聖櫃に抱かれた子どもたち+   作:佐伯寿和2

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影と心 その三(終)

8年前、俺は一匹の悪魔に拾われた。

他人に両親を(うば)われた俺はもう、誰にも心を許さないつもりでいた。

だがその時の俺はまだ子どもで、大人の()()きに免疫(めんえき)がなかったんだ。

偶然(ぐうぜん)(いな)か。悪魔は、そこを突いてきた。

 

「…ルーカ・ヤクヴ・イルツァコフ。……ルコ。」

痛みに()え、俺は(うめ)くように男の質問に答えた。

「……ククク。北風と太陽とはよく言ったものだな。」

突然の告白に意表を突かれた男もやがて静かな笑みを浮かべ、介抱(かいほう)する手を再び動かし始める。

「…”ヤクヴ”か。予想はしていたが、やはりユダ人だったか。」

当時、自分がユダ人だと意識したことはなかった。だが、男はそんな俺の素性(すじょう)を気に入ったらしかった。

 

劣等種(ネズミ)どもがまだ俺たちの神聖な土地を堂々と駆け回っているとはな。復讐(ふくしゅう)でも目論(もくろ)んでいたのか?」

ユダ人はロマリア大陸からハルシオン北西部、アデネシア大陸北部に分布(ぶんぷ)するユダ教を信仰(しんこう)する人間を指す。

選民(せんみん)思想(しそう)が強く、原理(げんり)主義である彼らに(うと)ましさを覚えたロマリアは、10年前に数百万のユダ人を迫害(はくがい)虐殺(ぎゃくさつ)した。

この作戦から()()びたユダ人は少なく、ロマリア国内では絶滅したとも言われている。

だが一方では、ロマリア内に潜伏(せんぷく)し、現政府の転覆(てんぷく)画策(かくさく)しているという(うわさ)も流れていた。

「まあ、何でも構わん。俺は使える人形が欲しかっただけだ。むしろ、キサマがユダ人だというなら気兼(きが)ねなく死地(しち)に送ってやれる。あと、その名は二度と口にするな。」

この時の俺はまだ男の言っている意味を理解できないでいた。

 

それでも男は一切(いっさい)の説明をせず、俺を拘束(こうそく)する(なわ)を切ると一着の制服を投げて寄越(よこ)した。

「これから、それがキサマの肌になる。名前は”シュウ”。俺は自分の“影”をそう呼んでいる。」

それは俺の肌をスッポリと隠す一片(いっぺん)(くも)りもない黒装束(くろしょうぞく)だった。

意味も分からず渡されたものを見下ろしていると、今度は銃とナイフが(ほう)られた。

「……」

「取れ。」

「……」

俺は、男を警戒(けいかい)しながらユックリとナイフを手に取っ――――

 

ガシャン!!

 

「ウッ!」

 

ナイフを手に取った瞬間、俺は傷だらけの足を無視(むし)して地面を()り、男の心臓目掛けて飛びかかった。

だが、男はそれを予測(よそく)していた。

危なげなく俺のナイフを(かわ)すと、その(いきお)いを利用して俺を壁に叩きつける。

「運が良かったな、小僧(こぞう)。ひとまずは合格だ。」

叩きつけられた衝撃(しょうげき)で肺が(つぶ)れ、無視した手足が俺に牙を深く突き立てる。

男の言葉なんか耳に入らない。

「もしも銃を選んでいたら、この場で殺そうと思っていたところだ。」

(うずくま)り、(うめ)くことしかできない俺を見下ろし、男はご機嫌(きげん)声色(こわいろ)で俺に(しゃべ)り続けた。

素質(そしつ)も悪くない。」

チビたタバコを吐き捨て、新しいものを取り出す。

「一週間後、キサマに仕事をやろう。」

火を()け、それだけを言うと男は俺を拷問(ごうもん)部屋に残し、俺の前から去っていった。

 

男の教育はもはや「教育」と呼べるものでもなかった。

 

