聖櫃に抱かれた子どもたち+   作:佐伯寿和2

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老木は軒を、花は希望を、

その日は珍しく肌寒い朝だった。

(そび)える山の(いただ)き。降り立つ朝露が枯れた村の飢えを癒し、神殿の石肌を潤した。

朝日は地上よりも近いが(けん)はなく、薄い霧に「白」だけで染め上げた更紗(さらさ)のような(しと)やかさを与え、眠る赤子の横顔を見詰め微笑んでいるようでもある。

 

……今日は…、

 

雨風に削られて丸みを帯びた(やしろ)の石段に、白髪の老爺(ろうや)がにじり寄る雨雲を見遣りボンヤリと呟いた。

 

……今日は、雨、かのぉ…。

 

 

スメリア国北陸に位置する辺境の村、トウヴィル。

標高2000mを越える奇怪な形の山の頂きに築かれたその村で、自称3000歳を(うた)う占い師が(つか)()の休息を満喫していた。

 

「どれ、今日は花占いでもしてみるか。」

気紛れに、占い師は自分の「その後」を覗こうとした。ところが、

「え?ゴーゲンにそんなカワイイ趣味があったの?!」

()頓狂(とんきょう)な声色に導かれて振り返ると、菖蒲(あやめ)のように真っ直ぐで力強い発色の、紫の御髪(おぐし)と紫の瞳を持つ乙女が達磨(だるま)のような不細工な(つら)でこちらを見遣っていた。

 

ククル・リル・ワイト。勝ち気で、程よく実った体の―――まあ、ワシの好みには程遠いが―――精霊に見初(みそ)められた世界にたった一人の巫女。

口は悪いがそれは照れ隠しの一つなのだと知っている。

芯はとても良い子なのだ。「精霊の巫女」であることもそれを十分に証明している。

だからまあ、悪態もまた愛嬌の内というやつだ。

 

あからさまに構ってほしそうなその態度に老爺の頬は緩み、冗談交じりに答えた。

「なにもそんな驚くことはあるまいよ。こちとら3000年も生きとるんじゃぞ?ナウな(たしな)みの一つくらい心得ておるわい。」

「いや、”花占い”をナウって言ってる時点でもう全っ然、ナウじゃないわよ。」

彼女の快活さは心地好いが、それが悪態を(やわ)らげているかというと、そんなことはない。

むしろ時折、目も当てられん苛烈さを発揮することもある。それが身内の男連中を打ちのめす姿には歴戦の風格さえ感じられるほどだ。

それに比べれば今日のそれは「可愛げがある」と言う他あるまい。

「お前さんはアークがおらんと本当に容赦がないのう。」

「ちょっと、なんでアークが出てくるのよ。フン…。でも、いいんじゃない?ここに()たっておじいちゃんにできることなんて殆どないんだから。」

……たまに、この悪辣(あくらつ)な女の本性を恋人に告げ口してやろうかと思うこともある。

 

「それで、何を占うの?」

「…お前さん、神殿の方は放っておいていいのか?」

スメリア国には(はる)か昔から「精霊」を信仰する風習が広く浸透している。ここ、トウヴィル村も辺境の地にありながら例に漏れることはなく、そのための社が一つ(もう)けられている。

その社は「信仰の起源」に数えられているにも(かか)わらず、「三千年を経た劣化」と「山奥にある」という悪条件が人々の信仰心から「起源」そのものへの関心を希薄にさせてしまった。

そうして事が起きるのをみすみす見逃してしまったのだ。

今やそれは人類の滅亡か否かの鍵を(にな)う、新たな「伝承の起点」になっていた。

 

「雑務は村の子たちに任せてるし、私にだって休息くらい必要よ。」

ククル、彼女は残された人類で唯一、この社が生みだす「聖域」を維持できる『特別な一族の血』を引き継いでいる。

彼女を欠けばこの村は瞬く間に闇に飲まれ、人類はすがることすら叶わず滅びるだろう。

むしろ、あの閉ざされた―――設計の都合で換気すらままならない―――(くうかん)(こも)って一日の大半を過ごすという劣悪な生活を送っていながら平常を保っていられる彼女は、異常なほどに心身が清らかと言っていいのかもしれない。

