聖櫃に抱かれた子どもたち+   作:佐伯寿和2

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久しぶりにプラスの方を投稿します。
本編はお休みしますm(_ _)m
ちなみに今回は続きものです。
次回はいつになることやら(;´∀`)(笑)


それは、アナタの心です!! その一

「……おいおい、ワシにこんな仕事を任せるとは度胸(どきょう)があるのう。」

持ち帰った依頼(いらい)内容を聞くと、酒樽(さかだる)のような体形のオッサンは持ち前の下品な顔で笑いやがった。

「別について来いなんて言ってねえだろ?嫌なら帰れよ。」

俺たち―――俺とリーザ、そしてチョンガラのオッサン―――はインディゴスで賞金稼ぎの仕事を()()っていた。

 

白銀の戦艦(シルバーノア)のバカ高い維持費(いじひ)のせいで、ロマリアにケンカを吹っかけている最中(さいちゅう)だってのに小銭(こぜに)(かせ)ぐハメになったんだ。

……俺の貯金(ちょきん)もとっくに食い(つぶ)されちまったし。

「まあ、そう邪険(じゃけん)にするな。こういう所でポイントを稼いでおかんと艦長としての示しがつかんじゃろ。」

「…(けん)、俺たちの監視役(かんしやく)ってことか?」

「ほ?…ガハハハ!お前さん、まだそんなこと言っとるのか。まったく、(こま)かいのう。そんなんじゃからいつまで経ってもリーザちゃんの薬指が(さみ)しい想いをするんじゃよ。」

そう言って浮かべる笑みはもはや海賊や山賊にしか見えない。

いっそコイツをギルドに付き出した方が世の中少し平和になるんじゃねえかって思えちまう。

「…いつかその無駄に出っ張った贅肉(ぜいにく)串刺(くしざ)しにしてケバブにしてやるよ。」

「なにぃ!?お前さん、()っぺたが落ちても知らんぞ!?なにせ”元”は付くが王様の()()()じゃからな!庶民(しょみん)どもが泣いて喜ぶA5ランクも(はる)かに(しの)ぐ絶品じゃぞい。ンガッハッハッハッハ!!いやいや、これはこれで一儲(ひともう)けの予感がするのう!!なあ?!」

ガラガラと(やかま)しいケバブはクソの役にも立たない贅肉を自慢(じまん)げに(たた)いてみせた。

 

「……チッ、あんまデケえ声出すんじゃねえよ。目立っちまうだろ。」

インディゴスはどっちかっていうと神経質な町だ。町の人間は皆どこか冷めていて、喧騒(けんそう)という喧騒はほとんど聞こえてこない。

聞こえてくるとすれば、それは大体がマフィア(がら)みのいざこざか、ルールを知らない余所者(よそもの)が起こすいざこざだったりする。

だから、こんなバカ(さわ)ぎをする連中は誰であろうと一発でそういった連中にカテゴリーされちまう。

俺の恩人の住む町で、俺も嫌いじゃない町だからこそ、土地のルールはなるべく守っていたいんだ。

だってのに――――、

 

