聖櫃に抱かれた子どもたち+   作:佐伯寿和2

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この回、一部不適切な表現を使用しておりますこと、お詫び申し上げます。


それは、アナタの心です!! その三

店に戻ってくると、お約束のオッサンが俺たちを出迎えた。

「テメエはもっと大人しくしてるってことができねえのか?」

草臥(くたび)れたロングコートとボルサリーノ。いかにも「熟練(じゅくれん)の警部ですよ」というような厳(いか)つい顔のオッサンは、見慣(みな)れたを通り越して見飽(みあ)きちまった。

それなのに、今はなんだかその顔を見て安心してしまう自分がいる。

「オイオイ。そりゃあ、あんまりな言い草じゃねえか?俺たちゃオッサンの仕事を楽にしてやろうってんだぜ?オッサンこそテメエの家で家族サービスの一つでもしてやったらどうなんだよ。そうじゃなくても”父親”ってのは肩身(かたみ)が狭(せま)いんだろ?」

オッサンの連れてきた制服姿の部下連中は「またいつものが始まったぜ」と呆(あき)れつつもニヤニヤと見守り、お決まりの小芝居(こしばい)を楽しもうとしていた。

その期待(きたい)に応(こた)えるでもなく、俺たちは少しずつヒートアップしていく。

 

「ハッ。ガキが一丁前(いっちょうまえ)に他人様(ひとさま)の家庭に口出しか?調子に乗るんじゃねえよ。テメエこそ、どこぞで女の一人でも抱いて社会勉強でもしてくるんだな。なんだったら俺がトビッキリのを一人紹介してやってもいいんだぜ?」

「ア?」

「皮も剥(む)けてねえガキはお呼びじゃねえって言ってんだよ。」

「アァ?!」

下拵(したごしら)えは十分で、これからがメインディッシュ――――

「そこまでに願います!」

……というところで、凛(りん)と響(ひび)き渡(わた)る透(す)き通(とお)った声が俺たちの間に割って入ってきた。

 

「お二人とも、ここがブリリアントだということをお忘れじゃありませんか?これ以上、お客様の前で無作法(ぶさほう)を働くと言うのであれば相応(そうおう)の対処(たいしょ)をさせていただきますが?」

金髪の支店長が目付きを鋭(するど)くすると、同じフロアにいる警備員(けいびいん)がゾロゾロと集まってきた。

一方(いっぽう)、オッサンの連れは依然(いぜん)として傍観者(ぼうかんしゃ)を決め込み、新しい展開(てんかい)を期待(きたい)してカリーナの応援(おうえん)に回っていた。

「今、お嬢ちゃんはお呼びじゃないんだがな。」

若い娘に水を差(さ)されたことで、オッサンの機嫌(きげん)も三割増しで悪くなっている。

「お言葉をそのまま返すようで恐縮(きょうしゅく)ですが、」

だがそこは「アルディア生まれの女」と言ったところか。カリーナもまたチ(・)ン(・)ピ(・)ラ(・)を相手に一歩も引く様子を見せない。

「私(わたくし)どもは”命のない石”を愛(め)でられる大人の方々を相手に商(あきな)いをしております。顔を合わせれば、男だ女だと子どものようなケンカをする方はどうぞ最寄(もよ)りの公園でも売春街(ばいしゅんがい)でも好きな所へいらしてみてはいかがですか?なんでしたら私がお二方のお望みの場所までお送りいたします。」

金髪の支店長はあくまで品のある所作(しょさ)をキープし、俺たちに出ていくように促(うなが)すが、漂(ただよ)うオーラは完全に躾(しつけ)のなってない犬への怒りに満ちていた。

 

「お嬢ちゃんよ、公務(こうむ)執行(しっこう)妨害(ぼうがい)って知ってるか?悪いことは言わねえ。俺のすることに余計(よけい)な口を挟(はさ)むんじゃねえよ。」

オッサンの口調(くちょう)は増々(ますます)チンピラ感が強まり、店内の緊張(きんちょう)はカリーナの望まぬ方へと高まっていく。

「リゼッティ警部。警部は私(わたくし)が伊達(だて)でイ(・)ン(・)デ(・)ィ(・)ゴ(・)ス(・)支(・)店(・)長(・)を任されているとお思いですか?」

それでもカリーナの姿勢(しせい)は変わらない。

 

