IS/ガンダム00 crossing exceptioners   作:A.Tom

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セイロンロンパ~脅迫状付き~

 同日の放課後、アリーナの中央で立つ専用機持ち三人の前に、意外な人物が居た。

 

「な、なんだその顔は・・・。何か可笑(おか)しいか」

 

「いや、その、おかしいって言うか━━━」

 

「どうしてここに篠ノ之(しののの)さんが居ますの!?」

 

 その人物の名は篠ノ之(ほうき)。専用機持ちではないため一夏(いちか)の放課後特訓に実質的な参加が出来ていなかった人物だった。

 

「いや、訓練機借りたからだろ」

 

 珍しく特訓に参加している小鳥が、冷めた声音で()げる。

 一目(ひとめ)見れば解ることだろう。実習で良く使われるIS“打鉄(うちがね)”を(まと)うその姿を見れば理解に苦しむ事などありはしない。

 

(いやはやしかし打鉄(うちがね)を使うとは・・・本人の事も相まって(さむらい)にしか見えん)

 

 打鉄(うちがね)・・・。その容姿(ようし)を一言で表すのならば『鎧武者(よろいむしゃ)』と言うべきだろう。肩部(けんぶ)の大型第シールド、どう見ても日本刀の近接ブレード、積層構造による装甲の形成。どこを切り取って見ても和のイメージを(まと)う日本製ISだ。

ハードウェアにおいては防御力と姿勢制御(しせいせいぎょ)に、ソフトウェアにおいては汎用性(はんようせい)に重きを置いた設計で、小鳥が触ってきた量産型ISの中でも『使い易い機体』と言う印象がある。

 

 ただ、特化した戦闘においては汎用性の高いOSが(かえ)って思い通りの動きを邪魔すると言った欠点を持ち合わせる為、専用機ではなく訓練機としての(あつか)いが適当な機体でもある。

 

(ま、そこら辺は箒の練度(れんど)によりけり・・・と言った所か。どうあれ近接(きんせつ)戦闘(せんとう)の練習相手が来たと言うのは歓迎(かんげい)すべき事か)

 

 オレンジ色のバイザー越しに状況を静観(せいかん)する小鳥。

これからのクラス代表戦誰と当たるかは分からないが、箒の近接戦闘の力量は自分よりは上だろうし、別に困る事は無いだろう。

 

「と、兎に角だ!これからは私が一夏の指南(しなん)をする。さぁ一夏、刀を抜け」

 

 やる気満々の箒。抜かれた刀は(するど)く、(にぶ)い輝きを放つ。

やはり、彼女には日本刀が似合うことだ。雪片(ゆきひら)弐型(にがた)を構える一夏に比べて随分(ずいぶん)(さま)になっている。

 

「いざ尋常(じんじょう)に━━━」

 

 上段の構えで力を()める箒、早速(さっそく)模擬戦(もぎせん)を始めるつもりらしい。

が、しかし。

 

「お待ちなさい!一夏さんのお相手をするのはこのわたくし、セシリア・オルコットでしてよ!」

 

「ええい邪魔な・・・!」

 

 一夏と箒との間にセシリアが物理的に割って入って来た。

()き手の右手には近接ブレード“インターセプター”が(にぎ)られ、いつもそこにある(はず)のスターライトは左手にある。

どうやら自分が近接戦闘においても自分が優位であることを(しめ)したいらしい。

 

「ならば()る!」

 

「訓練機に遅れをとる程優しくはありませんわよ!」

 

 しかも箒がその挑戦に乗った為に、一夏そっちのけで戦闘が始まった。

 

(あーあーあー。コイツら本来の目的(わす)れてねえか?)

