「━━━二組の代表が・・・」
「え?本当」
「うん、なんでも第三アリーナで・・・」
第四アリーナで特訓に来ていた一夏とセシリア。(箒は例によって剣道部に行っている)
アリーナのピットの入口に手をかけようとしていた一夏の耳に、遠くから女子の話し声が聞こえた。
「二組の代表?鈴の事か?」
どうやら鈴が隣のアリーナを使って模擬戦を行っているらしい。
「あら、気になりますの?」
「ああ、リーグマッチの一回戦の相手は鈴だろ?・・・見に行った方が良いのかな?」
鈴とは勝手知ったる仲だが、IS乗りとしての鈴を一夏は知らない。
模擬戦をやっているのなら丁度良い、鈴がどんな力量の持ち主なのか、見に行くのも良いだろう。
小鳥が最近特訓に付き合わないのも、鈴のISの情報を集めているかららしく。この二週間近く、晩飯以外で放課後に小鳥の顔を見た覚えがない。
多分に小鳥も居るだろうが、やはり自分の目で見ておくのも重要だろう。
「うーん・・・。セシリアはどうした方が良いと思う?やっぱり、操縦の特訓した方が良いか?」
「え!?え~っと。そうですわね・・・。やはり敵情視察は必要ですし一夏さんが見に行く必要があると思うのなら見に行くべきですわ」
「じゃあ見に行くか」
特訓をやらないのは勿体無いと思うが、ここの所毎日が特訓である。息抜きに人の訓練をみるのも良いかもしれない。
・・・・・・・・・
一夏とセシリアが第三アリーナに着いた時、その模擬戦はこれ以上に無いほど白熱していた。
鈴は逃げ回る相手を追いかけながら目に見えない砲弾を放ち、アリーナのエネルギーシールドを揺らす。
「おわっ、・・・とと。何なんだアレ?」
目に見えぬ砲撃の衝撃で足元を揺さぶられ、足元のおぼつかない一夏がセシリアに問う。
「あれは・・・。恐らく“衝撃砲”ですわね」
「衝撃砲?」
「はい。空間その物に圧力をかけて砲身を生成、余剰で発生する衝撃それ自体を砲弾として撃ち出す。ブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器ですわ」
(・・・・・・ごめん、すごい丁寧に説明してもらってるのに何言ってるかさっぱり解らん)
口では『ふーん』と解ったような相づちを打ってみせるが。専門用語・・・ではないにしても、仕組みだけを丁寧に説明されても全くと言って良いほど理解できず、首を傾げる他やることがない。
と言うより、それよりも気になる事が一つ。
「・・・・・・って、何で小鳥が戦っているんだ?」
見れば対戦相手はクラス副代表小鳥 遊であった。
「こらぁ待ちなさい!人を煽ったならちゃんと戦いなさい!」
「待てって言われて待つ奴が居るかよ・・・」
経緯は分からないが、怒り肩の鈴を見るにどうやら小鳥が煽り立てたようだ。
やれやれと言ったような表情で愚痴を溢す小鳥の片手には、合体して一本の大剣となった“アイアス”が握られていた。
「なるほど確かに、そうするのがあの人にとっては最適解ですわね」
「? どう言う事だ?」
問われたセシリアは、真剣な眼差しで戦闘を見ながら、その問いに答える。
「銀影には、電子、重力、音波、熱量等のエネルギーの指向性を拡散させるフィールドがあるようです。前にブルー・ティアーズのミサイルを受けた時に無傷だったのも、爆発のエネルギーを拡散させたからですわね」
「・・・・・・それって、もしかして無敵?」
拡散フィールドを常に展開していれば、どんな武器もいなしてしまえそうな気がするが。
「どうでしょう、見たところフィールドの発生器官は大剣状態の“アイアス”だけのようですし。それを除いても弱点が無いと言うのはありえないのでは?」
確かに、千冬姉から『攻撃系最強』のお墨付きをもらっている零落白夜には『シールドエネルギーから優先的にエネルギーをぶんどる』と言う弱点、もとい欠陥がある。
聞いた限り小鳥のフィールドも同じくらいの力があるようだし、代償が無いとは思えない。
「おっ、反撃に移るみたいだぞ」
そう言う一夏の視線の先には、急激な方向転換で鈴に襲い掛かる小鳥が居た。
・・・・・・・・・
「こらぁ待ちなさい!人を煽ったならちゃんと戦いなさい!」
「待てって言われて待つ奴が居るかよ・・・」
逃げる小鳥を追う鈴音、衝撃砲をバカスカと連射し、自らに詰め寄る鈴音の激昂に呆れたような声音で答える小鳥。
しかしその一方で、小鳥の心の内では悪巧みが渦巻いていた。
(とは言え、釣れた事は釣れた訳だ。後は仕掛けるタイミングだな)
本当は数分前から鈴音に対する策は考えついていたものの。その策に対して反撃を食らう事態を避ける為、鈴音が近接戦を行うまで回避に全力を振っていたのだ。
「おっと、危ない」
横へスライドするように衝撃砲の砲弾を躱す。相手を追いかけながらこれ程の射撃精度とは恐れ入る。
(ったく・・・。どうしたもんかねぇ)
四合ほど刃を交えた辺りでその実力が己より上だと把握していたつもりだが、中々どうして勝ちにくい。
「・・・・・・ん?」
ふと、人の多くなって来た観客席に目をやると、そこに一夏とセシリアが居た。
「一夏じゃん、何しに来てんだ?」
二人は今日も特訓に行っている筈である。
その二人がここに来ている、と言うことはこの模擬戦が結構な噂になっているのだろう。
まったく、女子の噂と言うのは風のごとく広がる物だ。
と、心の中で一人ごちていると、
「・・・・・・?」
衝撃砲が来ない。
先ほどまでバカスカ撃ってきていた鈴音の衝撃砲が止んだ・・・・・・訳ではないが、明らかにその頻度が落ちてきている。
「━━━・・・・・・!(ニヤァ」
チャァアンス!