一週間後、怪我(けが)()えきっていない俺に一つの任務(にんむ)が言い渡される。

「この地点に反政府組織の拠点(きょてん)がある。キサマはそこの頭、”グラヴィス・デル・オレハイン”を消し、ここに戻ってこい。」

この一週間、俺は(あた)えられた食事を()り、与えられた寝具(しんぐ)(くる)まることしかしなかった。

男とはろくに言葉も()わしていない。

それでもその一週間で俺は男の意図(いと)をだいたい推察(すいさつ)することができた。

「黒装束」、「影」そして「ナイフ」。

―――使い捨ての刺客(アサシン)

それが俺の(みちび)()した答えだった。

 

「逃げても(かま)わん。それがお前の寿命だ。」

「……」

脅迫(きょうはく)(しつけ)けがその言葉にはあった。

俺は与えられた装備を身に着け、首輪もないまま外に放り出された。

 

そして、二日後、俺は男の下に舞い戻っていた。

 

「初めてにしては上々(じょうじょう)だ。」

男は出迎(でむか)えるなり俺の足を撃ち抜いた。

「だが、油断(ゆだん)はするな。誰がキサマを殺すともわからんからな。」

男はタバコに火を点け、(もだ)える俺をつまらなさそうに見下ろしていた。

「キサマは俺の影であって、一人の人間じゃあない。何処(どこ)か俺のあずかり知らん所で勝手にくたばるような間抜(まぬ)けをされてはかなわん。」

 

作戦中、俺は誰の目に()まることもなく侵入(しんにゅう)し、目標だけを殺してここに戻ってきた。

後日、頭を()くした組織は軍の手で簡単に一掃(いっそう)された。

作戦は「大成功」と言っても良い。

だのに、不満げに俺を見下ろす男の顔が俺には理解できなかった。

 

「次の仕事は三日後だ。」

そう言って男はまた、俺の前から姿を消した。

三日後の作戦も俺は言われた通りに(こな)し、男の(もと)に帰った。

まるで、それしか芸のない犬のように。アホウのように俺は男の足元に(まと)わりつくことしかできなかった。

今度は男の銃にも気を付けた。

ナイフにも、(わな)にも気を(くば)った。

だが、それでも俺は男の(こぶし)()けきることができなかった。

「ふん、まあまあだ。」

男の動きが早いんじゃない。

俺の動きが読まれているんだ。俺の何百倍もある経験に(もてあそ)ばれているんだ。

男を観察(かんさつ)し続けた俺はそう思った。

 

だが、それも間違っていた。

 

俺が男を先読みしようとすると、男はそれを(つぶ)すかのように素早く俺の足をナイフで()し、蹴り飛ばした。

「俺が足腰の弱いジジイにでも見えたか?バカが。」

男は俺が動けなくなるまで(なぐ)り続けた。

「明日、次の仕事を用意しておく。」

 

それ以来、俺は毎日のように男の用意する任務を熟さなければならなくなった。

その中で当然失敗することもあった。

だが、それで男が俺を捨てるようなことはなかった。

成功した時も、失敗した時も、男は同じように俺を殴り続けた。

「死んだ方がマシか?」

不思議と、そう思うことはなかった。

ただただ男が(にく)く、ただただ男の言葉を()(どお)しく思っている自分がいた。

「いつでも言え。俺が殺してやる。」

男は頭突きをする勢いで俺を壁に叩きつけて言った。

「だが、俺以外に殺されるな。」

千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスだった。

俺は(ひざ)仕込(しこ)んでおいたナイフで男の腹を刺す―――

 

――なぜだか、俺はその結果を知っていた。

男との実力の差を理解してしまっていたんだ。

 

男はナイフの()(さき)(とど)くよりも早く、俺の首を(つか)んで放り投げた。

小細工(こざいく)(たよ)るようじゃあ、一生、俺を殺すことはできんぞ。」

俺はそのまま脳震盪(のうしんとう)で気を(うしな)ってしまう。

保証(ほしょう)してやろう。キサマは一生俺の影だ。」

意識の(うす)れゆく中でも俺は男の一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)を記憶し、何が悪かったのか必死に考え、次こそは男を殺すのだと冷たい地べたに(ちか)う。

