IS/ガンダム00 crossing exceptioners   作:A.Tom

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原作2巻
友と友と兄妹と(Friends, friends, siblings)


 六月初頭、日曜午後0:12分。

この俺、小鳥(おどり) (ゆう)学友(一夏)(さそ)いに乗り、その友人の五反田(ごたんだ)(だん)の家にいた。

 

KO!!!!

 

「ぬッ、ぐぉおお!?なんだそのコンボ!?」

「メイルシュトロームの機動力を(あなど)ったな。コンボが微妙なら無理矢理にでも積み重ねれば良い・・・まぁ、機体として弱いのは間違い無いがな」

 

 ゲームコントローラーを床に置き、弾に告げる。

現在やっているゲームは『IS(インフィニットストラトス)/VS(ヴァーストスカイ)』ここ四半世紀の内で最も売れたゲームと言っても過言ではない名作対戦型アクションゲームである。

一方、イギリス代表の第二世代IS『メイルシュトローム』

ISを題材とした家庭用格闘ゲームは数あるが、一回戦で千冬&暮桜(くれざくら)鎧袖一触(がいしゅういっしょく)にされている事もあって、その多くでこの機体は不遇(ふぐう)(あつか)いを受けており、それを使う奴は相当な物好きくらいだろう。

 

・・・まぁ俺もその物好きの一人なのだがな。

いつの世も番狂わせ(ジャイアントキリング)は人を()きつけてやまない物である。

2年前にその為だけにこのゲームをやり込んだ俺は、最高難易度(さいこうなんいど)の全機体にメイルシュトロームで勝てるくらいには強い。

 

 

「ったぁー!こんなヤツがクラスメイトなんて良い御身分だなぁ!」

「まぁ良い思いはさせて貰ってるよ、この前だって鈴と戦った時に対策付き合ってくれたし」

「ほぇー面倒見いいんだなぁ」

「俺の役に従ったまでだ。それにアレもそう役に立った訳でもないだろう」

 

 途中(とちゅう)から一夏は自分なりの戦術を使い戦っていたし、何よりあの試合は没収試合になり後日個人的に行った一騎打ちでは対策の対策を取られてしまい惜敗(せきはい)している。

 

 それはそうと、と弾は前置きして。

 

「どうなのよ、女の園の感想は」

 

 ─そう聞かれても、多分こう答えるしか無いだろう。

実直に学園生活の感想を述べる。

 

「地獄」

「───・・・・・・」

 

 絶句する弾、一夏もそれに同意して。

 

「うん、地獄」

「・・・嘘つけェ!!メール見てりゃ楽園じゃねぇかよ!?招待券があるなら行きたくてしゃあないんだぞ!?」

 

 ──まぁ(はた)から見ればそう見えるだろうが、今学期始まって二ヶ月を振り返ってみよう。

・  初日  :クラスの女子とマジ喧嘩(げんか)。のち決闘

・  五月  :行事に乱入者(らんにゅうしゃ)。しかもそれが箝口令を敷くレベル(世界に前例の無い無人機)

同月中頃(どうげつなかごろ):無人機が円花と俺を襲撃(しゅうげき)。これもまた箝口令案件(かんこうれいあんけん)(後調べてみると右足にヒビが入ってた)

・ 翌日  :早朝から推薦人(すいせんにん)としてセシリア、保護者として千冬、当事者として円花と共に企業代表パイロットに認めさせる為、イギリスのホーカー・ホイットワース社(BTシリーズを製作したISメーカー)に日帰り旅行で突撃。

 

・・・何というか、ロクな目にあってる気がしない。

 

 それに関わらず女子の目線やら合わない空気感やらで(なか)異邦人(エイリアン)の気持ちを味わっている現状、弾の妄想に真っ向から(うなず)けられなかった。

 

「別に、周りが女子しか居ないからと言って幸せになれる訳じゃない。周りに女子しか居ないって事は周りに男子は一人として居ないと言う意味だ。針の(むしろ)の様な視線にお前は()えられる自信はあるか?」

「う、それは・・・難しそうだな。・・・そっか、周りに男子が居ない、か・・・考えてみりゃそうだよな・・・。頑張れ、一夏」

 

 まあ女の園への入園は諦めねぇけどな!とサムズアップする弾。

何と言うか、年頃の男子と言うヤツはこんなんだったっけかと思いもするが、これ以上彼の夢を否定(ひてい)するのも野暮(やぼ)な話だろう。

 

「そう言えば、(らん)はどうしてるんだ?」

 

 一夏が弾に問う。

聞き慣れない人名に俺は首を傾げてその割り()んだ。

 

