どうも、俺です。故郷の父さん母さん、お元気ですか。
息子は残念ながら、今割とピンチです。
「あぁ? テメェなめてんのか?」
「アンダヨー、ヤンノカコラー」
「……」
「……」
目の前には、睨み合う四体の神姫。その半分はウチの神姫、シャウラとアルキオネです。一触即発な空気がバリバリで、周囲からの視線も痛いです。アルはアークさんと煽り合ってます。シャウは飛鳥さんと無言でメンチをきりあってます。
挙句周囲からの好奇の視線というか、物見高い皆様のひそひそ声が痛いです。特に店員さんは先ほどからハラハラした目線を積極的に送ってくださっています。タスケテー。
一体何でこんなことになってしまったのでせう。
事の起こりは数十分前……。
今日も馴染みのゲームセンターで、バトルロンドをしようと自動ドアを潜ったところで、たまたま学校の仲間と出会ったところから始まった……。
「よう、こんなところまで来てるのか? お前の家って、少し離れてるだろ」
「あぁ、地元でやるよりはここの方が居心地がよくてね。今日はバトロンか?」
「それもあるけどよー、今日はG&Sの機体を仕上げたくてよ。次の大会に向けての最終調整ってやつだな」
友人が口にしたのは、神姫とペアチームを組んで戦うホビーバトルだ。もともとは武装神姫以前から流行している、プレイヤーが操作するロボット同士が戦うバトルゲームだったのだが、そこに神姫を加えたレギュレーションがG&Sだ。こいつをはじめ、有名な神姫プレイヤーの中にはこうした神姫以外のホビーに手を出している連中も多い。
「そっちがお前の神姫? エスパディアだけじゃなくてランサメントもいるじゃねーか。金回りがよくて羨ましいな」
「お前だって二体持ちじゃんか。連れて来てるんだろ?」
「ああ、白雪、梅夜、出てこいよ」
顔を出したのは、飛鳥型とアーク型だ。
「どうも……」
「よ、っと。なんだ、シケた面だなァ、アニキのダチかい?」
この一言がきっかけだった……。
「なんだと、確かにマスターは上から下までユニクロでも平気だし、身だしなみにだらしないところはあるし、よく変なセンスのシャツ着たりしてるけど、そんな風に言われるアレではないぞ!」
……けなしてるのか、それとも本気なのか。
「主。斬り捨てても宜しいですか。宜しいですね」
こっちはこっちで一足飛びに沸点超えてるよ。
そこから始まったののしりあいから、バトルロンドで決着をつけることになるまで裕に五分以上この調子だ。
今日は普通にバトロンをしに来ただけなのに、どうしてこんなことになったんだ?まぁ県の代表ランクのプレイヤーと試合する機会なんてそうそうないんだし、これはこれでチャンスと考えるべきか?
なんにせよ、あの飛鳥型と、アーク型……どっちにとっても鬼門だな……。
バトルフィールドは市街地。乱立するビルと網の目のように配置されたハイウェイのあるステージだ。道路はすべて舗装地で、陸戦でも機動力を生かした闘いが出来る一方で、高いビルの陰は空戦でも障害物として使える、戦術的なステージだ。
その中で、シャウは飛行装備で手に入れた大幅な機動力に振り回されている。それが俺の初撃の感想だった。シャウには基本武装の組み換えで、よりスピードの出るセッティングをしてある。アーンヴァルほどではないが、それに迫るくらいの高速型だ。その代償として、基本装備の持っていた鋭い機動性は失われている。一直線に向かっていって斬り捨てる、そのことに特化した装備と言える。
一方で飛鳥型は、空戦神姫の最高傑作と言われ、優秀な機動力と格闘性能を兼ね備えている。flak17 1.5mm機関砲を二門有し、接近戦しか出来ないシャウより射程が遥かに広い。飛行能力も、最高速度で言えば、シャウの飛行装備より遥かに遅い。が、旋回半径が小さいという特徴を持っている。互いに格闘戦が中心の機体だが、速度が速く旋回半径の大きいこちらの攻めは、一度いなされたら再度攻めるのに時間がかかる。大きな距離を回らないと元の位置を狙えないからだ。しかも相手は威嚇射撃が的確で、こちらの強みの最高速度をうまく出させない。威嚇をすり抜けての接近戦も、ここでは打ち合わないと決めてかかってるようで、のらりくらりと回避。そして攻撃をいなし切れば即追撃姿勢で追い討ちをかけてくる。シャウが一撃当てれば勝つだけの自信はあるが、その一撃を当てるまでが遥かに遠い。こちらが一回斬りかかる度に三回は細かく仕掛けられていて、逆に攻められているような気分だ。しかも周囲はいつの間にかビル群立ち並ぶエリア。障害物が多くなればなるほど、細かな動きが出来ないこちらに不利。
広く動ける空を求めて上空へ。当然読まれていたようで激しい銃撃を受ける。かと言ってビル群に沈めば機動力が生かせず、外へ出れば狙い撃ちされる……。