残っている客は所詮(しょせん)「庶民(しょみん)」クラス。彼女のために落としていく金も微々(びび)たるもの。けれど、噂(うわさ)や評判(ひょうばん)ってのは人を選ばない。

特にこういう特殊(とくしゅ)な商売から生れる噂は、それこそ生(い)きてる魚ようにブクブクと太っては背びれ、尾ひれがピョコピョコと生(は)えやがる。

もしもここでオッサンの言われるままにスゴスゴと引き下がれば、彼女の「支店長」という立場や、「ブリリアント」という世界ブランドの名に泥(どろ)を塗(ぬ)るかもしれない。

噂ってのは商売人にとって「一攫千金(いっかくせんきん)のネタ」である一方で、「万能包丁(きょうき)」でもある。

カリーナの一貫(いっかん)した「店のため」という毅然(きぜん)とした態度(たいど)は必然的なものだった。

 

……そして、メンツも何も持っちゃいない俺はこの時点で部外者になりつつあった。

 

「違うのかい?俺はインディゴスで、お嬢ちゃんのみたいにヒョロっちい女が仕切ってる大(・)企(・)業(・)様(・)を他に知らんのだがね。」

インディゴスというか、アルディアで女が「責任者(せきにんしゃ)」になるリスクは店を構(かま)える人間なら誰もが知っている。

縄張(なわば)り内(ない)の金の流れに目を光らせるマフィアと口を利(き)くのは「男じゃないと務(つと)まらない」ってのがアルディアでの暗黙(あんもく)の了解になってるからだ。

言い方は悪いが、女は男に比(くら)べて…色々と弱い。彼らの手籠(てご)めにされるのが関(せき)の山(やま)。そんな古臭い考え方がアルディアには今でも枯(か)れずに生き残ってる。

「ただの飾(かざ)りだよ。”お嬢ちゃん”なんてのは。そのガラスケースの中身と何(なん)も変わらねえ。えぇ?違うかい?」

それを根絶(ねだ)やしにすべき警察までがこんなことを言ってるんだからなくならねえのも仕様(しょう)がねえ。

 

「果(は)たして、そうでしょうか?」

それでもなお、「飾り」とまで罵(ののし)られたインディゴス支店長は理性的に、徹底的(てっていてき)に、加齢臭(かれいしゅう)漂(ただ)う中年思想(ちゅうねんしそう)を完膚(かんぷ)なきまでに打ち砕(くだ)こうとしていた。

「警部は今現在、アルディア全土に在籍(ざいせき)するマフィアの組織図の全てをご存知(ぞんじ)ですか?」

「……いいや、全部は知らねえな。知りたいとも思わねえがな。」

というか、警察でも把握(はあく)し切れてない情報を宝石商が握(にぎ)っていることに「事件」の臭いしかしないんだが…。そんで、そういうことをオッサンに言っちまってイイもんなのか?

「では、ここ数年でその構成員(こうせいいん)に変化が現れ始めていることは?」

「……変化なんざ年中起きてるさ。ゴミどもは食うものも住む場所も選ばねえからな。ゴキブリがネズミになってたってそう驚くことじゃねえよ。」

取(と)り敢(あ)えずは不問(ふもん)にするつもりなのか。オッサンはカリーナのボロに突っ込まなかった。

そして、ここまで言われればオッサンも彼女の言わんとすることに気付いたらしい。「負け戦」というような感じの、なあなあな受け答えをし始めた。

「女性が、増えてるんですよ。今では彼らの幹部(かんぶ)の5人に1人が女性です。」

「へえ、そうなのかい。連中も、葉っぱのキメ過ぎで脳みそまで便所(べんじょ)に流しちまったみてえだな。」

すると、唐突(とうとつ)に革手袋(かわてぶくろ)を着け始めたかと思いきや、「負け戦」をダラダラと引(ひ)き延(の)ばそうとするオッサンに対しカリーナはとんでもないことを言いやがった。