間違い無い、衝撃砲を撃つ為のエネルギーが残り少ないのだ。
となれば話は早い、心を落ち着かせ、身体とスラスターの制御に集中する。
(スラスター、PIC系統は俺の随意下に置き、制御を半手動で行う!出来ねぇとは言わせねぇぞ!)
バイザーに映される情報を整理しつつ、手動で調整を始める。
「軌道修正、速度同調、事象予測ヨシ、保護機能カット、PIC出力ベクトル巡行から全逆転・・・タイミング、今!」
走り幅跳びの着地のような姿勢で足のスラスターを全力で吹かし、ブレーキをかけ、姿勢を反転させる。
「んががががががが・・・!」
セシリアのビットを回避したあの時より、遥かに強いGを受け、慣性の圧力に悶える。
「瞬時加速ッ!」
しかし、その苦悶を乗り越え、大剣を前に突き出して打突を繰り出した。
「ッ、嘘でしょ!?」
全速力からの急激な180°反転でさえ無茶な挙動だと言うのに、その上で瞬時加速を行うと言う無茶の重ね塗りである。下手をすれば骨の一つや二つにヒビが入りかねない行為だ。
「うオオオオ!」
「でもね!」
小鳥の無茶な動きに驚いた鈴音ではあるが、反射的に速度を緩め、小鳥に標準を合わせる。
確かに、小鳥の予想通り衝撃砲に使えるエネルギーはの残量は僅かしかないが、それでも全く使えない訳ではなく。最大出力五発分は残っている。
(それくらい対応できなきゃ候補生なんてなれないの、よっ!)
エネルギーは既に装填している。後はそれを解放するだけで、小鳥のシールドエネルギーは底を突くだろう。
「喰らえッ!」
「・・・・・・!」
放たれた衝撃砲は、一直線に小鳥の銀影へ向かい、炸裂・・・
「あれ!?」
してない、確かにこのタイミングなら小鳥に着弾する筈なのに。
「喰らえやァ!」
勢いそのままに突き出す小鳥。
対処が間に合わず、鈴音はその刃をモロに受け入れるしかない。
「ぐぅ・・・!」
絶対防御があると言えども、衝撃を完全に殺す事までは叶わない。鳩尾に牙突を受け軽くえずき、後退した鈴音は小鳥を睨む。
「アンタ、一体何を・・・!」
信じられなかった、あの衝撃砲は間違いなく直撃コースだった。だと言うのに小鳥には何のダメージも無く、カウンターを食らっているのは鈴音の方だった。
「さーて、何をしたんでしょうかねぇ?」
そう言う小鳥の後ろ側、グラウンドの土が二つの地点で舞い上がっていた。
恐らくは先の衝撃砲がグラウンドに着弾したのだろう。
(・・・・・・着弾点が、二つ?)
