クラス代表対抗戦当日がやって来た。
クラス代表であり、同時に選手である織斑一夏、副代表兼参謀である小鳥遊の2人がピットのテレビ画面で客席の様子を見ていた。
いつもの放課後訓練なら小鳥もISスーツなのだが、今回は小鳥は制服(ロングコート仕様)のままで、一夏だけがスーツを着用している。
三日間の剣道訓練をしてきた一夏はそれなりに仕上がっているらしく、意気軒昂に息巻いていて・・・・・・居たら良かったのだが、元より望まないクラス代表の椅子。学園関係者だけでなく、IS製作企業や、そこから派遣されたスカウトの様な人物など、アリーナにひしめく人の波に気圧されていた。
「すごい数だな・・・」
「だろうな」
IS学園と言う施設の性質を考えれば当然である。
学園は世界でも数少ないIS同士での実戦が行える場所で、その上堂々と敵国、ライバル企業のISデータを覗き見出来る絶好の機会である。
これを逃す手はないだろう。
「おおよそは先生生徒だろうが、見ればちらほらそれ以外も居る。気をつけろよ?」
何にとは言わないが、IS学園は治外法権の部分がある。その上でIS学園では国際法違反に対する明確な文律が存在しない。
要するにどの国がどんな妨害や小細工をしようとも引責問題にならないと言う訳だ。
まあ、流石の彼らも理性の働く大人である。社運が危ぶまれる様な状況でも無い限り、そう言うことはするまい。
「分かってる。大勢の前で恥はかきたくないからな」
そう答える一夏。
「お前な・・・」
何があってもおかしくないぞ、と言った積もりだったのだが、小鳥の心配とはまったく逆の方向で物を考えていたらしい。
その前向きさは確かに一夏の美徳なのだが、余りにも前向き過ぎるコメントに毒気を抜かれてしまう。
「━━まぁ、勝つ意気があるなら良い・・・。戦術の復習だ、お前は何をする?」
あるかどうか解らないイベントについて考えていても仕方がない。自分の主人である一夏がやる気なら、それに乗るだけだ。
先日伝えた戦術を復唱させる。
「えー、序盤は距離を取って様子を見る!」
「はい次ィ」
「鈴が衝撃砲を50発くらいまで撃ったら、攻めに転じる!」
「よし。では衝撃砲の性質は?」
「圧縮から解放までに0.05秒のタイムラグがあるから、それに気付けば回避は可能!」
「オ~ケーオーケー。一通り頭に入ってるな、では行け」
「おう!」
一夏はISを展開し、カタパルトの足場に白式の足を乗せる。
カタパルトの側に寄って、一夏に向けて助言を飛ばす。
「重ねて言うが。瞬間最大火力、瞬間最大速度は白式が圧倒的に上だ。それが解ってりゃ、勝ち目も見えて来る筈だ。気を抜くなよ!」
「ああ」
カタパルトの射出口が開き、外の光が差し込む。
完全に射出口が展開すると同時、レーン脇の赤い警告灯が緑に変わる。出陣の合図だ。
「白式、織斑一夏!行きます!」
リニアカタパルトの電圧が瞬間的に上昇し、カタパルトの足場と共に白式が前方に向け加速する。
そして、ピットの淵にたどり着いたその瞬間、慣性のまま一夏は戦場へと飛び出した。
「さぁ、見せ所だぜ?一夏」
本人に届かない声。だが確かに、確かな声で小鳥はそう言った。
・・・・・・・・・・・・
アリーナの中央、観客席の皆の視線が俺と鈴に注がれている。
小鳥から『恥をかかないよう気を付けろよ』と言う旨の言葉をかけられて『分かってる』と返したものの、やっぱりこの手の緊張感は慣れないものだ。なんならこの試合は学園内の一部で中継されているらしく、それも相まって今までの人生でも一、二を争う程心臓がバクバクしているのが解る。
(・・・・・・っと、そんなこと気にしてる場合でもないか)
前を見る。
そこには、IS『甲龍(本来は“シェンロン”読みだが例によって“こうりゅうとする”)』を纏う鈴が居た。
対戦を行う2人が揃ったのを合図に、アリーナを覆う様にエネルギーシールドが形成されていく。
「一応聞いておくけど『舐めてかかってゴメンナサイ』って言えば、手加減してあげるけど?」
「手加減なんて雀の|涙ほどだろ?そんなんなら全力で来い、俺は全力で行くぞ」
鈴の後ろではエネルギーシールドの透明な幕が上って行く。きっと鈴は俺の後ろに同じ景色を見ているのだろう。
「そう、なら覚悟しなさい。あたしも全力で行くわ」
そう鈴は告げて、甲龍の両手に偃月刀〝双天牙月〟を呼び出す。
それに応えるよう、俺も腕を前に出し白式の手に雪片弐型を呼び出す。
『では、クラス対抗リーグマッチ第1試合を開始します!』
エネルギーシールドが完全に上がりきったらしい、山田先生が試合開始の宣言をするみたいだ。
『よぉーい・・・始め!』
その声と同時に大きなブザー音がアリーナ全体に鳴り響く。
「フッ!」
試合開始の宣言の直後、雪片と牙月がぶつかり合う。
受けたのは俺、飛び込んで来たのは鈴の方。
右の刃を右手の雪片で止められた状況で、鈴が俺に向けて叫ぶ。
「あたしの見ない間に特訓してたらしいじゃない。その成果がどんな物か見せてもらうわよ!!」
「言われなくてもそのつもりだよ!」
牙月を押し返し、横薙ぎに振るわれる左の牙月を強く弾き返す。
鈴が接近戦を仕掛けるのは予想外だが、2つ目のプランで戦えば良いだけの話だ。
接近戦なら、攻めに転じる!
