聖櫃に抱かれた子どもたち+   作:佐伯寿和2

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それは、アナタの心です!! その四(終)

――――「その晩」は俺たちが配備されるのを待っていたかのように訪れた。

 

「……来やがったな。」

夜もとっぷりと()()み、町が寝静(ねしず)まる中、仕掛(しか)けておいたトラップが作動して目が()める。

真っ黒な外の景色に不自然な明かりがパッと現れる。続けざまにもう一つ、照明弾が打ち上げられる。

…どうやら、真っ直ぐこっちに向かって来ているようだ。

その後は外に配備(はいび)された警備員たちの悲鳴(ひめい)犯人(ホシ)の動きを逐一(ちくいち)教えてくれた。

よほど自分の力に自信があるらしい。その後も進路(しんろ)を変えるはことなく、「100億」を目指して一直線にやって来る。

 

敵襲(てきしゅう)、敵襲!!」

そうして1分が()ったか経たないかの内に、爆音とサイレンと怒号(どごう)が同時に店の中を()(めぐ)った。

「まさか、ドンピシャでこの部屋にくるとはな。」

犯人(ホシ)の目標、「魔女の涙」のある2階の中央フロア。その横っ腹がド派手(はで)に爆破された。

もしかすると、爆弾は注意を引き付ける(おとり)かもしれない。

けれど、土煙(つちけむり)の上がる正面を見据(みす)えながら(あた)りへの警戒(けいかい)を強める俺を、俺の5年で(つちか)った経験と(かん)をバカにするかのように小汚(こきたね)ぇジジイは真正面から現れた。

「おうおう、こんな夜更(よふ)けまで働くたあ甲斐性(かいしょう)のねえ男どもだ!カカアやガキどもが家で泣いてるんじゃねえのか?!」

ホームレスさながらのボロボロのコートに禿()()らかした頭。歯茎(はぐき)()()しにして笑う姿はゾンビーかゴブリンにしか見えない。

「……アイツァ」

見たことがある。確かギルドの指名手配犯だ。名前は確か……、

「そんな悪い大人にはこのドクスン・ベベドア様がお仕置きをしてやらにゃあな!ワッハッハッハ!!」

……そうだ。ドクスン・ベベドア。最近急に規模(きぼ)拡大(かくだい)させた連続強盗(ごうとう)犯。

俺はわざわざ手配書に書かれたコイツへの注意書きを思い出した。

「まさに”単細胞(バカ)”みたいな(つら)してやがる。」

 

パッと見、無防備(むぼうび)なジジイが一歩()み出すと、警備員たちはヤツの間合(まあ)いに飛び込こもうとはせず、(じゅう)を抜いて「魔女の涙」を死守(ししゅ)するように後退(こうたい)した。

「おいおい、逃げるなよキサマら!それでもタマァ付いてんのか?!」

いいや、それでいい。さすがカリーナの(したが)える部下たちだけあって、「ドクスン(クソジジイ)」の情報もキチンと頭に入れているらしい。

「なんだなんだ。張り合いのねえヤツらだぜ。」

5、60代の()けた強盗(ごうとう)は、肩で風を切りながらズケズケと()けた穴から入ってくる。

「まあ、それでも俺はやりたいように()らせてもらうがな!」

ジジイは(ふところ)から十数個の(かす)かに光る奇妙(きみょう)な小石を取り出すと、それらを無造作(むぞうさ)()()らした。

「撃てっ!!」

チャンスを(のが)してしまうと判断(はんだん)したのだろう。警備員のリーダーらしき男が号令(ごうれい)を掛けると、各々(おのおの)配置(はいち)()いた100人近くの警備員がジジイに対し一斉放射(いっせいほうしゃ)を仕掛けた。

だが――――、

 

突如(とつじょ)()()がる土煙に100の射線(しゃせん)(はば)まれ、標的(ひょうてき)には一発も(とど)かなかった。

「……クックック。テメエらみてえなエリート連中はいっつも頭ばっかりで考えるから、一歩遅れるんだよなぁ。」

煙が晴れると、そこには巨大な岩の(かたまり)が無数に並び立っていた。

「頭でっかちのテメエらなら知ってるだろうがな。コイツぁ”生きた土人形”、通称(つうしょう)”ゴーレム”ってのよ。」

術者(じゅつしゃ)のいかなる命令も受け入れる土から(つく)られた人形。頑丈(がんじょう)で疲れを知らない番犬。”ゴーレム”自体はそんなに(めずら)しい化け物でもない。