 

 箒の袈裟(けさ)()りを受け、衝撃を後退する事で殺しつつ距離を取ったセシリアは、左手のスターライトMk-Ⅲで箒を狙い打つ。最早(もはや)近接戦闘を教える云々(うんぬん)は関係無いらしい。

 

「はああああっ!」

 

「甘いですわ!」

 

 ガシャガシャの音を立て、一夏へ歩み寄った小鳥は、二人が争う理由になっている当人(とうにん)に問いかけた。

 

「どうした?どちらかに加勢(かせい)しないのか?」

 

「そんなことしたらどっちか絶対(おこ)るだろ・・・」

 

「だろうな、賢明(けんめい)な判断だ」

 

 とは言え、まだまだ読みが甘い。どちらかに味方せずに怒らせると言うのなら、

 

「一夏!」

 

「何を談笑(だんしょう)していますの!?」

 

「いやだって、どっちかに味方したらお前ら怒るだろ!?」

 

「「当然(とうぜん)!!」」

 

・・・・・・どちらにも味方しなかったらどちらも怒るに決まっているだろう。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

「では、今日はこのあたりで終わりと言う事にしましょう」

 

「お、おう・・・」

 

「ふん、鍛えていないからそうなるのだ」

 

 小鳥と一緒(いっしょ)に小一時間日本刀とビームの雨あられに追われ続けたからISのサポートがあっても息が上がって会話がしづらい。隣では両膝に手を突く姿勢の小鳥がゼーゼーと荒い呼吸を繰り返していて、声を上げる事すら出来ていない。

 一方のセシリア、箒の二人はそこまでの疲労はしておらず、少し呼吸が大きいのとうっすらと汗をかいているだけだった。

 

「・・・・・・」

 

「何をしている、ピットに戻るぞ」

 

「あ、おう」

 

 汗に濡れる体の(つや)っぽさに少しだけドキリとしていたのをぼーっとしていると見られたのか、軽く叱られてしまう。

いつもは意識していないけれど、やはり自分も十代男子なのだなと心の中で思う。

 

「って、箒?」

 

「な、なんだ?」

 

「なんでこっち側に来るんだ?」

 

「何故も何も、私もピットに戻るからだ」

 

「それならセシリアの所に、」

 

「も、戻るピットなどどちらでも良いだろう!?」

 

 かなり食い気味(ぎみ)に言い切る箒。それならセシリアの方からでも良いと思うが、それを言うと不毛(ふもう)な口論が始まる気がしたので、それ以上の反論はせずに大人しく箒と一緒にピットに向かう。

 

「・・・小鳥は大丈夫か?」

 

「・・・・・・大丈夫だ・・・先に、戻ってろ。・・・後から、続く」

 

「おう・・・」

 

 疲れ果てた小鳥の、途切れ途切れの返答に本当に大丈夫かと思ってしまう。

多分、今日一番箒とセシリアに狙われたのは小鳥なのではないかと思う。逃げ回っている時は意識していなかったが、セシリアがライフルより火力の高いビットで狙っていたのも小鳥だし、箒との接触(せっしょく)頻度(ひんど)も小鳥の方が高い気がする。

 

(これって俺の特訓のはずだよなぁ・・・)

 

 本来の特訓の主役より経験値を稼いでいるのはどうなんだろう。

 

(あー。でも、仕方無いのかな)

 

 小鳥は普段から二人に嫌われている(ふし)がある。

セシリアに関しては初対面の時から正論(せいろん)論破(ろんぱ)印象(いんしょう)最悪だろうし、箒に関しても昼食の時に(しか)られてから何かと馬があっているとは思えない。

結局(けっきょく)日頃(ひごろ)(おこな)いが(わざわ)いしているのだろう。

 

「ふうー」

 

「一夏、お前には無駄な動きが多すぎる。自然体でISを操縦出来るようにならなければ、どれほど練習しても疲れるだけだぞ」

 

「・・・頑張ります」

 

 ピットに戻り、展開を解除する一夏。

同時に補助が切れドッ、と増えた疲労感を払い落とそうとため息を落とすと。遠慮(えんりょ)無く箒からの助言、もといダメ出しが飛び出してきた。

 

(あー、しかし。無性にシャワー浴びたい)

 

