IS/ガンダム00 crossing exceptioners   作:A.Tom

14 / 41






二人目の(おさ)なじみ

「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実践(じっせん)してもらう。織斑、オルコット、小鳥。飛んで見せろ」

 

 四月下旬(げじゅん)、クラスの人間関係が固まりつつある(ころ)

1-1クラスでは、実習訓練が行われていた。

 指示に従い、セシリアは左耳のイヤーカフスに触れる。

その直後、彼女の総身(そうしん)は光に(つつ)まれ、一瞬後には彼女の専用機『ブルー・ティアーズ』を纏うセシリアの姿だけがあった。

 

「早いもんだなぁ・・・」

 

 しみじみと呟く一夏(いちか)を、千冬(ちふゆ)(しか)りつける。

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者(そうじゅうしゃ)展開(てんかい)まで一秒とかからんぞ」

 

 言われて、一夏は右手で左手首のガントレットを(にぎ)り、心の内で呟く。

 

(来い、白式(びゃくしき)・・・・・・!)

 

 その(となり)で、小鳥(おどり)は、(たて)10cm(センチメートル)横7cm(センチメートル)の灰色の小型(こがた)端末(たんまつ)を手に握っていた。

 

「来い」

 

 短く、しかし強い言葉。それが合図(あいず)だ。

端末は光と(ほど)け、セシリアに(せま)る速度でその身体を(おお)う。

 ほぼ同時に展開を完了(かんりょう)した二人は、白と銀と言う非常に似たカラーリングの機体に包まれていた。

 

「よし、飛べ」

 

 二人の機体の展開を確認した千冬は、強い口調で命令を(くだ)す。

そこからの行動はセシリアが早かった。

 

「は、早いな」

 

「まぁ仕方ねぇだろ」

 

 二人も続くが、どうも速度が出ない。

セシリアが空中で止まり、小鳥が半ばに到達(とうたつ)したとき、一夏はと言うとさらにその三分の二にやっと届く所だった。

 

「何をしている織斑(おりむら)推力(すいりょく)は白式の方が上だぞ」

 

 セシリアにとって乗り慣れたブルー・ティアーズなら()(かく)、未完成である筈の銀影にのり慣れない筈の小鳥に負けるのは可笑(おか)しい。

そう千冬からお(しか)りを受けた一夏は千冬に聞こえない事を良いことに不満をぼやく。

 

「そう言われたってなあ、『前方に円錐(えんすい)を作り出すイメージ』ってなんだよ」

 

 愚痴(ぐち)りながらも目的地点にたどり着く。白式の高スペックには感謝しかない。

 と、嘆息(たんそく)している一夏の横からセシリアの声がかかる。

 

「イメージはたかがイメージですわよ。

(すす)められたやり(かた)をひたすらやるよりは、自分にとってやり(やす)い方法を考えた方が建設的ですわ」

 

「って言われてもなぁ・・・。大体、空を飛んでる今でさえ、その感覚があやふやなんだ。そもそも、どうやって浮いてるんだこれ」

 

 白式には翼に相等(そうとう)する突起が二つ一対(いっつい)で存在するが、どう考えても飛行機のそれとは理屈が違う。

翼の向きとは関係無しに好き勝手に方向転換できる時点で揚力(ようりょく)ではないのは確かだろう。

 

「お前な・・・それ(しょ)っぱなの授業でやってたろ・・・」

 

 一夏の(げん)を聞き、小鳥が呆れたように肩を落とす。

 

「細かい事は(はぶ)くが、ISが飛べる理由としては、P(ピー)I(アイ)C(シー)・・・パッシブイナーシャルキャンセラーが重力を相殺、その上で行きたい方向に向かう力場(りきば)を形成するからだ。わかったなら、補習(ほしゅう)(はげ)めよ?一夏」

 

 いやらしい笑みを浮かべる小鳥。

今の(ところ)勉学においては圧倒的に小鳥が優位(ゆうい)なようだ。

 

「なるほど、わからん」

 

「だろうと思ったから励めと言ったんだバカめ」

 

「はいはい・・・。それはそうとセシリアが何か不機嫌(ふきげん)っぽそうなんだけど」

 

 小鳥に近づき、耳打ちする一夏。

確かに言われてみれば、小鳥が一夏に説明を始めた辺りからセシリアの顔が明らかに雲っていた。

問われた小鳥は、その理由を(さっ)しているだけに苦笑いだけで(こたえ)を言わない。

 

