聖櫃に抱かれた子どもたち+   作:佐伯寿和2

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エレナの告白 その二(終)

「…エレナちゃん、それ本気で言ってんのかい?」

(ばん)ご飯も食べ終わり、何事もなく終わっていく一日に感謝して、さあベッドに入ろうかという時に、私は神父様の言葉を信じて2人に打ち明けた。

「……」

私がお世話になってる宿屋、カジキ(てい)(いとな)んでる夫婦。

普段はとても優しい二人だけど、今は(そろ)って眉間(みけん)(するど)いシワを()せて私を(にら)んでる。

「二人とも、そんな顔でしないで。」

5年ぶりに見るヒトの顔はグニャグニャと粘土(ねんど)みたいに変わって、まるでお化けのようにも見える。

「そんな顔しないで、だって?」

ミレントさんがこんな声を出すのは決まって近所に住むイタズラっ子が私を(いじ)めた時か、私がご飯を残そうとした時。

だけど、最近のミレントさんはお父さんの話をしても同じ声を出すようになった。

「アンタ、自分がどれだけ危険な目にあったのか。それが誰のせいか、忘れたのかい?」

お父さんを(たず)ねてきた悪い人たちがミレントさんに(ひど)いことをしたからなのかもしれない。

(くわ)しくは教えてくれなかったけれど、もう少しで死んじゃうところだったんだってガーレッジさんから聞いた。

私にそれを話したって知ったミレントさんはガーレッジさんをひどく怒ってた。

 

「でも、お父さんは悪くないもの。」

「悪いヤツさ。事情(じじょう)がどうあれ、こんな所にエレナちゃんを()()りにしたんだからな。」

「……」

二人とも、どうしてそんなにお父さんのことを悪く言うの?

二、三日前までは昔から知ってる友だちみたいに笑い合ってたのに。

シャンテお姉ちゃんもお父さんと一緒(いっしょ)にいなくなった。まるで嘘を()いてきたお父さんを(つか)まえに来たお(まわ)りさんみたいに。

 

「お父さんは良い人よ!エレナの目が見えるようになったのはお父さんのお(かげ)なんでしょ?!」

初めてミレントさんたちが嫌な人に見えた。

お父さんはいつだって私の(そば)で笑ってくれたし、泣いてる私を抱きしめてくれた。

ずっと、ずっと近くにいてくれたから、私は目が見えなくなっても安心していられた。

そんなお父さんにひどい言葉を使う人が嫌で(たま)らない!

「…本当のことだ。どんなに(えら)くたって、どんなに優しくたって、子どもを捨てるような親は皆、(くさ)ったリンゴよりも(たち)の悪い悪党じゃないか。」

「嫌だっ!!」

私は椅子(いす)()()ばしてカジキ亭を飛び出した。

後ろから私を呼び止める声が聞こえるけれど、そんなことどうでもいい!

神父様の言うことを信じた私がバカだった!

お父さんを悪く言う場所なんか()らない!

私一人でお父さんを探すわ。お父さんだけでいい!他のものなんか何もいらない!

 

祭りの終わったクレニア島の夜に、()つかわしくない(しず)けさが(ただ)っていた。

少女の体が軽すぎて、石畳(いしだたみ)()む足音は島を()()ろす潮風(しおかぜ)()まれ流されていく。

少女を(した)う猫も、一緒にお(しゃべ)りをする友人も、それぞれの居場所(いばしょ)で島の(あたた)かさに(つつ)まれながら(おだ)やかな眠りに()いている。

(かろ)うじて聞こえてくるのは、祭りの熱気(ねっき)()めやらない大きな子どもたちの、ジョッキのぶつかり合う音と陽気(ようき)な歌声だけだった。

そこに少女のための居場所はない。

潮風たちはその(ほお)から(つた)(しずく)(した)しみを覚え、()()い、少女が迷わないように彼らの(かえ)る場所までその小さな手を引くように吹き続けた。

 

「……」

いらない。何も、いらない。

お父さんにさえ会えればそれだけで。

お父さんは私を護ってくれる。色んなものから。

今までみたいに。

 

