8年前、俺は一匹の悪魔に拾われた。
他人に両親を
だがその時の俺はまだ子どもで、大人の
「…ルーカ・ヤクヴ・イルツァコフ。……ルコ。」
痛みに
「……ククク。北風と太陽とはよく言ったものだな。」
突然の告白に意表を突かれた男もやがて静かな笑みを浮かべ、
「…”ヤクヴ”か。予想はしていたが、やはりユダ人だったか。」
当時、自分がユダ人だと意識したことはなかった。だが、男はそんな俺の
「
ユダ人はロマリア大陸からハルシオン北西部、アデネシア大陸北部に
この作戦から
だが一方では、ロマリア内に
「まあ、何でも構わん。俺は使える人形が欲しかっただけだ。むしろ、キサマがユダ人だというなら
この時の俺はまだ男の言っている意味を理解できないでいた。
それでも男は
「これから、それがキサマの肌になる。名前は”シュウ”。俺は自分の“影”をそう呼んでいる。」
それは俺の肌をスッポリと隠す
意味も分からず渡されたものを見下ろしていると、今度は銃とナイフが
「……」
「取れ。」
「……」
俺は、男を
ガシャン!!
「ウッ!」
ナイフを手に取った瞬間、俺は傷だらけの足を
だが、男はそれを
危なげなく俺のナイフを
「運が良かったな、
叩きつけられた
男の言葉なんか耳に入らない。
「もしも銃を選んでいたら、この場で殺そうと思っていたところだ。」
「
チビたタバコを吐き捨て、新しいものを取り出す。
「一週間後、キサマに仕事をやろう。」
火を
男の教育はもはや「教育」と呼べるものでもなかった。
一週間後、
「この地点に反政府組織の
この一週間、俺は
男とはろくに言葉も
それでもその一週間で俺は男の
「黒装束」、「影」そして「ナイフ」。
―――使い捨ての
それが俺の
「逃げても
「……」
俺は与えられた装備を身に着け、首輪もないまま外に放り出された。
そして、二日後、俺は男の下に舞い戻っていた。
「初めてにしては
男は
「だが、
男はタバコに火を点け、
「キサマは俺の影であって、一人の人間じゃあない。
作戦中、俺は誰の目に
後日、頭を
作戦は「大成功」と言っても良い。
だのに、不満げに俺を見下ろす男の顔が俺には理解できなかった。
「次の仕事は三日後だ。」
そう言って男はまた、俺の前から姿を消した。
三日後の作戦も俺は言われた通りに
まるで、それしか芸のない犬のように。アホウのように俺は男の足元に
今度は男の銃にも気を付けた。
ナイフにも、
だが、それでも俺は男の
「ふん、まあまあだ。」
男の動きが早いんじゃない。
俺の動きが読まれているんだ。俺の何百倍もある経験に
男を
だが、それも間違っていた。
俺が男を先読みしようとすると、男はそれを
「俺が足腰の弱いジジイにでも見えたか?バカが。」
男は俺が動けなくなるまで
「明日、次の仕事を用意しておく。」
それ以来、俺は毎日のように男の用意する任務を熟さなければならなくなった。
その中で当然失敗することもあった。
だが、それで男が俺を捨てるようなことはなかった。
成功した時も、失敗した時も、男は同じように俺を殴り続けた。
「死んだ方がマシか?」
不思議と、そう思うことはなかった。
ただただ男が
「いつでも言え。俺が殺してやる。」
男は頭突きをする勢いで俺を壁に叩きつけて言った。
「だが、俺以外に殺されるな。」
俺は
――なぜだか、俺はその結果を知っていた。