加齢臭(かれいしゅう)くさいオッサンの相手は()れちゃいるが、ケバブだか王様だか分かんねえ肉ダルマは専門外だ。

その上、犯罪者だってんだからもう訳が分かんねえ。

「フフ、いいじゃない。エルクだって(にぎ)やかな方が好きでしょ?」

スッカリ連中の空気に馴染(なじ)んじまったリーザは、この肉ダルマの脂臭(あぶらくさ)い絡みにも(なん)なく順応(じゅんのう)してみせた。

「そうじゃろ、そうじゃろ?リーザちゃんは本当に素直でイイ()じゃな。まったく、エルクが(うらや)ましいわい。」

そう言うとオッサンはどさくさに(まぎ)れてリーザの肩を()みはじめやがった。

リーザは普段と変わらない笑顔でそれを許しちゃいるが、俺はそれが無性(むしょう)にイラついた。

「おい、オッサンあんま調子くれてんじゃねえぞ?」

自分よりも二回りもデカい大男の胸座(むなぐら)(つか)み、リーザから無理やり引き()がした。

「その汚ねえ手でリーザに触んじゃねえよ。」

「おいおい、なんじゃなんじゃ。セコイ奴じゃな。ちぃっとぐらいイイじゃろ。リーザちゃんはワシら皆のオアシスなんじゃから。」

途端(とたん)に、一方的に絡んできたはずのオッサンが一変して悲鳴にも聞こえる軟弱(なんじゃく)な声で俺を非難(ひなん)し始める。

 

シルバーノアに乗るまでガラクタを売って生計(せいけい)を立てていただけあって、その演技力は中々(なかなか)に上手い。

何も知らない周りの人間からすれば、まるで俺が非力(ひりき)な中年に暴行(ぼうこう)を働いているかのように見えなくもない。

まったく、クソッタレだ。

「エルク、気に掛けてくれてありがとう。でも、チョンガラさんに悪気はないんだし。…ね?」

「ほれほれ、リーザちゃんもこう言っとるんじゃ。ここは一つ穏便(おんびん)に済まそうじゃないか。」

このオッサン、出身が治安(ちあん)の悪い国だからか。手荒(てあら)(あつ)われるのに慣れてやがる。手加減(てかげん)しているとはいえ、結構(けっこう)きつく()()げてるのに余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)でゴタクを並べやがる。

だからこそ、今のうちにキチンと(しつ)けとかなきゃいけねえんだ。

 

この年頃(タイプ)のオッサンは大体が猿みたいな根性をしていやがる。一度「調子に乗っても大丈夫だ」と思わせたらその面倒臭(めんどうくさ)さは延々(えんえん)と付きまとってくるんだ。

「許す度量(どりょう)も大人の男の魅力(みりょく)じゃぞい?」

こんなことを言い始めたらレッドサインだ。

事あるごとにのらりくらり言い訳をしながらリーザにちょっかいを出すに決まってるんだ。

俺は周囲の目も気にせず、さらに締め上げ、さらにキツク(にら)みつける。

「お…、おうううぅ…。こりゃ、さすがにキツイぞい。死んでしまうかもしれん…。」

冗談(じょうだん)が言えてる内はまだまだ俺を()めてる証拠(しょうこ)だ。

 

すると、背後からニョキリと俺の耳を()()る腕が()びてきた。

「イテテテ。」

「こら、エルク。やり過ぎだってば。」

女だてらに山育ちの彼女の力は俺の耳を()れあがらせるには十分だった。

「そんな調子だとみんなと上手くやっていけないよ?私、嫌よ。毎回こんなことしなきゃいけないなんて。」

(まゆ)()()げ、彼女は(なか)ば本気で怒っていた。

「……ワ、悪かったよ。」

……言ってみて気付く。

これじゃ、どっちが躾けられてるのか分からないじゃないか。

 

(つる)()げから解放されたケバブは「ぜいぜい」と大袈裟(おおげさ)に息を()き、自分が「弱者」であることをこれでもかというくらいにアピールしてみせる。

「バ、バカモン。年寄りは大事にするのが世界共通の法律じゃろうが。この犯罪者め。」

「……犯罪者はテメエらだろうがよ。」

アークほどじゃないが、このオッサンの首にもそれなりの賞金が()けられてる。一般人なら10年は楽できるくらいの大金だ。

こんなの、そこら辺のオッサンとなんも変わんねえってのに……。世の中、金の流れってのは時々あからさまに間違った所に()まりやがるからいけ好かねえ。

 

納得(なっとく)いかねえ(つな)がりで言うならもう一つある。

今や俺も立派(りっぱ)な「アーク一味(はんざいしゃ)」だってのに、ロマリア勢力(せいりょく)は何を考えてやがんのか。(いま)だに俺たちを「お(たず)ね者」にするつもりはないらしい。

別に犯罪者になりたい訳じゃない。ただ、そうなると気分は露店(ろてん)でグルグル回ってるだけの肉の(かたまり)以下の扱いだ。

納得いく訳ねえだろ?