「ついでだが、下を見てみな」

 

「お、おう」

 

 小鳥に(うなが)されるまま下を見る。そこには(あき)らかに怒りを()びる箒の顔、その睫毛(まつげ)の一本さえもが『()えた』。

 

「うわっ・・・凄いな」

 

 ISに標準(ひょうじゅん)搭載(とうさい)されたハイパーセンサーにかかれば、これくらいは余裕(よゆう)らしい。

この分なら月の表面くらいは楽勝で見えそうだ。

 

「ちなみに、これでも機能制限がかかっているのでしてよ。元々、ISは宇宙空間におけるパワードスーツが目的でしたから、星々(ほしぼし)から己の位置を特定する機能もあるようですから、この程度は見えて当たり前ですわ」

 

「だ、そうだ」

 

「へぇ~。サンキュ、セシリア」

 

 流石(さすが)候補生、知識面でも頼りになる。

一方専属コーチの箒は説明がアバウトで、

 

 

『ぐっ、とする感じだ』

 

『どんっ、という感覚で行け』

 

『ずがーん、と言う具合だ』

 

 

・・・・・・とまぁ、異様(いよう)にオノマトペが多く、口に出しては言えないが役に立ちそうにもなかった。

 そんな箒の説明にセシリアが口を出してケンカになるのがここ最近のパターンと()している。

 

(俺に対して態度(たいど)軟化(なんか)した分、箒への当たりが強くなっているのは気のせいかなぁ)

 

 実際(じっさい)気のせいではないのだが、その原因となっているのが自分だとは気づいていない一夏である。

 と、少しの(あいだ)話をしていた三人に、千冬の声が飛んできた。

 

「三人(とも)所定(しょてい)の位置に着いたな。急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地上10cmだ」

 

「了解です。では一夏さん、お先に」

 

 言うが早いか、セシリアは地上へ向かう。

みるみる内に遠くなるその背中を、残された二人は感心しながら(なか)める。

 

上手(うま)いもんだなぁ」

 

 完全停止もどうやら上手くいったらしい。

それを見届けた一夏は、小鳥より先に降下体勢に入る。

 

「よし、俺も━━━」

 

 意識を集中させる。

想像するのは背中からロケットファイアが燃えるイメージ。

円錐を思い起こす事はしない、先程はそれで推力が上がらなかったのだから、セシリアの言うように自分のオリジナルでやってみる。

思惑(おもわく)(どお)りに加速に乗った一夏は、

 

「わぁぁあ!?

 

(すさ)まじい勢いで地面に激突(げきとつ)。もとい墜落(ついらく)した。

地上の面々(めんめん)も、(いま)だ上空に泳ぐ小鳥も『うわ~』と、目の前の惨状(さんじょう)に目を(おお)っていた。

 

「大丈夫ですの?一夏さん」

 

「・・・・・・なんとか」

 

 ISのダメージカットの力によって肉体にダメージは無いが、クラス女子の視線はひしひしと感じる。

心配をしてくれているセシリアの優しさでさえ何だか傷心(しょうしん)()みる。

 

「馬鹿者、誰が墜落しろと言った」

 

「・・・・・・すみません」

 

「情けないぞ一夏。昨日教えただろう」

 

「・・・・・・すみません」

 

 ゲンナリとした一夏へ肉親と幼なじみのお叱りの声が()かる。なげやりに返事をしてしまうのも仕方が無いだろう。

 

「お怪我は()りませんか」

 

「大丈夫・・・どこも痛くない」

 

「そう。それは何よりですわ」

 

 ふふふ、と(たの)しそうに笑うセシリア。

秋空(あきぞら)の天気などより(はる)かに予測(よそく)困難(こんなん)女心(おんなごころ)(まど)いながらもクレーターから立ち上がる一夏。

 

「・・・・・・ISを装備して怪我などする訳ないだろう」

 

「あら(しの)()()さん。ISの有無に関わらず、他人(ひと)の事をおもんぱかるのは当然の事でしてよ」

 

 と、二人が口喧嘩を始めようとしたその時、轟音(ごうおん)を上げて小鳥が急降下してきた。

 

「━━━━━━ふんッ」

 

 頭を進行方向に向けていた小鳥は、地面より10mの地点で身を(たて)(ひるがえ)し、スラスターを全力噴射、地上2mで完全に停止した。

 

