蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・8-2

 試合開始早々に、なでしこはまっすぐ突っ込んで来る。お互いフォームチェンジなどの選択肢の少ないモデルだ。真正面から向かってくるのは、選択肢としては悪くない。特になでしこは女性素体を使った珍しいタイプで、攻撃力や耐久力よりも素早さに優れたモデルだ。その速さを生かして、こちらを掻き回す作戦だろう。

「はぁッ!」

 さっそく繰り出される連打に、両手で対応する。流石に速い。軽い連打だ。苦もなく捌く。が、一瞬その手が深く戻される。

『ロケット、オン!』

 鋭い一撃に、ロケットモジュールが加わり重さが加算される。警戒が出来ていたから一瞬早く反応出来たが、本来遠距離から距離を詰めるのに使われるロケットモジュールを、至近距離から攻撃力を上げるためだけに使ってくるか。一手目から中々大胆な手を打ってくる。

さらに左のジャブを主体とした、連打。どうやら右の大砲として、ロケットモジュールを残してくるようだ。打ち合いの最中に一瞬、わざと隙を作る。その隙に、リサは食いついた。再びロケットモジュールを点火し、一撃を狙ってくる。

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

「ライダー……キック!」

 しかし、こちらもただ防ぐだけではない。腰のマキシマムスロットに挿入されたメモリの力を、最大限に引き出す。紫に燃えるエネルギーを纏った回し蹴りが、アッパー気味に降り上げられるロケットモジュールの一撃を迎撃する。

 寸刻押し合うが、力比べには体格に劣るリサが不利だ。そのことは、お互い充分に分かっている。ロケットモジュールのアフターバーナーを切ると同時に飛び退り、距離を取る。

『ランチャー、オン!』

 その刹那、なでしこの右脚にランチャーモジュールが装着され、ミサイルが四基放たれる。咄嗟に防御姿勢を取る。至近距離で爆発し、空気の振動が腹の奥底まで揺さぶってくるようだ。

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

爆撃に寸刻空けず、なでしこに向かって飛びこむ。空中でマキシマムスロットを操作し、飛び蹴りを放つ。

「とおッ!」

 ランチャーモジュールを解除し、後ろに飛び退ることでそれをかわす。なでしこの代わりに、地面にクレーターを穿つ。

「流石ツクヤ、一筋縄ではいかないわね」

「お互いにな。いい腕だ、リサ」

 激しい乱打戦だ。観客は今頃大熱狂だろう。俺自身も昂ぶっているのが分かる。ガードに使った腕の痺れを、忘れるくらいに。

「行くよ、ツクヤ!」

「来い、リサ!」

『ロケット、オン! リミットブレイク!』

 開いた距離を、右腕に装備したロケットモジュールを点火して一気に詰めてくる。

「ライダー、ロケット、パーンチ!」

 大推力で一気に加速したロケットモジュールが飛んで来る。それを最低限の動きでかわすと、突き出された右腕を取り、背負い投げの要領で投げ飛ばす。

「くうぅッ!」

 推力をそのまま地面に向けてやったのだが、叩きつけられる直前、地面すれすれでロケットモジュールの向きを変えてうまく上空に逃げる。だが、ただ逃がすわけにはいかない。三度、マキシマムスロットを叩く。

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

「ライダー……パンチ!」

 追いかけるように上空に飛び、拳で追撃。右腕を引っ張られるようにして宙を飛ぶなでしこの右脇腹に、突き刺さる。確かな手ごたえが、拳を通じて感じ取れる。

「くうっ、そおぉっ!」

 なでしこが両足を振りまわし、回転する。飛び退くようにして離れると、そのまま回転を続けて上昇する。

『リミットブレイク!』

「ライダー、大回転、ロケット、パーンチ!」

 竜巻のような勢いで、回転しながら知っ込んで来るロケットモジュール。この勢いは、受けたら危険だ。本能的に大きく跳ぶ。寸刻待たずに、俺のいた場所を銀色の竜巻がえぐり去っていく。スピードタイプのなでしこにしては、意外なほどの破壊力だ。

「中々の威力だな。だが、当たりさえしなければ!」

 そのままの勢いで距離を開けるなでしこが、再度ランチャーモジュールのスイッチを入れる。白煙を引いてミサイルが襲いかかってくるが、そのスピードはそれほど速くはない。逆になでしこに向かって、駆ける。背後で巻き起こる爆風が、瓦礫を背中にぶつけてくる。

 跳ぶ。空中で姿勢を整え、蹴りの姿勢。なでしこも、姿勢だけは蹴りの構えを取る。ランチャーモジュールをそのままに、ロケットモジュールのスイッチが入る。なるほど、そうくるか……!

