蠍の尻尾   作:深波 月夜

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 爆風が、不意に至近距離で起こった。最初はボクを狙ったものかと思ったが、違う。立て続けに起こったそれは、明らかにボクを避けていた。

「何が……」

 何が、あった。いや、それより、門は、メサルティムは、無事なのか。周囲を見渡すと、次々とネイキッドが蹴散らされている! でも、誰が? ここには、ボクとメサルティムしかいないはず……。

「『インパルスドライブ』! シュート!」

 輝くエネルギー弾が、ネイキッドの群れに撃ち込まれる。

「『風、躙、華、斬』!」

 鋭い刃状のエネルギーが、ネイキッドを薙ぐ。

「舞い散りなさい、『ブーケット・オブ・リリアーヌ』!」

 金色に輝く光弾が舞い、そこからさらに光線が飛ぶ。

「渚っち……ブラック、レグルスも……?」

「スキル発動、『最果てにて輝ける槍』……!」

 向こうでは、地を這う衝撃波が、ネイキッドを蹴散らしている。

「『すーぱーねこ乱舞』! 拳だけが武器じゃねえってところ、見せてやるのだ!」、

 拳が、蹴りが、目の前のネイキッド達を屠っていく。

「梅夜、白雪、行きますわよ! 『スリスドライブ』!」

「しくじるんじゃねえぞ、リリィ! 『ロードファイター』!』

「……『天雷』、発動!」

 赤と緑の、二台のトライクがネイキッド達をはね飛ばしていく。その後ろから、白い機影が三六式航空爆弾を落として生き残りを狩っていく。

「アンジェリクスに、オレンジ……それに、花ちゃんと日野っちのところの……?」

 

『やあ、どうやら間にあったようだね、アルくん?』

 

 その声は、榊サンだ。

『ようやくこっちの準備が整ったのだけど、いやあ、間一髪、ってところかな?』

「どうして……? 警察は動けないって……?」

『なに、僕は警察である前に、一個人だしね。それに、ちょっと深波くんに因縁がありそうで、暇してる連中に声をかけて回っただけさ。方法は、まあ、菊川くんが回線を開いてくれて、ね』

『榊さん、この貸しは本当に高くつけときますからね』

『ははは、忘れないように心掛けるよ。さあ、アンジェリクス、相手は有象無象だ。思う様、やってしまっておくれ』

「ええ、シロウ。いつもあなたは迷惑をかけてばかりなのだから、こういうところで恩を返さねばね。長顎アントニオ!」

「こっちにストラーフも埋まってたのだ!」

「……オレンジ、さん? 何でここに?」

『そっちの刑事さんから、声がかかってよ。相変わらずこんなヤベ―ことに首突っ込んでんだな、って笑ってやろうと思ったんだが……あのヤローはここにはいねえんじゃねえか』

「そんなこと言って、マスターが一番心配してたのだ」

『馬鹿っ、てめ、オレンジ!』

「あのエスパディアの娘もいないのね、残念だわ」

「げっ……!レグルス……さん、も、来てたッスか……」

 メサルティムは顔色をなくしている。そりゃあ、あの二人は派手に戦って以来、顔を合わせていないのだから、無理もない。

『大丈夫だったかよ、アルちゃん』

「花ちゃんと日野っちも、榊サンから呼ばれたの?」

『いや、俺と花道は、今週、連絡取れなくって、おかしいと思って君達の家の方に行ったんだよ』

『そんで刑事サンから、二人してこの事を聞いたって―わけだ』

「まったく、水くせえ。こんな事になってんなら、さっさと俺やアニキのところに連絡入れりゃあ良かったんだ」

「……梅夜、それが出来なかったから、困ってたんだと思う」

「なんにせよ、ここを守ればいいんですのね? 楽勝ですわ」

「二人は少し休んでて。あたし達が頑張るから!」

「渚っち……ありがとう……」

『お礼の言葉は、深波君が帰ってきてからまとめて受け取るよ。さあ、行くぞ、渚さん』

「オーケー、オーナー! 燃えてきた!」

 

「こっちも行くぞ、オレンジ。先頭は任せた」

「分かってるのだ、ブラック! みんなまとめて、燃やし尽くしてやるのだ!」

 

「さあて、やってやろうか! 白雪、どっちが多く墜としたか、勝負だ!」

「……梅夜、不真面目過ぎ」

「結果がついてくるんなら、何でも構いませんわ。行きますわよ!」

 

『それじゃ、僕達も行こうか、アンジェリクス』

「ええ、シロウ」

 

「じゃあ、オーナー、私もちょっと、踊ってくるわ」

『おう、今日は遠慮はいらねえ、思い切りやってこいや』

 

 