「ラン?」

「ああ、(コイツ)の妹。あんまり俺になついてくれないんだけどな」

「あーはいはいなんとなく解った」

 

 呆れたように無感情に棒読みで一夏の口を止めさせる。

 

・・・俺は一夏の口から語られる女心(おんなごころ)は取りあえず信じないことにしている。

何故(なぜ)ならコイツが天然ジゴロの鈍感(どんかん)野郎(ヤロウ)だから。

 どうやら一夏のどジゴロっぷりは昔の頃かららしく、果てはプレスクールの頃から箒の事をたらし込んでいたようで、しかも今の所女子3人をその気にさせておきながら本人にはその自覚が微塵(みじん)も無い様子。全くもって恐ろしい限りである。

 と、友人の妹に対する関係の評価を話し半分に聞いていると、弾が呆れた顔で聞いてきた。

 

「なぁ小鳥さんよ、一夏はIS学園でもあの調子なのか?」

「そうでないと思うか?」

 

 口調や表情はそのままに肩をすくめてその問いを肯定(こうてい)する。

中学からこんな調子であったらしい一夏の性格にため息を二人してつく。当の本人は俺たち二人の行動に首を傾げているが、何に呆れているのかにはまるで検討(けんとう)がついていないらしい。

 と、雑談に花を咲かせていると、力任(ちからまか)せに部屋のドアが開けられた。

 

「ぶべっ」

 

 近場に居た弾が勢いよく開いたドアに吹き飛ばされた。世辞(せじ)にも広いとは言えない部屋に男3人が居るのだから1人くらい犠牲者が出るのは仕方の無い事だろう。

 

「お兄!さっきからお昼出来てるって言ってるじゃん!さっさと降りて──」

 

 そう言いながら出てきたのは弾と同じく赤毛の少女。見た所円花と同い年だろうか。ショートパンツにタンクトップ、クリップで挟んだだけの乱雑(らんざつ)な髪型と、かなりラフな格好をしているその少女の台詞(せりふ)は視線が一夏にむいた途端(とたん)に途切れた。

 次の瞬間には一気に顔を紅潮(こうちょう)させ、(あわ)てふためいた様子で一夏に問いかける。

 

「い、いい一夏さん!?」

「うん、久しぶりに邪魔してる」

 

 恐らくは彼女が五反田(ごたんだ) (らん)なのだろう。円花に並ぶレベルで元気な奴だ。

 瞬間思考が停止した少女は、しかしすぐにその脳内回路をフル回転させ、たどたどしい口調で一夏に尋ねる。

 

「いやっ、あのっ、一夏さんも来てたんですか!?IS学園は全寮制って聞いてましたけど・・・」

「ああ、うん。家の様子見ついでに寄ってみたって感じ」

「そ、そうですか・・・」

 

 と、話題がなくなり会話が途切(とぎ)れたあたりで、ドアに打ち付けられた右頬をさすりながら弾が抗議(こうぎ)の声を上げた。

 

「いきなり入って来るのはもう慣れたけどさぁ・・・せめてノックくらいしろよ、はしたない奴だと思われ──

「──!(とても10代女子がするとは思えない眼光)」

「・・・!(恐怖で縮こまる弾)」

 

 娘が1人でも産まれたら父と息子の組織内階層(ヒエラルキー)(いちじる)しく低下するらしいが、これはその典型例(てんけいれい)なのだろう。

長年の環境で(つちか)われた支配の構造はあまりに根深く、恐怖政治がまかり通る位には彼らには当然の事らしい。

 俺一人(ひとり)()で良かった。

 

「何で・・・言わないのよ・・・!」

「あ、あれ?言わなかったけか?そ、そうかそりゃ悪かった・・・ハハ・・・」

 

 (あふ)れ出す少女の怒気(どき)。引き()った笑顔で受け答えをする弾には同情(どうじょう)を禁じ得ない。

最後に(くだん)殺気立(さっきだ)った視線を飛ばすと、廊下に戻り、例によってたどたどしい口調で一夏に(さそ)い文句を残していく。

 

「あ、あの、良かったら一夏さんもお昼どうぞ。まだ、ですよね?」

「うん、頂くよ」

 

 元からその予定だったから、と言わずまるで誘いに乗ったと思わせるような言い方をする辺りスケコマシの才があるんだなのと改めて実感する。

まぁ本人に自覚は無いのだろうが。

 

 そんな天然スケコマシの嬉しい台詞を聞いたからか、彼女はいそいそと階段の方へと向かっていった。もしかしたら部屋と階段の(あいだ)にあった部屋が彼女ので、一旦そこに向かったのかも知れないが。