「それとも何?」

それを思えば、多少彼女のストレスの()(ぐち)の役目を(おお)せつかったとしても(バチ)は当たらんというものだ。

「ピチピチの若い娘は、おじいちゃんのお早うからお休みまで働いてなきゃいけないわけ?それって一種のセクハラじゃない?」

…それに、恋人の前で豹変する娘の姿を想像すれば、これ以上にない愉快な喜劇のようで可笑しくもある。

 

あとは、最近になって気付いたことがある。

「…お前さん、何か占ってほしいことはあるか?」

「え?占ってくれるの?!」

彼女は占いに興味があるらしいということだ。

「ワシには精々、今日の空模様ぐらいしか占うことがないからのう。お前さんのような若者の悩みに耳を傾けている方が、役目のない老人の、世の中への最大限の奉仕と言えるじゃろう?」

「…なんだか棘のある言い方だけれど。まあ、お言葉に甘えようかしら!」

こうして活気に満ちた姿を見るとやはり年相応の愛らしい娘に見えて、世話の一つも焼きたくのは年寄りの性分なのだろうか。

気付けばワシは顎髭(あごひげ)を撫で、気合いと照れ隠しの仕草を取っていた。

 

「それじゃあ、そうねえ…。今日の天気なんてどう?」

「…お前さん、それはワシをおちょくっておるのか?」

「そんなことないわよ。たまたま今日、神殿に飾る花を摘みに行こうかなって思ってたの。だから、雨なんか降ったら山道は危ないじゃない?だからね、お願い。」

「……」

そう言ってワシに向ける笑顔は純真で、胸の内に巣食った老い、腐った心が清められるようだった。

 

気を取り直し、足元に群生するオオイヌノフグリにソッと息を吹きかけ、様子を見守った。

「え?花、摘まないの?」

ワシは花から視線を()らさず、彼女の(つたな)い問いに答えた。

「なにも花弁の枚数を数えるだけが”花占い”ではないよ。例えばこれは、占い手の息が言霊(ことだま)になり、それに応える彼らの挙動から未来を読み解くものじゃよ。」

ここトウヴィル村に自生するオオイヌノフグリは地表で見るものよりも背が高く、風の流れをよりハッキリと感じ、揺れていた。

 

興味津々の彼女を見れば、無性に揶揄(からか)いたくなる悪い癖が顔を覗かせる。

「草花も(かしま)しい唇がないだけで、沢山の言葉を交わしておるんじゃよ。」

「アタシは?この花よりも姦しい?」

「そうじゃな。毎日、耳元で噴火でも起きとるんかと気が気でないくらいにはな。…あ痛ッ!」

もはや共同作業とでもいうような(よど)みのない遣り取りだった。

知り合ってそう長くはないが、これがワシと彼女の間で築いた良好なコミュニケーションの取り方なのだ。

「良かったわね、頭にたんこぶができる程度の噴火で。」

乙女とはいえ、イーガを負かすほどの武術の達人でもあるんじゃぞ?そんな女の拳を受けたならウッカリあの世に逝ってしまいかねんわい、まったく……。

誘ったことを後悔するのも恒例のことだ。

 