「ここで私と手合せしてみますか?」

「……あ?」

「ものの数秒ですよ。お望みとあらば、ですが。」

 

……コイツはとんだ女狐(めぎつね)だぜ。

さっきまで「支店長」だった奴が、表情はそのままなのに、みるみる間(ま)に「戦闘員」になっていきやがる。

みるみる間に隙(すき)がなくなりやがる。

その目付きはまるで、音も立てずに一瞬で獲物(えもの)を狩るフクロウみたいだ。

一般人にはただ睨(にら)み合(あ)ってるようにしか見えねえだろうけど―――いいや、むしろそれが狙(ねら)いなんじゃねえかとも思えてくる―――、……これは、暗殺術の一種か?

攻撃の姿勢を見せる手足が異様な気配を放ちやがる。

「……やめとけ。それこそ店の評判(ひょうばん)を悪くするぜ?」

「私は負けて得(え)る悪い評判よりも、勝って得る悪い評判を選んでいるだけですよ。どんなことでも負けるのは気分が悪い。警部(アナタ)なら理解できるのではなくて?」

いよいよカリーナの気配が限界に達(たっ)し始めていた。

「……分かった。分かったからその辛気(しんき)臭(くせ)え目付きを何とかしろ。仕事する気まで失(う)せちまう。」

……冗談(じょうだん)ではなく、これまで培(つちか)ってきた経験がオッサンの警察生命を救(すく)った瞬間だった。

 

カリーナのそれは、シュウには遠く及(およ)ばないにしても、俺が『力』無しに挑(いど)めば返(かえ)り討(う)ちに遭(あ)っちまうようなレベルだ。

それも含(ふく)めての「支店長」なのだとしたら、ブリリアントってのは次世代(じせだい)のマフィアの姿なんじゃねえかと思えてくる。

「今の時代、女も強くなっていってるんですよ。警部。」

それくらい、宝石商カリーナの力は異常だった。

「ですが、それは必ずしも男が頼(たよ)りないからではありません。女たちはただ、より必死に生きる道を選び始めているだけです。暴力が当たり前のように横行(おうこう)するこの生きにくい世の中で。護るべきものを護るためには、どう闘(たたか)うべきなのか。」

臨戦態勢(りんせんたいせい)を解(と)き、革手袋を外(はず)しながら、カリーナは店内を哀愁(あいしゅう)漂う目付きで見回した。

「宝石を身に付けられるだけの幸せを手にするために。」

 

カリーナは店内にいる客に非礼(ひれい)を詫(わ)びると笑顔を浮かべ、

「ただただ、お客様のより良い幸せのために闘ったことをお許しください。」

などと政治家臭いセリフで締(し)めくくった。

すると、極度(きょくど)の緊張感から解放されたからか。まさに披露(ひろう)演説(えんぜつ)さながら、店内からカリーナへの称賛(しょうさん)の声と拍手(はくしゅ)が沸(わ)いた。

後半はかなり暴力的な脅(おど)しになっていたが、アルディアの人間にとってはそれが逆に受けたらしく、そこにはインディゴスとは思えない「活気」を感じさせる光景が広がっていた。

その中に、チラホラとオッサンの部下も混(ま)じっているとくれば、オッサンは溜(た)め息(いき)を吐(つ)かざる負(お)えない。

「……最後に一つ教えてくれよ。お嬢ちゃんが今一番大事にしてるもんはなんなんだい?」

「それはもちろん、」

オッサンの、ちょっと卑怯(ひきょう)な質問にもカリーナは動じず、家族を護り続ける母親の笑顔を浮かべながら答えた。

「アナタの幸せですよ。」

苦笑しながら、部下に「極力(きょくりょく)、カリーナの要求(ようきゅう)の通り」警備(けいび)するよう言いつけると、オッサンは数人の部下を連れて店を出て行った。

「ああ、それとな――――、」

俺は、オッサンが笑っているところを初めて見た。

「今後、女には気を付けることにするよ。貴重(きちょう)な情報をどうも。」

 

 

 