……まあ、そのお(かげ)で今でもギルドから仕事を楽に回してもらえてはいるんだけど。

 

 

「それにしても、この恰好(かっこう)はやっぱりワシの(しょう)に合わんのう。」

今回の依頼主からの要望で、俺たちは「富裕層(ふゆうそう)」という肩書きに不自然のない恰好をしなきゃならなかった。

俺もケバブも(のり)()いた服に身を包み、上から下までそれなりに見栄(みば)えする()()ちに仕上げてきた。

これにもそれなりの金はかかっちゃいるが、差し引いて十分な元が取れる報酬(ほうしゅう)であるだけに文句(もんく)も言えなかった。

 

もちろんケバブにはヘモジーの『変身』も掛けてある。

『変身』する姿形はヘモジーの気分次第(しだい)らしく―――ある程度(ていど)の注文はできるらしいが、いかんせん、ヘモジーだけに主人の期待(きたい)(こた)えるってのは(まれ)なことらしい―――、今回はこのオッサンの代名詞のような贅肉は残ったが、もう一つの野獣みてえな(ひげ)はなくなって、いかにも富豪(ふごう)クセェちょび髭に(ととの)えられていた。

それに、(はだ)の色や顔のパーツをアルディア人に寄せたからか。パッと見、ガルアーノに見えなくもない。

見る人間が見たなら、物騒(ぶっそう)同業者(ネズミ)を呼び寄せる”チーズ”になりかねない。

まあ、そうなったらそうなったで、オッサンを見捨てりゃいいだけの話なんだが。むしろそうなってくれた方が俺としては気分がスッとするんだけどな。

 

「リーザちゃんは見違えるくらいにキレイじゃがの。」

「そうですか?私、変じゃないですか?」

彼女は着ているドレスの(すそ)()まんで左右に振りながら自分の身形(みなり)を改めて確認していた。

 

俺とリーザに関しては『変身』を掛けていない。

俺は「エルク」でないと仕事を貰えないから。そう言うとリーザは「じゃあ私も」と言って(ゆず)らなかったんだ。

その(かわ)り、リーザには特別メニューを用意した。これもリーザ本人と…、ケバブの強い希望があったからなんだが。

それでも俺はそれなりに満足している。

美容院で髪にパーマをあて、化粧(けしょう)もプロに頼み、金髪を邪魔しない程度に色鮮(いろあざ)やかな緑色で膝丈(ひざたけ)のドレスを着た彼女は、(あた)えれば与えるだけ(みが)きが掛かっていくお姫様のように見えた。

「……」

……俺の『声』を聞いたのか。彼女は俺をジッと見ていた。

「……なんだよ。」

そりゃあ、俺だって言えるもんならハッキリと言ってやりてえよ。言ってやりてえけど――――、

「ハア、本当になってないのう。これじゃあ、二人の子どもの顔を(おが)むのはまだまだ先の話になりそうじゃの。」

「……いい度胸(どきょう)してんじゃねえか。」

いつか、「エルク様」としか呼べねえ体にしてやるよ。

 

 

「ここが依頼のあったお店?」

やって来たのは宝石店ブリリアント、インディゴス支店。

ブリリアントは世界でも有数の規模(きぼ)(ほこ)る流通ルートと、それに見合った顧客(こきゃく)(かか)える一流宝石店だ。

出入りする客はド派手(はで)でいけ好かない恰好の奴から馴染(なじ)みのある服装(ふくそう)の奴までいる。

富豪連中を抱え込むようなドエライ物を扱う一方で、一般市民でも十分に手の出せる価格の商品を(そろ)え、客層(きゃくそう)盤石(ばんじゃく)(あつ)みを持たせるのがブリリアントのやり方で、「希望の光で()たされた世界」ってのが彼らのスローガンらしい。