「それで、なんて言ってるの?」

「そう()かさんとお前さんも耳を傾けてみたらどうじゃ。」

「…私にも分かるものなの?」

彼女はワシの言葉の通り、彼らに耳を寄せ、(そばだ)てた。

「”言葉じゃない”と言ったじゃろ。(こうべ)を垂れたり、風に香りを乗せたり、花弁や葉の色の陰りを見たりするんじゃよ。」

「へえ、ロマンチックね。」

膝を折って(かが)み、花を覗き込む姿には幼女のような爛漫(らんまん)さも垣間(かいま)見える。とても化け物相手に拳で挑みかかる女とは思えん。

「女に年を尋ねるな」と言うが、そもそも純粋無垢な女児に年齢という概念は「不適切」なのかもしれんな。

「……かわいいね。」

勿体(もったい)ないことじゃ。

こんな子までもが醜い「戦場」ごときに(かかずら)わねばならんとは。

「お前さんが気付いておらんだけさ。この世にはお前さんに可愛さを認めて欲しくて喉を()らしておるものが巨万(ごまん)とおるんじゃぞ?」

「未熟」と言われたのが詰まらなかったのか。彼女は少し唇を(とが)らせた。

けれども、「未熟さ」に触れた彼女はすぐに「幼さ」を忘れ、「戦場」で見てきた表情を貼り付け、ワシに尋ねた。

「…ゴーゲンは、」

ワシはその顔が少し、怖かった。

「なんじゃ?」

「…ゴーゲンは、この世界が好き?」

「……」

 

ワシにその質問は不適切だ。

答えは、遥か昔から決まっている。

それは彼女たちに見せるべきものではない。

「私」という人間は彼女たちと肩を並べるべきではない。

……私は、「勇者」ではないのだから。

ただの「代理人」…いいや、「代理人」さえもおこがましい。

私は、君たちの仲間を殺した「人類の敵」なのだ。

 

そう…、私はこの世界が嫌いだ。

「愛」よりも先に、「嫉妬」を私に教えたこの世界が私は大嫌いだ。

彼が私に与えてくれたものは、私だけでは到底気付きえなかった。とても、とても大切なものだ。

それが彼の「史上最も優れた魔導師(ゴーゲン)」の所以(ゆえん)とさえ言える。

そんな偉大な人を、私は喰った。世界はそれを見守るばかりで止めようとさえしなかった。

私一人、見殺しにすれば解決したというのに……。

だから私は――――、

 

「そうじゃな、ワシがお前さんを想うくらいには好きじゃよ。」

「プッ、アハハハ。なに、ゴーゲンって昔、プレイボーイだったの?」

無邪気な彼女の笑顔はワシの憂鬱(けがれ)をほんの少し、拭ってくれる。彼女だけじゃあない。

今の仲間は昔に比べ、緊張感に欠けた連中ばかりだ。そのせいで「あわや」と冷や汗をかかせられることも少なくない。ワシが世話をせんかったなら、今頃何人が生き残っているかもしれん。

だがワシは今、彼らを頼りに生きている。たとえ拭いきれなくとも。

……助けられている。心の底から。

 

「で、どう?晴れそう?」

「……」

空には雨雲が泳いでいる。花の揺らめきは、「風が強くなる」と訴えていた。

「…問題ないわい。晴天とまではいかんが、少なくとも雨が降ることはないぞい。」

「そう、良かった。」

占いの結果に満足し、若々しく立ち上がった彼女は、()()()()()()()()()(いや)らしく絡み付く「悩み事」までも解決したかのような清々しい顔付きをしていた。

「じゃあ、ちょっと行ってくるわね。」

まるで、世界が平和に満たされているかのような朗らかな顔付きだ。

「…雨は降らんでも山道をあなどると思わぬところで足を掬われる。くれぐれも足下には気を付けるんじゃぞ。」

「わかってるわ、ありがとう!」

生来のヤンチャな性格を十二分に語る軽快さで手を振り、彼女は出掛けていった。

小さな背中を見送り、少しばかり、寂しさを感じた。

 

 

「…さて、ワシはもう一仕事するかのう。」

重い腰を持ち上げ、杖の先端に罅割(ひびわ)れた唇を添えた。

「……」

花々も聞き取れぬ声で、空へ『言葉』を飛ばした。

「……」

いくらかの後、雨雲たちは翼を広げ、若い風に背負われて彼方へと去っていった。

受領してくれたことに感謝し、ワシは杖を掲げて礼を言った。

「こんなことのために『魔術』を使っていると知ったら、あの人はなんと言うかな。」

言い訳をするように自嘲し、ワシは自分の休息に返る。

 