「何だ、これは……」

 思わず、僕は呟いた。何なのだ。こんなことは、このショーの筋書きにはないはずだ。圧倒的な物量に、ただ圧殺されるだけの様を、ツクヤに見せつける。それだけのはずだったのに。

「く、っく、ははは……」

「何を笑っているんだ、ツクヤ」

「とんだショーがあったものだな、と思ってよ……」

 その言葉に、左手を掲げる。弾ける紫電がジョーカーを捉え、今度は床に叩きつける。足元に転がったジョーカーを、そのまま、強かに踏みつける。

「勘違いするなよ、ツクヤ……こんなもの、ただターゲットが一所に集まってくれたってだけのことなんだぜ……?」

「急に役者が落ちたな。まるでどこぞの三文芝居の定型句だ」

 挑発だ。分かっている。しかし、頭に血が上るのを抑えることが出来なかった。横腹を強かに蹴りつける。ジョーカーの黒い体躯が、床を転がる。が、ゆっくりと、ジョーカーは立ち上がる……。

「そんなに甘くはないようだぜ、ロストマン……」

「ふん、甘いのは君の方だよ、ツクヤ。僕が、こんな事態を想定してなかったと、本気で思うのかい?」

 頭の中で、最終防衛システムを起動する。そう、僕にはまだこれが残っている。これはまさに最後の奥の手だ。だが、それが残っているというのに、なぜ胸がこんなにもざわめくんだ?

「祈れ、ツクヤ。あそこに集まった者達は、皆、生贄の祭壇に捧げられるのを待つだけの羊どもだ。何人たりとも、生かしては帰さない」

「そうか。なら、早くここを片づけて、向こうに駆けつけてやらなきゃあな」

 減らず口を。どうやら、もう一度力の差を見せつけて、ツクヤの反撃の芽を摘んでやらねばならないようだな。僕は、サタンサーベルを大きく振ると、もう一度、ジョーカーに向きあった。

 

 

 暗い空が、荒れた大地が、揺れる。唐突に始まったそれに、神姫全員が身構える。

『シロウ? これは?』

『何か、門の方から出てきますわ!』

 それは巨大なムカデのような機体だった。だが、よく見ればその胴はさっきまで屠っていた、ネイキッドと同じものだということが分かる。そしてそこから生えている腕は、ストラーフのチーグル同様、硬質で長大で、鋭い爪を持っていた。

『なんだ、コイツぁ?』

『気ん持ち悪りぃッス!』

『でっけえムカデ、いや、連結された神姫なのだ?』

 その巨体は、尻尾部分が無限に続いているかのようで、一種、醜悪な竜のような禍々しさを備えていた。

『来るよ! みんな気をつけて!』

 凶悪な咆哮を上げ、腕という刃を煌めかせながら胴が地面を薙いでいく。

『こういうの、趣味じゃない……』

『美しさに欠けるわね。作った人間の趣味が透けて見えるみたいだわぁ』

『同感だなー、ちゃっちゃと片付けちゃおう』

ふむ、これは、少々厄介かもしれないね……インカムマイクを摘まむと、位置を直しながら菊川くんに呼び掛ける。

「あー、菊川くん。これは、どうしたらいいと思うね?」

『ちょっと今調べてますから、急かさないでくださいよ!』

「いやなに、さっきまであれほど湧いてきたネイキッドが、一体も出てきてないしね? 尋常な相手じゃあないように思ったんだが」

『あっ……これはやばい奴……』

 菊川くんが、思わずといった風に呟く。が、その発見はあまり芳しくないことであるようだね。

『榊さん、みなさん、よく聞いてくださいね……今から、そいつへの対処法を連絡します!』

『何だってんだ、ただブッ壊すだけじゃ、駄目だってのかい』

『ええと、まず前提なんですが……そいつは、倒せません! さっきまで無限に湧いてきたネイキッド達のリソースを使って、無限に修復しています!』

『じゃあ、追い返せばいいんですのね?』

『そういうわけにも……相手の狙いは、極論ゲートの破壊なので、向こうに追い返すだけでは、不十分です……』

『まだるっこしいのだ、はっきり言ったらどうなのだ?』

『つまり、皆さんはその、倒せない相手を、ひたすら釘づけにして、耐えてもらうしか……』

 菊川くんの声はまるで叱られることの分かっている子供のように徐々に小さく、消えていった。なるほど、想像していた以上にタフでハードな状況らしいね。

『はい出たー、クソゲー乙―』

『アルキオネさん、言ってる場合じゃねッス!』

『門が壊されちゃったら、どうなるのかしらぁ?』

『その場合、侵入してるシャウラさんとの回線が切断され……深波君とシャウラさんが、戻ってこられなくなります……』

『それで、己達はいつまで耐えればいいのだ?』

『シャウラさんが戻ってくるか……それか、プログラムを管理してる大元……多分深波君が戦っている相手ですが、それが消えるかするまでは……』

『それは……大変なのでは……』

 再び、漆黒の龍虫がその長い胴を振るう。これだけの質量では、受け止めることもままなるまい。重量級であるはずの『ビアンキ』でさえ、その体長の前には小さく見えてしまう。