(つえ)もなく、(いま)馴染(なじ)まない目を(たよ)りに飛び出した少女の足取りはどこか心許(こころもと)ない。

少女一人では船にも乗れず、()(あて)も分からない。

ただただ明かりの(とど)(せま)街中(せかい)の中を意味もなく()(ある)くことしかできない。

5年間、光を頼ってこなかった少女でも護り手(ちちおや)()にいない暗闇は恐ろしく感じられた。

不安と狂気が渦巻(うずま)いているように見えた。

「……」

未熟(みじゅく)な少女の奔走(ほんそう)は、彼女に不甲斐(ふがい)なさを教えるだけで(みの)るものは一つとして(あた)えなかった。

「大丈夫、約束してくれたもの。悪魔だってやっつけてくれるって。」

少女は町の外に広がる闇の中にあの日の悪魔を見ていた。

少女の心を内側から()(つぶ)すような大きくて、恐ろしい黒い悪夢(かげ)を。

 

「……お父さん。」

そうして闇夜と睨み合うこと半時(はんとき)

エレナは目を()らしていた現実(よる)とようやく向き合った。

この町を出ていかなきゃ想い人には永遠に会えない。

もしかしたら町を出た瞬間に、森に()む怪物が少女を(おそ)うかもしれない。

けれどもこうして足踏(あしぶ)みをしている間にも、悪魔の(はな)銃弾(くい)が彼の胸を打つかもしれない。

自分にも、その人にも、約束された(じかん)はない。

 

少女は一人、松明(たいまつ)も持たずに門の外へと足を踏み出した。

 

「!?」

少女が決心した直後、前へ()ばした足が消えてなくなってしまったかのように、背後から誰かが少女の腕を乱暴に()()った。

「…ミレントさん……。」

よろめき、()()められた体を見上げると、そこにはぜいぜいと息を切らす壮年(そうねん)の女性の顔があった。

一滴(いってき)二滴(にてき)では(おさ)まらない(あせ)で石畳を()らし、(かわ)いた息で必死に声を出そうとする女が上目遣(うわめづか)いに少女を睨んだ。

「アンタ…、い…ったい……、何考えてるんだいっ!!」

壮年の彼女は怪物も怖気(おじけ)づくような気迫(きはく)怒鳴(どな)りつけた。

夜の(ぬし)であるはずの暗闇たちでさえ(たじろ)いだように見える。

「死んぢまったら…、どうやって、謝るつもりなんだい?!」

少女が腰を抜かし(くず)()ちてもまだ、女はその手を放さない。一層(いっそう)強く(にぎ)りしめた。

「どうしてもっと周りの人間を信じないんだ!!」

少女は胸元(むなもと)にしまったロザリオをギュッと握り、(おび)える瞳で女を見詰(みつ)めた。

 

―――決意を彼らに見せつけなさい

 

「わ、私は……お…、おとう、さんを……」

(つば)を飲み込み、(ふる)える(くちびる)一言(ひとこと)々々(ひとこと)(しぼ)()す少女の様子はどこか命乞(いのちご)いをしている難民の姿にも(うつ)った。

…やり()ぎたなんて思ってない。

けれど、「恐怖」だけで子どもを(しば)()ければ、一生、大人にはなれない。

生涯、「大人」に操られる人形として死んでいく。

戦争に行ってしまった友人を、仲間を殺した友人を思い出し、彼らの親と同じことをしてしまっている自分を(はげ)しく()めた。

ミレントは(かわ)ききった(のど)でなんとか息を(とと)えると、穏やかに、けれども(きび)しい声色(こわいろ)で少女に(かた)りかけた。

「今のアンタが、アイツの所に行って何か意味があるのかい?」

「…い…、み?」

「今のアタシを見てアンタは信じないかもしれないけどね、アタシはアンタを幸せにしてやりたいんだ。」

走り疲れて座り込みながらも、その手だけは放さなかった。

「アイツから(あず)かってる以上、アタシらはアンタの親なんだ。どうしてそれが分からないんだ。」

「私はただ…、お父、さんに……」

「だから、どうしてアタシらがアンタをアイツの所に行かせないのか。なんでそれを考えてくれないのかって言ってんだよ。」

「……危ないからでしょ?…わかってるよ。それでも私はお父さんと一緒がいいの。」

 

潮風は少女と壮年の女の間に()(へだ)てなく吹いた。

けれども、それを感じる二人は全く別の感情を刺激(しげき)させられていた。

「やっぱり分かってないじゃないか。」

「え?」

壮年の女は初めて少女(カモメ)(つばさ)を放した。そして、その両手は優しく少女の(ほお)を抱きしめる。

 

「アンタの夢はいったいなんなのさ。」

「……」

…夢?……お父さんと一緒に()らすこと?