「だが、そんじょそこいらのゴーレムじゃねえぜ?」

そうだ。コイツ言う通り、目の前に現れたゴーレムたちは俺の知ってるやつとはだいぶ食い違っていた。

「エルク、私――――」

「待て。あの小細工(こざいく)の正体が気になるんだ。だからもうちょっと、待ってくれ。」

「そうじゃなくて……。」

『力』を使おうとする彼女を()(とど)め、俺はアホウの自慢話(じまんばなし)に聞き耳を立てた。

「……」

 

俺の知ってるゴーレムの生成(せいせい)は、魔力を()びた土を生成するところから始まり、形作った人形に呪文を書き込んだり、動いたら動いたで命令を認識(にんしき)させたり、必要な権限(けんげん)(あた)えたりと「胎児(ゴーレム)」の名の通り何かと手間(てま)がかかるものだ。

あんな、一切合切(いっさいがっさい)()(ぱら)ったようなインスタントゴーレムは聞いたこともない。

そもそも、俺にはどうしてもあのジジイが十数体も同時に(あやつ)るような大層(たいそう)な術者には見えなかった。

 

「それを可能にしたのがこの石よ!」

薄っぺらな薀蓄(うんちく)()れるジジイは新たに小石を取り出すと自慢げにそれを見せびらかした。

わざわざ犯罪者のお(しゃべ)りに付き合う訳もなく、ブリリアントの精鋭(せいえい)たちは土の塊に対し、ショットガンやライフル、ランチャーなども(ため)してみるが―――火薬量が多くなればそれなりに店内が傷つくだろうに、大事(だいじ)のまえの小事(しょうじ)よろしく。躊躇(ためら)いなく撃ちまくりやがる―――、よほど特殊(とくしゅ)な素材でできているらしい。

「テメエら!人が気持ちよく喋ってる時くらい静かにできねえのか?!ママから教わらなかったのか?アアン?!」

普通のゴーレムなら粉々(こなごな)になってもオカシクない火力を前にしても、かすり傷程度(ていど)のダメージしか通ってねえ。

ゴーレムの弱点を(ねら)おうとする奴もいるけど、どうにも上手くいってねえみたいだ。

 

それでも彼らは作戦を変更(へんこう)し、確実にジジイを仕留(しと)めにかかろうとする。

「まぁ、いい。とにかくなぁ――――、」

ジジイの注意を引く(はん)狙撃(そげき)ポイント変える班に分かれ、行動を開始していた。その機敏(きびん)さと判断(はんだん)の速さはもう「警備員」の(わく)()えてる。まるで「軍隊」だ。

だが、それも中々(なかなか)思うように(はかど)らない。なぜなら、ジジイがバラ撒いた大小様々(さまざま)な14体のゴーレムは完璧(かんぺき)にジジイの死角(しかく)(おお)い隠していたからだ。

それに、ゴーレムに宿(やど)る魔力には『壁』の役割(やくわり)もあって、俺の『炎』も受け付けない。

それでも普通の岩なら『壁』ごと()かせなくもないが、ランチャーの手応(てごた)えを見る限り、あの材質(ざいしつ)と『壁』14体分を突破(とっぱ)するのはかなりムチャがある。

そんな周囲(しゅうい)思惑(おもわく)を気にも()めないジジイは、石の『力』を自慢し続けている。

「コイツぁなあ、あの”精霊の国”スメリアから闇ルートで仕入れた魔法の石なのよ!」

……バカか、コイツ?そういうことは口止めされてるはずだろ。禁句(タブー)(やぶ)れば売人(ばいにん)から消されるって知らねえのか?