 

「次の仕事だ。」

そしてまた俺は男の言われるまま、影として世界の裏側を飛び回る。

その()(かえ)しだった。

今思えば、「男を殺す」という目標も男の手で用意されたようにも思える。

そうすることで俺は男から逃げられず、男もまた、俺を教育しやすい。

俺は最初から最後まで男の意のままに(あやつ)られていただけ。

 

そうして俺は結局(けっきょく)、男を殺すことができなかった。

男を殺したという素浪人(すろうにん)を探す気にもなれなかった。

あの男でなければ俺には意味なんてなかったからだ。

ただ、軍に捨てられてから男に対して何もアプローチをしなかった訳でもない。

 

エドガールド・アリ・ワナ・チュカチュエロ。

それが、男の手から離れ、ようやく突き止めた男の名だった。

 

チュカチュエロは軍の中でひどく浮いた存在だった。

成人するまでに身に付いた()()がった倫理感(りんりかん)常識(じょうしき)が、男を取り巻くその他の連中と上手(うま)く折り合いを付けることができなかったのだ。

 

幼少期にあらゆる動物を解剖(かいぼう)し、成人するまでに犯罪という犯罪を経験する。

ようやく逮捕(たいほ)拘留(こうりゅう)するが、当時、少佐だった現ロマリア四将軍の一人、ザルバドがチュカチュエロの類稀(たぐいまれ)潜在(せんざい)能力を見抜き、軍人として特別採用(さいよう)する。

しかし、軍の規律(きりつ)馴染(なじ)めないチュカチュエロは度々(たびたび)問題を起こし、軍曹に昇格(しょうかく)したところで除隊(じょたい)を言い渡される。

それでも男の能力は他を抜きん出ており、()(はな)つ危険性もさることながら、軍の(いちじる)しい戦力低下を懸念(けねん)したザルバドは「特殊(とくしゅ)任務」という(かこ)いの中で男を()()らすことにした。

そうした彼の判断が(こう)(そう)し、以後、ロマリアは治安(ちあん)維持(いじ)においても戦争においても順風満帆(じゅんぷうまんぱん)成果(せいか)を上げ続けることになる。

 

誰も、チュカチュエロの功績(こうせき)であることは知らない。

チュカチュエロは除隊と(とも)処刑(しょけい)されており、彼を知るほとんどの人間は彼が死んだと思っている。

彼の存在を知る者は将軍を(のぞ)いて必要最低限の人間しかいない。

俺は不思議に思っていた。

その功績が名誉(めいよ)に変わる訳でもない。待遇(たいぐう)が他より良い訳でもない。

それなのに、「快楽殺人者」と言ってもいいような狂人(きょうじん)がなぜ大人しく、制限の多い軍に(せき)を置き続けているのか。

 

ある日、男は俺に心の内を語ったことがあった。

「将軍は俺に()ている。」

男に、国に()くすような愛国心はない。(つね)に「死体」に()えていた。

そんなロマリアに巣食(すく)う悪魔が、たった一人の男を(ささ)えるために自身の性分(しょうぶん)(りっ)しているのだと言う。

俺には男の言葉がすぐには信じられなかった。

「アレも、普通の人間とは違う世界で生きている。周囲(しゅうい)に理解されない理想と思想を(いだ)き、そんな自分を愛してやがる。奴の周りにはそれを”悪”だと(ののし)る奴もいた。それがどうだ?今や、それを(かな)えられるだけの力も持っているんだぞ?自分を(さげす)んだ世界を(くつがえ)すだけの力をな。」

 