 ISスーツの通気性の良さは流石なのだが、疲れた体にベッタリと汗が貼り付いていて非常にイヤな感触だ。

本当なら一番風呂、もとい一番シャワーをいただきたいのだが、箒の強い要請で一夏は箒の後、と言うふうになっている上。箒が部活棟のシャワーを使いたがらないので、必ず待ち時間が生まれてしまう。

せめてもってタオルの一つくらい欲しいものだ。

 

「なぁ箒、物は相談なんだけどさ」

 

「何だ」

 

「今日、シャワー先に使わせてくれよ。って言うか箒、俺の特訓に付き合ってて良いのか?付き合ってくれのはありがたい限りだけど、部活で出遅れるぞ?」

 

「そ、それはお前が気にする様な事ではないだろう・・・それに、こちらの方で出遅れる方が問題だ

 

「え?何て?」

 

「な、何でもない!気にするな」

 

 箒が言い切る。小声で聞こえない部分が在ったが、本人が何でもないと言うのなら気にするべきではないのだろう。

 

「一夏っ!」

 

 エア圧式の自動ドアを開け放ちピットに現れたのは、ツインテールセカンド幼なじみこと鈴だった。

 

「お疲れ、はい、タオルとスポーツドリンク。ぬるめで良かったわよね」

 

「サンキュ。あー生き返る・・・」

 

 じっとりと肌にへばりつく汗をタオルで(ぬぐ)えば気分は幾分(いくぶん)良くなると言うものだ。

その上で水分補給のスポーツドリンクが付いているのはありがたいとしか言いようがない。

 

「まったく。運動後のドリンクがぬるめで良いだなんて、相変わらずジジ臭いわね」

 

「あのなあ、若い頃から不摂生(ふせっせい)してたら将来その不摂生が(たた)るぞー」

 

「ハイハイ、そう言うとこがジジ臭いのよ」

 

 ニヤついた顔で話す鈴の視線。まるで『そんな事はお見通しですよ』と言わんばかりの台詞回しも相まって、何故か落ち着かなかった。

一夏と鈴が最後に顔を合わせたのが中学二年の冬。わずか一年のブランクでしかなかったが、その頃には見られなかった変化に若干の心の()れを感じる。

 

「やっぱりさぁ、私が居なくて(さび)しくなかった?」

 

「まぁな、遊び相手が居なくなるのは大なり小なり寂しいもんだろ」

 

「いや、そうじゃなくって」

 

 答えが彼女の期待していたものと違っていたと言うのに、なせかそのニヤついた表情は崩れない。

そんな顔をする鈴に覚えがある一夏は、警戒するように告げる。

 

「一応言っとくが、何も買わないぞ」

 

 その顔は昔、良く解らない映画(確か恋愛系)のペアチケットを売り渡された時の顔に良く似ていた。

 

・・・ちなみに、売り渡された物とは言えチケットは高額である。無駄にしないように中学来の親友、五反田(ごたんだ)(だん)と一緒に見に行ったのだが、二人してその映画を見るまで恋愛モノだと知らずに居たので、映画館のシアターでは、男女カップルがひしめく中男二人がペア席で居たことで、終始気まずい雰囲気(ふんいき)(ただよ)っていた。

 

「アンタねぇ・・・。久しぶりに会った幼なじみなんだから、色々言うこと有るでしょうが」

 

 が、しかしまたもや一夏の予感は外れていたらしい、頭を抱えた鈴は、脱力したように愚痴をこぼす。

言うことと言われても、特に何も思い付かない一夏は、きょとんとした表情で首を傾げるしか出来なかった。

 

「ハァー。例えばさぁ、」

 

「ゴホンゴホン!」

 

 箒のわざとらしい咳払いが会話を(さえぎ)る。

なにかと思って本人の方を向けば、澄ました顔の箒が話し始めた。

 

「一夏、私は先に帰る。シャワーの件だが、先に使ってもいいぞ」

 

「おお、そりゃありがたい」

 

「では、また後でな」

 