「医者に、なりたいんだろ?」

「あ……。」

()()()()()、すっかり忘れてた。

そんなの、お父さんに会えないことに(くら)べたらなんでもないから。

お父さんのいない世界に私の夢なんかない。

「だから、アイツはアンタのために()物狂(ものぐる)いで大金を残したんだろ?」

「あ……。」

お父さんはいつだって私の目を治すために働いてくれていた。

私は学校にも(かよ)えず、まともに働くこともできず、お父さんが帰ってくるのをただただ家で待つだけの役に立たない子どもだったから。

 

あの時、私が悪い人たちに(さら)われた時、目は見えなかったけれど、(むか)えに来てくれたお父さんが傷だらけなんだっていうのはわかってた。

でもそれは悪い人たちを倒したからだって思ってた。

…そんな簡単なメッセージにも私は気付けなかった。

 

ずっと、私の目を(なお)すためだって言ってたから。

お医者さまにかかっても山ほど残ってるお金を不思議に思ってた。

二人で生活していくためなのかなって、バカみたいに何も考えなかった。

お父さんがいなくなったって知って、私は悲しむだけでお父さんが残したものに目を向けようともしなかった。

お父さんがどれだけ大変な思いをして用意してくれたのかも考えずに。

いっそのこと、泥棒(どろぼう)が持っていってくれたら私はそれを見なくてすむのにって思ってた。

 

「もしも、これ以上アイツと(かか)わっちまったら、アンタのその夢は二度と(かな)えられないかもしれないよ?毎日戦争と隣り合わせで、まともな生き方もできないかもしれないんだよ?」

「……」

「アンタならそれがどれだけ(つら)い生き方なのか、分かるだろ?」

 

黒い悪夢(かげ)が、少女の脳裏(のうり)(よぎ)る。

 

大、丈夫…。お父さんが、護ってくれるもの……。

「そんなの、アイツが(のぞ)むと思うかい?ヒトを救う大人になるはずの娘が、ヒトを殺す大人になるかもしれないのを、親が黙って見ていられると思うのかい?」

「…それは……」

 

……私、間違(まちが)ってるの?

 

少女は、(わた)(どり)()ける青い空に立てたはずの(ちか)いに大事な何かが()けている不確かさを感じ始めていた。

少なくとも、二人(むつ)まじい未来が待っているように思っていた。

頭に(えが)いていたその幻想が、四隅(よすみ)からベリベリと()がれていく音が聞こえてきた気がした。

 

…どうして?

 

私が子どもだから?

お父さんが好きって気持ちも、二人で幸せになりたいって気持ちも、全部私の我がまま?

お父さんを苦しめてるのは、私?

私だけが何もわかってなくて、私のせいでお父さんも、みんなも傷ついてるの?

 

……私が悪いの?

 

 

少女は少しだけ背伸びをして今一度、自分の妄想(もうそう)俯瞰(ふかん)する。

するとそこには、それまでその瞳に映っていた「エレナの世界」とは今までとは全く違う世界(もの)が広がっていた。

 

瞳に映る少女に羽などなく、ひとっ飛びで終わるはずの旅路(たびじ)には数え切れないほどの困難(こんなん)が待ち受けていた。

そして、少女は想い人の(もと)辿(たど)りつく前に行き倒れてしまう。

少し頭を働かせて(えが)いてみれば「現実」というものの姿は、「少女」にだって分かることだった。

そこまで行き着くと今度は、二人の助言を無視して父に会いに行こうとする自分がまるで黒服たちと同じ「悪魔」のようにさえ見えてきた。

 

小さな悪魔に壮年の女は優しく驚かせないようにゆっくりと手を差し伸べた。

「アイツがアンタを攫った連中をどうしたのか。知ってるだろ?」

黒い父は、娘を攫った男たちを皆殺しにした。

そこに、おおよそヒトの慈悲(じひ)と呼べるものはなかった。

気の触れた熊のように凄惨(せいさん)に。一方的に。徹底的(てっていてき)に。

黒い父は血を()()らし、水浴(みずあ)びでもするように全身でそれを受け止めた。

 