 

この兄にしてこの妹あり。と言う所なのかもしれないが、3分満たない短時間の間に結構な情報量が過ぎ去った為に気になる事は多いが、とりあえず一言。

 

「なぁ弾、俺お前の妹から存在を認識されてなかったんじゃないか?」

「えっ?」

 

 気のせいでなければ一連の会話の中で彼女は俺について一度たりとも言及(げんきゅう)しなかった。

無論(むろん)3人の会話に割って入らず壁の(かざ)りに(てっ)していたではあるが、それでも隠れていた訳でも気配を殺して居た訳でもない。ただそこに居ただけである。

 

「確かに・・・初対面の人間に気づいてそのまま流す奴じゃないし・・・まさかマジで気付いてなかったのか!?」

「イヤイヤ、流石に考えすぎだろ。どうせ聞く前に弾がいらん事して怒って行っちゃっただけじゃないか?」

「──だと良いんだが」

 

 フォローを入れる一夏。まぁそれもそうなのだが、実際に見ていると気づかれているとは思えなかった。

小声で納得していない(むね)を呟く。

・・・まぁ、それをこれ以上追求しても意味は無いだろう。

 

 話すことも無くなり。一瞬の無言が部屋に(ただよ)った。

次の瞬間に思い出したように一夏が切り出した。

 

「そろそろ下に降りようぜ。さっきの言い方だと蘭が待ってるみたいだしさ」

「それもそうだな。御相伴(ごしょうばん)(あず)かるとしよう」

「と言っても出すとしたら残り物のメニューだぜ?」

「構わんよ、安全に食える物なら」

「それを飲食店のせがれに言いますかね」

 

 そうして本来の目的を思い出した一夏達に続いて階段を降りながらぽつりと呟いた。

 

 

(こい)盲目(もうもく)、か・・・」

 

 

───ただ、少しばかり厄介で面白い未来を予感し、俺は前を行く二人に告げる。

 

『一夏さんも来てたんですか!?』

 

 もしかすると。そう思い弾に向けて口を開く。

 

 

「すまん、少しばかりトイレを貸りるぞ」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「げ」

 

 五反田家の一階に降りて、いきなり弾は引き気味の声を上げた。

何かあったのかと弾で隠れた五反田食堂の中を見回すと、ぽっかりと空いた四人席に一人ちょこんと座る(らん)の姿があった。

しかもさっきのラフな部屋着ではなくきちんと外に出る用のお洒落服。俺たちを呼んでから5分も経ってないのに、凄いな。

 

「なに?何か不満でも?あるのならお兄一人で外に食べに行っても良いよ」

「聞いたか今のお優しい妹の発言。泣けてくるぜ」

 

 涙を拭う演技をしている弾はさておき。店の迷惑にならないよう、蘭の座っているテーブル席に腰掛ける。

 

「別に一緒に食えば良いだろ。さっさと座ろうぜ」

「そうよバカ兄、さっさと座れ」

 

 そんなこんなで四人用のテーブルは蘭と向かい合う俺と蘭の隣の席に座る弾の三人で()まった。

 

・・・それはそうと。

 

「なぁ蘭」

「はひっ!?」

「着替えたの?どっかに行く予定?」

「えっ、これは、そのっ」

 

 まぁ家の中でとは言え、他人(たにん)の目に触れる定食屋で服装に気を使ったのかもしれないけど、それにしたって気合が入りまくっている。質問に対してかなりどもっているし、かなり大事かつ秘密にしたい事らしい。

 

 と、したら

 

「あ、もしかしてデート?」

「違います!!」

 

「「この馬鹿・・・」」

 

 強い蘭の否定、なんか隣の弾とカウンター席に座る人から何か呟かれた気がするが、声が小さすぎたしカウンターの人は本当に知らない人だったので気にしないでおこう。

 

 しかしこの怒りっぷり、どうも何か地雷を踏んでしまったらしい。

 

「ご、ごめん」

「あ、いえ・・・・・・。と、とにかく違うんです」

「まぁ兄としては違ってほしくない事もないんだがな。なんせ蘭がこんなオシャレするの一月にいっぺんあるかどうか──」

 

 言いかけた弾の口を文字通り塞ぐ蘭。しかもついでに鼻まで塞ぎ、完全に弾の呼吸を止めていた。一度だけ千冬姉(ちふゆねぇ)から食らった事あるけどキツいぞアレ。

 しかもその技術は千冬姉に引けを取らない、世の高校では護身術(ごしんじゅつ)を学ぶのが一般的なのだろうか。

 

