その日の夜、シャウ達を一足先にスリープモードにした後、俺は一人でPCを立ち上げた。どうしても気になることがあったからだ。
ウェブブラウザを開き、今は使われていないアドレスのメール受信ボックスを開く。そこには、一件の新着メールがあった。差出人は、確認するまでもない。このアドレスを知っているのは、今はもう限られた人間だけだ。
マウスを操作する手が震えるのが分かった。だが、逃げるわけにはいかない。俺は意を決して、メールを開く。モニタに、文面が表示される。
『――やあ、久しぶりだね、ツクヤ。
このメールを読んでいるということは、無事に家まで帰ってきた、ということなんだろうね、おめでとう。腕は鈍っていないようで、安心したよ。
そうそう、先日のホウオウハイも見せてもらったよ。相変わらずの活躍で、何よりだ。
さて、本題だが、もう分かっていると思う。
ツクヤ、僕は君が救われていることを許した覚えはない。よって、君の幸せな生活を、破壊してやることにした。
君も、君の友人も、君の神姫も、許さない。
君を救う、すべての存在を、許さない。
そのすべてを、破壊してやる。
君ももうハイスクールを出たのなら、そろそろ理解出来るだろう。世の中には、小金のために犯罪に手を染める人間なんて、ちょっとした伝手さえあればいくらでも探すことが出来る。
君の日常を破壊することなんて、今の僕にとっては簡単なんだよ、ツクヤ。
止めたければ、来るといい。昔、よく使った、バーチャルフィールドを整備しておく。
日時は、一週間後の、午後九時。
それまでに君が接触したものは、自動的にこの報復の対象に取るから、そのつもりでいることだ。
それじゃあ、一週間後に、会うのを楽しみにしているよ。それまで精々、自分の罪を噛みしめて過ごしてくれ。
君の、永遠の相棒より。憎悪を込めて』
英文でしたためられたそのメールを、俺は二度、読み返した。そして、疑念が確信に変わった。やっぱり、お前だったのか。だとしたら、これは俺の責任だ。俺が、止めなければならない。
俺はブラウザを閉じると、テキストメモを呼び出した。短い文面の手紙をしたためると、モニタの電源をそのままにして、立ち上がる。
今日使ったWは、手ひどく破壊されていた。腹に食らった一撃が致命的で、ドライバー部分が破壊されしまったのだ。これではバトルに使うことは出来ても、Wの真価を発揮することは出来ない。しかし、決着をつけるためにも、Wの代わりは必要だ。俺は本棚に飾られているアクリルケースから、もう一体のフィギュアを取り出した。
「結局、これが俺の切り札、か……」
俺は持ち運び用のケースの中身をWから入れ替える。このことに、すべて決着がついたら、きちんと修理してやろう。それまで、しばらくの間そのままにすることを、許してくれ。声には出さず、許しを乞う。作業台の上のトレーを一枚取ると、その上にWを載せて台に戻す。
最低限の身支度をすると、腹の辺りが痛んだ。今日のバトルのダメージが残っているのだろう。だが、この程度ならば一週間後のバトルには支障はないはずだ。
部屋の明かりを落とすと、静かに部屋を出る。何も言わずに家を出るなんて、神姫が家に来てからはついぞなかったことだ。それを変に感じるくらいには、一人ではない生活に馴染んできていたということだろう。
ずきん、と胸が痛んだ気がした。それは、今までに数えきれないくらい感じてきたそれとは、少し、違うように思えた。