男との実力の差を理解してしまっていたんだ。
男はナイフの
「
俺はそのまま
「
意識の
「次の仕事だ。」
そしてまた俺は男の言われるまま、影として世界の裏側を飛び回る。
その
今思えば、「男を殺す」という目標も男の手で用意されたようにも思える。
そうすることで俺は男から逃げられず、男もまた、俺を教育しやすい。
俺は最初から最後まで男の意のままに
そうして俺は
男を殺したという
あの男でなければ俺には意味なんてなかったからだ。
ただ、軍に捨てられてから男に対して何もアプローチをしなかった訳でもない。
エドガールド・アリ・ワナ・チュカチュエロ。
それが、男の手から離れ、ようやく突き止めた男の名だった。
チュカチュエロは軍の中でひどく浮いた存在だった。
成人するまでに身に付いた
幼少期にあらゆる動物を
ようやく
しかし、軍の
それでも男の能力は他を抜きん出ており、
そうした彼の判断が
誰も、チュカチュエロの
チュカチュエロは除隊と
彼の存在を知る者は将軍を
俺は不思議に思っていた。
その功績が
それなのに、「快楽殺人者」と言ってもいいような
ある日、男は俺に心の内を語ったことがあった。
「将軍は俺に
男に、国に
そんなロマリアに
俺には男の言葉がすぐには信じられなかった。
「アレも、普通の人間とは違う世界で生きている。
ロマリア四将軍の一人、ザルバド・グルニカ・トンガスタは
やがて、軍人としても
だがそれは、
愛国心が
それでも彼の
彼の
「ロマリアの地はロマリア人のためにある。これを
そう
結果的にロマリアには恐怖政治が
ロマリア王から絶対の信頼を獲得し、それに十二分な結果を見せる彼だったが、彼の愛した王は
早くして
――――ロマリアを世界
その
「
ザルバドは
やがて、自分を
そうして、「悪魔」とさえ揶揄されたザルバドは実質、ロマリアの最高権力を手にすることになる。
「お前はどう思う?3000万の常識と、たった一羽の、
男は
「…まあ、影であるキサマに”意見”なんて
…もしかすると、男は自分自身の存在にジレンマを覚えていたんじゃないか?
軍という集団に
その身に備わった化け物
不安を覚えていたんじゃないか?
狂人は周囲の声を
異質な思想を
そんな男の「影」であるせいか。
男としか言葉を交わさなかった俺もまた、この
当時は、そのために「シュウ」であり続けた。
だが、今は違う。
俺をその名で
男は死に、軍も
それでも俺はこの名前を手放さない。
なぜだ?
「
それとも「
……男はそういう安全
「ふと思ったの。」
ミーナは俺の
「
彼女は自分よりも弱い生き物を手に掛けることで
周囲の目から見ればそれは異常な行動に
だが、それは仕方のないことだった。
誰の助けも期待できない環境下で、彼女を支えられたのは「彼女の痛みを分かってくれる相手」だけなのだから。
…それは、今の俺にも当てはまるのかもしれない。
あの男以下の「化け物」を相手にすることで俺は金と寝床を確保し、それらに没頭することで、「シュウ」になる切っ掛けになった、あの日の『悪夢』から目を背け続けている。
あの男に押し付けられた幾百の『人の死』もまた同様に。
俺もミーナも、自分よりも弱い存在を痛めつけることで今の世界を生き延びている。
「弱者」がいなければ俺たちはここにいない。
「シュウ……」
だからと言って、俺や彼女がそれを「幸福」と受け取っていいのか?