 むんずと鷲掴(わしずか)みにした細い指越しでアイコンタクトを取る五反田兄妹、それで通じ合うあたりホント仲良いよなお前ら。

 

「──どうかしましたか?一夏さん」

「え、何が?」

「えっと、ずっとこっちを向いたままなので・・・」

「ああ、いや。円花とじゃそう言うやりとりした事なくてな・・・ホント仲良いんだなーって」

「は、はぁ・・・」

「──・・・・・・」

 

 無言の間が生まれる、ワタワタしていた弾の顔がどんどん蒼くなっていってるが。

と、俺達の目の前に調理服姿の壮年の男性が立った。

 

「お前らこれ以上騒ぐようなら昼飯ださねぇぞ」

 

 その男性の名は五反田(げん)、この食堂の主人にして弾と蘭の祖父である。

(よわい)80を超えるが、その両腕は筋骨隆々で、今でも厨房で中華鍋を振るっている。

普段は弾を虐げる蘭もこの人には敵わないようで、昼飯抜きの忠告にすごすごと弾の顔から手を離した。

『静かにしてろよ』ともう一度忠告を残して立ち去っていくのを見送る弾と蘭は、厳さんが完全に厨房で料理に入ったのを見るや否や、小声で口喧嘩を始める。

 

「バカ兄のせいで怒られたじゃない!」

「半分以上はお前の出したセリフだろうが!」

「お兄の声が無駄におっきいのが悪いのよ!」

「さっきのはお前の声が大き過ぎるんだよ!耳元で叫ぶな!」

「あんたがうるさいのが悪いんでしょ!!」

「あーもう、二人共落ち着けって」

 

「「これが落ち着いてられるか!!」」

 

 あ、ハモった。あとそんなにうるさくしてると

 

ゴッチィィイン!!!

 

案の定厳さんの拳骨が二人に飛んだ。

 

「「~~~~ッ!!!」」

 

頭を押さえて悶絶している五反田兄妹。

厳さんは険しい顔で腕を組み、何も言わずに二人を睨んで最後通牒を突きつけていた。

流石にこれは答えたか、ゲンナリとした表情で黙った。

厳さんでゲンナリ、なんちゃって。

 

「・・・一夏、何考えてるかはわかんねえけど下手な洒落はやめとけよ」

 

 ・・・何も言ってないのにダジャレ考えてるのかバレた、表情に出てるのか?

 

「鈴とか箒からもそうなんだけど、俺って考えてること顔に出やすいのか?」

「え、マジでダジャレ考えてたのかお前」

「────」

「・・・マジかぁ〜」

 

 呆れたように息を吐き出す弾。

 

そんなにダジャレを考える事は悪いことですかねぇ。

と、苦笑いをしていた蘭が何かに気づいたように『あっ』と声を上げた。

 

「一夏さん、その、ホウキって誰のことです?」

 

 その疑問に弾が何故か必死に食らいついた。

 

「何だったけ?お前のファースト幼なじみ、だっけか。うん、IS学園で再開したんだっけ?」

「おう、小三の頃に引っ越して以来だから・・・大体六年ぶりくらいかな」

 

そう言うと蘭の顔色が少し変わったような気がする。

なんだろ、ちょっと怖いぞ?

そんな蘭に目を逸らしながら弾は話を促す。

 

「しっかしお前もその彼女もよく気がついたよなー。六年も経ってたんだろ?顔立ちが変わっててもおかしくないのに」

「まぁそうだな。かなり綺麗になってたし体が大きくなってたから、髪型が変わってたらもしかしたら気づけなかったかもな」

 

 今も昔も箒は吊り目でポニーテールが目印だ。鈴も同じようにツインテール(サイドアップって言うんだっけ)が目印だから、それを変えてないなら二人を見間違うことは無いと思う。

 

「・・・・・・」

 

ところで蘭がそっぽを向いてむくれているのは何故だろう。

膨らました頬はなんだかリスみたいだ。

 俺はそんな蘭の顔の前に人差し指を置いて

 

「蘭」

「はいっ!?」

 

 ぷに

驚いて振り向いた蘭のほっぺたを指がつついた。

 

「ひゃう!?」

 

そのままムニムニと摘んでみる。柔らかい。

 

「ちょ、いいいいいい一夏さん!?な、ななな何をぉ!?」

 

 すごく驚く蘭、流石に悪戯にしては距離が近すぎたかな。

 

「いや。そんなに可愛くおめかししてるのに、怒った顔だともったいないぞーってね」

 

 最後にちょっとだけ強くつついて指を頬から離す。

あ、真っ赤になった。可愛い子には変わりないけど、こっちのほうがずっと良いと思う。

 と、褒められた蘭はすごく焦った様子で

 