「さて、」

店内の異様な興奮(こうふん)も落ち着き始めた頃、カリーナは俺に詰(つ)め寄(よ)りながら商売顔を崩(くず)さず静かに言った。

「賞金稼ぎ。お前はこっちに来なさい。」

「お、おう。」

バカでも分かる……。

本気で怒ってる。

 

バックヤードに入るなり、カリーナの腕が俺の顔を掠(かす)め、壁に平手(ひらて)を突いた。

「お前は、私の話を聞いていなかったのかしら。」

「は?」

その剣幕(けんまく)を前に覚えがあるとかないとか、それどころではなく…、完全にビビッちまっていた。

「私は再三(さいさん)、これは”100億の仕事”だと言ったはずよね。違ったかしら?」

「い、言ったな。確かに。」

確かに言ったけど、それがなんなんだよ?……とは言えなかった。

「では、さっきのあれは何?アレはお前の中で契約(けいやく)違反(いはん)とは言わないの?」

確かに、俺たちの遣(や)り取(と)りは宝石店なんて場所にはそぐわないものだった。あのまま続けてたら、母親について来ていた子どもたちは泣き出していたかもしれない。

『魔女の涙』が狙われているという噂の発端(ほったん)になっていたかもしれない。

そうなれば、諸々(もろもろ)の責任をとるのは当然(とうぜん)カリーナたちだ。

「お前は雇(やと)い主(ぬし)の言葉も理解せずに仕事をするほどバカなの?」

ギルドから仕事を請(う)け負(お)った時、俺たちの素性(すじょう)から調査方法に至(いた)るまでの全てにおいて「内々(ないない)に片付ける」ようにとの特記事項(とっきじこう)があった。

商品の質から店内の安全までが一級品を謳(うた)う超(・)一(・)流(・)企(・)業(・)ブリリアントが、たった一人の強盗(ごうとう)を相手に「賞金稼ぎ」なんて傭兵(ようへい)紛(まが)いのロクデナシの手を借りなきゃならないと知られれば、ブリリアントの「ブランド力」は確実に低迷(ていめい)する。

 

カリーナも本当は自分たちだけの手で解決したかったのだろう。だけど、状況(じょうきょう)が許してはくれなかったんだ。

今、この僅(わず)かな時間でさえカリーナにしてみれば気が気でないに違いない。

その責任感が、声と、さっきの態度(たいど)にありありと現れていた。

 

「この上、任務(にんむ)をしくじるようなことがあれば、お前の残りの人生を懸(か)けて償(つぐな)ってもらいます。覚悟(かくご)しておきなさい。」

「わ、悪かった。悪かったよ。つい、いつもの癖(くせ)でやっちまったんだ。」

オッサンが一方的に突っかかってきたとか。賞金稼ぎと警察ってのはそういう関係だとか。

中途半端(ちゅうとはんぱ)な言い訳が通じるような雰囲気(ふんいき)じゃなかった。口が裂(さ)けても言えねえ。

でも、それ以前に俺はすでに言葉を選び間違えていたことに気付いていなかった。

 

「……つい?」

「あ……」

気付いた時にはもう、遅かった……。

カリーナの表情は変わらない。化粧(けしょう)を崩さない、見られていることを意識した顔のまま、俺の額(ひたい)にソ(・)ッ(・)と(・)、頭突(ずつ)きをかました。

それが、ヤバいくらいに恐かった。

脱皮(だっぴ)したての白蛇(しろへび)に、静かに、静かに絞(し)め殺(ころ)されていくような身の毛もよだつ気分がした。

「エルク、お前は確かに腕の立つ賞金稼ぎなのかもしれない。でもね、お前が今立っている場所は幼稚園でも遊園地でもない。分かる?」

「お、おう。」

ビビり過ぎていちいち言葉が詰(つ)まっちまう。

「他人(ひと)の幸せと不幸せの生まれ続ける場所。お前の努力の数が他人(ひと)の幸不幸を決める。それが大人の世界。お分かり?私は宝石で、お前はその力でそれをつくっている。つ(・)く(・)っ(・)て(・)い(・)か(・)な(・)き(・)ゃ(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。それが大人の世界。お分かり?」