「アタシは幸せよ。」
「……」
「でもそれは、何も殺さず誰かに殺されることもなくこうして不自由なく生きてるからじゃない。もちろん、こうして
体が冷えたのか。彼女は俺を抱き寄せながら言った。
「最近ね、”春”をよく見かけるの。」
今はまだかなり
だが日中は温かく、確かに春は近付いていた。
「ちょっと前までは季節なんてどうでも良かった。ちょっと寒いな。温かいなぐらい。ホント、どうでもよかった。でもね、今はなんか違うの。」
「こんな町にも花は咲くのよ。それがなんだかとても、嬉しいの。」
「…嬉しい?」
「バカみたいだって思う?」
「…いいや。」
小さな頭を俺の胸に
「花は
「…俺たちに、”春”はない。」
どうしてだか、俺は彼女を否定してしまった。
「……そうかもしれないね。」
彼女はチラリと俺の目を見ると、それでも
「だけど、信じることはできるわ。少なくともアタシは、バカだから。自分を
「……」
「アタシは今、幸せなの。」
「……」
「シュウ…、」
今度はまじまじと、俺の目を見る。
「…笑ってみて。」
「……」
「ウソでもいいから。」
「……」
俺は彼女の言葉に応えなかった。
――――春が
立ち尽くす少年は
「ダズ……ゲテ……」
今にも
確かに俺は今も「
俺は少年の首にナイフを当てる。
今度の悪魔は、その手を少し
「ダズ……ゲテ…
……その
俺は初めてナイフを捨てた。
少年を抱きしめるために。
ミーナが俺にしたように。
少年にとって、俺は最後の
少年は俺の名前を
俺はどこまでもあの男に縛れらている。
だが、それは俺にとって決して無駄なことじゃなかった。
少年の唇が、その名に手を差し伸べる限り。
――――シュウ
それが、俺の名だ。
※8年前、俺は一匹の悪魔に拾われた
『私の書く物語の中でのシュウのだいたいの経歴』
11歳…両親が殺される。少佐に拾われる。
14歳…少佐の死を知り、軍を辞め、フリーの傭兵になる。
15歳…アルディコ連邦(インディゴス)で賞金稼ぎとして生活する。
20歳…西アルディアでエルクを拾う。
25歳…エルクと共にガルアーノらと戦う。(これは公式の設定です)
今回の「8年前」はインディゴスで生活し始めて4年目。19歳時点の彼が起点です。
※それぞれの大陸(公式設定です)
ロマリア大陸→ロマリア国、ニーデル国のある大陸
アデネシア大陸→アリバーシャ国、ブラキア国のある大陸
ハルシオン大陸→アララトス国、グレイシーヌ国、フォーレス国、ミルマーナ国、バルバラード国のある大陸
ちなみに
アルド大陸→アルディア(アルディコ連邦)、アミーグ国のある大陸
※選民思想
「私たちこそが神に選ばれた種族」などと信じ込むこと。
他の人種を「悪」と捉えがち。
※原理主義
宗教が定めた教典にある言葉を真実だと思い込むこと。
世界は教典の通りにあるべきだと主張すること。
※手に掛ける
世話をすること。人を殺すこと。
※ロマリア人口
おおよそ3000万人です。
(世界人口が約1億5000万人)
公式設定ではありませんm(__)m
※グラヴィス・デル・オレハイン
グラヴィスは原作にも登場する賞金首です。(グラヴィス以降の名前は創作です)
ロマリアMapのクズ鉄の街に「コープス」(ゾンビタイプですね)として出現します。
※エドガールド・アリ・ワナ・チュカチュエロ
その存在以外は全くのオリジナル設定です。
原作では終盤にちょっと登場シーンがあるだけです。
※ルーカ・ヤクヴ・イルツァコフ(愛称、ルコ)
……完全なる創作設定です。
「シュウ」のキャラを守るなら絶対に手を出しちゃいけない領域なんですが、少佐(シュウを”影”として育てた人物)との物語を書く素材として、どうしても欲しかったとです!
どうしても書きたかったとです!m(__)m
ちなみに、「ヤクヴ」は私たちの世界でいう「ヤコヴ(ユダヤ人を指す固有のファミリーネームの一つ)」をもとに付けました。
なので、「ユダ人」も「ユダヤ人」をイメージしています。
この世界でも「ユダヤ人迫害」、「ホロコースト」と同じ行為が行われた設定にしています。
シュウの両親は自分たちが「ユダ人」であることを隠すため、他人には「ヤクヴ」の名を出さないようにシュウに教育していました。
「ホロコースト」
アドルフ・ヒトラー率いる国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス党)が第二次世界大戦中にユダヤ人などに対して行った迫害、大量虐殺のことです。
※ホンマの後書き
今回、自分の中ではどうにか「書き終えた感」を得られたんですが、読み返してみるとどうにも無駄に小難しく書いてるなあという印象を覚えました。
今さら書き直そうとも思いませんが(時間もありませんしww)。
読者の皆様、なにとぞご勘弁してくださいまし。
そしてあわよくば、このヘタクソな文章から私の書きたかったことを読み取っていただけると幸いです
(まあ、ヘタクソはいつものことですがww)m(__)m