IS/ガンダム00 crossing exceptioners   作:A.Tom

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二人の転校生(Silver Warrior, Bronze Noble) 1/2

「うーん」

 

 (だん)と一通り遊んだ後、俺はベッドの上に寝転んでいた。

先週まで(ほうき)の居た部屋には今は俺一人で、なんだか部屋がだだっ広く感じる。

と言うのも先週、つまりクラス代表戦が終わった辺りで部屋割の再編成が決定したらしく、箒は別部屋に()して行った。

 俺が寝転んでいるベッドの隣には、箒が使っていたベッドがあった。

 

(なんであんな事言ったんだろうな)

 

 箒は部屋を移動した後わざわざ戻ってきて宣戦布告(せんせんふこく)するかのように俺に告げた。

『来月の個人トーナメントで私が優勝したら、付き合ってもらう!』

 捨て台詞にしては奇妙だし、買い物の荷物持ちを誘うにしては気合が入りすぎだ。というよりそんな条件なんてつけなくても普通に行くけどなぁ。鈴で何度もやったし。

 

「まあ良いか・・・今度聞いてみよう」

 

 そう呟いたときだった。

部屋のドアがノックされる音が聞こえてきた。

俺の部屋に来る人は沢山(たくさん)いる。けどまぁ休日の昼間から来るやつなんてそんなにいないだろ。顔見知りだよな。

そう思いながらドアに向かう。

・・・小鳥だと良いな。

そんな(あわ)い希望を胸にドアノブを回した。

 

「はい?」

「ちょ、いきなり開けないでよ!?びっくりするでしょうが!」

 

 希望を胸にドアをくぐれば、そこは胸も希望も無いぺったんこだった。

 

「・・・なに?私が来て不満?」

「いや、そんな事は無いぞ」

 

 鈴からそっぽを向いて生返事で返す。

先月中国の国家代表候補生として編入してきた鈴こと凰鈴音は俺の幼馴染の一人であり、ある意味では弾に次ぐ腐れ縁かもしれない。

 まぁ一応彼女のことが嫌いかと言われるとそうではないのだが、割と良い思い出より悪い思い出の方が思い出され、渋い反応をしてしまう。

イヤ、ちゃんと良い思い出もあるんだよ、思い出せないだけで。

その上鈴が来るときは大抵何かしら頼みごとがある時だから少し身構えてしまう。

 

「まぁそれはそれとして俺は食堂に行こうと思ってたんだけど、何か用か?」

「ふん、そうだろうと思って誘いに来てあげたのよ。捨て犬を可哀想に思うくらいの優しさは持ち合わせてたってワケ」

「犬扱いかよ・・・」

 

 良いけどさ。

もうこの手の口振りは慣れた物。気を取り直して鈴からの誘いを了承する。

 

「じゃあ食堂行こうぜ」

 

 

・・・・・・・・・

 

「あ」

 

「あ」

 

「あ」

 

 食堂で昼食を終えた俺たちは声を重ねて間の抜けた声を出した。

メンバーは俺、鈴、箒の三人。

 

・・・そう、箒なのだ。

クラス代表戦の謎の戦線布告以来、箒は何でかあからさまに俺を避けている。

もちろん俺の特訓に顔を出してくれているし、悪口を言い合うような事になるほど嫌われてはいない、はず。

ただ何となく箒が気まずさを感じているのは分かる。多分俺が何か変わったわけじゃないし、むしろそう言う態度を取られるようになってから、俺から話しかける回数は多くなったかも知れない。

 

「よ、よお箒」

「な、なんだ、一夏か」

「「・・・・・・」」

 

 ・・・まぁ、こんな調子で会話が続かなくて気まずくなっている訳だけど。

いかん、箒が避けるようになったのは会話が続かない俺に嫌気が指したからか?そう言えば俺の部屋から引っ越す時に怒っていたよな、もしかしてアレって話題が少ない俺に怒ってたのか?