「チッ、2m60・・・・・・。おおよそ20点ってとこか」

 

 遠回しに一夏がそれ未満だと、他人にも自分にも辛口(からくち)評価(ひょうか)を下す小鳥。

と、舌を打つ小鳥に(あゆ)()り千冬がさらに辛口な評価を言い渡す。

 

「完全停止は成功したようだが・・・誰が大穴を開けろと言った。10点だ」

 

 スラスターを全力噴射した反動で小鳥の足元のグラウンドは、浅く広い穴が空いていた。

それを見た小鳥は、先程よりも大きな舌打ちを放ち悪態を()く。

明らかな反抗的態度に眉をひそめる千冬だが、何に対する舌打ちか判断しかねたようで、何も言わずに一夏に次の指示(しじ)を出し始める。

 

「織斑、武装を展開しろ。それくらいは出来るだろう」

 

「は、はぁ」

 

「『はい』だ」

 

「・・・はい」

 

「よし、始めろ」

 

 指令を受けた一夏は周囲の人物との距離を確かめ、正眼に手を(かま)える。

 

(━━━鋭い、薄い、硬い、斬るイメージ)

 

 最大まで集中力が高まると、構えた両の手から光が放たれる。

 

(・・・よし、来いッ!)

 

 その光を確信を(もっ)て握り潰す時、一夏の手には『雪片(ゆきひら)弐型(にがた)』が握られていた。

 つい一ヶ月前まで平凡な受験生だった一夏にとって、『手の中に刀が現れる』イメージというのはかなり難しく、ここ最近の特訓はそればかり練習していた、

 

「遅い、0.5秒で出せ」

 

していたのだが、これでも遅いらしい千冬からまたもやお叱りを受けてしまう。

 

(ISと一緒に装備が出てくる小鳥が(うらや)ましい)

 

 (さや)ごと出てくれるのなら、まだ楽だったかも知れない。それこそ箒に教われば武装の展開もスムーズにいくと思う一夏だが、口に出すことはせず困ったような顔をするだけに(とど)める。

 

「次はオルコットだ、武装展開をしろ」

 

「はい」

 

 言うなり右手を横に突き出すセシリア。

すると、爆発的に光が放出、収束(しゅうそく)し、ライフルが出現した。遠距離戦を十八番(おはこ)としているだけありその出現速度は早く、(なお)()つ戦闘体勢も万全であり、後は安全装置(セーフティ)さえ外せばいつでも撃てるようになっていた。

その出来の良さに小鳥も思わず口笛を吹き鳴らす。

 

「流石だな代表候補生・・・・・・。だが、そのポーズは()せ、横に居る誰を撃つんだ?」

 

「で、ですが、これは集中する為に必要な、」

 

「一週間以内に直せ。良いな」

 

「・・・・・・はい」

 

 反論を一睨(ひとにら)みで()(つぶ)す千冬。

流石に口に出して反論はしないが、言いたい事は沢山あるらしい。苦虫を潰したような顔で黙り込むセシリア。

と、頭の中で呪詛(じゅそ)(たぐい)(とな)えていたであろうセシリアに次なる指示が飛んだ。

 

「セシリア、近接戦用の武器を出してみろ」

 

「えっ?あっ、はいっ」

 

 完全に自分の世界に入っていた時に出された唐突(とうとつ)な指示に驚きながらも、それ(したが)()いた左の手に光を放出するセシリアだが、

 

「くっ・・・・・・!」

 

 その光は、ライフル『スターライトMk(マーク)-(ツー)』の時とは違い、すぐには像を結ばず放出点を起点(きてん)とし、(ちゅう)をくるくるとさ(まよ)う。

 

「どうした。まだか?」

 

「す、すぐです!」

 

 とは言いつつも、光は一層(いっそう)散乱し、セシリアの顔を焦燥(しょうそう)(ゆが)める。

 

(どうやら、近接戦は基本的にやんねえみてえだな)

 

 遠距離武器の際はあれほど見事な展開を見せたと言うのに、近接武器を呼び出そうとしている今の展開速度は、一夏のそれにさえも劣る。

 ISの操縦というのは、基本的にイメージの強固(きょうこ)さがものを言う。

IS歴が1ヵ月にも満たない一夏がそれなりに速く雪片を呼び出せたのは、ブランクがあったとは言え彼が剣道経験者だったからであろう。

 

「ああもう!『インターセプター』ッ!」

 