 そう言ってピットの出口へ向かう箒。

それを見送って視線を戻すと、鈴は明らかに不機嫌な表情になっていた。

一応、顔は笑顔のままなのだが、必死にその表情を崩すまいと意図的に上げられた口角は、どちらかと言うと無理矢理吊り上げているように見えた。

 

「━━━。一夏、今のどう言う事?」

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 呼吸を整え、(くう)(すべ)るようにしてピットに向かう小鳥は、その途中(とちゅう)で愚痴を(こぼ)していた。

 

「ったく、アイツら訓練を口実に腹いせしやがって・・・。一夏に味方して貰いたいんだったら、少しでもしおらしくなってりゃ良いものを」

 

 今日の特訓の内容は八割方ISでのランニングであった。

時折(ときおり)ビットからの射撃や箒との打ち合いもあったが、それは箒とセシリアを相手に逃げ回っている最中のほんの少しの出来事に過ぎない。

 二人から好かれていない自信はあるが、そもそもこの特訓は一夏の強化にこそある。だと言うのに狙われるのが一夏でなければ特訓の意味も無いだろう。

 舌打ちをしながらも、ピットに足を付ける。

 

「・・・あん?」

 

 ピットに戻り、明日の予定を立てようとした小鳥の目の前には。

口論・・・というより、一方的に鈴音に問い詰められている一夏が居た。

 

「━━━いつもは箒がシャワーを最初に使うんだけど、今日は汗だくだから順番替わってもらって」

 

「しゃしゃしゃ、シャワー!?一夏アンタあの子とどう言う関係なのよ!?」

 

「どうって・・・幼なじみだけど」

 

「幼なじみとシャワーが何の関係あんのよ!?」

 

 どういう話の流れかは知らないが、また話をややこしくしてやがりますよコイツ。そんな心内のため息を他所(よそ)に、二人の会話?は続く。

 

「ああ、そっか。言って無かったっけ。箒と俺、相部屋なんだよ」

 

「━━━は?」

 

「ほら、俺の入学って、男って事もあって一人部屋を用意できなかったらしくてさ。それで箒と相部屋なんだ」

 

「そ、それってあの子と寝食を共にしてるってこと!?」

 

「んー、まぁそんなところだな。でも箒で助かったよ。見知らないヤツが同室だったら気が散ってロクに眠れないだろうからな」

 

「・・・・・・━━━」

 

 笑う一夏の目前(もくぜん)には、うつむいて何か覚悟を決めたような表情をする鈴音。

 

(何か嫌な予感がする)

 

 一夏がこういった天然ジゴロで他人(ひと)(おこ)らせた時と言うのは、大抵(たいてい)面倒(めんどう)騒動(そうどう)の種になる。

更に面倒なのは、小鳥が高確率でこれに巻き込まれる事だ。

 

「どうした?鈴」

 

 鈴音が無言なのに気が付いた一夏が、心配して問いかける。

 

「━━━だったら・・・」

 

「え?なんて?」

 

「だから!幼なじみだったら良いワケね!?」

 

「うおっ!?」

 

 小声で呟いていた鈴音の言葉を聞き取ろうと近づけていた一夏の頭と、急に顔を上げた鈴音の頭がぶつかりそうになるが。そんな事も気にせず彼女は一人怒り口調で独白し続ける。

 

「分かった。分かったわ・・・。ええ、ええ。よくわかりましたとも」

 

 何を理解したのかは(はなは)だ疑問だが、()(かく)何かを理解したらしい。腕を組んで己の思考を自分で肯定(こうてい)するかのように一人頷き勝手に納得している。

 

「一夏っ!」

 

「おう」

 

「・・・幼なじみは私もだって事。覚えていなさいよ」

 

「いや、そもそも忘れてないけど・・・」

 

「じゃあ後でね!」

 

 そう言って自動ドアからピットを走り去る鈴音。

何も理解できていない一夏は、首を傾げてそれを見送る。

一方の一部始終を見ていた小鳥は、

 