 

「何?あんた達何かあった訳?」

「「いや!何も!」」

 

 ───ハモった、マズいこれはあからさまに『何かありましたよ』と言っているような物じゃないか。

鈴もそんな俺達の空気感が伝わったのか、呆れたようにツッコミをもらす。

 

「何その『何かありました』感まるだしの反応、わざとやってんの?」

「いや、そんな訳無いだろ」

 

 ホントに何も無いんだけど、なんだか言い訳じみた事を言ってしまう。

それの何かが気に障ったのか、箒はスタスタとどこかに行ってしまった。

 

「あー・・・」

 

 ふわりとなびくポニーテールになんとなく後ろ髪を引かれる思いだった。

・・・ポニーテールが後ろ髪なのでなんだか表現としておかしい気がするけど。

 それを見届けた鈴も席から立った。

 

「じゃ、わたしも部屋に帰るから」

「ん、誘ってくれてありがとな」

 

「たまにはアンタから誘いなさいよまったく・・・」

 

「うん?」

「何でもない、じゃあね」

 

 箒と同じように鈴もツインテールをなびかせて歩き出す。

・・・俺もなんか動きのつく物をつけようかな。小鳥が髪方面でやってるし、マントとか。

 当てもなくそんな事をぼんやりと考えていた。

 

 

・・・・月曜日・・・・

 

 

「ハヅキ社製のが良いなぁ」

「え〜?デザインだけな感じがするし、性能的にもミューレイのがいいんじゃない?」

「でも高いじゃん」

 

 月曜の朝からクラスの女子は元気が有り余っているらしく、やいのやいのと談笑している。議題はISスーツについて。

今現在彼女らには学園側からの支給品があり、無理をしてスーツを買い揃える必要は無いのだが、やはり年頃の女子と言うべきか、半ばファッションとして自らの差別化を図り、意見を交わしていた。

 

 ファッション、と言えば衣替えの時期である、生徒の大半が夏服に制服を変えており、俺もまたその1人だった。

一夏はフォーマルな半袖シャツを着け、俺はその上から薄手の白いカーディガンを羽織っており、皆が皆なりの形で季節の変わり目に対応していた。

 

──閑話休題(かんわきゅうだい)

 

俺は手乗り自作PCと睨み合って設計図を考えながら、一夏は教科書の再確認をしながらその話聞き流していたのだが、ふとした拍子(ひょうし)に話題が男子のISスーツに飛び火した。

 

「そういえば一夏くんと小鳥くんのスーツってどこ製のなの?二人とも別々のモデルっぽいけど」

「あー。特注品だって。どっかのラボが・・・えーと、イングリッド社製のストレートアームモデルを改造したって聞いたぞ」

「小鳥くんは?」

「・・・忘れた。アメリカのどこぞかのメーカーの代物らしいが、性能以外は特に気にしてないんでな」

 

 視線を画面に落としたまま返答する。

俺のISスーツは学園経由で選出した一夏のそれとは事情が違い、ある程度メーカー側が男性用ISスーツを作れるようになってから製作された物で、入学する直前にメーカーが宿泊していたホテルに直接送り届けた代物である。

 薄気味悪いレベルで着心地が良かったのでそのまま使用しているのだが、メーカーも覚えず生産国を覚えるなどやはり俺も凡人のようだ。嫌いな存在の事がどうにも気に止まってしまうのは。

 

「ふーん。小鳥くんが気にいるくらいのなんだ、ちょっと気になるな」

「時間が有れば調べておいてやる」

「なら、私の方も調査お願いしても良いですか?」

「あん?」

 

 言ってきたのは織斑円花、先週学園に特別編入した訳ありである。

持ち前の人当たりの良さと『千冬の妹』と言うネームバリューも相待って、クラスを問わず、みんなの妹と言うポジションを入学一週間のうちで確立していた。

そんな彼女のISスーツなのだが、現在は支給品を利用しているが、サイレントゼフィルスには今もなおあのセンシティブなハイレグが残っている。

 

「あれは出自不明で情報がゼロなんだ。調べようも無い物をどうして調べられる。先生方に任せるのが良いだろ」

 

