俺は朝が弱い。
朝、誰に起こしてもらえるかで、その日いちにちの気分が決まる。
そういう意味で、俺はここに残ったことをかなり
シュウと
この町で俺の部屋を
でも、最近はそうでもない。
「……おはよう。」
目を開けるとそこには大きな狼の顔があった。
「よしよし、元気か?」
頭を
「おおっと、お前もいたんだよな。わかってるよ。」
つい最近、大きな兄弟ができたことで俺と同じくご
もちろん、世界一はコイツだ。
ひとしきり二匹と
「…リーザ、おはよう。」
「おはよう、エルク。」
腰まで
彼女の
毎朝、彼女と
いつもの風がどこか冷たく、異国の知らない花の
彼女はいつも俺より早く起きて朝食の用意をして待っていてくれる。
「いつもスマネエな。客なのにこんなことまでさせてよ。」
俺にとって彼女は客だし、大切な保護対象でもある。
本当なら俺が彼女の世話をしなきゃいけないんだ。
そう思って、俺は少し悪びれながら言う。
けれど、彼女はまるでそれが当たり前かのように俺の言葉をごく自然に
「いいの。早起きは
リーザの
俺の知らない彼女の
彼女よりも何倍も
……俺はそんな彼女に
「どっか行きたいとこってあるのかよ?」
そんな
大したことじゃない。ちょっとした言い間違えで起きた
それなのに彼女はそれをまるで
そんなつもりはなかったんだ。
なかったんだけど、俺はただでさえ寝起きが悪いし、彼女は俺の『声』を聞くし。
何より、何も悪くない彼女を
機嫌を
…今日は二人きりで出かける日なのに。
「よう、おはよう。」
「ああ、おはよう。」
いつもの公園で、いつものトレーニングをして、ジョギング連中に挨拶をして……。
「…なんか、かったるいな。」
振り回す
……
「なんだ、もう帰るのかよ。」
「…
「…お帰り。」
「ああ。」
多分、また俺の『声』を聞いているんだろう彼女の表情は少し重かった。
「汗流してくるからよ、ちょっと待っててくれよな。」
「うん、わかった。」
そんなこと言わなくたって、トレーニングから戻った俺はシャワーを
それがここ最近のパターンなんだから。
むしろ俺が声を掛けたことで、彼女の気持ちも
……わからねえ。
わからねえし、
「……ああ、ダメだ。」
したたる
こんな調子で出掛けたって俺もリーザも面白くねえだろうよ。
今の彼女にとって外の空気を
俺がそれを台無しにしたらダメだろう。
賞金稼ぎとして。……いいや、人間としてよ。
「……よしっ!!」
気持ちの
「…何か、手伝うか?」
待てなかった。
いつもならシャワーを浴びて出てくると、それに合わせたかのようにリーザも家事を終わらせてたんだ。
だけど今日は俺が早く切り上げてきたもんだから。
それに合わせようと
「…じゃあ、これ、お願いしてもいい?」
「ああ、いいぜ。」
リーザは
俺は何も言わずに受け取り、一つひとつ
「……テーブルクロスって、洗うもんなのか?」
気付くと俺は
「ごめんね、お待たせ。」
十数分後、彼女は汗だくで家事をすませるとそう言った。
「…大丈夫か?シャワーとか、その、使わなくて。」
「……ごめん。…じゃあ、もうちょっと待ってて。」
俺を待たせまいと
俺に
…俺はまた
「ごめんね、いつもお
ここに来るときは
そもそも、初日にコイツを「
まあ、
それまでは、新しくできた兄弟で
彼女に
ちなみに、出かけるまでの間に、俺はまた一つしでかしてしまった。
気持ちを切り替えていたつもりなのに、リーザのちょっとした問い掛けに俺は口にすべきじゃない答えを返してしまった。
しかもそれがまた、俺の
彼女はというと、俺の
俺と違って彼女には『聞こえてる』はずなのに。
そこから立ち直るのに俺以上に
どれだけ歩き回ったかわからない。
どりあえず
「…な、ツマんねえだろ?」
出掛ける前にリーザのリクエストを聞くと、彼女は俺の
それでも、できるだけ彼女の
だけど、話せば話すほどに
「…悪かったよ。」
「え?」
俺は今朝のことも
すると、色んな意味でとんでもねえ答えが返ってきやがった。
「ウソでも良かったんだ。私、できることならいつまでもこうやってエルクと一緒に歩いていたいから。」
「……」
それからしばらくの間、自分が何を言って彼女が何て言ってたのか
気が付くと俺たちは、俺が
海よりにある
コンクリートジャングルを
ただ、一番人気は夕方から夜にかけて。
夕日が、
それと、昼の海が陽の光で輝くのと
本当はこれを見せたかったんだ。
だけど、今は明るい内しか出歩けないから……。