「す、少し。お、お手洗いへ・・・」

「お、おう・・・」

 

 早足で・・・手と足の揃った早足でお店のトイレに向かう蘭。

それを見届けて弾の方に向き直ると、弾は肩を震わせ俯き加減で、すごい剣幕で詰め寄ってきた。

 

「──お前ホンットにさぁあ・・・!」

「ど、どうしたんだ弾」

「・・・はぁ゛あ゛あ゛・・・まぁ良い、お前のそう言う所はもうずっと前から知ってたからもう良いんだけどさぁ」

「?」

 

 なんか俺悪いことしたみたいになってるけど、なんかしたっけ。

心当たりが無いので首を傾げるしかない。

 

「そこを直せっつっても直らなさそうだからな」

「そりゃあそうだろう、何が悪いのか分かってないんだから」

「それを自分で言いますかね」

 

 もう一度大きなため息を吐いた弾は、ずいっと顔を寄せて小声で話しかけてくる。

 

「悪いことは言わねえ、すぐに彼女を作れ、なるだけ早く!」

「はあ!?」

「『はあ』じゃねえ!今年、いや、今月中にでも!誰でもいいから!」

 

 いきなり何を言ってるんだこいつ、いきなり興奮し出して闘牛の牛かよ。

 

「別に今はそう言うのに興味ねえし」

「相変わらずお前は本当に、そんなんだから鈴が・・・いや、なんでもねえ」

 

 いきなり言い淀む弾。鈴がどうかしたのだろうか。

 

「とにかく、誰でもいいから誰かと付き合うんだよ!な、な!」

 

食い気味に、というかキレ気味に言ってくる弾。

 

「なんでキレてんだよ」

「キレてねえ!」

 

 と、言い合ってたらトイレから蘭が帰ってきた・・・の、だが。

なんか様子がおかしい。まるで阿修羅みたいな表情で座っている弾を無言で見つめている。

 しかし、無言の蘭から伝わるものはあった、

 

── ヨ ケ イ ナ コ ト ヲ ス ル ナ ──

 

と、

その一睨みでマ●オが如く小さくなる。

確か蘭はお嬢様学校の生徒会長をやっているらしいけど、それにしたって鋭い目つきだ。千冬にだって負けないだろう。

 そうして席に着いた蘭は、覚悟を決めたように話を切り出す。

 

「・・・決めました。私、来年IS学園を受けます」

「はぁ!?」

 

 イスをガタガタと押しのけて立ち上がり驚いた弾、直後厨房からお玉が飛んできて倒れることになるが。

 ある意味いつもの事なので俺は気にせず蘭に話を聞く。

 

「それは親に言うべき事だろうけど・・・でもなんで?聖マリアンヌ学園ってエスカレーター式で大学にも行けるんだろ?」

「大丈夫です、私の成績評価なら十分いけます」

 

 まぁ確かにIS学園の方がよっぽどネームバリューが良いし、上手くいけば年収十数億も夢じゃない。

が、それはやっぱり一握りでしかないし、正直高校生としての授業が圧縮・・・もとい圧迫されているから、学園での成績次第じゃ大学にいけるかも分からない。

 将来の事を考えるなら、このままエスカレーターに乗っている方が良いと思うんだけどな。

 

「でもIS学園に推薦は無い・・・あ〜、でも蘭の成績なら行けるか?」

「はい、筆記も余裕です」

 

 蘭は結構頭が良い、弾から聞いた話だと学園でも結構良いらしいから、推薦無しでも合格する可能性は十分にあるだろう。

と、先ほどまで床に倒れていた弾が机にしがみつきながらよろよろと立ち上がった。

 

「でも確か、実技試験もあったはずだよな・・・」

「ん、まぁそうだな。ISでの実戦の試験があって、そこでの成績が悪すぎると落とされるらしい。まぁ俺が落ちなかったし、そうそう無いだろ」

 

 と言っても山田先生が焦ってドジって壁に激突して自爆したので本当はどうなのかは知らないけど。

他にもIS適正とか本人の体力とか運動神経とか測定するらしいし、よっぽどのことがない限りなんとかなるだろう。

 その話を聞いた蘭は、無言でポケットの中から何かの紙を取り出した。

 

「げぇ!?」

 

 その内容を見た弾が驚愕の声を上げた。

なんだなんだと様子を伺っていると、口の端から声が漏れた。

 

「IS適正・・・判定A・・・」

「すごいじゃないか!俺より上じゃん」

 

 それは政府が開いている簡易適正試験の成績だった。

なんでも中学高校生の希望者であれば誰でも受けられるらしい。

 しかし、こうなると本格的に落ちる要素がなくなってきた。

 

