死の恐怖に俺はなる!(ドォン!   作:ルーニー

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かきだめ?そんなもの、うちにはないよ


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「――――――――――――」

 

悲鳴にもならない声が、ダンジョン内に響き渡った。その声の発生源である明らかに人ではない生物、モンスターの声が徐々に小さくなっていき、そして塵と球体のみとなった。それを身の丈以上の大剣を担いだ青年は冷めた目で見ていた。

 

「……雑魚が」

 

忌々し気に吐き捨てるようにそういう彼は、灰の中に埋まっていた球体を踏み潰す。魔石が割れる小気味いい音がダンジョン内に響く。その音を青年はどうでもよさそうな表情で鼻を鳴らし、そのまま下へと向かおうとしていた。

 

「あ!いた!」

 

青年の背後から明るい、しかし切羽詰まったような声が響いた。その声を聴いた青年は眉間にしわを寄せて声のする方向へ顔を向ける。そこには身の丈以上の両剣を持つ褐色の少女が慌てたように走ってきていた。

 

「こんなところにいた!もう戻ってくる期限とっくに過ぎてるんだよ!?」

 

「知るか」

 

いかにも怒っている、といった風ではあったが、同時に安堵の表情を浮かべている少女に、青年は目に見えて面倒くさそうな表情を浮かべる。

 

「リヴェリアがカンカンだったよ。期限も守れないとは何事だって」

 

「知ったことか」

 

吐き捨てるように言う青年に、少女は諦めたようなため息をつく。これもいつものことだ。いつもそうだった。たった1人で勝手にダンジョンに潜っては全身傷だらけで戻ってくる。期限を設けさせてからはまだマシにはなったが、それでも今回のように期限を守らないことは多い。

 

「あと、ロキも怒ってたよ。しばらくはステイタスの更新はしないしダンジョンにも潜らせない、って」

 

「……ッチ」

 

忌々しい、と言わんばかりに舌打ちをする。今までも際限なくダンジョンに潜り続けていたこともあり、カンカンに怒った主神ロキが期限までに戻らなかったとき、遅れた日数に比例してステイタスの更新、そしてダンジョンに潜ることを禁止すると決定した。青年はこれを無視してもよかったのだが、そうした場合装備は取り上げられ文字通りに拘束、監視が行われ満足に外に出ることもできなくなる。

このことに青年は怒り心頭だったが、従わないなら2度とステイタスの更新を行わないという脅しに屈し、しぶしぶと従うことになる。

これにロキたちは安堵した。昔ならともかく、今の青年は下手をすれば改宗する可能性もあった。それをしないのは、ひとえにまだここにいたいという気持ちがあったのだろうとロキたちは信じていたが、実際の青年の心はどうなのかはわかっていない。嘘を見抜く神も心中までわかるわけではない。

 

「……ねぇ、ハセオ。どうしてここまでするの?こんなことしなくても十分に強いよ」

 

まるで言い聞かせるかのように言うが、ハセオは自嘲するかのような笑みを浮かべた。

 

「……強い?これが?」

 

武器を握った手を眺め、そして忌々し気に表情をゆがませたハセオは、同時にあらゆる方向へ憎しみを向けているかと思うほどに武器を握る力を強める。

 

「こんなんじゃ全然足りない。あぁ、足りてない。届いてもいない。これじゃダメだ。こんなんじゃハセヲに近づけない」

 

コポリ、とハセオの背中からとても小さい黒い斑点のような何かが発生した。しかし、それに気づくものはここにはいない。見えている位置にいるはずのティオナも見えていないかのようにハセオを心配する。

 

「……ここにいたか、ハセオ」

 

そんな中で響いたのは、とても冷たい声だった。ティオナが思わず体を震わせて声をしたほうを見ると、少年並みに小柄ながらもその姿から出ているとは思えないほどの威圧感を以って2人、正確にはハセオを見ていた。

 

「団長様直々たぁ、ロキ・ファミリアも暇なもんだな」

 

鼻で笑うように、あざ笑うように自身が所属している団長を見る青年。団長と呼ばれた少年は、フィンは表情に何も浮かべることなく淡々と言葉を口にする。

 

「……戻ったら君は拠点地(ホーム)で待機だ。次の遠征の間もずっとね」

 

「……あんだと?」

 

あざ笑うかのような笑みと打って変わって怒りで顔をゆがめる。ゆっくりと、しかし重々しくフィンへ向かって歩いていくハセオの表情は、フィンに近づくにつれて徐々に怒りの色を濃くしていった。

 

「テメェどういうつもりだ?」

 

そこいらの冒険者なら裸足で逃げていきそうなほどの怒り。それをフィンに対して向けられているというのに、向けられている本人はまるで何事もないと言わんばかりに表情を変えることなく、むしろ怒りを表情に出していた。

 

「それはこっちのセリフだ。期限を過ぎたというのに謝罪もなく、挙句決定に逆らう。今度遠征するのは50層よりも下の階層なんだ。足並みもそろえようとしないやつを入れるような余裕はない。例えそれが僕と同じかそれ以上の実力を持っていたとしてもだ」

 

にらみ合いが続いた。空気が震えていると錯覚しそうなほどに異様な雰囲気の中、どうすればいいのかわからずに右往左往するティオナを尻目に、ついにハセオが大きく舌打ちをして大剣を持った手を大きく振り上げた。

 

「クソがッ!」

 

どんなことをしようとも意見が変わることはない。それを知っていて、そして再び理解したハセオは感情のままに壁に大剣を叩き込む。壁に亀裂が走り、ちょうど出現しかけていたモンスターに深くえぐりこんだ大剣は、しかしすぐに荒々しく引き抜かれて怒りのままに進むハセオに引きずられていく。

 

「……ねぇ、いくらなんでもあんな言い方をしなくてもよかったんじゃ……?」

 

「ダメだ。今回ばかりはハセオの独断専行を赦すわけにはいかない。勝手に動かれたときにかかる負担を考えたら、今のままでは遠征に加えさせられない。絶対にだ」

 

怒りのままに行動しているとはいえ、ちゃんと地上のほうに足を進めていることを確認したティオナは恐る恐るといったようにフィンに声をかける。しかしフィンも毅然とした態度でティオナの言葉を否定する。

フィンはハセオが嫌いで遠征に加えさせないと言ったわけではない。しかし、今回の期限を破ったことを見逃せるほどハセオの行動はフィンの中では重いものだった。

 

「それに、遅くても1週間後には遠征を開始するというのに、今から戻っても1日以上はかかる。さらにハセオは1ヵ月近くもの間ずっとダンジョンに入っていたんだ。疲労がたまった状態でダンジョンにいられることほど怖いものはない

今もそうだ。黙っていて遠征途中で合流したときのことを考えたら、こうやって数日をハセオの捜索でつぶしたほうがはるかにマシだ」

 

仮に遠征の途中で合流してしまった場合、間違いなくまともな休憩をすることなく遠征に混ざる。下手をしなくても一級冒険者ですら死んでしまうことすら考えられる場所へ行くというのに、万全には程遠い状態の、しかも指示に従わないとなるとほかの人を巻き込んで死んでしまう可能性だってある。

それをわかっているからティオナは何も言わない。何も言えない。

 

「……ねぇ、フィン」

 

悔しそうな表情を浮かべたティオナは、団長に問いかけるように言葉を吐き出す。

 

「なんで、ハセオはあんなに変わっちゃったのかな」

 

「……僕も知りたいさ」

 

団長の口から出された言葉は、ティオナと同じく重々しく吐き出された。

 




マイルドヤンキー風にできているか不安ざめ
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