 

「ゴーゲンさん、こんにちは!」

「おお、こんにちは。」

村の人間は(すこ)やかだった。今の貧しい環境にも耐え、一方的な勇者たちの敢行(かんこう)にも健気に尽くしてくれている。

誰かの手で抑圧されているのではなく。彼らの意志で、この不条理な世界を真摯(しんし)に受け留めてくれている。

怒り…、さもありなん。

悲しみ…、さもありなん。

だが、彼らは信じてくれている。光は空に輝き続けていると。「彼」がそこへ導いてくれると。

 

馬鹿げた話だ。

どうして人の身が天さえも覆ってしまうほどの魔を(はら)うことができるというのか。

だが、それでも彼らは健やかなのだ。「彼」がソレに真っ直ぐに向き合っていられるほどに、美しいほどに健やかなのだ。

もはや、これだけでも十分な「奇跡」だとワシは思っている。

「…のう、カエルさんや。」

雨雲に期待を寄せて穴倉から出てきた小さな蛙は、アジサイの下に隠れ、自慢の鳴嚢(めいのう)(こま)やかに(ふく)らませては(しぼ)ませ、ワシを「じぃ、」と見詰めていた。

「すまんのう。今日は愛娘の我がままを叶えてやりたかったんじゃ。勘弁しておくれ。」

心なしか、彼女の悪態を思わせるような顔付きでワシを見遣ると、蛙は素直に自分の巣穴へと帰っていった。

「まったく、あの顔は今の流行(はやり)なのかのう。心臓がいくらあっても足りんわい。」

じゃが、楽しい……。

 

一歩、歩みを進めれば、ワシを見つけた村の子がワシに昔物語をねだってくれる。

ほんの少し、道沿いに腰を下ろしていれば、家事をしていた母親が老体を(いた)わってくれる。

男共は知恵を学びにやって来るし、老父老婆は自分の息子娘の自慢話を聞かせにやって来る。

人も獣も、健やかであれば、何気ない日常の中にその息の数だけ「幸福」を育ててくれるものなのだと……。

本当に、良い所だ。

花も、人も……、

 

 

ひとしきり村を散策したワシは彼女に出立の(むね)を伝えるために神殿へと戻った。

「……」

ここに訪れる度、神殿の口から手を伸ばす『気配』たちは「世界」ではなく「私の首」を絞めようとデタラメに辺りを(まさぐ)っているのではないかという思いに駆られる。

表向き、社は神聖な空気を保っているものの、その(はらわた)には目を背けたくなるような『悪』を孕んでいる。

一歩、踏み込めば、相対しているものの強大さを否が応でも知らされる。脂汗一つでようやく耐えられるほどに。

……だが、今に見ているがいい。おそらくワシらがキサマに勝つことはないだろう。

だが、勝てぬまでも、刺し違えてみせよう。二度と這い上がれぬ奈落の底へと、共に歩もうじゃないか。

彼の知識とこの石さえあれば、それが可能だと知ったからには。キサマらごときに……、

 

――――だが、どこか、ソレは私を抱擁(ほうよう)しようと()()()()()ように感じてしまう私がいる

 

「あら、ゴーゲン、戻ったの?」

務めの最中(さなか)、ククルはワシを見つけると楚々(そそ)として近付いてきた。

「…そうじゃのう。そろそろ出発しようと思ってな。」

「そう、わかったわ。」

彼女は「戦友」の面構えでワシを見送る、かと思いきや……、

 