「で、ですので。私が合格した暁には、一夏さんに、せ、先輩としてご指導を・・・」

「おう、いいぞ」

 

 別に断る理由は無い、安請け合いな気はするがまぁ大丈夫だろう。

それに今更だけど蘭が入学してくれたら普通に嬉しい、小鳥とも仲良くしてくれるかもしれないし、何より気の知れた知り合いが増えるのは純粋にありがたかった。

 

「ほ、本当ですか!」

 

嬉しそうな蘭、が弾が声を荒らげて抗議した。

 

「おい蘭!何勢いで学校変えること決めてんだよ!なぁ母さん!」

 

 弾の視線は、弾蘭兄妹の母、自称食堂の看板娘こと五反田蓮さん。

娘がいるのに自分を娘と言うのはどうかと思うのだが、鈴曰く『娘は田舎言葉で「お母さん」の意味がある』らしいので深く考えないでおこう。

 

「うーん、私はどちらでもいいわよ〜。一夏くんも蘭ちゃんの事よろしく」

「よくねぇだろぉ!?」

 

弾の叫びが店中に響き渡る、相変わらずこの人はマイペースというか、どこか抜けている感じがある。

まぁ、蘭がIS学園に行く事に反対ではないようだ。

 

「じゃあ一夏君、蘭のことよろしくね」

「あ、はい」

「はいじゃなくてなぁ・・・!ああもう親父はいねぇし!じーちゃんもそれで良いのかよ!?」

「本人が決めてんだ、俺がどうこう言う筋合いはねぇ」

「いやだって、」

「なんだ、文句あんのか?」

「・・・皆無です」

 

 見事に意見が封殺される弾、流石の俺でもそこまで身内に弱くはないぞ。

 

『──何か言ったか』

 

 突如脳内に溢れる千冬の声。

ダメだ、勝てる訳がないよ。

そう脳内で反省していると、厳さんが声をかけてきた。

 

「おい、昼飯できたぞ」

「あ、はーい」

 

 それを聞いた蘭がカウンターへ料理を取りに行くと、速攻で弾が俺に食いついてきた。

 

「なぁあんでお前ばっかりモテんだ!?この顔か、この顔なのか!?モテるくせにそう言う気が無ぇとかふざけんじゃねぇよこのモテスリムが!スリムとか色んな部分はいいからモテ要素だけよこせエエエエエ!」

「そう言う物言いだからモテねぇんだよ(やかま)しい」

 

 そう言って弾の頭にチョップを決めたのは、茶髪を後ろでまとめた小鳥だった。

その左手には空の皿を乗せたお盆が握られていた。

 

「あれ?小鳥いつの間に飯食ってたんだ?トイレに行ってたんじゃ」

「とうの昔の話だ・・・。この鈍助(にぶすけ)め。この分じゃお前、自分の妹の事にも気付いてないな」

「え、」

 

小鳥のその先、カウンター席からこちらを覗いていたのは我が妹織斑円花だった。

 

「円花お前来てたのか!?」

「来てましたよ。まぁ私も一夏兄が来てるとは思わなかったけど」

 

 やれやれと言った調子で肩をすくめる円花。

どうやら小鳥と同じように、自分に気づかなかった事に呆れているらしい。

 

「一夏兄は本当に女心が分かってないよね、昔からだけどさ」

「どういう意味だよそりゃ」

「そのままの意味ですよ鈍感兄貴」

「円花まで・・・」

 

 なんだろう、なんか今日は二人とも厳しいな。

そんな厳し目の二人の一人の小鳥が報告をしてきた。

 

「すまんが、銀影周りの野暮用ができた、先に学園に戻ってるぞ」

「あ、おお。わかった」

「少なくとも門限6時までには帰ってこいよ」

 

 それだけ言うと小鳥は店を後にした。

 

「円花はどうするんだ?」

「どうしようかなぁ、本当は蘭ちゃんのお悩み相談を受ける予定だったんだけどねぇ・・・。解決したみたいだし、私も帰ろっかな」

 

 もちろん蘭ちゃんにもっと話があるか聞いてからだけど。と、言う円花。

 

「悩みってなんなんだ?」

「秘密。一夏兄に話せる内容ならきっと一夏兄に相談してるでしょう?」

「あー・・・」

 

 それもそうか。俺も家族に話せない話題も小鳥や皆には話せるものだったりするし、歳頃の女の子に深入りしすぎるのも野暮なものか。

 

