった。

 ザンダクロスが、近寄ってくる。俺は痛みのまだ抜けない体を無理やり起こそうとする。が、その脇腹にザンダクロスの蹴りが突き刺さる。再び地面を転がされる俺を、ザンダクロスの大きな脚が踏みつける。

「ぐっ、ああっ!」

「脆いな。まあ、所詮は玩具か」

 べき、めき、と表面装甲が砕けていく音が聞こえてくる。それでも、胸にかかる圧力は徐々にその力を増し続けている。

 突如、胸にかかる力が消えた。その次の瞬間、サッカーボールを蹴飛ばすように機械の脚が俺を蹴り飛ばす。それを防ぐ術が、今の俺には残されていなかった。

 ふと視界に、地面と天井以外の影が映った。シャウだ。シャウも、今はバッテリーが切れたように、まったく動かない。打ち捨てられたマネキンのようだ。気づくと俺は、うつ伏せのままシャウに向かって手を伸ばしていた。

「シャウ……」

 その声が届いているかは分からない。しかし、仮にゲームマスターの統制下でサーバーに意識が残されているのなら、その感覚器官は生きているはずなのだ。単に、撃破扱いならば、体が動かせないだけで、復帰処理がされれば、また元通りに動けるはずなのだ。

「があぁっ!」

 背中に衝撃が走る。踏みつけられたのだ。

「動かない玩具の相手なんかしてる場合かよ、ずいぶん余裕だな」

 背中から押しつぶされて、息さえ出来なくなるようだ。が、それでも俺は手を伸ばすのをやめなかった。もう少し。あと少しで手が届く。

「シャウ……!」

 

「あ、る、じ」

 

 シャウが、一言、確かに喋った。そして、ゆっくりと、俺の方に向けて手を伸ばした。指先が、触れあう。その瞬間。俺の体が、輝きに満ちた。

 

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