「はぁっ!」
上段からの袈裟斬りを繰り出し、鈴の胸を狙う。
後ろに下がり回避されるが、一気に距離を詰め、今度は下段からの突きで、その肩を狙う。
小鳥曰く、甲龍の衝撃砲は、近接戦では出力を落としてしか使えないらしい。
なんでも衝撃砲の効果範囲が広すぎて自分にも当たってしまうのだとか。
だから刃と刃を交えるような、極短距離の近接戦では衝撃砲は出力を下げてしか使えないのだそうだ。
とは言え、前の小鳥みたいに出力を落とした衝撃砲をバカスカ撃つ事は出来るし、牽制としては十分過ぎる威力だから注意しなければならない。
「ッ!」
牙月の刃が突きを逸らし、肩を狙った突きは左肩の上辺りに飛ぶ。
にやりと、鈴が笑う。しまっ━━
ズドンッ!
「ぐぁっ!」
突きを逸らされた事でがら空きになった腹に衝撃が加わる。間違いない、衝撃砲だ。
出力を落としているにも関わらず、ISの腕で直接殴られた様な痛みが走ると同時に、俺は白式と共に大きく吹き飛ぶ。
セシリアから習った無反動旋回で素早く立ち直るが、鈴の狙いは付いていて、すでに解放のモーションに入っていた。
「喰らえッ!」
放出される空間の歪み、多分に俺の顔面目がけて発射されたそれを躱すことは出来ないだろう。
だから
「な!?」
砲弾をぶった斬る事にした
爆音が前の方で響くがこっちにダメージは無い。
とっさにやってみたけど、どうやら上手く行ったみたいだ。
・・・・・・・・・・・・
「今の・・・一体何がおきましたの!?」
アリーナの指令室、試合を観戦していたセシリアが疑問を投げた。
今しがた放たれた衝撃砲の一撃は避けられる間合いではなかった筈。だと言うのに、一夏が雪片を振るっだけでダメージはほぼゼロになっていた。
「篠ノ之・・・仕込んだな?」
にやりと笑って千冬が箒に問う。
問われた箒も静かな笑みで応え、今のタネを明かす。
「篠ノ之流刀術、抜刀〝一閃〟。今一夏が使ったのは、篠ノ之流の中で最も基礎的な抜刀術です」
小鳥と鈴の戦闘によって、衝撃砲がエネルギー弾の1種であることは既に割れていた。なら零落白夜でかき消せる。
そして、一夏が使ったのは居合抜き。単純だが構えに入りさえすればあらゆる剣術の中にでも最速の一撃である。
零落白夜を纏わせた雪片で切り払えば、十分に対処可能だ。
「とは言え・・・土壇場でやってのけたのは驚きです」
冷静を装っているが、その声音は自分の教えた技で死地を乗り越えた事に、興奮の色が見え隠れしていた。
その隣では面白くない顔をしているセシリアが居たが。
・・・・・・・・・・・・
「ほぉ?」
銀影の肩アーマーとオレンジのバイザーを展開させ、内蔵のセンサーを用いてピットから試合を観察していた小鳥は、感心したと言う風な声を上げる。
(今の衝撃砲・・・零落白夜込みの居合で斬り伏せたか)
面白い対処を見出だしたなー、と心中で呟く。
一瞬だけ見えた白い燐光。あれは零落白夜を発動させた証だろう。
衝撃砲はその性質上、実体にせよエネルギー体せよ、砲弾そのもののエネルギーを乱した時点で無秩序に炸裂する。
しかし、零落白夜を発動させた雪片は瞬間的に倍近いリーチになる。
その鋒で砲弾を両断すれば、炸裂すれども白式本体への影響は少なく、炸裂するエネルギーすら対消滅し、より影響は減少する。
零落白夜の〝シールドエネルギーを食う〟と言う欠点により多からずダメージは受けるだろうが、一瞬の展開によるダメージなど、衝撃砲の直撃に比べればマシな物だ。
「良く考えてやがる。いや、良く実行しやがる。反射的にせよ何にせよ、俺にそれをやる勇気は無いね」
半ば苦笑いに近い物を浮かべる。
計算ずくで挑む自分の性格が正しい物だと思っている訳でもないが、こうまで土壇場に強いとなると呆れが感心にさえ裏返ってくる。
「・・・・・・ん?」
センサーに謎の反応があった。
それは、エネルギーシールドの外側に居る小鳥にしか気付けない反応だ。
アリーナの外からアリーナを観察している何かが居る
━━まさか
「まさか・・・ッ!」
見上げるは天頂。そこに居る『何か』を捉える。
その何かに誰も気付かぬまま、試合は続いていく。