 

だけど、「宝石店」に(えん)のない、そもそもキラキラしたものが苦手な俺には中に入るのにちょっとした勇気が()った。

「手、(つな)いでてあげようか?」

「……」

リーザにしては珍しい冷やかし方をする。……コイツらの影響(えいきょう)じゃねえだろうな。

(となり)でソワソワしっぱなしのオッサンを見上げると、オッサンは今にも(よだれ)()らすんじゃないかっていうくらい白い歯―――『変身』前は並びの悪い黄ばんだ色をしてるくせに―――を()()しにして、あからさまに興奮(こうふん)していた。

「お前さんが入らんのならワシが先に入っとくぞい。」

ズイと前に進み出るオッサンの(えり)を掴み、俺はまんまと乗せられたような形で店内に入る。

 

「ギルドから依頼を受けたエルクってもんなんだけど。」

中の店員に声を掛けると、情報統制(じょうほうとうせい)がキチンとしているようで一発で話が通すことができた。

(うけたまわ)っております。すぐに責任者を呼びますので少々お待ちを。」

従業員にあらゆる教育を(ほどこ)しているという面もブリリアントの強みだった。顧客の趣味趣向(しゅみしゅこう)を素早く理解し、()()()()()()()()()()()()()、まさに悪魔のような連中だ。

……やっぱり性に合わねえな。

ショーケースの中身にも(おと)らずキラキラと光るシャンデリアに見下ろされ、俺は半ばウンザリとした気分で店内を見回していた。

 

数分後、長身でモデルみたいなスタイルをした金髪の女が俺たちに近付いてきた。

「アナタがエルクね。私がこの支店の店長を(つと)めるカリエル・ポシェットよ。カリーナでいいわ。」

パリッとしたスーツで身を(かた)めるその女は、まるで胸に勲章(くんしょう)をぶら下げる将校(しょうこう)かなにかのような威厳(いげん)(かも)し出していた。

……その割に人当(ひとあ)たりのいい(しゃべ)り方をしやがる。

これも「教育」の一環(いっかん)ってやつか?

「それで、何か感想はあるかしら。」

「んだよ、いきなり。…感想って何の。」

「もちろん、お店のよ。キレイ、汚い。購買意欲(こうばいいよく)()く、湧かない。もしくは泥棒につけ込まれそうな穴があるとか、ないとか。何でもいいのだけれど。」

……コイツやっぱり、初めっから俺のことを試しにかかってきてやがったんだ。俺がこんなガキ(なり)をしてるから。

「……別に。割とイイ趣味してんじゃねえか?」

「何が?」

「アンタの香水だよ。」

俺は爽快感(そうかいかん)のあるミントの匂いが割と好きだった。

 

「…フフフ、ごめんなさい。アナタがどんな人か知りたかったのよ。嫌なヤツとは一緒(いっしょ)に仕事をしたくないじゃない?」

カリーナは改めて自己紹介をし、気さくに握手(あくしゅ)()わすと、早速(さっそく)本題に入った。

どうやら俺が店の空気に馴染んでないのも見破(みやぶ)られているらしい。

「警告があったのよ。」

好感のもてる顔をするカリーナが、わざと眉間(みけん)(しわ)をつくり忌々(いまいま)しげな表情をしながら続けた。

「誰から。」

「…ルージュって聞いたことあるでしょ?」

「あ?ああ、あの女泥棒だろ?」

怪盗(かいとう)”ルージュ”は数年前からアルディア各地に現れるようになった女泥棒だ。

「怪盗」なんてキザったらしい肩書きを持っている割にやることは乱暴で、大方が力にものをいわせて(うば)っていくスタイルの「強盗(ごうとう)」だ。

そのギャップのせいか。はたまたその女の容姿(スタイル)が良いからか。

(ねら)われることに恐怖を(おぼ)える金持ち連中がいる一方で、関係ないアルディア市民の間では結構な人気を勝ち取っている。

警察が新聞を見ながら歯軋(はぎし)りしている姿もよく見かける。

とにかく、色んな意味で人気の犯罪者(おんな)だ。

「それで、ソイツは何て言ってんだ?」

 