「ライダー……キック!」

「ライダー、ロケットキーック!」

 互いの脚が、腹に突き刺さる。お互いの蹴りの威力を加算した衝撃が、背中に抜ける。

「ぐ……ッ!」

「う……ッ!」

 弾け合うように、互いの体が宙に放り出される。突き抜けるような痛みが、後から襲ってきた。やはり、破壊力が想像していたよりも大きい。流石ロストマンのチューンした機体だ。速度に特化したフレームのなでしこに、ここまでの攻撃力を持たせることが出来るとは。

 だが、速度の上に攻撃力まで乗せてあるのならば、防御や耐久までは手が回らないはずだ。既に、こちらの有効打が二発は入っている。それでもなでしこの動きには大きなダメージが入っているようには見られない。その辺りはリサの操作の巧みさか。空中でトンボを切り、着地。なでしこも一拍遅れて、着地する。

「やるな、リサ……!」

 思わず、称賛の声が口を衝く。

「……もう一発、行くよ! ライダー、ロケットミサーイル!」

 なでしこが掲げた右腕から、ロケットモジュールがこちらに向かって飛んで来る。その横腹を殴り抜けるようにして、駆ける。だが、ロケットモジュールの影から、ランチャーモジュールのミサイルが顔を出す。単騎でスクリーンプレイとは、やってくれる! 咄嗟に身を捻り、横に飛ぶ。そのすぐ脇で、炸裂するミサイルの爆風が肌を刺す。だが、駆ける脚は止まらない。そのままの勢いで、跳ぶ。

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

「もう一丁いくぜ、ライダー、キック!」

 駆けながら、マキシマムスロットを叩く。全身から燃え上がる紫のエネルギーが、右脚に集約される。

『リミットブレイク!』

「受けて立つ! ライダー、パーンチ!」

 ロケットモジュールが装備された右腕が、蹴り足を迎撃する。圧縮された空気が、爆発するような衝撃が全身を駆け巡る。それは、迎撃したリサもそうだろう。互いの口からは、苦痛とも、気合とも取れる声が、大きく漏れ聞こえてくる。だが、力押しならばこちらが有利だ。基礎骨格であるフレームがそもそも違うのだ。そこから生じる優劣は、気合や根性で覆し切れるものではない。

 しかし、押し負けたのは俺の方だった。長大なロケットモジュールが、俺の体ごと押し返す。

「……何だと?」

「もらったぁッ!」

 馬鹿な。いくらロストマンのチューンした機体であったとしても、ここまでのパワーをあの細いフレームに乗せることが出来るものなのか?

 着地した右脚に、違和感を覚える。今のダメージで、どこか痛めたらしい。しかしリサの攻め手には容赦がない。なるほど、いい攻めだ。片足の動きを奪われて、相手にはダメージの跡も見えない。しかし、俺の胸に燃え上がるのはなおも闘志だ。リサがこれほどの腕になっているとは。そんなリサと、この舞台で戦えるとは! その興奮が、一層俺の闘志を掻き立てる!

「ライダー、ロケット、パーンチッ!」

 加速をつけたロケットモジュールと共に、なでしこが体ごと突っ込んで来る。左足で体重を支え、半身で迎え撃つ。ロケットモジュールの速度は確かに脅威だが、その一撃は逸らせてしまえばそう簡単に止めることは出来ない。その隙に、わずかでも体勢を立て直せる。

 果たして、ロケットの先端を、俺の拳が捉えることは出来た。横腹を叩いて、そのまま勢いを逸らす!

「甘いよ、ツクヤ!」

 何となでしこは、その勢いを殺すどころか、勢いのままにさらに捻りを加える。ロケットモジュールが横から俺に叩き付けられる。内臓を全部ひっくり返したような痛みと共に、深々と右腹に突き刺さる。だが……。

「掛ったな、リサ……!」

 ロケットモジュールから弾き飛ばされぬよう、左手でしっかりとロケットを掴む。その間に……。

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

 右腕はマキシマムスロットを素早く叩く。そして、そのまま……。

「ライダー、パンチ」

 紫に燃える拳が、ロケットモジュールの装甲板を突き破る!

「うああぁッ!」

 互いの体が、制御を失ったロケットによって空中に運ばれる。しかし、まだ終わらない!

「もう一丁、行くぜ、リサ……」

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

「ライダー……パンチ!」

再度の、マキシマム。なでしこの華奢な体が、宙に舞った。ダメージで解除されたロケットモジュールを失い、両者共に寄り添うように地を舐める。

 先に立ちあがったのは、なでしこだ。まったく、ロストマンの技術には舌を巻く。これほどの耐久力まで備えているとは。だが、俺のジョーカーとてロストマンの作。後は、使い手の技量の差。そして、それならば俺も負けるわけにはいかない!

 後を追うように、俺も立ち上がる。もはや全身に痛まない場所はない。それでも。右脚には、すでに力が入らない。それでも!

「最後の勝負だ……来いよ、リサ……!」

「うん……行くよ、ツクヤ!」

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

『ロケット! リミットブレイク!』

 加速するなでしこが迫る。そうだ、来い。もう俺は、駆けるだけの力もない。だが、残っている分は全部ここで使い切ってやる。そう、俺の全部を、リサ、お前にやる!

 

「ライダァー……パァンチッ!!」

 

 二人の声が、奇しくも重なった。

 

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