 と、四苦八苦(しくはっく)していたセシリアは、(はか)自暴自棄(ヤケクソ)気味に武器の()を唱える。

すると、手元で行き場を失っていた光はゴール地点を見つけたかのように集束(しゅうそく)し、決闘の時に出したナイフのような物が出現した。

 

(・・・・・・マジか)

 

 小鳥が驚いたのはその手法(しゅほう)だ。

武器の(めい)を呼ぶ展開法(てんかいほう)は、教科書において『初心者のやり方』だと記載(きさい)されているような方法である。

 慣れていないのは重々(じゅうじゅう)承知(しょうち)していたが、真逆(まさか)そんな方法で呼び出すとは思わなんだ。

小鳥の中でセシリアの(かぶ)がやや下がってしまう。

 それを自覚している為に、セシリアもその屈辱(くつじょく)(くちびる)()んでいた。

 

「何秒かかっている。お前は実戦で相手に待ってもらう(つも)りか?」

 

「じ、実戦では間合いに入らせません!ですから問題ありませんわ!」

 

「ほう、あの初心者二人相手に(ふところ)(はい)れられていたようだが?」

 

「あっ、あれは、その・・・・・・っ!」

 

 懸命に反論を試みるセシリアだが、それらが一々事実な為に口許(くちもと)でどもってしまう。

『大変そうだなぁ』と量子(りょうし)変換(へんかん)武器のない本当に他人(ひと)(ごと)の小鳥。その(となり)に立つ一夏はと言うと、何故(なぜ)か苦い顔をしている。

それもその(はず)。キッ、とセシリアから睨まれた一夏は、

 

貴方(あなた)のせいですわよ!』

 

(なんでだよ)

 

『あ、貴方が(わたくし)に飛び込んでくるから・・・』

 

(そりゃあ、近接武器しか無いんだから仕方ないだろ)

 

『せ、責任をとっていただきますわ!』

 

(なんのだよ)

 

 とまぁプライベートチャンネルによって一方的に言われっぱなしだった。

(ちな)みに、プライベートチャンネルの使い方がよく解らない一夏は、返事を返しておらずセシリアからの怒りの声を甘んじて受けるしか出来ていない。

 と、理不尽な愚痴(ぐち)を聞かされる内、授業終了の(かね)が鳴らされた。

 

「時間だな。・・・・・・今回の授業はここまでだ。織斑、小鳥、グラウンド、片付けて置けよ」

 

「はい」

 

Yes ma′am(了解しました)

 

 一夏、小鳥の開けた穴はそれなりに大きく、小鳥のそれに(いた)ってはスラスターの(ぎゃく)噴射(ふんしゃ)によって開いた為、一夏のそれよりも土が舞い上がっている。

 

(━━━━って、土どこにあるんだ?)

 

 スラスターの風を箒()わりにグラウンドの土を()き集めることを小鳥が思い付くまで、頭を抱えるしかない一夏だった。

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 その日の夜、IS学園のゲート前に、小柄(こがら)な少女が体に不釣(ふつ)り合いなボストンバッグを(かか)えて(たたず)んでいた。

 

「ふ~ん、ここがIS学園なんだ・・・」

 

 肩にかかりそうなサイドアップツインテールの髪型を風に(なび)かせ、自身の居場所を確実(かくじつ)なものにすべく、行き先を探す彼女の名は(ファン)鈴音(リンイン)人類革新連盟(じんるいかくしんれんめい)の主要国、中国(ちゅうごく)の国家代表候補生である。

 

「えーと、受け付けってどこにあるんだっけ?」

 

 上着のポケットをごそごそとかき回し、一枚の紙を取り出す。長旅と彼女自身のガサツな性格を表すようにグシャグシャとなったそれを広げると、目的地の場所を探し文面(ぶんめん)を読み始める。

 

「本校舎一階総合受け付け・・・・・・ってだからどこにあんのよ」

 

「アッチですヨ」

 

「わぁっ!?」

 

 彼女がぶつくさと文句(もんく)を言うと、横から男性の声がかかった。

声の方をみる鈴音の右方(うほう)には、髪を後ろ纏めにした半開きの目付きをした少年がいた。

 

「だっ、誰よアンタ!?」

 

 見知らぬ少年は、おどけた調子でレジ袋を持った腕で肩をすくめ、鈴音の質問に質問で返す。

 

