聖櫃に抱かれた子どもたち+   作:佐伯寿和2

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砂漠の花占い

()()な大地。(かわ)いた風。

ここも、私の住んでた村とは全然違う。プロディアスだって、インディゴスだってそうだった。

人も、景色も、風も。新鮮(しんせん)で、楽しくて、でも少し怖い。

……世界ってこんなに広いんだ。

 

岩石砂漠の広がる西アルディア。風吹き(すさ)ぶ中、金髪の少女とブリキの人形は炎の少年に言いつけで、飛行船の番をしていた、

「ヂーク、何やってるの?」

軽食を()り、表に出た少女は砂漠に不自然に隣接する小さな森にしゃがみ込み、何事(なにごと)かをブツブツと(つぶや)くブリキの人形を見つけた。

「花占イじャ。」

ブリキの人形は、(くわ)ように先の(とが)った五本の指で愛らしい花を()み、その花弁(かべん)を数えていた。

「何を占ってるの?」

「リアとジジイが“元気カ元気じャナイか”ヲじゃ。」

「……フフ。」

「何笑ットる。」

「ううん、何でもない。ヂークは家族想いなのね。」

悪魔の蔓延(はびこ)る古代より(よみがえ)ったと自称(じしょう)する戦闘兵器には今、この時代に、大切な想い人がいた。

一人は自分の(おか)した罪に懺悔(ざんげ)(ささ)げ続ける白髪(はくはつ)の博士。一人は常夏(とこなつ)の花のように色鮮(いろあざ)やかな笑顔をつくる女の子。

「家族?家族っテナンジャ?」

「え、家族?…うーん。」

 

私は、祖父(そふ)の顔を浮かべた。

背中の曲がった祖父は、村と山のことを知り尽くしていた。そこにある危険や、そこに産まれる『魔女(きけん)』をよくよく知っていた。

だから、いつも疲れていた。

いつも、寝不足気味な顔をしていた。

それでも、とても優しくて頼もしいおじいちゃんが、私は大好きだった。

「外の人間を信用してはいけないよ。」

おじいちゃんは言ってた。

 

「ヂークはあの二人をどう思ってるの?」

でも今は、私の胸はあの人の(ぬく)もりで満たされてる。

少しでも早く会いたいはずの大事な祖父よりも、あの人の顔が恋しくて仕方がない。

熱くて、無鉄砲で、時々冷たいけれど、私をとても大事に想ってくれるあの人のお(かげ)で私は『私』を受け入れて生きていられる。

私の『恐ろしさ』を知っていて、それも(ふく)めて私のことを「好き」だと『言ってくれる』彼を、私も好きになってしまった。

 

「……分かラン。」

女の子は()れたブリキに鮮やかなチューリップを咲かせた。

戦うことだけを命じられた戦闘兵器の、たった一人の愛すべき(てんし)

「……ワシは人間ジゃナいカラナ。」

人形は花弁のなくなった花を見下ろし、(うな)るように答えた。

「ヂーク……。」

私は、青い(たてがみ)の狼を抱きしめた。

 

違うよ、ヂーク。

それが、「家族」なんだよ。




Aパート、『悪夢たちは彼の後ろ髪を引く その十一』辺りの裏話です。
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