ちょうど
回らない頭が、船を目で追い、どうでもいいことを口にする。
「あれ一機に500人近い人間が乗ってんだぜ?考えてみるとすごいよな。」
「あの人たちみんな、あの雲の上に行くんだよね。そこから私たちを見下ろすんだよね。…ホント、すごいよね!」
すると、彼女は思った以上に食いついてくれていた。
少年みたく、飛んでいく飛行船をずっと目で追っていた。
「やっぱり都会ってすごいね。」
「なんだよ、まだ慣れねえのか?」
「うん。エルクと一緒に色々見て、わかったつもりでいたけど。多分、ただ見てただけなんだと思う。私、まだこの町の何にもわかってないんだわ。」
「ふーん。」
彼女の
だけど…、
彼女の言葉を聞いてから住み慣れた
……なんだか見慣れているはずの
「…ううん、それくらいキレイだもの。」
…多分、俺が何か言ったんだと思う。
会話の流れはよくわかんねえけど、彼女はこの町を気に入ってくれたみたいだ。
「…また、連れてきてやろうか?」
「ホント!?」
彼女は仔犬みたいに明るい表情で聞き返してきた。
「あ、ああ。いつかは約束できねえけど。俺の手が
「…ありがとう。」
それは、今日初めて見た彼女の、本物の笑顔だった。
それから何かしら
気付いた時はもう、俺たちはアパートに向かって歩いていた。
「……はぁ。」
「ごめんね、たまの休みなのに。…疲れた?」
「は?…あ、いいや。疲れちゃいねえよ。ただ…、」
コンクリートの森を
なびく
…なんと言うか……
「……」
…もう、いい
『聞かれる』からなるべく考えないようにしてたけど。
そのせいで、今日一日で何度失敗してしまったかわからない。
その度に、彼女が俺から遠ざかっていくような顔を見ちまうくらいなら……
どうせ『聞かれる』なら、
「リーザ……、」
「…なに?」
彼女が
それとも、俺の顔が
「あのよ…、」
ああ、もう、そんなのどっちでもいい!
「その…、」
早くこの気持ち
「か…、わいい…、ぜ。」
「……」
言い切った瞬間、
言いたいことの半分も言えてねえのに。
俺はそこで力尽きてしまった。
「……」
彼女が、何か言ってる気がした。
だけど……、何も聞こえねえ。
聞こえてくるのは、一流アスリートみたく「力を出し切った結果です」と
…少し
黙らねえなら、その半熟卵みてえなブヨブヨの体をガチガチの消し炭に変えちまうぜっ!?
…何をくだらないことを考えているのか。自分でもわからなくなっていた。
「そろそろ、帰ろうか。」
……
ただただ彼女の
…でも、少なくとも、俺の言葉が
…良かった。…良かった。……本当に、良かった。
その後はお
……いいや、違った。
もう一言だけ、彼女は俺にこう言ったんだ。
「エルク、」
「あん?」
「今日は、ありがとね。」
…
数日前、俺は彼女のことを、
あの時は、そうとしか言いようがなかったんだ。
…いいや、今だってそう思ってる。
他人の心を『見る』なんて、とんでもねえ人間のことを他にどう呼べばいいってんだ?
俺には分からねえよ。
だけど、そんな無知な俺でも、今日、気付いたんだ。
「化け物」なんて、生きててもどうしようもない連中の中にも……、「天使」って名前のキレイな生き物がいるんだって。
ただの散歩のつもりだったのに。
俺は「今日」という一日で完全に頭がイカれちまったらしい。
「運命」なんて俺が一番嫌いなものに完全に
…だけど、それでいい気がした。
彼女がそれで笑顔になれるなら、俺は奴らのされるがままでもいい気がした。
帰り際、
いつか、必ず――――
※茶太郎
たぶん、ビーグル犬です。
ギルドのお仕事を解決するとエルクの家に配置されることになるマスコットの一匹です。
※エルクの部屋
原作の画像を見る限り、エルクの部屋に個室はおろか、キッチンやトイレ、風呂もありません。
全部共同なのかというと、アパートの廊下を見てもそれらしいものは影も形もありませんでした。
いくらケチなビビガでも、さすがにキッチン、トイレ、風呂を完備していないアパートを経営するはずがない!!
つまり…、描かれていないだけ。
…やりたい放題!?
…とはいえ、まあ、1LDKぐらいの間取りにしておこうかと思います。独り暮らし用のアパートっぽいしね。
リーザは個室のベッドで、エルクは玄関からリビングに続く廊下にある3人掛けのソファで寝ていることにします。
この廊下が結構広めなのでエルクもあまり窮屈な思いをすることなく就寝できています。