それに、どうにも『石』についても(くわ)しい知識を持ってる訳じゃなさそうだな。

 

(みと)めてやるよ。頭はバカでも持ってる戦力は大したもんだ。

だけど、相手が悪かったな。

「リーザ、もういいぜ。やっちまっても。」

「……」

そこで初めて彼女が眉間(みけん)(しわ)を寄せていることに気付いた。

「どうした?…なんか俺またマズったこと言ったか?」

「…エルク、私、あの子たちを(あやつ)れるなんて一言も言ってないわよ?」

「は?なんで?」

想定外(そうていがい)だった。てっきり率先(そっせん)してジジイをシバこうとしているもんだとばかり思っていた。

「……何でかまではよく分からないけど、(すご)(かた)い『壁』があるの。一人ふたりならできなくないけど、それでもやる?」

そう提案(ていあん)する彼女はどこか怒っているように見えた。

「なんで先に言わねえんだよ。」

「……私の話し聞いてくれなかったの、エルクじゃない。」

「あぁ?……まあ、そうだけどよ。俺も確かめなきゃねんえことがあったんだよ。仕方ねえだろ?」

彼女は反論(はんろん)もせずに俺を(にら)みつけていた。もしかして、カリーナと()めたのをまだ()()ってんのか?

勘弁(かんべん)してくれ。こんな時までそんなことに(かま)ってられるかよ。

 

……さてマジでどうするか。

万一(まんいち)のために外にパンディットを待たせてあるし、アイツの俊敏(しゅんびん)さならゴーレムを()(くぐ)ってジジイを仕留められるかもしれねえけど。

だけど、大抵(たいてい)のゴーレムには命令遂行(すいこう)のために「自爆」する(すべ)(そな)わってる。

ゴーレムの自爆は、その大きさにもよるが、散弾(さんだん)や地雷の拡大版(かくだいばん)みたいな感じだ。至近距離(しきんきょり)でやられたならいくらパンディットでも無事(タダ)じゃすまない。

その時だった。

 

「ほうか、ほうか。この石がのう。」

 

「!?」

俺たちの背後に立っていただけのケバブが、なぜかあの『石』を手にしていた。

「……」

反射的に懐を(あさ)り、唖然(あぜん)とするジジイの表情が全てを物語(ものがた)る。

あまりに唐突(とうとつ)出来事(できごと)に、俺だけじゃなくジジイも警備員一同(いちどう)も固まってしまっていた。

「確かに見たことのない材質ではあるが、よほど頭の切れる魔術師が仕上げたんじゃろ。石そのものよりも(ほどこ)された仕掛けがこの異常な効果を引き起こしておるようじゃな。」

ケバブは石を照明にかざしてみたり、(つめ)を立てて質感を確かめたりと石の正体を(あば)こうとしているらしかった。

 

「くそジジイ!どうやって!?」

禿げたジジイの怒鳴(どな)り声でようやく我に返った警備員たち。だが、その注目の半分はもはやハゲにではなくデブのジジイに向けられていた。

「お前さんにジジイ呼ばわりされたくないわい。」

デブとはいえ、さすがは”アーク一味”の一人ということか。

修羅場(しゅらば)()()ぎて麻痺(まひ)しちまってるデブは、場の空気をガラリと変えちまったってのに気にも()めてねえ。

「商人にとってスリや強盗は天敵じゃからな。こっちが手口(てぐち)(つぶ)せば連中は新しい盗み方を(おぼ)えてきよる。そんなイタチごっこを()(かえ)せばこっちも嫌でも色々と覚えてしまうわな。」

返事に合せてオッサンの肩から足元からヒョッコリと1つ、2つ、3つの小さな人影が(あらわ)れる。

「……小人か?!」

「それだけじゃあないぞい。」

「なに?!」

チョンガラの声を合図(あいず)居並(いなら)ぶゴーレムたちが一斉(いっせい)(くず)れ始めた。そして、内の一体が急に向きを変えると、その大きな剛腕(ごうわん)でもってハゲを鷲掴(わしづか)みにした。

「ど、どうなってやがる?!」

ハゲの驚きようにさもあらんといった様子で笑うデブ。

「ウッヒョッヒョッヒョッ。どんなにイイ道具を持ったところで使う人間がこうもアホウじゃ文字通り”持ち(ぐさ)れ”。いい見本じゃよ。」

 

 

――――結局(けっきょく)、事件は俺が手を出す間もなく解決してしまった。

 

「ケラックたちを連れてきてたなんて聞いてねえぞ?」

今はリーザの肩や頭にしがみ付くイタズラな3匹の小人たち。コイツらが得意の「隠れん坊」でドクスンの懐に(もぐ)()み、ポケットから石を拝借(はいしゃく)