ロマリア四将軍の一人、ザルバド・グルニカ・トンガスタは生粋(きっすい)の軍人の家系に生まれた。

名家(めいか)に生まれたザルバドは周囲の期待(きたい)一身(いっしん)背負(せお)い、彼もまたそれに(こた)え続けた。

やがて、軍人としても頭角(とうかく)を見せ始めた頃、彼は周囲から「ロマリアの守護神」とまで呼ばれるようになっていた。

だがそれは、()()()()()()()だった。

愛国心が過剰(かじょう)で、国を護るためならどのような手段も(いと)うべきではないという姿勢(しせい)の彼を(かげ)で「ロマリアという”正義”を振りかざす悪魔」と呼ぶ者も少なくなかった。

それでも彼の信念(しんねん)()らぐことはない。

彼の根底(こんてい)には”民族主義”があり、将軍の地位に()いて初めに(おこな)った運動は「他民族の排斥(はいせき)」だった。

「ロマリアの地はロマリア人のためにある。これを下劣(げれつ)な血で(けが)すことは王への冒涜(ぼうとく)だ。」

そう(とな)えた彼は、(もっと)も目立つユダ人を徹底的(てっていてき)排除(はいじょ)した。

結果的にロマリアには恐怖政治が()かれ、揺るぎない絶対王政も確立(かくりつ)する。

 

ロマリア王から絶対の信頼を獲得し、それに十二分な結果を見せる彼だったが、彼の愛した王は()もなく病床(びょうしょう)で永遠の眠りに就いてしまう。

早くして逝去(せいきょ)したロマリア王の跡取(あとと)りは、(いま)政情(せいじょう)の常識というものを理解していない15歳の青年だった。

未熟(みじゅく)な若い王は忠臣(ちゅうしん)であるザルバドに助力(じょりょく)(あお)ぎつつロマリアに平安をもたらすために健闘(けんとう)を誓うが、幼い王の理想は「絶対王政」の守護を(つかさど)る将軍の思想にそぐわなかった。

(くわ)えて、ザルバドには(いま)完遂(かんすい)していない先王(せんおう)からの(めい)があった。

――――ロマリアを世界唯一(ゆいいつ)の帝国へ

その(ため)()いた彼の種が、若い王の描く妄想(もうそう)()(くさ)らせていく。

血筋(ちすじ)だけで支えられるほど、ロマリアは脆弱(ぜいじゃく)ではない。」

ザルバドは次第(しだい)に若い王を不適格者(ふてきかくしゃ)として蔑視(べっし)するようになる。

やがて、自分を(たも)つ意志に(とぼ)しい若き王は、表向きは側近(そっきん)であり続けるザルバドの意見に(なら)うだけの傀儡(くぐつ)になってしまう。

そうして、「悪魔」とさえ揶揄されたザルバドは実質、ロマリアの最高権力を手にすることになる。

 

「お前はどう思う?3000万の常識と、たった一羽の、(みにく)いアヒルの()(まま)。どっちが世界にあるべき正義だと思う?」

男は冗談(じょうだん)めいた笑みを浮かべながら言った。

「…まあ、影であるキサマに”意見”なんて大層(たいそう)なものがあるはずもないがな。」

…もしかすると、男は自分自身の存在にジレンマを覚えていたんじゃないか?

軍という集団に爪弾(つまはじ)きにされながら、その集団の(おさ)であるザルバドの下に居続(いつづ)けるのは、彼が自分の存在価値を見出(みいだ)すため。

その身に備わった化け物()みた暗殺の(すべ)が、他人の「生」を否定することに喜びを覚える自分が、本当に()()()()()()()()()()()()()()()()

不安を覚えていたんじゃないか?

狂人は周囲の声を()かないのかもしれない。だが、自分の声には正直であり続ける生き物だ。

異質な思想を(つらぬ)孤立(こりつ)した将軍(おとこ)を支えることで、彼を世界の中心に立たせることで、男は自分の中に見出した「醜い存在」を受け入れようとしていたのかもしれない。

 

そんな男の「影」であるせいか。

男としか言葉を交わさなかった俺もまた、この(あくま)を殺すことで「何か」から許しを()られると思い込んでいる(ふし)があった。

当時は、そのために「シュウ」であり続けた。

 

だが、今は違う。

俺をその名で(しば)る人間はもうどこにもいない。

男は死に、軍も()めた。

それでも俺はこの名前を手放さない。

なぜだ?