(よし、鈴音が一夏の部屋まで押し掛けるまでは見えた)

 

 これまで『恐らく』が付いていたが、間違いない、鈴音は一夏に気があるようだ。

そして彼女が言いたかったのは

『箒が一夏と同室なのは幼なじみだからというのなら自分も幼なじみだし同室になっても良いよね』理論。

 半分当たってはいるのだが、間違いなく何かが間違っている気がする。

 

 ()にも(かく)にも面倒臭そうな嫌な予感が当たりそうである。

 友人のせいで今日も災難(さいなん)だ。

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 午後八時過ぎ、夕飯を食べた一夏と箒は部屋でそれぞれのくつろぎ方で思い思いの過ごし方をしていた。

 そんな中で部屋の呼び鈴が無機質な人工音を響かせたのは、一夏が急須から食後の緑茶を淹れるべくキッチンに居た時だった。

 

 茶葉の開き具合を見る必要がある一夏に代わって、箒がその対応に当たっていたのだが。

 

「━━━そんな訳だから部屋替わってくれない?」

 

「ふざけるな!何故(なぜ)そんな事を私がせねばならん!」

 

 何か目を離している間に口論になっていた。

 

「いやぁ、篠ノ之さんも男と相部屋なんて嫌でしょ?気を遣ってのんびり出来ないし。その辺、あたしは平気だから替わってあげようかなって思ってさ」

 

「べ、別に嫌とは言っていないだろう!?それにこれは私と一夏の問題であって、部外者の貴様に口を挟む義理は無いだろう!」

 

「だいじょーぶ。あたし一夏と幼なじみだから」

 

「それは私も同じだ!と言うより、それが何の理由になる!」

 

 二人の議論は平行線のまま、交わる未来は見えそうにない。

・・・そもそもこの二人の相性と言うのも良いと思えない。

鈴は自分の我を通さねば納得しない性質だし、

箒も自分の信じた事や信念は頑なに守ろうとする頑固な性格だ。

 いつか小鳥が言っていたか、話し合いと言うのは折り合いを付ける為にある。しかし、この二人に引き下がると言う発想はそもそも無い。

そんな二人が議論を始めればこうなるのは目に見えた事だろう。

 

「それに貴様、荷物はどうする。ある程度(まと)めているようだが、何回か往復する必要があるだろう」

 

「はん、甘いわね。あたしの荷物はこのボストンバッグで全部よ」

 

「な、なん・・・だと!?」

 

 思わずたじろいでしまうほどの衝撃を受ける箒。

どうやら担いでいるボストンバッグに全ての荷物をまとめここに来ているようだ。

この持ち物の少なさは中学の頃から変わっていないようだ。本人(いわ)く『ボストンバッグさえあればどこでも行ける』らしい。

その意図は不明だが、前にその事を話されいつでも家出が出来るようにか?と聞いた一夏は、本気で怒られている。

 

「と、に、か、く。今日から私もここで暮らすから」

 

「ふ、ふざけるな!出て()け!ここは私の部屋だ!」

 

「『一夏の部屋』でもあるでしょ?じゃあ問題無いじゃん」

 

 と、二人の口論のボルテージが最高潮に達した時。

 

バスンッ!

 

「いっ!?」

 

「あ痛ぁ!?」

 

 箒と鈴の頭が同時に丸めた教科書で叩かれた。

 

 

五月蝿(うるさ)いお前ら」

 

 本を掴んだ両手の持ち主は、左隣の部屋から出てきて不機嫌な顔をしている小鳥だった。

 

「な、何すんのよ!?」

 

「こっちの台詞だ、人の部屋の側で騒音(そうおん)を出すな」

 

 そう言った小鳥は、こちらを流し見て溜め息を吐いたと思うと。

 

「それと鈴音(りんいん)、勝手に部屋を代わるのは規則違反だ。あと俺の迷惑だ、さっさと帰れ」

 