「はい、ゴーゲン。これあげるわ。」

所々に擦り傷の目立つ乙女の手が皺くちゃの手の平にソッと重なったかと思えば、そこには一輪の青紫の花(ムスカリ)があった。

小振りな(ベル)を思わせる青紫の花が一本の茎を頼りに、身を寄せ合うようにいくつも実っている。

微かに濃密な果汁を思わせる香りが鼻先を舐める。

「……これは?」

「あんまり沢山あっても邪魔になっちゃうでしょ?だから一輪だけ、ね。」

仮にも「大賢者」などと名乗っているワシが。まったく期待していなかっただけに、この状況を呑み込めずにいた。

「…ワシに?」

「だって、今日は私の暇つぶしに付き合ってくれたでしょ?それに…、」

「それに?」

彼女は巫女装束特有の幅広の袖で口元を隠したかと思えば、イタズラな笑みを浮かべた。

「ウソ、吐いたでしょ?」

「な……、」

もともと勘の鋭い子ではあったが、あんなにも平然とした顔でワシの嘘を見抜いているとは思いもしなかった。

だが、したたかな笑みを隠す(たもと)が役目を終え、口元から離れるとそこにはあの愛すべき朗らかな笑顔があった。

深く掘り込まれたえくぼと、初心(うぶ)で素直な白い歯が(なぐさ)めるようにソッとワシの頭を撫でた。

 

「そんなちょっとした優しさが嬉しいなって思ったの。だからこれはそのお礼よ。」

ワシにとってそれは、本当に些細なことだった。

けれども、その「些細なこと」が彼女の中に花を芽吹かせていた。今日、ワシがこの村で出会った彼らと同じように。

「気を付けてね……。また、会いましょう。」

彼女は(ほう)ける老いぼれを余所に、まるで我が子を送り出す母親のように慈しみ、強く抱きしめた。

「……ああ、お前さんも体には気を付けるんじゃぞ。」

「うん……。」

 

――――トウヴィル村上空、シルバーノア船内

 

ワシは窓辺に寄り掛かり、頬杖をつきながら遠ざかる小さな村を見遣り、想いを()せた。

 

この体はもはや「人間」と呼べぬ程に多くのものが枯れている。涙を流すことも叶わない。

だが、最愛の友、ノルよ。今日、私は貴方と交わした誓いを、より強く胸に刻みました。

 

雨雲が、ワシの犯した罪のツケを払うかのように一族を引き連れ、やって来ていた。

ワシは今一度、彼らに礼を述べると黒雲がピカリ、ピカリと瞬いた。

「……」

オオイヌノフグリ、「忠実」「信頼」「清らか」

アジサイ、「冷淡」「無情」「移り気」

ムスカリ、「失望」「失意」「未来に託す」

 

思い出すかのように、私は自分の未来を占ってみた。

花占いの一つで、「一日の内に出会った花々の花言葉を順に並べて考察する」というタロットカードにも似た手法だ。

「……」

三つの花は()()()()()()()()()を言い当てているようだ。

なにより、ムスカリは()()()。まさに私にピッタリの花と言わざるをえん。

 

……決して良い結果とは言えない。

これらの花だけでは……、

 

だが、怖れることはない。

そうだ、私にはもう一輪、気高い花が寄り添ってくれているじゃないか。

息苦しい石造りの神殿に篭ってもなお枯れない純潔の花。彼女に触れたなら(たちま)ち力(みなぎ)り、心を穢す悪鬼を浄化してくれる。

菖蒲(あやめ)、花言葉は「良い便り」そして「希望」。

彼女の瞳には航路を指し示す灯台の明かりと同じ力強さがある。

あの明かりさえ見失わなければ、勇者は決して迷わない。

たとえ、私のような半端者であっても……。

 

 

窓をコツコツと叩く、小さな雨粒が私に何かを知らせていた。

「大丈夫…、すべて上手くいくさ。」

「運命」よりも身近にある「希望」が私を見詰めてくれている限り……。

 

 

 

――――この子らは、私が護ってみせる

 

 

 

