死の恐怖に俺はなる!(ドォン! 作:ルーニー
俺は死んだ。なんで死んだのか、どうしてそれを覚えているのかなんて分かるはずもなく、ただそういうものだということだと今は納得している。
前世の俺は技術が発達していた世界だった。馬も牛も必要としない、純粋な技術だけでそれら以上の働きをする機械があるのが当たり前の世界。
そこに生きていた俺は、ただの凡人だった。家族と過ごして、友達と笑って、先生とケンカして、そんな当たり前の人生だった。
なにも特別なことはない、普通の日常。物足りないと思うことは多々あったけど、それでも楽しいと言える人生だった。
次に気がついたら、俺は別の人間として生きていた。それこそ思い出したかのように、突然前世の記憶が頭のなかに入れ込まれた。
どうして、なんで、俺は誰なんだ、記憶が出てきたときはそんなことばかり考えていた。
俺は誰なんだ、前の世界の人間なのか、それとも今を生きる人間なのか。どうして今記憶が出てきたのか。なんで俺がこんな目に遭うんだ。そんなことばかり考えていた。
そんな俺を救ってくれたのが、俺の祖父であり、そして弟だった。
祖父は女にだらしない男だった。純粋な弟に、やれハーレムだやれ出会いだの、少なくとも齢一桁の子供に聞かせるような内容ではないことばかりを話していた。
そのおかげで純粋だった弟は大好きな祖父の言葉を信じ、いつか自分もと英雄に憧れるようになった。
英雄に憧れるのはいい。あのぐらいの子供はそういうものだろう。だが、その理由がいただけない。前世の記憶が出てきた俺は思わず頭を抱えたものだった。
でも、そんな2人だったからこそ、俺は俺なんだと、俺は今ここにいるんだと思えるようになった。
しばらく経ってから、俺は育った故郷を発つことにした。年齢はまだ小学校を卒業するぐらいの年だったけど、前世の記憶があるせいなのかはわからないけど見た目は高校生ぐらいだから問題ないだろうと思っていた。正直このまま村で過ごすのも悪くはなかったけど、祖父が話していたダンジョンというものに興味を持ったからだ。
祖父は嬉しそうに笑っていたが、弟は寂しそうな表情で泣きそうになっていたのを今でも覚えている。
だから、俺は弟と約束した。オラリオでまた会おう、と。その言葉を聞いた弟は、目尻に涙を溜めながらもやる気の溢れた顔で頷いていたのは覚えている。
村を出て、俺は行商人と共にダンジョンのある街へと向かった。道中で野盗に襲われながら、モンスターに襲われながらも、戦って、逃げて、戦って、逃げて、それを繰り返してようやくダンジョンのある街、オラリオにたどり着いた。
初めて入ったダンジョンの街は、見たことのないもので溢れていた、まさに異世界とすら思えるほどに、その街は見知らぬもので溢れ返っていた。
それを物珍しげに眺めながら、俺は冒険者となるために神を探していた。祖父からダンジョンに入るためには冒険者なる必要があることは聞いていた。そして、冒険者となるためには神に会い、その身に冒険者たる印をつけてもらう必要がある。そう聞いていた。
それはわかっていた。けれど、その神がどこにいるのかは当時の俺には分かるはずもなく、途方にくれていた。
そんな中、冒険者と名乗った男女の2人組から声をかけられた。話を聞くと、初めて来た冒険者志望に声をかけては案内をしていると言っていたから、俺は渡りに船だと思った。
俺はその2人を信じて、2人についていき、他愛もない話をして、そして狩られかけた。
後で知ったことなんだが、その2人は新しく冒険者になろうとしている人を見つけては金や金目のものを全て剥ぎ取り、そのまま殺している犯罪者だったらしい。
人気のない場所に連れてこられた俺は、そのまま不意討ちを喰らって半分意識が飛んでいる状態だった。その中でもなんとか食らいつこうとしたのだが、
それでも必死に抵抗をしていたところに、今世話になっているファミリアに助けられた。
助けられた俺は、どうしてかそこの神に気に入られてファミリアの一員となった。
ファミリアは、楽しかった。前世でもいろんなコミュニティで大勢の人と関わることはあったけど、ここはそれとは違う、もう1つの家族とも言える場所だった。
みんなと騒いで、ケンカして、笑って、泣いて、そんな当たり前がここでもできた。それは幸運なことなんだろう。
けど、ここで過ごしてきた時間は、あの運命との出会いのためのものだったんだろう。そう確信できる。
運命と出会った日は、いつもと変わらない日だった。階位の上がった後輩の面倒を見るために、やたらと絡んでくる後輩と共にダンジョンに潜った時だった。
特にこれと言った異変もなく、後輩が階位が上がったことによる体のズレも調整し終えたときに、それは突然現れた。
それは生きる意思を、生きたいという欲望を掻き立てられるほどの、
2人はその存在の恐怖で逃げようとしていた。確かに怖い。目の前の存在は、俺たちを殺すのに十分な力を持っているだろう。だけど、それ以上に俺は興奮と喜びを感じていた。
右腕が熱くなった。気がつけば俺はそれに向かっていた。死ぬかもしれない。そんな感情はあったが、それも僅かな程度。これに殺されるのなら本望だとすら思っていた。
結果から言えば、俺たちは勝った。いつの間にか俺以外にも2人も参戦していて、でも全員が死にかけた戦いだった。正直に言えば俺1人だけだと殺されていたと断言できるほどに強かった。
けれど、俺はやっとこの戦いで力を手に入れた。右腕に宿っていた腕輪の力を使い、死の恐怖の力を奪ってやった。
どうして腕輪が俺に宿っているのか。なんで死の恐怖がここにいるのか。そんな疑問もあったけど、もう全部がどうでもいい。
俺は、死の恐怖になれる。そのために、もっと強くならなければならない。
すべてを屠る力が欲しい。憧れに近づくために、痛みの森もクリアできるような、強さが必要だ。
力だ。力をよこせ。俺が