――――黒い月の(のぼ)る夜、妖艶(ようえん)乙女(おとめ)(ほお)(ぬぐ)奸賊(かんぞく)あり

                   ルージュ・オーネット――――

 

「…ケッ、こういうキザな野郎にはブタ箱の飯を腹一杯食わせてやりたくなるぜ。」

「同感ね。私だってこんなナルシストのせいで100億の(そん)でも出した日には、首を吊って死ぬしかなくなるもの。」

「……100億すんのか?」

新聞にも大々的(だいだいてき)に告知されていた宝石”魔女の涙”。

文面を見るに、それが今回のターゲットらしいことは分かった。確かに大きめの石だなとも思っていた。

それでも、それでも、結局(けっきょく)はただの石っころだろ?

「100億は鑑定(かんてい)価格よ。実際はオークションに掛けられるからそれ以上の値がつくでしょうね。」

 

……俺は、人生で初めて日常会話に眩暈(めまい)を覚えた。

 

こんなニワトリの卵みたいな石っころ一つで小さな町なら丸々買えちまうんだぜ?どうかしてるとしか言いようがねえ。

だいたい、(しずく)の形をしてるから「涙」なんてネーミングは安易(あんい)過ぎだろ。こんなデッカイ涙を流す魔女(おんな)はどんだけデケエんだよ。

 

「……一つ疑問なんだけどよ、なんでインディゴスなんだ?普通そういうデカいイベントってのはプロディアスが定番だろ?」

この手の話しに(うと)いことを白状(はくじょう)した俺に、カリーナは()()()()()()()()()()懇切丁寧(こんせつていねい)に教えてくれた。

「これはお披露目会(おひろめかい)みたいなものなのよ。私たちの間では目玉商品は一度、各地にいるお得意様に実際に見てもらってオークションに(そな)えてもらうの。()()()()()()()()()()()()()()。」

魚市場さながら。紙切れを握りしめたブタが、ブヒブヒと値段を言い合っている光景が容易(ようい)に想像できた。

「この卵一つでアルディアの何パーセントの経済が動いてんだろうな。」

俺が正しく理解している様子を見たカリーナは満足気に笑った。

「事の重要性が分かってもらえたかしら?」

 

じゃあ仕事の話を進めようかというところで、今度は別の方向から無遠慮(ぶえんりょ)なケバブが横槍を入れてきた。

「それで、お嬢さん。現物はいつになったら(おが)ませてくれるんじゃ?」

店内をこれでもかというくらいに怪しく物色(ぶっしょく)して回っていたお肉様は、その背後にシッカリと数人の警備員を引き連れながら言った。

「……この人もアナタの仲間だったの?」

見た目はガルアーノ(クラス)有識者(ゆうしきしゃ)風体(ふうてい)をしちゃいるが、生来(せいらい)の性分はどうにも容姿だけじゃカバーできないらしい。カリーナは盗賊を見るような目付きで俺に(たず)ねてきた。

「その現実が、この世で最も重い罪だと思うけどな。」

俺もそれに(はげ)しく同意する。

ともすれば、カリーナはここ最近で唯一(ゆいいつ)の味方なんじゃねえか?