「流石、中々の巧者だな。これならビルの林の中で、足を使って飛ぶしかないんじゃない?」
『足を使って?』
インカムをつまんで位置を直しながら、短くアドバイス。シャウの表情から曇りが晴れる。
「そう、長続きはしないから、極力短時間でね」
そのための下準備は整ってる。そのために今まで脚の使い方を覚えさせてきたのだ。俺は今回の策を一言で伝える。シャウの表情から、迷いが晴れたように見えた。
一方、こちらアルキオネ。
こっちはこっちで厄介極まる相手だね、こりゃ。
相手の武装を見てると、舗装地を高速で駆け巡りながらロングレンジのビームで一撃を狙うタイプ……なんだけど、問題がふたつ。
ひとつは敵の射程がこっちより長いこと。一方的に撃たれる場面がかなりある。それを裏付けるふたつ目は、敵のスピードがこっちより速いこと。彼我の距離の選択権は、ほぼ常に相手が握っていることになる。
相手が狙ってきてるときにはこっちも反撃出来るけど、狙いにくい的だよねホントに。走り回りながらハンドビームガンで牽制しつつ、狙えるとなったらレーザーキャノン。手持ちのグレネードやアサルトライフルであれを削り切るのは、正面からだと大分無理がある……せめて、足を止めさせないと勝ちはないかなぁ。
「さて、どうしようかね。舗装地なのはお互い有利。細々高架で立体交差するものの、大きく回られると脚の差で追い付けない。なんとか足止め出来ればいいんだけどなぁ」
『アル、まずは地の利を生かせ。自分だけが有利になる、そんな場所があるだろう?』
あった。高架の先に、途切れた道路。あそこに追い込めば、嫌でもスピードを落とさざるを得ない。でも、そんな簡単に引っかかってくれるものか? ボクが相手なら、答えはNOだ。幾らなんでも見え見えすぎる。
『相手を信じるんだ。今の浅知恵は、きっと乗り越えてくるぞ?』
「乗り越えられたらダメじゃないのさ!」
ビル影から現れては撃ち込んでくるアーク型に応射しつつわめく。
『相手は強い。こっちの作戦に乗らないくらいの分別はあるさ。その自信の裏をかく。見え見えの罠にでも乗って来てくれるなら、それを破る何かがある。コレを踏まえて、一歩先を攻めるのさ』
「なるほど、そゆことね……!」
エスパディア型は林立するビルの中に沈んだきり。しかしあのスピードを生かすなら、林の外へ逃れようとするはず……そこが最大の攻め時だ。私は高度を上げ、レーダーの感覚を研ぎ澄ます。
『このビルの檻の中なら、相手の武器である速度は思うように生かせねーだろ、無理に動いたところを仕留めにかかれ』
「了解! 音紋確認! 地面すれすれで向かってきます!」
しかし、先ほどまでの大味な機動が嘘のように、道路を縫って向かってくる。こちらからも迎え撃つ。頭を出してくる地点に向けてタイミングを合わせ、爆弾を投下。あのスピードからでは、突っ込んでくるしかない。爆音、爆炎、爆風。しかし、飛び散る瓦礫はビルのものばかり。
『白雪、下だ!』
かなりのスピードで突っ込んでくるエスパディア。
避ける。ビルの角を挟むように。地面から、激しい擦過音。そして、向かってくる。
『バカな! 自分の足を地面に押し付けて無理矢理曲がったってのか!?』
それを証拠に、両足のソールパーツはボロボロになっていて、所々フレームをむき出しにしている。
『白雪、この一撃をかわせばまだ次に繋がる! なんとかやり過ごせ!』
「了解!」
両翼下の機関砲で弾幕を作る。これで迂回するか、弾丸でスピードを削られた状態で突っ込んでくるかしか出来なくなる。しかし、ダメージのある状態ではそうは遅れは取らない。ましてや迂回をするなら旋回力はこちらが上。同じ展開を繰り返すだけなのだ。はたしてエスパディアは、向きをわずかに変え、迂回ルートをとった。
あれほどちょこまか駆け回ってたランサメント、ついに観念したようにゆっくりと高架橋の前に仁王立ち。やっとこさ正面からのタイマン、ってワケだ。しかしまだ分かってねぇ。あの高架橋は奴さんの後ろで途切れてやがる。つまり俺の機動力を削ぐための見え見えの罠、ってところか。舐めくさってくれるよなァ……。
一気にフルスロットルに突っ込む。唸りを上げて、先のない橋を駆け上る。お互いに手持ちの火器を撃ち合うが、牽制にもならない。互いの主砲、スーパーシルバーストーンとアトラスランチャーが放たれたのもほぼ同時、ビーム同士が弾けて大きな爆発を起こす。その爆煙を裂くように、位置を入れ換えて赤い影が二つ飛び出した。
「見せてやるァ! 取って置きをよォ!」
着地と同時にウイリーターン! 三輪の外側一輪だけで急旋回! そのまま一気に突っ込む! 絶望の表情を浮かべやがれ! ……笑って、やがる……?