さらには土人形唯一(ゆいいつ)の弱点ともいえる「呪文の()()え」。13体の人形それぞれに(きざ)まれた呪文の一つ「真理(しんり)」という言葉を(けず)り、「死」に書き換えたのもコイツらの仕業(しわざ)らしい。

「どうじゃ、見直(みなお)したか?」

「先に言っとけよ。」

あとは、オッサンの影に(ひそ)んでいたオドンがゴーレムの生成に合わせて、内の一体に『変身』して(まぎ)()んでいたらしい。

その時点でもう決着はついてたんだ。

俺があれやこれやと頭を(なや)ませるまでもなく。

「モフリーの奴も連れてきたんじゃがのう。使う必要もないくらいのバカじゃったな。」

そして、リーザはこのことを知っていた。だからあんな非常事態の最中(さなか)でも余計(よけい)なことで怒っていられる余裕(よゆう)があったんだ。

彼女はそれを教えようとしてくれていたのに、俺は自分のことばかりでそれを無視しちまった。

怒られて当然だ。

 

「本当に助かったわ。」

全ての処理(しょり)を終えたカリーナが(あら)めて俺たちのところにやって来た。

(さいわ)い、(おそ)われた警備員も全員軽傷(けいしょう)ですんだし。お店の被害(ひがい)もほとんどが爆破された壁だけだしで大満足よ。アナタたちに(たの)んで本当に良かったと思ってるわ。」

アナタたち、か。それはもう皮肉にしか聞こえねえけど、カリーナにその気は微塵(みじん)もないみたいだった。

「特に、そちらの小父(おじ)様。チョンガラさんで良かったかしら?貴方(あなた)には特に感謝を言わせて。」

ケバブを見る彼女の(ほお)が、長距離マラソンを完走したばかりのように赤く()まっていた。

「この仕事をするようになって、人を外見で判断しないように(つと)めていたのだけれど…、それでも私、(ひど)い思い違いをしていたみたいね。本当に(はず)かしいと思ってるわ。貴方は私にそれを気付かせてくれた。本当にありがとう!」

(しゃべ)り方が今までとまるで違う。それじゃあまるで、「初心(うぶ)な少女」じゃねえか。

「礼なんぞいらんいらん。これも仕事じゃからな。」

彼女は恥じらいながらオッサンに握手(あくしゅ)を求め、オッサンもまたそれに(こた)えていた。そしてオッサンは、一種の酩酊(めいてい)状態にある彼女にずっと温めていた本音(ほんね)をチラつかせた。

「ただ、お前さんの自慢の石を一つ、ワシに(ゆず)ってくれると(うれ)しいんじゃがな。」

「…お店の商品を?え、ええ、もちろんよ。ボーナスなんて言い方は失礼かもしれないけれど。どれでも好きなものを持っていって!」

そうは言うけどよ、この階にあるもんはどれも報酬(ほうしゅう)同等(どうとう)かそれ以上だ。ボーナスなんてみみっちいもんじゃねええぞ?

カリーナの口からそんな大胆(だいたん)な言葉を引き出しておきながら、ケバブはそれでも納得(なっとく)していないような返事をした。

 