「オイオイ。仮にも親切に道案内してくれてる人にその言い方はないだろ」

 

「いつの間にか横に立ってる不審(ふしん)(しゃ)に言われたくないわ!」

 

「不審者とは失礼(しつれい)な」

 

 ムッと眉を(ひそ)める少年は、それならばと()(いき)()じりに(おのれ)の名を名乗る。

 

「俺の名は小鳥(おどり)(ゆう)、世界で二人目の男性IS乗りだ。そんな俺を不審者と言うお前は誰だ?」

 

 その言葉を聞いた鈴音は、全力で()()()()とした顔をしていた。

 

「え・・・え?い、一夏以外にもいたの!?」

 

「居るぞ」

 

「マジで!?」

 

真剣(マジ)で」

 

 と、鈴音の言を聞いていた小鳥は、思考の片隅(かたすみ)にひとつの疑問をしまい()む。

 

(『織斑(おりむら)』じゃなくて『一夏』ね・・・。アイツとの知り合いなのかねえ?)

 

 半開きの目を更に細くして、鈴音の存在を相関(そうかん)()に組み込んだ。

恐らくは(むかし)一夏がのろけさせたやつなんだろうな。と。

 

「はぁ・・・・・・もういいわ、受け付けはあっちなのよね?」

 

「おう。・・・あ~そうだ、一人目の男子(織斑一夏)の方はソッチのアリーナで特訓(とっくん)してるだろうから、(ひま)なら見に行くと良い」

 

「え、ちょ・・・ッ!」

 

 そう言って(りょう)(とう)へ歩く小鳥を見送るしかなかった鈴音は、少し迷って一夏の(もと)へと向かうのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

「あれ?」

 

「ん?どうした?」

 

 箒との特訓が終わり、半袖(はんそで)トレーニングパンツ姿の一夏とジャージトレパンの箒が、部屋へ向かおうとアリーナの廊下を歩いていると、どこかで見たことのあるツインテールが何かを探すように()れていた。

 

「・・・・・・あいつは」

 

 どこかで見たことある髪型だ、そのおさげの位置も見覚えがある。

 

「もしかして・・・(りん)か?」

 

 一人(ひとり)(つぶや)くが、その声は隣の箒に聞こえるだけで当の本人の(もと)へは届かない。

声を掛けようと足を動かすが、それより先に隣に立つ箒から声が掛けられる。

 

「おい、鈴とは奴の事か」

 

「ん?ああ、箒が小4の頃転校しただろ?そのちょっと後に入れ違いで転入して来た奴だよ」

 

 問う声、答える声それぞれが、アリーナの入り口に木霊(こだま)する。その声は当然、鈴音(りんいん)にまで届く。

 気づいた鈴音は一夏の方へと振り返り、

 

「あ、いち・・・か?」

 

一夏とその(かたわ)らに立つ箒の二人を見た瞬間に、表情が固まった。

 

・・・・・・彼女がこのような中途半端な時期に転入して来たのには、二つ(ほど)理由がある。

 まず一つ。現在、一学年の国家代表候補生が専用機持ちであること。

世界のISの数が限られている事、そのISが均等(きんとう)分配(ぶんぱい)されている事から、IS学園は現代社会における軍事力の縮図(しゅくず)となっている。

学園内での対戦で遅れをとるような事態があれば、数の力の無い現状においてそれは、その国の軍事力が劣っている事の証明となる。

まして、その舞台にさえ上がらないと言う事は開発が難航(なんこう)していると言っているようなものだ。

(ゆえ)に鈴音はセシリアの情報を得た中国、もとい人革連から再三(さいさん)入学を依願(いがん)されていたのだが、ものぐさかつ大人嫌いの鈴音はそれを毎度の事蹴っていた。

 

 そこで二つ目の理由だ。

結論から言えば、彼女は織斑一夏に好意を寄せている。

毎度の様にIS学園への進学依願書をゴミ箱へ投げ捨てた日の昼。彼女はポテチを(かじ)りながらテレビを見ていた。

何分(なにぶん)散漫(さんまん)とした集中力でテレビニュースを視ていた鈴音は、コップを手に取り烏龍(ウーロン)(ちゃ)をすすろうとしたときに、コップを落としかけた。

それもその筈、速報に流れてきた人物が幼なじみの顔だったのだから。

 