「まぁ機会が有れば本人に聞いてみたらいいんじゃない?案外話してもらえるかもしれないし」

「そうだな、聞いてみるよ。円花も、帰る時は気をつけてな」

「ISパイロットに気をつけるも何もでしょ」

 

 そう言って、円花は店に奥の蘭に声をかけに行った。

 ふと時計を見ると時刻は現在午後1時を回っている。

門限6時と言う事は、5時間後にはIS学園に到着していなければならない計算になる。

 遊び回るのに5時間はあっという間だ、急ぐ必要もないけど、だからといってこれ以上呑気にしている場合でもない。

 

「じゃあもう昼飯食い終わったら俺たちもすぐに出ようか」

「そうだな」

 

 と、駄弁っている俺たちのテーブルに蘭が料理を持ってきてくれた。

 

「はい、カボチャの煮物です。一夏さんのご飯の量はこれくらいでよかったですか?」

「うん、ありがとう」

 

 こう言う気配りがなんだか痛く身にしみる。最近優しさに恵まれてないからかなぁ。

 

「きっと蘭は良いお嫁さんになるんだろうなぁ」

「そ、そんな、いきなり何を言うんですか!!」

 

 凄い勢いで謙遜する蘭、そんな反応が結構可愛くて俺の顔も綻んでしまう。

なんてニヤついてたら横から弾が突っ込んで来た。

 

「なんでお前はナチュラルにそうやって口説きにかかるかなぁ」

「え?」

「なんでもねえよ」

 

 弾が何かを呟いたが、よく聞こえなかったので聞き返そうとしたら弾は黙ってしまった。

一体何を言おうとしたのだろうか?気になるが、聞いて教えてくれそうな感じではないので諦める事にした。

 

「じゃあ食べようぜ」

「あ、あの一夏さん」

「ん?」

 

 料理も全て揃ったので手を合わせようとしたところ、蘭が口を開いた。

 どうしたんだろう。と話を聞くと、驚きの言葉を蘭は投げてきた。

 

「さっき一夏さんが話してた男の人って、一夏さんの顔見知りですか?」

「へ?」

 

 さっき俺が話していた、と言うのは、多分小鳥の事だろう。

 

『・・・なぁ弾、俺お前の妹から存在を認識されてなかったんじゃないか?』

 

 先程の小鳥の懸念のセリフを思い出す。

もしかして・・・もしかするのか?

反対席の弾に目配せして意思疎通を図る。

 

「・・・!!」

「──ッ(コクコク」

 

 意訳

『あれマジで!?』

『みたいだな、マジか、聞くか?』

『聞けるか!?お前が聞けよ!妹の事は兄の仕事だろ!』

『・・・ッ、仕方ねぇ後で覚えてろよ!』

 

 長年の付き合いって凄いね。

 

 まぁそんな訳で蘭から話を聞く事になった弾がそれに応える。

 

「ああ、一夏のクラスメイトの小鳥ってやつだよ。──ってか、さっき俺の部屋に居たの気付かなかったのか?」

「え!?そ、そうだったんですか!?全然気付かなかったです・・・!」

 

 マジだった、本当に小鳥に気付いていなかったらしい。

 

「って言うか、一夏さん以外に男性でIS乗れる人居たんですか!?」

「あ、そこからなの?」

「は、はい」

「えーっと」

 

 俺は少しだけ考える。小鳥の事をどう説明するべきかと。

あの気難しく、口の悪い友人の尊厳を傷つけずに説明する方法を俺はあまり思いつかない。

 

「ま、まぁそうだなあ・・・すごく頭が良くて、弁が立つ。ISにも詳しいから頼りになる・・・まぁ悪いやつじゃないよ」

「そ、そうなんですか」

 

 嘘ではない。まぁ100%真実って訳でもないけど。

微妙なラインの説明になってしまったが蘭は特に気にしていないようだ。

 とは言えこれ以上小鳥について聞かれると苦しいので、何とかして話題転換を持ちかける。

 

「そ、そうだ。円花は帰るとか何とか言ってたけど。どうするって?」

「ああ、もう帰るって言ってました。私からの用事で呼んじゃったし、これ以上束縛するのも悪いかな〜、って」

「用事って?」

 

 とりあえず聞いてみる。円花も『もしかしたら教えてくれるかも』とか言ってたし、聞くだけ聞いてみたのだが、恥ずかしそうに頬を掻いて蘭は答えた。

 

「そのぉ〜。まぁ、なんて言うか、進路相談と言うか・・・そんな感じのことです」

 

 あれ、と言う事は。

 

「じゃあもしかしてIS学園に行くってのは本当に今さっき決めたのか?」

「い、いえ!そんなんじゃないです!!ずっと前から視野に入れてたのが今さっき決まったってだけです!!」

 