名も亡き老爺は小さな背中を丸め、手の中にある「希望」に鼻を寄せてはひと時の幸せを噛み締めた。




※険がある
「邪険にする」という言葉があるように、相手に無礼な態度、不快にさせるような冷たい対応をすることを言います。
特に、顔付きに現れる時に用います。

※更紗(さらさ)
インド発祥の織物。
木綿もしくは絹の生地に人物、花鳥、幾何学模様を染め込んだもの。

※花言葉まとめ

菖蒲(あやめ・しょうぶ)=「良い便り」「メッセージ」「希望」
オオイヌノフグリ=「忠実」「信頼」「清らか」
アジサイ(青紫)=「冷淡」「無情」「辛抱強い愛情」「移り気」
ムスカリ=「失望」「失意」「夢にかける思い」「明るい未来」

※ムスカリ
約6万年前のネアンデルタール人が埋葬されていたとされる遺跡でこの花が一緒に発見されたことから、世界最古の埋葬花とされています。
そのため、ヨーロッパでは「青い花」は悲しみの象徴とされることが多いようです。

また、ムスカリはギリシャ語で「麝香(じゃこう)」という香料の意味を持ち、香水の製造に利用されているようです。
フルーティー(バナナみたい?)な匂いだそうです。


※拘う(かかずらう)
主に、面倒な、好ましくない出来事と関わりを持つことです。

※敢行
悪条件、無理難題を承知の上で挑むこと。

※鳴嚢(めいのう)
カエルさん(オス)の喉にある柔らかな皮膚のこと。鳴き袋ともいいます。

※名も亡き老爺
「名も無き」の間違いではないです。ゴーゲンの素性を表した、ちょっとしたカッコつけの一言です(笑)


※ゴーゲン
私の書く「アークザラッド」の世界では、最も優れた魔導師に与えられる称号、敬称でした。
ですがその称号は、3000年前の魔物たちとの戦争において目覚ましい活躍を果たした「ノル」への唯一無二の称賛として彼に捧げられました。
なので、これ以降に「ゴーゲン」と呼ばれる魔導師はいません。

なので多くの魔導師の間では「ゴーゲン」=「ノル」という風に認識されているのですが、
七勇者の伝説がつくられる際、七勇者をノルとする派閥とウルトゥスとする派閥があり、この争いを収めるために「ゴーゲン(最高位の魔導師)」と個人を特定しない名前を用いることで解決しています。
そのため、「ゴーゲン」=「ウルトゥス」と信じている人も少なからず存在しています。

※ゴーゲンの素性
忘れた方、まだ本編の158話「魂の帰郷 その十二」の後書きを読んでない方のために、簡単に設定(私の創作です)を載せておきます。

3000年前、ノルとウルトゥスという魔導師がいました。どちらも優れた魔導師でしたが、
ノルは魔導師の最高位「ゴーゲン」となり、ウルトゥスは二番手でした。
高慢で世間知らずな幼いウルトゥスは自分が「一番でない」ことに苛立ちを覚え、ノルの称号を妬んでいました。

二人は「聖櫃」という打倒魔王に不可欠なものの奪還のための使節団に編成されます。
しかし、ウルトゥスは道中で負傷し、悪魔の力に魅入られてしまいます。
そうして「ラリュウキ(魔人)」となったウルトゥスはノルたち七勇者の前に立ちはだかります。
封印という形で撃退されますが、一緒に封印されたノルは魔人がウルトゥスであることに気付いてしまいます。
彼を「家族」と慕っていたノルは、魔法で自分と彼の体を入れ替えてしまいます。

そうして「ゴーゲン(人間)」として現世に蘇ったウルトゥスは、救ってくれたノルへの懺悔と未熟な自分への後悔の念に(さいな)まれてしまうのです。

「ゴーゲン」となったウルトゥスはせめてもの罪滅ぼしのために、ノルの成そうとしたこと、記憶(ゴーゲン)の中で見つけた使命を成し遂げようと、自分の身を偽りながら今を生きています。
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