 左手は肩に置き、右手の丸めた教科書を軽く振って、去れのジェスチャーを取る。

が、それで帰るようならこんな事になっていない。鈴は納得していない様子で小鳥に食らい付く。

 

「アンタは関係無いでしょ。これはあたしと一夏の問題、首突っ込まないでよ」

 

「関係ならある。俺はコイツの隣人だ」

 

「それが何の理由になるってのよ!?」

 

「知っているか鈴音、隣家(りんか)の騒音ってのは高確率でどこの迷惑防止条例にも引っ掛かるんだぜ?それがどんな理由であっても、他者の迷惑になるなら取り()まられても文句(もんく)は言えんぞ?」

 

 ギラリ、と長細(ながそ)の目で物理的にも見下す小鳥。

 が、しかし。そんなのはどこ吹く風、鈴はマイルールを押し通す姿勢を崩さない。

 

「だったら、アンタからも説得しなさいよ。篠ノ之さんに一夏の部屋から出てってもらう説得をさぁ」

 

 むしろ小鳥を味方に引き入れようとしている。

その肝の太さ、我の強さに普通なら説得を諦めようとするだろうが。

 

「それをするつもりは無い、俺は正しくお前にここから去ってもらう」

 

 間違いない正論を味方に付けた小鳥は恐ろしく強い。

セシリアに対してぐうの音も出ない論破をするくらいには。

 

「だったら五分くらい部屋で待ってなさい!すぐにカタ付けてあげるから」

 

「その間また騒がしくなるだろうが」

 

 はぁ、と珍しく溜め息を吐く小鳥。

それを(あきら)めさせる好機(こうき)と取った鈴は(たたみ)()けるように話を続ける。

 

「ほら、さっさと戻りなさいすぐに終わらせて・・・」

 

 だが、その台詞は小鳥の恐ろしく冷たい口調で(さえぎ)られた。

 

「まだ自分の立場が(わか)っていないようだな」

 

(あ、とどめ刺すつもりだ)

 

 こういう冷たい口調で小鳥が話し始めた時は、会話ではなく、本格的な論破に入った合図だ。

右手の教科書を無造作(むぞうさ)に廊下に落とすと。その手でズボンのポケットに入れ携帯を取り出し、その画面を見せつけた。

見ると、その携帯は既に起動(きどう)状態(じょうたい)になっていて、とある人物の携帯に繋がるであろう画面がそこにあった。

 

()()()

 

 言葉にして一言、字数にして三文字。

しかし、その言葉が意味する所は誰にでも理解できた。

携帯の画面にはデカデカと織斑千冬(誰もが恐れるスーパーレディ)の名前があった。

小鳥の親指は見せつけた携帯の通話ボタンの上に乗せられ、それを離すだけで千冬に連絡が行くようになっていた。

 

「ぐ・・・ッ!」

 

 半ば脅迫(きょうはく)のような説得に二の()()げなくなる鈴。

鈴は昔から千冬(ちふゆ)(ねえ)(おそ)れ、(おそ)れていた。

いや、そうでなくともこの場で、この状況で千冬姉を呼ばれるとなると、制裁(せいさい)を食らうのは間違いなく鈴だ。

 

「この卑怯者・・・!」

 

「おうおう、何とでも言いたまえ。それでこの手段を止めるように見えるか?」

 

 そう言う小鳥の顔は愉悦(ゆえつ)に歪み、正しい事をしている筈の小鳥が悪役に見える。

きっと状況を知らない人間がこれを見れば、十中(じゅっちゅう)八九(はっく)小鳥が悪い人間に見える事だろう。

 と、苦境に立たされていた鈴が何か小さな声で呟いた。

 

「━━━・・・・・・お、」

 

「お?」

 

 それを気持ち悪い満面の笑みで聞き返す小鳥。

完全に鈴で遊んでいる。

 

「覚えてなさいよー!!!」

 

 言うが早いか、小鳥から回れ右した鈴は(もう)ダッシュで廊下を駆け抜けていった。

 





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