・・・・・・詰まる所彼女は片想いの相手に会いに来たいが(ため)にここまで来ているのだ。

しかし、一夏の隣には謎の女子が居たのだ。

しかもその距離も明らかに近い。まるで幼なじみのようだ。

 衝撃の現実に開いた口の(ふさ)がらない鈴音に、一夏が(あゆ)み寄る。

 

「お、おう。久し振りだな、鈴。一年ちょっと振りか?」

 

「え、ええ!それくらいじゃないかしら!」

 

 ハッとして我に帰った鈴音は、ぎこちない笑みを浮かべて一夏に応答する。

 

「そ、それにしても良く分かったわね、普通一年も会ってなかったら顔とか忘れない?」

 

「忘れねえよ、鈴とは良く遊んだからな」

 

 そう言われると、顔を赤らめてしまう。目の前で一夏の隣に立っている見知らぬ少女にさえ目が行かなくなる程に。

と、一夏との会話に夢中になっている鈴音に、箒が割り込んで来た。

 

「ん゛っ、んん!一夏、この女は何者だ?」

 

「いや、さっき言ったろ。こいつは、」

 

(ファン)鈴音(リンイン)、一夏の幼なじみよ」

 

 (つつ)ましやかな胸を張ってそう言う鈴音。しかし箒も負けじと大きな胸を張って宣言する。

 

「ほう、奇遇だな。私もだ」

 

「んなッ・・・・・・!?」

 

 突然の幼なじみ宣言に愕然(がくぜん)とした鈴音は、一夏に()()る。

 

「ど~ゆうことよ!?」

 

「どう、って言われてもその通りなんだが」

 

「あたしの知らないアンタの幼なじみだなんて存在するワケないでしょ!」

 

 事情が全くもって(つか)めてない鈴音は、困惑(こんわく)しながらも()(とう)な論理を()べる。

 

「い~や、そんなワケがあるのだ!」

 

「なっ・・・。良いわ、聞かせもらおうじゃない」

 

 鈴音が()い詰めたのは一夏の筈だったのだが、何故(なぜ)か我が物顔で答える箒。

 

「私は貴様の前に転校した幼なじみ。つまり初めての(おんな)友達(ともだち)と言うヤツだ!」

 

「な、なんですって!?」

 

 何だか『初めて』と言う部分が強調されている気がするが、事実なので仕方ない。

驚愕(きょうがく)した鈴音にそれが事実であることを肯定(こうてい)する。

 

「まぁ、その、何だ。こいつの名前は篠ノ之(しののの)(ほうき)。前に話さなかったけか?ほら、(りん)が小五の頭に転入してきただろ?箒は・・・」

 

 無言で『言っても良いのか?』と目配せを送る一夏。

箒は何とも言わないが『勝手にしろ』と顔を()らしたので、大丈夫だろうと判断した一夏は話し続ける。

 

(たばね)さんの妹でさ。要人(ようじん)保護(ほご)プログラムで小四の終わり頃に転校してて、ちょうど入れ()わりだったんだ」

 

 その説明に開いた口が閉じた鈴音。

その代わりに箒がむっとした表情になっているのは、どうか気のせいであってほしい。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

 と、話題が無くなった三人は、三者(そろ)って黙り込んでしまう。

 誰から話しかけたものかと様子を見計らっていた三人の間に、

 

『Pririririririri!』

 

「!?」

 

 突然携帯電話(けいたいでんわ)着信(ちゃくしん)が鳴り(ひび)いた。

 

「お、俺か・・・・・・。もしもし?」

 

 一夏の携帯から鳴っていたらしい、端末(たんまつ)起動(きどう)させる。着信(ぬし)は小鳥だった。

 

『おう、一夏。今どこだ?』

 

「あぁ、アリーナだ。特訓が終わったばっかりでさ」

 

『そうか・・・まぁ良い。部屋に戻って着替えたら()()えず教室(きょうしつ)に来い』

 

「お、おう。解った」

 

『別段急ぐ必要は無い、一応(いちおう)十時までに着けば問題は無いからな』

 

「あ、ああ」

 

『じゃあまたな』

 

 小鳥からの一方通行な会話は小鳥の一方的な切断によって切られ、一夏も豆鉄砲を食らった様な表情で通話を終了させる。

 

「誰からだ?」

 

「小鳥からだった。なんでも、『教室に来い』だってさ」

 

 何が目的かは知らないが、あの雰囲気(ふんいき)ではすっぽかすとロクなことにならなさそうだ。







  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。