蠍の尻尾   作:深波 月夜

62 / 80
・7-7

 黄金色に輝いていたWの体が、急激にその光を失う。それと共に、姿も元のWのものに戻っていた。

 勝った。その瞬間、確信した。

 通常のWの攻撃では、このザンダクロスの装甲は傷付けられない。それは散々証明してきたことだ。そうであれば、負ける道理などどこにもない。

「凌ぎ切ったぞ……! 最後の攻撃とやらを!」

「ああ……、そうだな……」

 相手の声は諦めたような響きを含んでいる。観念したか。

 背面のブースターを使って、崩れた姿勢を立て直す。そして、大きく拳を振りかぶる。

「これで、終わりだ!」

「ああ……お前がな!」

『ルナ!』

『ジョーカー!』

 メモリを挿し替えたのか。半身が黄金色、半身が黒の姿に変わる。まだ何か企んでいるのか。無駄なことを。しかし、次の瞬間、Wの腕が、脚が、まるで大蛇のように体に絡みついてくる。なんだ、これは!

「確かに堅い装甲だったよ。だが、これだけ集中して攻撃すれば、歪むくらいはしてくれたみたいだな」

 なんだと……! 言われて、改めて気づく。胸の装甲が歪んでいる!

「構造的に、ここが心臓部だ。だが、どうやってもこいつが邪魔だった。そいつが、どうしても壊せない。なら、どうするか……邪魔者が壊せないなら、剥ぎ取ってやればいい!」

 左の手が、歪んだ装甲の隙間に刺し込まれる。ベキベキという破壊音と共に、胸の装甲板が剥ぎ取られる。

「だからといって、何だと言うのだ!」

 力づくで、絡みついたWを引き剥がす。そうだ。装甲板が一枚むしられたから何だと言うのだ。第一、こいつにはもう攻撃するほどの力も残されていないではないか。掴んだWの体を、思い切り地面に叩きつける。どうだ、もう碌々動けないではないか。

「無駄な抵抗をしくさって……手間ばかりかけさせてくれるなよ」

「無駄でもないさ……いいぞ、アル」

 そう呟いた刹那、銃声が一発響いた。

 

 

 俺の言葉を合図に、アルのライフルが装甲を剥がされた、無防備な胸に撃ち込まれる。

 強化セラミック製の複合装甲……あの装甲を抜くのは、神姫の手持ち武器ではどうにもならなかっただろう。だが、その邪魔な装甲がなかったら? アルの手持ち火器でも、内部の機器には通じる可能性が高い。ならば、俺の役目は、その道を開くことだ。そして思った通り、アルは俺の意図を汲んでくれた。

「貴様、最後の攻撃だなんて……!」

「あれ、釣られちゃった? 駄目だよ、敵の言葉なんて素直に信じたら」

「くそっ、この餓鬼!」

 ようやく着地したザンダクロスが、未だ立ち上がれない俺の腹を蹴りつける。胃の中がひっくり返るような衝撃が襲ってくる。

 ザンダクロスの動きに、乱れはない。しかし、胴体には心臓部が格納されているはずだ。それが、動きにおかしなところが見られないのならば、その心臓部は、動力系ではない。つまり……。

「お前さ……もうゲームマスターに干渉出来ないだろう……?」

「……なんだと?」

 動力系以外で、守らなければならない、心臓部。システムを妨害しつつ、単騎で暴れ回るコンセプトのザンダクロス。その、肝となる部分。それは、ゲームマスターへの干渉を可能とするシステムだ。どういう理屈なのかは分からないが、ザンダクロスが停止すればゲームマスターも復旧する、と奴は言っていた。ならば、そのシステムを物理破壊してしまっても、結果は同じだろう?

「この餓鬼……! やってくれたな……!」

「これで、後は真正面から戦うしかないぜ……?」

「もう碌に動けもしない癖に、気取るんじゃあない!」

 目の前で、大きく拳を振りかぶるザンダクロス。もうそれを避けることも、受けることも出来なさそうだ。だが、次の瞬間、俺の視界には青い機影が横切った。その影は鋭い一撃で、ザンダクロスを吹き飛ばす。

「よお、どうだい、目覚めの気分は」

「最悪ですね。これ以上悪い目覚めなんて、ちょっとないと思いますよ」

「それはよかった。それじゃあ、俺は少し眠るぜ……」

「ええ、お休みなさい。次に目を覚ます時には、すべて終わっていますから、ご安心ください」

 そう言うと、頼もしい俺の相棒は、背を向けた。

「よくも主をここまで痛めつけてくれましたね……許しません!」

「それは、ボクも同感だね」

 もう一人の相棒も到着だ。これなら安心出来る。

「シャウラ、こういうときはなんて言うか、知ってるだろう?」

「ええ、こういうときは、こう言うんでしたよね、アルキオネ」

 二人が、ザンダクロスの方に向き直る。

 

「「さあ、お前の罪を……数えろ!」」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。