「わ、分かった。分かったよ。」

無性(むしょう)に情(なさ)けない気分になった。

なんで15にもなって、よりのもよってリーザとケバブの前で大(たい)して年もいってない女なんかに叱られなきゃいけねえんだ。

「二度はないわ。いいかしら?」

「お、おう。」

それでも、上司と部下のような関係はほぼ完璧(かんぺき)に組み上げられていた。

 

 

ふと、リーザを見遣(みや)ると、フロアに戻ろうとするカリーナを睨(にら)みつけていた。

「お、おい、リーザ。俺なら大丈夫だから。あんま変なことすんじゃねえぞ。」

「……」

慌てて止めに入ると彼女は物寂(ものさび)しげな表情で俺を見た。

「な、なんだよ。」

カリーナの余韻(よいん)が抜けず、リーザ相手にまで緊張していた。

すると――――、

 

「イイ女じゃのう。」

無遠慮(ぶえんりょ)に、さも当然だというように、ケバブが横槍を入れてきた。でも今はその無遠慮さに助けられたような…、そうでないような複雑(ふくざつ)な気持ちになっていた。

「どこが。いくら人の上に立つ人間だからって、あれはヤバ過ぎだろ。ケツの穴まで縮(ちぢ)み上(あ)がって一生出なくなるんじゃねえかって冷や冷やしたぜ。」

ああ、でもこんな下品(げひん)な会話ができる分、自然と気持ちは落ち着いていく。

やっぱり、キラキラ、ギスギスした人と空気ってのはどうも俺と相性(あいしょう)が良くない。

 

中年の王様はリーザの会話をぶった切ったまま自前(じまえ)の”女論(おんなろん)”を披露しつづけた。

「お前さんは本当に女心が分かっとらんのう。」

「あ?」

「さっきのあれはお前さんに下心があってやったことじゃぞ?」

「はあ?!」

前言撤回(ぜんげんてっかい)だ。やっぱり同じ中年でも「王様」ともなると考えがブッ飛んでやがる。

「どこをどう見たらそうなるんだよ。」

「そんなら聞くがのう、今お前さんはあの女をどう思っとる?」

そんなの当然、

「超が付くくらいおっかねえヤツだろ。」

女とかどうとか関係なしにな。

「その前は?」

「その前?」

妙(みょう)なことを聞きやがる。

でも……確か、俺の味方だと思ってたリーザまでがケバブの脂臭(あぶらくさ)い絡(から)みを認めてやがったから俺は気分が悪かったんだ。そこにアイツが現れて……、

「どうじゃ、気の合う女とか思っとったんじゃないか?」

「……どうだかな。」

あの時はまだ初対面だったし。第一、このオッサンを見て普通の人間なら警戒(けいかい)して当然だろ?俺は一般人の感覚を見て安心してただけだ。

「その後は?」

「ああ?まだ続くのかよ。」

「当たり前じゃろ。むしろそこが核心(かくしん)なんじゃからな。」

核心?

……ああ、なんか気分悪くなるようなこと言ってやがったな。「恋人」がどうのとか。「カワイイ」とかなんとか。

そんで、俺は……。

「ほれ、あの女に良いように転がされとる自分に気付いたか?」

これが?これがどう下心に繋(つな)がるってんだ。

「……じゃあよ、アンタの読みだとこの後はどうなるんだよ。」

「おいおい、いくらワシでも答えを丸々教えるような無粋(ぶすい)な真似(まね)はせんぞい。」

「ハッ、しょうもねえ。だったら最初っから変なこと言うんじゃねえよ。」

肩すかしというか、期待外れというか。

どうしてだか俺は答えが返ってこなかったことに安心していた。

 

それなのに……、

 

「まあ待て。”答えは”っちゅうとるじゃろうが。」

結局(けっきょく)、コイツはこういう奴なんだ。

と思いつつ、俺はなぜかオッサンの次の言葉を待っていた。

「リーザちゃんが睨んだ時、あの女が笑っとったのに気付いたか?」

「は?」

「計画通りっちゅうこっちゃ。」

「……それだけかよ?」

今度は少し苛立(いらだ)った。結局、どうしたいんだ!何も解決してねえじゃねえかよ。ったくどいつもこいつも!