そこで気付いた。鈴音が放った衝撃砲は一発、着弾点が二つと言うのは可笑しい。
「アンタ、まさか衝撃砲の砲弾を・・・叩き切ったって言うの!?」
「へえ、察しが良いな。その通りだ凰 鈴音」
小鳥は笑うが、鈴音は信じられないと言った表情を見せる。
衝撃砲は確かに実体弾ではないが、強力な兵器なのは違いない。よしんば仮に剣を当てられたとしても、接触した瞬間に砲弾は空間圧の歪みにより炸裂する、両断など到底考えられない事だ。
驚愕に瞳を揺らす鈴音を前にして小鳥は上機嫌だ。
「俺の銀影はこれでも第三世代機でなぁ」
誇らしげに大剣を掲げ、笑いながら話し始める小鳥。
「単一仕様は『エネルギーの拡散』質量を除くほぼ全てのエネルギーの方向性を拡散させる能力。つまり、お前の衝撃砲やビーム兵器は俺にとっては格好の餌食なんだよ」
右肩に剣を預け、得意気に語る小鳥。
衝撃砲の捌き方と言うのは、とーっても簡単。
1.まず大剣状態のアイアスを用意します。
2.次に衝撃砲の砲弾とアイアスを接触させます。
→ここでワンポイント『相手は必ずこちらを狙って撃ってきますが、失敗した時のダメージは恐れずにアイアスを振るいましょう』
3.後はアイアスのエネルギー拡散フィールドが勝手に砲弾を切り裂いてくれます。
→衝撃砲の炸裂を不安に思うかもしれませんがご安心を。拡散フィールドは自動制御なら全ての方向へ均一に散らすので、空間圧縮のバランスを乱すことが無く、お任せでスパッと切れるのです。
「ま、そんな訳で。こっからは一方的な展開は期待するなよ!」
言うが早いか、大剣を上段に構えた小鳥は、再度瞬間加速で接近する。
両刃の偃月刀で防いだ鈴音は、受けた刃とは逆の刃を小鳥に振り下ろす。
小鳥も即座に大剣を横にずらし、偃月刀を受け止める。
偃月刀を受け止められた鈴音は、続けざまに右足の蹴りを繰り出すが、瞬間的にPICをカットした小鳥が下方に身を置く事でそれを躱す。
下に転位した小鳥に向けて衝撃砲をマシンガンのように連射モードで撃ち込むが、それもまたアイアスに防がれる。
「はぁあ!」
「無駄だと言ったのが解んねえのか!」
しかし、防御に回って身動きの取れない事を利用し、鈴音は距離を詰め己が得物を振るう。
「ちッ!」
「あたしの武器は衝撃砲だけじゃ無いってぇ、の!」
甲龍のマニュピレーターが高速回転を始め、捕まれた偃月刀もまた高速回転を始める。
小鳥に向けて換気扇のように回転する刃が迫る。
モロに受ける訳にはいかない。大剣を振り上げ刃と刃を重ねるが、刃の形状と運動の方向性が相まって、小鳥の剣は上にかち上げられる。
「ぐゥっ!」
「まだまだ行くわよ!」
繰り返し振り下ろされる高速の刃、苦し紛れに剣を返す小鳥だが、その度に大剣は弾かれ首の皮一枚を繋げるのが精一杯だ。
弾かれる度に開く距離、得意気な鈴音の表情、苦しさを隠さない小鳥の表情、そのそれぞれが鈴音にとっては好ましく、小鳥にとって好ましくない状況を表していた・・・・・・。
・・・・数分後・・・・
「━━━あのヤロウほぼゼロ距離で衝撃砲バカスカうちよってからに・・・」
戦闘開始から数十分後、ピットに戻った小鳥がいの一番に口にした言葉は、そんな悪態の台詞だった。
一時は鈴音の衝撃砲を攻略せしめた小鳥だが、結局はエネルギーの拡散が出来るのは楯だけだ。それを見抜いた鈴音が小鳥に対し付かず離れずの距離を保ち続け、インファイトを仕掛けてきたのだ。
結局、結末としては二振りに戻された双天牙月によってアイアスが取り上げれられ。後はほぼゼロ距離で衝撃砲を乱射され、小鳥の敗北で決着がついた。
お陰様、銀影のアーマーは所々がヘコみ、小鳥自身にも軽い痣が散見される。
「はぁ、『直す』つっても、タダじゃねえしな・・・」
肩アーマーに目をやり、ため息を吐く小鳥。
奇跡的に『眼』ような光学センサーに被害は無いが、その装甲には少なくないヘコミがあり、戦闘の激しさをもの語っていた。
小鳥自身、鈴音の、甲龍のスペックを見定めるにあたって機体ダメージは必要経費だと思っていたが、この手のヘコミ傷は考えていなかった。
「斬られた撃たれたの傷だったら余計なの削って補修材吹きかけりゃ済むがヘコミ傷はなぁ・・・」
斬り傷や弾痕等の傷は装甲の一部が無くなっている為、補修材で傷を埋めても相殺される為、重量やらに違いは出ないが。ヘコミと言うのは質が悪く、本来の装甲が沈み込んでいる為、補修材で傷を埋めた場合、補修材の重量が丸々プラスされる他。材質的な強度、硬度の差によって受けたダメージが歪に拡散して、最悪パーツが丸々一つオシャカになってしまう。
と、なってくると。ISの自己修復でヘコミが埋まるのを待つか、ヘコんだパーツを入れ換える必要がある。
「・・・パーツ換装は手間もカネもかかるしなぁ」
小鳥は専用機持ちではあるが、どこかの支援を受けている訳ではない。一応は持倉技研に予備パーツはあるだろうしIS学園側でいくらか支払ってくれるだろうが、それでも小鳥に何の出費も無いとは考えられない。
その上、手続きの手間も考えるとパーツの入れ換えは正直やりたくない。
「仕方無い」
そう言った小鳥は、ピットの固定機に銀影を固定させると、一人銀影から跳び降り、こう続けた。
「作るか、予備パーツ」
肩のセンサーカバーや、スラスターノズルのような精密なパーツの方は自己修復に任せるとして。腕部アーマーや胸部の可動パーツは自分でも作れる。
面倒臭い事になったと言いたげな声音とは裏腹に、久方ぶりに機械弄りが出来ると晴れやかな表情だった。