 にしても、円花の猫被りは目を見張る物がある。

口調は砕けた時と大差無いが、その柔和さは10割り増し、印象が変わりすぎて別人じみている。

これは千冬や一夏も騙される訳だ。

 

「ええー情が無い!」

「こんな可愛いのに〜!?」

「関係無い」

「千冬先生の妹なんだよ!?」

「知ったことか」

 

 女子連中が円花を抱いて擁護しながら口々に言いたい言ってきやがる。

そもそも俺は『やらない(don’t)』ではなく『できない(can’t)』と言ったのだ、やるやらない以前の問題で()(つまず)いていると言うのにどうして調べようと言うのか。

 

「できない事をやって何の意味がある。よしんば仮に的中できたとしてそれをどうしろと?俺ら学生の身分でできることなどたかが知れている」

 

 どうにも、女性と言う生物は感情が優先されるらしい。

他人の事をとやかく言える立場ではないが、建設性の無い話を気分でもない時に振られる事程面白みの無い事も無い。最初から味も香りも無いガムを延々噛まされている気分だ。

二転三転する話題に嫌気が差して、視線を上げてやる気力も湧かない。

ので、視線を落としたまま言葉を放る。

 

「それに円花も、他人に何かを頼みたいのならそれ相応の態度があるだろう。何を頼んでも許される程敬語は万能ではないからな」

「・・・すいません」

「もー円花ちゃんが可哀想だよー」

「知った事か。『可哀想』で全てが片付くなら児童犯罪は泣き落としで全部片づいちまうだろうが」

 

 (たしな)めるように、吐き捨てるように、言い放つ。

どうせ感情論との水掛け論になるだけだ。

撤回(てっかい)しようと通そうとも面倒臭い事に変わりはあるまい。それに相手は過保護に育てられたただのガキだ、社会の荒波を味あわせてやらねば教育にも悪いと言う物だろう。

 

「それと、お前ら時計は見えているか?軍人教師のお出ましだぞ?」

「あ、やば」

 

 いつぞやの会話の焼き増しで話を切り上げる。

気づいた全員がぞろぞろと自分の席へと踵を返す、中には『じゃあわかったら教えてねー』などと判然としない事を言うヤツや俺にだけ見えるようにあっかんべをしている円花もいるが、まぁ気にしないでおこう。

 

「諸君、おはよう」

 

「「「お、おはようございますっ!」」」

 

 一夏、箒、セシリア、円花、クラスのほぼ全員がしまった挨拶を返す。

『ほぼ』全員と言うのも、俺は返答していないので全員と数えるには無理があるのだ。

 

「では、山田先生。ホームルームを」

「は、はい!」

 

 一瞬、教室を見回した千冬と目がかち合った気がして悪寒が走ったが、そんな事は無かったらしく、麻耶に進行を移す。

 

「えっとですね、今日はこのクラスに転校生さんが来ています!しかも二名です!!」

 

ざわめくクラスメイト達。

何しろ時期的におかしい上、この時期に二人とも転校してくるなど珍しいを通り越している。

 

(鈴音と言い、どうにもISに乗れる野郎の登場に辟易してるみたいだな)

 

 それに学園の外には出ていない情報だろうが、ISに乗れる男はもう一人いる。

刹那・F・聖永、所属不明の機体に乗るこれまた正体不明の記憶喪失の少年。

俺はともかく一夏よりも年少で、円花と同年代くらいじゃないかと思われる彼は、多分今週中には存在が明かされるらしく、千冬から俺に知らせがあった。

 そんな俺の心中の呟きなど誰の知る由も無く、麻耶教員の司会で件の転校生がやってきた。

 

「では、おふたり共入ってきてください」

「失礼します」

「・・・」

 

 ドアが開かれ、二人の転校生が入ってくる。

 

「っ!?」

 