「ガッハッハ、考えろ考えろ青二才。大人の世界は掘(ほ)れば掘るほどに奇々怪々(ききかいかい)じゃて。」

それってのはもう「大人」とか「女心」とかっていう一般人のレベルを飛び越してねえか?一種の「詐欺師(さぎし)」の域(いき)だろ。

「なあ、チョビ髭(ひげ)王さんよ。アンタは賢(かしこ)いんだろ?何のためにそんな面倒(めんどう)なことしてるのか教えてくれよ。」

「それを考えるのがいわゆる”大人の階段”ってやつ。いつだって考えるのを諦(あきら)めた方の負けってことよ。」

「どいつもこいつも勿体(もったい)付(つ)けやがって。クソッたれが。」

「それに、王子な。王子。」

……「王子」ってツラかよ。焦(こ)げまくった「玉子焼き」よりも酷(ひど)いツラしやがって。

 

「ほれ、想像するんじゃよ。逆にこっちからあの壁を崩(くず)した時、中にどれだけ濃厚(のうこう)な蜜(ハニー)が詰まっとるか。……ホレホレ、胸がキュンキュンしてくるじゃろう?」

「キュンキュンとか言うな。気持ち悪い。」

グッと自分の胸を押さえつけ、悦(えつ)に入(い)るオッサンの顔は本当に気持ち悪かった。

「まあ、お前さんがあれ位の女を理解するにはやっぱり社会勉強が足(た)りなさすぎるってことじゃな。」

どいつもこいつも社会勉強がどうのこうのって。ただ盛(さか)ってるだけじゃねえか。

……アホくさ。

この玉子焼きはともかく、さっきのカリーナを見てそんなクソみたいな想像できるわけねえだろ。考えられねえし、考えたくもねえ。

 

そして、そう思ってるのはやっぱり俺だけじゃなかったらしい。

「チョンガラさん。その話、そこまでにしてもらえません?男とか、女とか。あんまり聞きたくないです。」

このクソ焼き玉子、リーザまで巻き込みやがって。

おそらく、このゲス男(お)の深いところまで『聞いちまった』んだろう。あの寛容(かんよう)なリーザが、かなりご機嫌斜(なな)めな顔をしている。

「おお、こりゃワシとしたことが気が利かんですまんかった。ホレ、お前さんも謝(あやま)らんか。」

「ハ?なんで俺が巻(ま)き添(ぞ)えくってんだよ。」

「いいんか?ここで謝っとかんと事あるごとにあの小娘の話題が上げられるかもしれんぞい?」

 

……コイツ、もしかして、端(はな)からこ(・)う(・)な(・)る(・)のが目的でこんな話を持ち掛けてきやがったんじゃねえか?

この後、俺と彼女がギコチなくならねえように。……クソッたれが。

「……す、すまねえ。」

カリーナにどやされ、ケバブにも良いように振り回されて……。

ああ、ああ、どうせ俺はまだまだガキだよ。

 

……ああ、茶太郎が恋しいぜ。




※女論(おんなろん)
そんな言葉、ありません(笑)「女性論」なんて言葉を聞きますが、これも造語みたいです(学術的内容で使われる言葉……なのかな)。
それに、今回の「女論」はもっと世俗的な意味で使ってます。要は、男の語る「イイ女の必須項目!」みたいな。
女性の方々、もし気分を悪くさせてしまいましたら申し訳ありません。

※どやす
「激しく叱る」「怒る」「ぶつ」などの意味があります。
標準語かと思いきや、関西圏で使われる方言だそうな(笑)

※女性構成員が増えているマフィア屋さん
カリーナの情報はインディゴスに限らず、アルディア全土のもの。インディゴスではまだ男割合が圧倒的に多い。だからリゼッティが知らないのも無理のないこと……というオジサマへのフォローも忘れない私(笑)

……まあ、原作をやってる感じでは女の悪い人(黒アクラを除いてね)は一人も出てこなかったけどね(^_^;)
その感じは3以降から出てくるのかな。
私の書いてる「シャンテ」があんな感じだし、そんな世界観でもいいかなと思いました。
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