目が見えなくとも、咽返(むせかえ)るほどに充満した屠畜場(とちくじょう)の臭いが無垢(むく)な少女の脳裏にその光景を鮮明(せんめい)に描かせた。

だから、知っていた。

少し、(おび)えていた。

父が―――。

自分を想う人が―――。

それでも少女は黒い父を想い続けた。

5年間、暗闇の中でただ一つ光を見せてくれる彼が、少女にとって唯一(ゆいいつ)「お父さん」と呼べる人だったから。

 

「普段のアイツの性格を考えてごらんよ。どうしてそこまで狂ったように人を殺したと思う?」

壮年を生きた女の言葉は未だ少女である心を、エレナの中の「父親」を複雑にかき混ぜる。

少女の(まばた)きを(さそ)う島の風が一段と(ぬる)く、森の木々を(ざわ)めかせる。

「…な?分かるだろ?」

「……」

「だったら、そんなにも想ってるアンタを残して消えちまった…アイツの気持ちも分かるだろ?」

島の誰もが少女の決意(おもい)を否定し、彼女の父を(ひと)りにさせた。

今の少女ならその理由が理解できた。

…でも、納得(なっとく)できるはずもない。

 

「…帰ろう、エレナちゃん。」

いつの間にか、そこにガーレッジさんがいた。

「……」

そして、ガーレッジさんの言葉は(あん)に私の短い「自立(じりつ)」の終わりを()げていた。

「…うん。」

二人はまだ何か隠してる。

それが何か。子どもの私にはまだわからない。

それが、(くや)しい…。

だけど二人は私をこんなにも大切に想ってくれている。

…お父さんと同じくらい。

 

……どうしてなの?

 

私なんて、誰かの(ささ)えがなきゃ何もできない、何の役にも立たない子どもなのに。

どうしてお父さんも、ミレントさんたちも私をそんなに大事にしてくれるの?

 

それなのに、どうしてお父さんに会っちゃいけないの?

 

矛盾(むじゅん)する現実が少女を苦しめていた。

皆が少女の幸せを想ってくれているのに、少女の思う幸せを否定する世界が理解できないでいた。

いいや、理解できるはずだった。

けれども理解は納得に(むす)びつかない。

あるかもしれない(つばさ)を無理やり縛られているような感じが少女を苦しめた。

 

それは本当に、幸せなの?

もしも、お父さんが戦争で死んじゃったら、私は神父さんみたいに受け入れられるの?

 

しかし、葛藤(かっとう)を覚えているのは少女だけではない。

少女の手を引く壮年の女も、自分の(おか)しているかもしれない(あやま)ちに罪悪感(ざいあくかん)を覚えずにはいられなかった。

 

少女の中にあるどんな夢を叶えようとも、三人で仲睦まじい家族を(きず)こうとも、想い人を切り捨てた人生は少女を幸せにするだろうか。

どんなに体が健康であっても、一生消えない心の傷が毎晩彼女の頬を濡らし続けるに違いない。

……けれど、だからといって自分の身も護れない子どもが戦場に(おもむ)くのを黙って見送るなんて大人のしていいことじゃない。

少女を危険に(さら)した悪魔たちへの、父親の狂気も理解できなくない。

いくつもの(まじ)わらない答えが、(かか)わる人々の円満(えんまん)な未来を(けず)()としていく。

どんな選択肢(せんたくし)の先にも、満面の笑みを浮かべられる人はいない。

誰かが不幸を背負(せお)い、誰かがそれを見て見ぬふりをしなきゃならない。

 

誰しもが望む「幸せ」なんて、ないんだ。

 

だからこそ、夫婦は「子どもの未来」を護ることを主張(しゅちょう)し続けた。

遠い未来、誰もが笑って生きていける世界が築かれると信じて―――。

 

 

 

「家に帰ろう」と、自分を想う大人に手を引かれながら、自分の(おさな)い足元を見詰めながら少女は思う。

 