「ちゃうちゃう。そうじゃのぉて、お前さんの一番のお気に入りが欲しいんじゃよ。」

「…え?」

「報酬もボーナスもいらん。ただ、お前さんとの思い出が一つ欲しいだけじゃよ。」

……なんだ、この()()しか(もよお)さねえ()()りは。

完全に、俺はオッサンのオマケみたいな立ち位置に立たされていた。

「……オジサマ、口説(くど)く相手を間違えていらっしゃらない?私はとても固い女よ?それこそダイヤモンドみたいにね。」

おいおい、それじゃあ(さそ)ってるようにしか聞こえねえよ。話し方はもとの「カリーナ」に戻ったけど、(ただよ)わせる空気は増々(ますます)俺の胸を悪くさせていく。

「じゃからじゃよ。時折(ときおり)(なが)めてお前さんを思い出す何かがあればワシはそれで充分(じゅうぶん)じゃ。」

「フフ、さすがに同業者だけあって人の心を操るのが(たく)みね。」

いやいや、どう見ても共同(きょうどう)作業だろ。

その言葉を待ち(のぞ)んでいたのか。ケバブ王子は最後のキメ台詞(ぜりふ)を吐きやがった。

(だま)し騙されてもワシらは新しい輝きを求めて出会いを求め続ける。その輝きが幸せだと信じとるからな。」

「……そうね。まったく、その通りだわ。お(かげ)で少し混乱(こんらん)しているところよ。貴方は私の守備外(しゅびがい)なのにね。」

答えを返す彼女の顔は大人びていた。大人びた笑顔は100%オッサンを受け入れていた。

カリーナがショーケースの中から真っ赤なルビーの指輪を取り出し、オッサンがそれを受け取る。その背景に、教会があるように見えて仕方がない。

「少し趣味(しゅみ)が悪いかしら?でも、今の私にはそれが最高に輝いているように見えるわ。まさに新しい発見ね。それを、貴方に()()げるわ。私の大事なモノを(うば)った、とんでもない悪党(あくとう)にね。」

もうダメだ。見てらんねえ……。

 

 

――――結局、二人はお(たが)いを受け入れなかった。拒絶(きょぜつ)じゃない。「貴方の(そば)にいられたとしても、自分が”未完成”のままじゃ貴方が()()になってしまうから」……そんなことを言っていた。

「エルク、それじゃあね。その()を大事にするのよ。」

……そう言って最後に見せた彼女の笑顔は、シュウに恋するティファのそれに()ているように思えた。

 

 

「それで満足かよ?」

帰り道、オッサンは右中指に着けた指輪を(なが)めては顔を(ほころ)ばせていた。

経緯(けいい)はどうあれ、オッサンはまんまと提示額(ていじがく)以上の報酬を手に入れたんだ。自分よりも二回りも年の離れた女をたぶらかしてまで。

俺は皮肉(ひにく)を言ったつもりだったのに、オッサンはアークたちに向けるのと同じ信頼しきった笑みで俺を見た。

「この世には、金や名誉(めいよ)じゃ買えん宝石もあるってことじゃよ。」

落ちぶれた王様は豪快(ごうかい)に笑いながら帰途(きと)()く。

 

……その時、オッサンの背中から感じた何かは、俺にはやっぱりよく分からないもののように思えた。

 

 

――――後日

 

チョンガラのオッサンに趣味が増えた。

パイプを(くわ)えながら(つぼ)(みが)き、時々、右中指につけたルビーを眺めている。

 

そんなオッサンを見る(たび)に、俺もリーザに何か(おく)るべきだったかどうか。本気で考えてしまう。

「確かに欲しい……。」

「うわっ!」

考え事をしている俺の(となり)に、いつの間にか彼女が立っていた。

指を(くわ)え、(ねた)ましそうにオッサンを見ている。

「でも、今はいらない。」

「そ、そうかよ。」

「今はね、もっと私の声を聞いて欲しい。それで、いい。」

(うつむ)いた彼女は少し(さみ)しげな顔をしていた。

「わ、悪かったよ。あの時は俺もどうするか本気で悩んでたんだ。」

「そうじゃなくて……、」

そしてまた、俺は余計なことを言って彼女の眉間に皺を寄せてしまう。でも今度は間違えない。

俺は彼女の目を見て聞き返した。けど――――、

「……ううん、やっぱりなんでもない。」

……まあ、いいか。

今はまだ、完全に言いたいことを言い合えない関係でも。傍にいて欲しいと想い合えるだけで。

 

「……やっぱり言う。」

「あん?」

頬を染めながら、

「エルク、自分では気付いてないかもしれないけど…、」

「けど?」

いつになく(するど)い目つきで彼女は言った。

「…女の人には気を付けてよね。」

小さな子どもが母親に甘えるように、彼女は俺に抱きついた。

「……エルクだって、甘えん坊のくせに。」

「……あぁ、そうだよな。」

彼女の髪に顔を(うず)め、俺もソッと抱き返した。




※ドクスン・ベベドア
えらく威勢のいい「ドクスン」を書いてしまいました(笑)
ちなみに「ベベドア」は次作の「アーク3」で登場する「超古代の最強最悪の人形型モンスター、ベベドア」からとっています。
ベベドアは人形でありながら他人を操る能力も備えています。
原作で「ドールマスター(モンスターの種類)」に位置づけられるドクスンはゴーレム(土人形)を使ってエルクたちを襲います。
……結果、なんとなく共通点があるように思えたし、別にいいかなって感じで付けてしまいました(笑)
ベベドアファンの方、怒らないでねm(__)m