彼女への好感度は俺の中でうなぎ登りだった。

 

「それよりもじゃ、ホレ、ホレ、ワシの別嬪(べっぴん)さんはまだかいの?」

(にく)まれ口も言われ慣れているらしい「王様」はどこ吹く風といった顔で彼女に催促(さいそく)し続けた。カリーナもカリーナで増々(ますます)オッサンへの不信感を高めていた。

「……大丈夫なんでしょうね?」

まったく、イイ顔をしやがる。

商売人にあるまじき()嫌悪感(けんおかん)を張り付ける彼女の表情に、俺は金を払いたい気分になった。

「ああ。アンタの心配してる胡散臭(うさんくさ)さはともかく、鈍臭(どんくさ)いオッサンだからまず(がい)はねえよ。」

「ガハハハ、真の大物は”動かざること山の(ごと)し”と言うからのう。」

「……聞いたことねえよ。そんな言葉。」

()めてもねえしな。

 

実際に”魔女の涙(ターゲット)”を目にすると、なるほど確かに盗賊連中もついつい(のど)から手が出てしまうくらいに高価な代物(しろもの)らしいことが素人(しろうと)の俺にも理解できた。

「ほほう。カットといい、大きさといい、確かに100億は(くだ)らんな。」

胡散臭い元商人のそれらしい言葉にも、今回ばかりは共感することができた。

 

角度によって違った表情を見せる七色の光はどこか危険な臭いを(ただ)わせた。また、特定の角度、光の当て方で七色の光が途切(とぎ)れ、その高すぎる透明度(とうめいど)のために、まるで魔法を掛けたかのように姿を消してしまう。

こんな(みょう)ちきりんな宝石は見たことがない。

そして、こういう(あや)しい物だからこそ色んなブタを呼び寄せちまうんだ。

ショーケースに(かじ)り付く国籍不明(こくせきふめい)の王様を(なが)めながら俺はこの世の法則を改めて理解した。

 

「それでよ、警備ってのはどれくらい着けてんだ?」

常駐(じょうちゅう)覆面(ふくめん)、カメラ……、店内を見渡し、俺の目でザッと判別(はんべつ)できるだけでもかなりのレベルの監視体制が()かれているのが分かった。

「常駐の警備員50人が店内、臨時(りんじ)の100人が店の周囲を見回ってるわ。各部屋ごとにカメラを10台以上、店の外の要所々々(ようしょようしょ)にもいくつか設置(せっち)しているわ。赤外線、トラップ諸々(もろもろ)詳細(しょうさい)なデータが必要ならいつでも言って。あと、常駐の警備員は全員、一人で2、3人の暴漢(ぼうかん)を相手にできるくらいの戦闘技術を備えているわ。」

「うへえ、店の外にまで伸ばしてんのかよ。」

「それだけの事だって言ってるでしょ?」

全く容赦(ようしゃ)がねえというか。限度を知らねえというか。

それがアルディア人の気質らしく、ヤバい物を扱う連中ってのは善人だろうが悪人だろうがその性質も()てくるもんなんだな。

「その上、警察(サツ)までいんのかよ。」

カリーナの情報から()れている厄介者(やっかいもの)たち―――カリーナからすれば俺たちも十分厄介者なのかもしれないが―――を見遣(みや)りながら、マフィアばりに武力を備えたブリリアント経営者に皮肉(ひにく)を込めて言った。

「本当は店の評判(ひょうばん)のために呼びたくはなかったんだけどね。」

 

警察は俺たち賞金稼ぎと違って、(おおむ)ね依頼者の希望を聞き届けない。(やと)われの俺たちが依頼者のご機嫌(きげん)をとるのも仕事の一つにしている一方で、警察は国の行政機関(ぎょうせいきかん)

()()()()が守られればそれでいい。なんて考えなもんだから、「穏便(おんびん)に」とか「内々(ないない)に」といった裏方(うらかた)(てっ)することはほとんどない。

