「なんだ? パワーアップフォームの上にもう一段階あったのか?」
咄嗟に踏みつけていた足を離し、距離を開ける。まさか自爆のような真似をするまいとは思ったが、何が起きているか分からないときは離脱して距離を取る。戦術の基本だ。
依頼主が自ら手をかけたというこの機体、何を恐れてのことか普通では考えられないほどのカスタムが施されていた。これならどんな相手でも、性能差で圧倒出来る、そう感じてしまうほどに。なにせ、装甲の材質がすでにホビーバトルで使われるそれの範疇を超えている。普通なら装甲は消耗品だ。そこに金と手間を惜しまずかけるなど、常識では考えられない。その事実が既に、このザンダクロスの完成度の高さを物語っている。
その上、ゲームマスターにハッキングをかけて、支配下に置くことまで出来るとあっては、負けることなど考えられない。ゲームの根幹であるルールを支配出来るのも同じだ。
が、それでは面白くない。普段は裏でフィギュアバトルをして、小金を稼ぐ生活だが、せっかく舞い込んできたチャンスだ。相手は往年の天才プレイヤー。本来なら雲の上の存在だ。それをこの手で倒すことが出来れば、裏での評価も上がろうというものだ。それが例え、機体の性能頼りだったとしても勝てば官軍という言葉もある。今後もこのザンダクロスを使えば、裏バトルで一攫千金を狙うのも、決して夢物語ではない。言うなれば、これは最初の一歩だ。それぐらいは、実力で勝ち取りたい。
そうは言っても、負ければすべてを失ってしまう。そうなる前には再度ゲームマスターを掌握することも当然考えてある。掌握するのに必要な時間は一分とかからない。もっとも、この調子ではその必要もないだろうが。なにせ、この機体の動きは鈍重だが、相手のパワーアップフォームの必殺技さえ受け切ったのだ。もはや怖いものなどない。性能差で圧殺してしまえるのだ。
そう思った次の瞬間。相手の一撃でザンダクロスは吹き飛ばされていた。
翼を広げる。
体が軽い。そして、何より力が漲っている。これは、Wの隠しフォームか。黄金に輝くそのフォームの名は「サイクロンジョーカー・ゴールド・エクストリーム」。なるほど、パートナーである神姫との接触を条件に、一定時間開放になるパワーアップスキル……そう考えればあり得そうなことだ。
視線を上げると、シャウは物言わぬマネキンのように動かない。もう少し待っててくれ。すぐに解放してやる。
翼が風をはらんではためく。
制限時間は……残り、六十秒。
大幅に強化された、エクストリームのさらに上。ひと駆けで、ザンダクロスの懐に飛び込む。世界が遅く感じる。そんな錯覚を引き起こすほどに、速い。
拳を振るう。その一撃だけでも、通常のフォームとは出力がけた違いだと分かる。二撃、三撃。正中線に狙いを絞って叩き込む。後ろに飛び退り、距離を取ろうとするザンダクロス。だが、逃がさない。跳躍し、羽ばたく。加速のついた飛び蹴りが、
胸板に突き刺さる。
「ぐううぅっ……!」
うめき声をあげながら、堪える。確かに、破壊力は上がっている。残り、三十秒。まだだ。このペースでは、足りない。それを覆すためには、賭けるしかない。
「次の一撃が、俺の最後の攻撃だ。決めてやるぜ……!」
「最後、だと……? いくらパワーが上がったからと言って、もう俺を攻略したつもりか?」
「分かってねえな……つもりじゃあない、お前は既に、攻略されてる……行くぜ……」
『サイクロン・エクストリーム! マキシマムドライブ!』
ガイアウィスパーと共に、右腕をかざす。巻き起こる竜巻が、ザンダクロスを飲み込んでいく。
「サイクロン! ストームテンペスト!」
さらに風の勢いは強くなり、地面に散った瓦礫を巻き込みながら大きく成長する。
「こんな、子供だましで! ザンダクロスを、攻略したつもりか! 笑わせるなあッ!」
両腕を交差して、防御姿勢を取るザンダクロス。その様はまさに鉄壁の要塞だ。だが、それでも。
「慌てるなよ、本番は、ここからだ!」
『ジョーカー・エクストリーム! マキシマムドライブ!』
空気を切り裂く風音の中、ガイアウィスパーが叫ぶ。翼がひときわ力強く羽ばたく。その勢いを加えて、竜巻の中心部に突撃する。
「ジョーカー・マキシマム・エクストリーム!」
紫に燃えるエネルギーを纏い、一本の矢のようにザンダクロスの両腕を蹴り飛ばす。さらに、羽ばたく。加速。そのまま、蹴りを乱打する。両腕を弾き飛ばし、腹に、胸に、顔に、ただひたすらに蹴りを叩き込む!
「ぐっ、がっ、ああぁッ!」
「うおおぉぉぁぁあああッ!!」
その蹴りの威力に、宙に打ち上げられるザンダクロス。それを追って、乱打、乱打、乱打。途切れる暇もないくらい、ただ、それだけを繰り返す。
三……。
二……。
一……。
視界の隅に表示されたパワーアップフォームの有効時間が、静かに、ゼロを表示した。