ちなみに、カリーナがチョンガラに贈るルビーの下りですが、原作でシュウが仲間にいればドクスンから「盗む」ことのできるアイテムが「ルビー」でした。
なのでちょっとだけ絡めてみました。

※微かに光る石
原作でシュウとシャンテがスメリアの「何でも屋」ペペから要求される報酬が「微かに光る石」という限定アイテムなのですが、今回の「ゴーレムを生み出す石」とは本来関係ありません。
ですが、「Aパート」で全く触れなかったのでここで使ってみました。

――――以下、裏設定とネタバレ
「微かに光る石」はこの作品の一年前から存在が確認され始めたスメリア原産のとても珍しい鉱石です。
その正体は、オルニスの丘に封じられていた魔人ラリュウキをアークたちが解放し、討ち取ったことで霧散した魔人の『力』を宿す石です。
付着した『力』の量にも左右されますが、その石に呪法を(ほどこ)すことでドクスンなどの魔法使いでない者にも魔法と同じ作用を起こすことのできるアイテムに仕上がります。
(かのチートアイテム、”ロマンシングストーン”も同じような過程を経てできることにします。『力』の素はラリュウキではありませんが。)

今回、私の作品ではペペの要求は「邪竜ギア」を討つイベントに切り替えましたが、それはこの「微かに光る石」を守護するのが「ギア」だったからということにします。
(「微かに光る石」の入手地点と「ギア」の出現地点が近いし。)
そして、「微かに光る石」に目を着けたアンデルはギルドに「ギア」の討伐を依頼しました。
さらに、自分の身体に染み着いた魔人の『力』に違和感を覚えたゴーゲンはアークに与えられた任務の前にスメリアに立ち寄り、ペペを雇って調査させることになりました。
(ゴーゲンは3000年もの間、ラリュウキと一緒に異次元に閉じ込められていたため、いくらか魔人の『力』が染み込んでいることにします。)

ペペはアンデルの依頼とゴーゲンの依頼が繋がっていることに気付き、一獲千金を計画していたのです。
また、ペペは自分の力で「ギア」をどうにかすることでアンデルの信用を買い、さらにはレジスタンスへの「石」の横流しを考えていました。
その他のことはAパート「浮彫りの影」を参照してください。

※土人形→原作のゴーレム系モンスターのこと
「自爆」
原作のゴーレム系にそんな技はありませんが、周囲にエネルギーを放出する「エクストラクト」と岩の嵐を巻き起こす「マッドストーム」がその代わりになると思って「自爆」に置き換えてみました。

「ゴーレム」はヘブライ語で「胎児」「未完成のもの」「形なき固まり」といった意味らしいです。
さらに、生成時にその土の体に刻む必要のある言葉「emeth(真理)」は一文字削れば「meth(死んだ)」という意味になり、ゴーレムは壊れてしまいます。

※ケラック
多くのプレイヤーは回復役に使っていたと思われる「アークⅠ」でチョンガラが使っていた召喚獣の一匹です。
3人一組の小人で、補佐系の魔法をふんだんに使ってイタズラをするのが好きな困ったちゃんたちです。
本当なら「召喚の壺」がないと操れない設定なのだと思いますが、私の話では、スッカリ打ち解けているため「壺なし」でも操れることにします。
強制的に操る時だけ「壺が必要」みたいな。
ちなみに「隠れん坊」はサイレント(沈黙)やマイトマインド(魔力アップ)、マジックシールド(魔法攻撃無効化の壁)を応用したものだと思ってください。


※オドン
ケラックと同じくチョンガラの元召喚獣で、敵モンスターに変身することでそのステータスをソックリそのままマネるというキャラクターでした。
今回は、『変身』の時に相手の影に潜るようなモーションをとることから、「他人の影に隠れることができる」という能力も付けました。

※モフリー
上の二匹と同様です。今回は登場しなかったので紹介はなしということで(笑)

本当はもっとコミカルなエンドにしようと思っていました。
リーザに一目惚れしたドクスンが最終的にリーザに告白して、
リーザは「自首しましょ」
ドクスンが「はい」
みたいな、「アナタは大変なものを盗んでしまいました」的な、カリオスト○的な…(笑)
だけど、なんか違う方向に行ってしまい、止めることもできませんでした(笑)なかなか思うように書けないもんですね(^_^;)
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