(シュウ)」であることで、価値のない自分を隠しているつもりなのか?

それとも「(シュウ)」であることが死者とを(へだ)てる最後の壁だと信じているからか?

……男はそういう安全装置(そうち)を俺に仕込んだのかもしれない。

 

 

 

「ふと思ったの。」

ミーナは俺の(となり)で寝言のように(つぶや)いた。

痙攣(けいれん)して死んでいく猫や虫が自分だったら…。」

彼女は自分よりも弱い生き物を手に掛けることで(くる)おしい幼少期を()()えてきた。

周囲の目から見ればそれは異常な行動に(うつ)るかもしれない。

だが、それは仕方のないことだった。

誰の助けも期待できない環境下で、彼女を支えられたのは「彼女の痛みを分かってくれる相手」だけなのだから。

 

…それは、今の俺にも当てはまるのかもしれない。

あの男以下の「化け物」を相手にすることで俺は金と寝床を確保し、それらに没頭することで、「シュウ」になる切っ掛けになった、あの日の『悪夢』から目を背け続けている。

あの男に押し付けられた幾百の『人の死』もまた同様に。

 

俺もミーナも、自分よりも弱い存在を痛めつけることで今の世界を生き延びている。

「弱者」がいなければ俺たちはここにいない。

「シュウ……」

だからと言って、俺や彼女がそれを「幸福」と受け取っていいのか?

「アタシは幸せよ。」

「……」

「でもそれは、何も殺さず誰かに殺されることもなくこうして不自由なく生きてるからじゃない。もちろん、こうして(たくま)しいアナタに抱かれてるからでもないわ。」

体が冷えたのか。彼女は俺を抱き寄せながら言った。

 

「最近ね、”春”をよく見かけるの。」

今はまだかなり朝晩(あさばん)が冷え込む。

だが日中は温かく、確かに春は近付いていた。

「ちょっと前までは季節なんてどうでも良かった。ちょっと寒いな。温かいなぐらい。ホント、どうでもよかった。でもね、今はなんか違うの。」

(ほお)を寄せ、窓の外を指さし、彼女はキスをするようにささめく。

「こんな町にも花は咲くのよ。それがなんだかとても、嬉しいの。」

「…嬉しい?」

「バカみたいだって思う?」

「…いいや。」

小さな頭を俺の胸に(こす)りつけ、彼女の綺麗(きれい)な声は(ひび)き続ける。

「花は()くのよ。どんなに空気が(きたな)くても()()いて、(くき)()ばして、温かい春を待ち続けるの。」

「…俺たちに、”春”はない。」

どうしてだか、俺は彼女を否定してしまった。

「……そうかもしれないね。」

彼女はチラリと俺の目を見ると、それでも(ささや)き続けた。

「だけど、信じることはできるわ。少なくともアタシは、バカだから。自分を(だま)していられるの。」

「……」

「アタシは今、幸せなの。」

「……」

「シュウ…、」

今度はまじまじと、俺の目を見る。

「…笑ってみて。」

「……」

「ウソでもいいから。」

「……」

俺は彼女の言葉に応えなかった。

 

 

 

――――春が()()る頃、俺は砂漠で一人の少年と出会う

 

立ち尽くす少年は(うつ)ろな目で俺を見下ろしていた。少年の瞳に、灰色の街並(まちなみ)みを見つけた時、聞き覚えのある声が忍び寄ってきた。

「ダズ……ゲテ……」

今にも()れ落ちてしまいそうな少年の(くちびる)は「(おれ)」を誘惑(ゆうわく)しているように見えた。

確かに俺は今も「(シュウ)」を名乗っている。だが、()()()()に帰る気もない。

 

俺は少年の首にナイフを当てる。

今度の悪魔は、その手を少し(すべ)らせるだけで俺の前から消すことができた。

「ダズ……ゲテ…()()()……」

 