 結構な勢いで捲し立てる蘭。

それもそうか、今日思いつきで進学先を決めたなら、IS適正検査なんて受ける訳ないか。

ちなみに厳さんは基本蘭に優しいのでこれが弾だったらフライ返しが飛んできた事だろう。

 

「じゃあ円花から何聞こうとしてたんだ?合格に必要なのはもう調べ終わってたんだろ?」

「ええと、学風とかIS実習とかそう言った事を聞こうと思ってたんですけどね・・・」

 

 あはは、と恥ずかし紛れに頭を掻いて乾いた笑いを浮かべる蘭。

うむ、それは確かに重要だな。俺も受験勉強の時にかなり頑張った覚えがあるぞ。

 結局藍越学園行ってねぇけどな。

 

「なるほど・・・。ま、その時は俺も頼ってくれよな、教えられる物なら教えるからさ」

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

 隣でため息をはく弾はさておき、世間話を終えた俺たちは昼飯に手を合わせたのだった。

 

 

・・・・・・・・・

 

 

「・・・なんというか、耳に痛い話だったなぁ」

「何の話だ」

 

 円花は呟く。

その呟きの真意を計りかねる俺は、そっけなく答える。

 彼女より先に店を出たのだが、小走りで円花が追いついて来たのでそのまま学園への帰り()を歩いていた。

 

「さっきの一夏兄と蘭ちゃんの話。聞いてたでしょ?『兄妹でそう言うやりとりしたことない』って」

「ああ・・・」

 

 言われて思い出す、確か弾の妹(最後まで俺のこと認識していなかったな)が弾の顔面を鷲掴みにした後だったか。

確かに『円花とじゃそう言うやりとりした事なくてな・・・』と言っていた覚えがある。

 

「なら甘えりゃ良いだろうが」

「そういう問題じゃないの。一夏兄が私と仲良くしたいってのは良く分かってるし、私もそうしたくない訳じゃない。でも根本からズレてるの。一夏兄も千冬姉も私を大切に思ってくれてる。でもだからこそなのかわかんないけど、ずっと距離が縮まらないの。小鳥さんはそんな事無い?」

 

 問われて、少し考える。

──少し考えて、断言した。

 

「無い。俺は一人っ子の上、専門学校に行ってもストレートな付き合いしかしてない物でね。残念ながら過剰に大切にされる事も、距離を詰めるべき相手もいなかった。その手のジレンマやら憤りってのは理解したくてもできん」

「役に立たないなぁ」

「お役に立てず申し訳ありませんね。勝手にやってろ」

「はいはい、相談した私が馬鹿でした」

 

 ふん、っと鼻を鳴らして不機嫌さをアピールする円花だが、実際の所そこまで怒ってはいない様に見える。

多分この娘は寂しいのだ。

あの二人は間違いなく自分を愛してくれている。けれど、それが故に対等になれずにいる事が。

 

「ま、そうだな・・・お前の抱く不満が俺の予想通りなら、それこそ学園での成績だろ」

「成績?」

「ああ・・・まぁ簡単な話。お前の不満とやらは、庇護する側とされる側の立場に基づいた関係に端を発する物だろう?」

 

 そう言ってちらりと横目で円花を見やる。

彼女はしっかりと話を聞いていて、この推測が間違いでない事を明瞭に表していた。

 

「なら話は早い。円花が何らかの形で一夏と千冬を超えさえすればその関係は変化するだろう」

「あ・・・!」

 

 小さく声を上げる円花。どうやら気づいたらしい。

自分の上に挑み、勝利する。これまでの彼女の人生を俺は知らないが、予想できる分でも刺激的な、それはそれは刺激的な事だろう。

 

「近く、強制参加の個人リーグ戦が開催されるらしい」

 

『わあああああああああああ』

 

 ポケットの中の銀影を投げ上げて(もてあそ)びながら言葉を続ける。

本人が目を回しているが、それは無視して真上に投げる。

 

「丁度良いじゃないか、そこで超えちまえ」

 

『ぶえ』

 

 落ちてくるそれをキャッチして、ニヤリと笑って見せる。

その言葉を聞いて円花は、俺の方を向いて目を輝かせた。

 

「それだ!ナイスアイデア小鳥さん!」

 

 その瞳の輝きは、夜の密林に火を見つけたから遭難者(ドリフター)のようで、俺にも何か達成感に近い満足感を与えた。

喜びそのまま、走り出した円花は道路の少し小高い場所に立ち、振り返って告げる。

 

「決めた。私、絶対優勝する!それで証明してやるんだ。私が強いって事を!」





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