刹那、爆音と同時に体が浮いた。いや、落ちている。何だ、何が起こりやがった!?
「グラッチェ……絶対戻ってくると信じてた……自慢の技で、ボクの罠をすり抜けて、勝ち誇って! だから見えなかったんだよ、帰り道にしかけたこの罠に、ね」
野郎、手持ちのグレネードを橋の足元にばら撒いてやがったのか……!? 落ちながらも瓦礫を蹴って近づいてくる。ヤバい。パトロクロスに乗っていたら逃げられない!
「さよならだ!」
無防備な腹側をアサルトライフルの弾が強かに撃ち抜く。一瞬遅れて起こった爆発。避けようもない至近距離。広がる光と裏腹に、意識は暗闇に放り出された。
機銃の弾幕とビルの壁、ふたつの障害を出来る限り小さく避ける。
主の策は壁や地面に足を押し付けることで無理やり旋回半径を小さくすること。
『右、回避』
短い指示に従って、急旋回。さっきまであれほど長かった飛鳥型との距離がみるみる縮まっていく。ビルの隙間に高く陣取った白い機影が、もう一駆けで掴めるくらいに。両足を突き出し、思い切り地面に擦り付ける。激しい擦過音と土煙。主翼の角度を変え、ブースターを噴かす。重力に逆らって、一気に体を持ち上げていく。煌めく外壁に映った私の影を、機銃の弾痕が追いかける。が、私は捕まらない。
『蹴れ!』
反射的に壁を蹴る。同時にロール。勢いのままに、剣を叩きつける。雄叫びが、知らずに迸る。
「やあああぁっ!」
刃が翼を捉える。揚力を失って、黒煙を引きながら飛鳥型は墜ちていく。ファンファーレと共に『2P TEAM WIN』の文字が大きく表示された。
「凄えな、飛びながら壁を蹴って無理やり軌道を変えるなんて……あんな技、どうやって教えたんだ?」
「技として教えたわけじゃないよ。ただ、メインの装備が速度重視のセッティングだから、細かく動くのは苦手になっちゃうだろ? それを克服するために、最初からあの足の使い方を教えてただけさ」
最初から。主はそう言って微笑んだ。最初から、飛行装備を背負うことを見越していたのだと、私は初めて知った。
「しかし驚いた。アーンヴァルとストラーフの良いところ取りみてーな動きだったじゃねーか。ゲームが変わっても、相変わらず強えーんだな」
「飛鳥の足じゃ真似出来ないだろ? シャウの努力の賜物さ」
努力の賜物。主の一言が胸のCSCに染み込んで来るような気がした。私のことを、主が認めてくれたような気がして。
「ランサメントの方も相当なもんだよな。レッグパーツはどっちも自作か?」
「基礎フレームは両方とも流用元があるけどな」
喜びに浸っていたところに、ふっと、疑問がわいた。主は私のレッグパーツや武器などを自作しているし、メンテナンスも手馴れた様子でしてくれる。主のお部屋にも専門的な工具があるし、材料などを扱うショップもよくご存知のようだ。でも、主は武装神姫については基本的なこともご友人から聞きかじったことが大半のようだし、専門誌なども最近になって買いはじめたような所がある。学校は工業系ということだし、そこで学ばれているのだろうか? それとも、もしかして、主は以前は別の神姫を?
「どうだった? 空戦神姫とのドッグファイトは」
「あ、はい、やはり速度は問題ありませんが、低速域での旋回性が課題ですね」
話しかけられ、私は意識を切り替える。バトルロンドの後は大体反省会。それは勝った試合でも例外はない。
「そうだな、今回は地面を使ったけど、何かしら対策を考えないと」
「足を止めての近接戦闘なら劣るとは思いませんが、今回は動きで意表をついたようなところがありましたからね。奇襲が決まったようなものです」
そうだね、と主もうなずく。
「やっぱりさー、射撃武器を載せた方がいいんじゃないのー? 当たらないにしても、威嚇や牽制には使えるでしょ?」
「いや、シャウの装備はこのままで行く。なんせ俺達の目指すところは『格闘戦最強』だからな」
あの子も話に参加してくるが、主が言下にそれを否定している。
格闘戦最強。それは私達が目指す目標。私と主を繋ぐ絆でもあり、同時に呪いのようなものでもある……。
「まぁなんにせよ、今日は二人共格上相手によくやったな」
相手は県内でも優秀なランカーだそうだ。自信を持っていい、そう主は言われた。少しでも、主の望むものに近づけただろうか。私の問いに、答えはなかった。