『とにかく、攻撃能力を奪えばいいんだな。ならば、攻めるに限る!』

 ブラックの言う通りだ。その声に、めいめいに攻撃態勢を取る神姫達。アルくんは他の神姫から武器弾薬を分けてもらったようだ。今はその手にOS-36 アサルトカービンを構えている。だが、その巨躯の前では、神姫達の攻撃はまさに、蟷螂の斧だった。

 

 

 シャドームーンの振るう、サタンサーベルを避ける。しかし、背にあった柱さえ、その刃は簡単に切り裂いてしまう。この攻撃力とリーチの差は、本当に厄介だ。サタンサーベルをまず何とかしなければ。

「こんな復讐で、リサが本当に喜ぶと思っているのか、ロストマン!」

「安い挑発だな、だが、乗ってやるよ、ツクヤ。これは復讐なんかじゃない、清算だよ」

「清算だと?」

 サタンサーベルを突き出しながら、ロストマンが謳う。

「そう、清算だ。僕はね、別に奪われたものを取り戻したいとか、リサが喜ぶとか、そんなことで動いてるわけじゃないんだ。ただ、人生の負債を清算したい、それだけなんだよ。借りを作ったままにしておくのは、主義じゃないんでね」

「ならば、俺だけを狙えばよかった。俺の命だけならば、俺は、喜んで差し出したのに!」

「君が、そういう奴だからさ、ツクヤ!」

 一層深く、真紅の刃が切り込んで来る。それを、体を大きく振って避ける。サタンサーベルは自在に振るわれている。紙一重で避けては、それに次ぐ一撃を避けられない。

「それでは、君は救われてしまうだろ? 君は、俺と一緒で地獄に落ちるんだよ。安らかに天に召されるなんて、許されるはずがない。君は、大事なものを守れなかったという新たな罪にまみれて、地獄に行くんだ、君の罪だけが清算されるなんてこと、許されない!」

「俺の、罪か……」

 俺は、大きく飛び退く。俺の、罪。

「そうだな、お前の言う通りだ、ロストマン……」

「やっと観念する気になったかい?」

 言葉とは裏腹に、シャドームーンの挙措には、隙がない。当然だ。本音ではそんなこと、思ってもいないだろう。だが。

「俺は、リサの命を奪った。相棒の心が、闇に堕ちるのを救えなかった。そのせいで、大事なものを危険にさらした」

「何を言ってるんだ、ツクヤ……?」

 俺は、続けた。

 銀色の仮面が、首を傾げたように傾く。

「俺の罪は、十字架として、背負っていく……! 俺は、俺の罪を数えたぞ、ロストマン……」

「何を……」

「次は……お前の罪を、数えろ」

「っ、そんな言葉で、お前の罪を清算をしたつもりか、ツクヤぁぁあ! お前! 一人が! 勝手に救われた気になりやがって!」

 激昂するロストマンの声。駆ける。まっすぐに振り下ろされる刃。その合間に、腰を叩く。

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

 燃え上がる紫のエネルギーが、右の腕に宿る。

「ライダー、チョップ!」

 下から切り払うような、手刀。燃える刃が、緋い剣を打つ。甲高い音。寸刻、時が止まる。折れ飛んだサタンサーベルの刃が、神殿の床に突き立った。

「馬鹿な、サタンサーベルを圧し折っただと!?」

「やっと、この距離まで近づけたな、ロストマン……」

 サタンサーベルの邪魔はもう入らない。俺は、堅く握った拳をシャドームーンの頬に叩きつけた。

 

 

 サブアームに備えられたジュダイクスが、GNソードⅣの柄尻を叩いた。そこまでたどり着けたのは、もはや奇跡だったと言っていい。

「う……嬢ちゃん、動けるか……?」

「シロ……ええ、まだ、行けますよ……」

 翼にも、何発も入ってしまっている。右脚は、膝から先が千切れ飛んでいた。が、菊川研究員は言っていた。帰りのことは心配しなくていいと。それが確かなら、この扉一枚こじ開ければ、何とかなるはずだ。まだ動ける。まだ飛べる。歪んだ門扉の隙間に、杖代わりに使っていた鬼姫を食いこませる。重い。だが、後これ一枚なのだ。急がなければ、主が危ない目に遭っていないとも限らない。

「主、今、参りますから……」

 どうか、どうかご無事でいてください。

 私には、貴方が必要です。

 食い込んだ鬼姫を、てこで動かす。ぎ、ぎ、と重い音を立てて、扉が開く。その奥には、闇よりなお黒い、漆黒が広がっていた。

 

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