警察姿で堂々(どうどう)と店内を彷徨(うろつ)き、必要があれば客に詰問(きつもん)することもある。

「でもよ、こんだけ厳重(げんじゅう)鳥籠(とりかご)の中にその怪盗ってのは本当に現れるのかね。」

「違うわ。怪盗は警告してるだけ。奪いにくるのは別の(ぞく)よ。ちゃんと聞いてた?」

「どっちでも大して変わんねえよ。」

悪いことするヤツは「悪いヤツ」。肩書きなんてそんなもんで十分だ。

「要はアンタの大事な大事な金の卵を守りゃいいんだろ?」

俺の粗雑(ぞんざい)な受け答えと、胡散臭い行動をし続けるケバブがカリーナの眉間にもう2、3本の皺を増やした。

「本当に大丈夫?腕利(うでき)きだって聞いてたのに、だんだん不安になってきたわ。」

賞金稼ぎってのは大抵(たいてい)そんなもんだ。(はな)っから信頼を得られるような人間ならもっと()(とう)な人生を送ってる。

俺たちは「金と依頼と依頼人を護る」。それしか能のないヤサグレ者の集まりなんだ。

それを理解してもらう所から始まるんだ。

「まあ、なるようにしかなんねえさ。()()えずは俺も店ん中、物色して回るけど(かま)わねえよな?」

「ええ、そりゃ当然そうしてもらいたいのだけれど。くれぐれもお客様に迷惑をかけないようにしてね。」

「分かってるよ。」

俺とリーザはチョンガラを……、あ。

「そうそう。もしもそのオッサンが何か仕出かしたら容赦なくしょっ引いちまっていいから。」

そう言い残して、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を開始した。




※ケバブ
中東とその周辺国(トルコやインド、アルメニアなど)に根付く郷土料理。
本来は肉、魚、野菜をローストした料理全般を指すらしいのですが、日本で馴染みのあるケバブはその中の「シシカバブ(インド)」と「ドネルケバブ(トルコ)」らしいです。


「シシカバブ」は串焼きにした肉、日本でいう「焼き鳥」みたいなものです。
そして今回、チョンガラへの悪口として登場した「ドネルケバブ」は、ヨーグルト等で味付けした肉をスライスして積み重ね、串刺ししたものを回転させ、グリルで焼きながら薄くスライスする料理です。
一般に鶏肉、羊肉を使うみたいですね。

※ブリリアント
宝石をカットする技法の一つです。ベーゴマのような形状の、一般的なダイヤモンドの形を想像してもらえると分かりやすいと思います。
ベルギーの職人がダイヤモンドの反射率、屈折率を考慮してあみ出したカットの方法らしいですよ。

※『ヘモジー化』→『変身』
モンスター「ヘモジー」には「ヘモジー化」という特殊能力があります。(チョンガラはこれを召喚獣として一匹飼っています)
掛けられた対象はヘモジーの姿に変えられ、戦闘意欲(やる気)を失くしてしまうという(装備まで”拳”に変えてしまう)厄介な能力です。
アークⅠではこの能力で変装するというシーンがありました。
だいぶ強引な変更ですが、この話の中では「ヘモジー」限定ではなく、その容姿を自在に変えられる『変身』という能力に変えたいと思います。
ただし、『変身中』は諸々の能力が低下しているという効果は残しておこうと思います。(もちろん、やる気もね。)

原作で『変身』といえばオドン(チョンガラの召喚獣)ですが、これは自分自身が変身するタイプで、ヘモジーのは他人を『変身』させるタイプなのだという認識でお願いします。

※ちょっとしたネタバレになりますが
今回、本編よりも先の話を書くことになりました。
原作を知らない方にとっては「え?チョンガラとかアークってエルクの仲間になるの?」とかネタバレになってしまいますが、自分自身へのテコ入れのために()()()()書かせてもらいました(笑)
どうかご容赦くださいm(__)m

ちなみに、今回のお話は原作のギルドのお仕事を元に書かせてもらっています。
また、原作では実現できないカップリングになっていますのでその辺も楽しんでいただければと思います。
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