神父様は嘘吐きだ。

私がどんなにこの気持ちを伝えたって、二人は分かってくれなかった。

…二人は私を大事に想ってくれてる。

それは私にとって嬉しいこと。ウソじゃない。

……それでも私は、こんなにもお父さんに会いたいのに。

私は、ベッドの中で私を抱くミレントさんの腕からこっそり抜け出して、静かに泣くことしかできない。

弱い自分が嫌いで。

幼い自分が鬱陶(うっとう)しくて。

護られるばかりの自分が、憎らしくて。

 

 

翌日、私は一日中空を見上げていた。

流れる雲を見て、遠くへと飛んでいくカモメを見て、海の向こうに広がる戦場を想像した。

どうして私には羽がないの?

どうして私には誰にも邪魔されない「力」がないの?

 

…お父さん……

 

どんなに悪い大人になってもいい。

お父さんに怒られたっていい。

…お父さんに……、会いたい!!

 

 

ある晩、ソレは少女の望みを叶えるかのように(あらわ)れた。

「今晩は、エレナ。」

どうやって(しの)()んだのかは分からない。

だけど、彼らの目的は分かっていた。

(さか)らえばどうなるのかも。

そして、彼らは少女の心内(こころうち)をずっと以前から見透(みす)かしていたかのように、核心(かくしん)(たず)ねる。

「決心は、ついたかい?」

少女は、おもむろに現れた黒服の差し伸べる手を取り、こう言った。

「私を…、お父さんのところまで連れていってください。」

「…喜んで。」

黒服は滑り込んでくる少女の小さな手を握り、ほくそ笑むと、自慢(じまん)の闇夜で少女を(つつ)み、エスコートする。

少女のために用意された舞台(みらい)へと。

 

 

 

――――同日、クレニア島沖合(おきあい)

 

島が、あんなにも小さい。

 

()れる船の上で、小さな子どもは思った。

 

少女にとって間違いなく人生の岐路(きろ)になった島、クレニア。

その大舞台が今は、大きな水溜(みずたま)りの上に浮かぶ一粒の角砂糖のように映っている。

 

あんなにも沢山(たくさん)のことがあった大事な場所が大海(スープ)の上のパセリ程度(ていど)の大きさだったと知ると、()たしてこれから自分を待ち受ける世界はどれだけ巨大なものなのか。

少女は不安を覚えずにはいられなかった。

 

不安は、自分を心から護ろうとしてくれた二人を裏切ったことへの後悔(こうかい)と、自分の中にも黒服と同じ他人を(かえり)みない非道(ひどう)本性(ほんしょう)があるのかもしれないという困惑(こんわく)()()て、少女の中のヒトらしい心を麻痺(まひ)させた。

それはもはや「想い人(ちち)との再会」ですら(いや)せないかもしれない。

今の少女は「想い人(ちち)との再会」を果たす人形でしかない。

そのためなら少女は、どんな犠牲(ぎせい)(いと)わないだろう

人形は、想い人を殺すかもしれない。

想い人は、人形を(こわ)すかもしれない。

少女の(くだ)した決断(けつだん)は、周囲の人間さえも巻き込む大きく取り返しのつかないもの。

少女は自分の意思でそれを選んだものの、事の重大さを理解していない。

未だ、()()()()()がゆえに。

ただ周囲の大人に流されるままに、想い人だけを見て少女は眠る。

大きく黒い悪夢(かげ)に抱かれながら。

ジットリと(ねば)()のある悪夢(ゆめ)の中で、少女は大きな大きな世界のどこかに消えてしまった一粒の太陽(ひかり)をその瞳で探し続けた。




※半時(はんとき)
一時(いっとき)の半分。現在の一時間とも三十分とも…。
とにかく、約一時間。少しの間、僅かな時間の意味。

※屠畜場(とちくじょう)
牛、豚などの家畜を食肉用に加工する施設のこと。
ハリウッド映画なんかの銃撃戦のシーンに使われたりする、牛の肉が吊るされている施設のことですね。

※あとがき
書けるかどうかはさておき、ようやく地の文でキャラクター目線とナレーションを使い分けるという書き方の大切さを知りました(笑)
今、一番苦労しているのは連続する文末の「です」「ます」系をどれだけ読みやすくできるかというろころですね(^_^;)
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