……その()の鳴くような声を聞き(のが)してしまっていたら、俺は一生、自分の間違いを()いることになっただろう。

 

俺は初めてナイフを捨てた。

少年を抱きしめるために。

ミーナが俺にしたように。

 

少年にとって、俺は最後の(きぼう)だった。

 

少年は俺の名前を(たず)ねる。

 

俺はどこまでもあの男に縛れらている。

だが、それは俺にとって決して無駄なことじゃなかった。

少年の唇が、その名に手を差し伸べる限り。

 

――――シュウ

 

それが、俺の名だ。




※8年前、俺は一匹の悪魔に拾われた
『私の書く物語の中でのシュウのだいたいの経歴』
11歳…両親が殺される。少佐に拾われる。
14歳…少佐の死を知り、軍を辞め、フリーの傭兵になる。
15歳…アルディコ連邦(インディゴス)で賞金稼ぎとして生活する。
20歳…西アルディアでエルクを拾う。
25歳…エルクと共にガルアーノらと戦う。(これは公式の設定です)

今回の「8年前」はインディゴスで生活し始めて4年目。19歳時点の彼が起点です。

※それぞれの大陸(公式設定です)

ロマリア大陸→ロマリア国、ニーデル国のある大陸
アデネシア大陸→アリバーシャ国、ブラキア国のある大陸
ハルシオン大陸→アララトス国、グレイシーヌ国、フォーレス国、ミルマーナ国、バルバラード国のある大陸

ちなみに
アルド大陸→アルディア(アルディコ連邦)、アミーグ国のある大陸

※選民思想
「私たちこそが神に選ばれた種族」などと信じ込むこと。
他の人種を「悪」と捉えがち。

※原理主義
宗教が定めた教典にある言葉を真実だと思い込むこと。
世界は教典の通りにあるべきだと主張すること。

※手に掛ける
世話をすること。人を殺すこと。

※ロマリア人口
おおよそ3000万人です。
(世界人口が約1億5000万人)
公式設定ではありませんm(__)m

※グラヴィス・デル・オレハイン
グラヴィスは原作にも登場する賞金首です。(グラヴィス以降の名前は創作です)
ロマリアMapのクズ鉄の街に「コープス」(ゾンビタイプですね)として出現します。

※エドガールド・アリ・ワナ・チュカチュエロ
その存在以外は全くのオリジナル設定です。

原作では終盤にちょっと登場シーンがあるだけです。

※ルーカ・ヤクヴ・イルツァコフ(愛称、ルコ)
……完全なる創作設定です。
「シュウ」のキャラを守るなら絶対に手を出しちゃいけない領域なんですが、少佐(シュウを”影”として育てた人物)との物語を書く素材として、どうしても欲しかったとです!
どうしても書きたかったとです!m(__)m

ちなみに、「ヤクヴ」は私たちの世界でいう「ヤコヴ(ユダヤ人を指す固有のファミリーネームの一つ)」をもとに付けました。
なので、「ユダ人」も「ユダヤ人」をイメージしています。

この世界でも「ユダヤ人迫害」、「ホロコースト」と同じ行為が行われた設定にしています。
シュウの両親は自分たちが「ユダ人」であることを隠すため、他人には「ヤクヴ」の名を出さないようにシュウに教育していました。

「ホロコースト」
アドルフ・ヒトラー率いる国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス党)が第二次世界大戦中にユダヤ人などに対して行った迫害、大量虐殺のことです。

※ホンマの後書き
今回、自分の中ではどうにか「書き終えた感」を得られたんですが、読み返してみるとどうにも無駄に小難しく書いてるなあという印象を覚えました。
今さら書き直そうとも思いませんが(時間もありませんしww)。
読者の皆様、なにとぞご勘弁してくださいまし。
そしてあわよくば、このヘタクソな文章から私の書きたかったことを読み取っていただけると幸いです
(まあ、ヘタクソはいつものことですがww)m(__)m
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