 驚愕に俺の目さえ開かれる。

 ひとりは銀髪赤目の小柄な女の子、顔立ちは良いが、どうにも冷たい印象を与える目元は、どこか千冬に似ていると感じる。

しかし申し訳ないが俺の、いや教室中の視線と意識を釘付けにしていたのはもう一人の転校生。

 当然だろう、金髪に紫水晶のような瞳を備えた少年だったのだから。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。僕と同じ境遇の人物が居ると伺って本国から転校してきました。不慣れな事が多いと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

 柔らかな物腰、俺よりやや長く柔らかな髪を俺とは比べ物にならない程丁寧に束ねた髪型と、女とも見紛う中性的な顔と声色を持つ彼は、いわゆる美少年と言うヤツなのだろう。

 

(・・・いや待て『デュノア』だと?)

 

彼のセカンドネーム、つまり苗字には聞き覚えがあった、それはまさしく

 

「「「「きゃあああああ!!!!」」」」

 

 そこまで至った俺の思考回路は女子達の黄色い悲鳴によってかき消された。

 

「男子!三人目!」

「しかも美男子!守ってあげたくなる系の」

「地球に生まれて良かったぁ!」

 

 方々からシャルルに対する賞賛の声と、それと同様にその美男子と同級生になれた幸運を喜ぶ声がジェットエンジンみたいな音量で台風のように吹き荒れていた。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

「お、お静かに。まだ自己紹介終わってませんから〜!」

 

 面倒くさそうな千冬の号令と慌てた様子の麻耶教員、ただでさえ姦しい教室がより騒がしいのだ。うんざりするのも頷ける。

 

「・・・・・・」

 

 しかし、話題を振られたはずの銀髪少々は、何も語らず微動だにしない。

銀色の髪は鏡というより氷に似て、動かざるその雰囲気は永久凍土のようだ。モデルにでもしてやれば引くて数多だろう。

が、ここは写真撮影の場でもないし、無論モデル養成学校でもない(モデルやってる奴が多いけど)。

学校である以上コミュニケーションが必要なのだが、当人がとりたがらないのでは仕方が無い。溜息をついて千冬が銀髪の転校生に自己紹介を促した。

 

「・・・挨拶をしろ、ラウラ」

「はい教官」

 

 教官──軍などで新兵に指南の役割をもつ上官を指す敬称──と千冬を呼ぶラウラと言う名前らしい転校生。

その『教官』と言う呼び方を受けてか、困った様な顔をして、千冬はまた口を開いた。

 

「ここではそう呼ぶな、今は私は教官ではないし、お前も一般生徒だ私の事は織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

 背筋を伸ばしてその言葉を受けたラウラ。

プライドが無駄に高そうな割には素直すぎる態度。

 

(・・・どうにも、千冬を尊敬、いや、崇拝しているのか。コイツは)

 

 千冬を教官と呼んだ、千冬は『今は』教官ではないと、そして『今は』ラウラも一般生徒だと言った。

つまり彼女はかつては一般人ではなく、また千冬も大凡軍人にしか適用されない教官と呼ばれる立場だったらしい。

シャルルの姓についても考察しながら、ラウラと言う少女がほぼ確実に軍出身である事を把握する。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 ボーデヴィッヒ。間違いなくドイツ語圏の苗字。

ドイツ語圏の中でISを使用している国は複数あるが、製造している国は二つしかない。あるいはドイツが本国なのやも知れない。

とすれば、千冬も恐らくはドイツ軍に何らかの事情で在籍していたのだろうか。

色々と気にかかる事は多いが、まぁラウラにせよ千冬にせよ本人に聞けば良い話だ。

 

(しかし、名前だけ名乗ってだんまりとは、一夏よりも自己紹介下手かコイツは)

 

 名前を名乗って10秒弱、ラウラ・ボーデヴィッヒは迷い無く口を閉し、それ以上を喋る気配が無い。

 

「あ、あの~・・・・・・それだけですか?」

「以上だ」

 

 停滞した教室を流動させようと麻耶教員が引き気味の笑顔でその先を促すが、にべもなくそれ以上は無いと断言するラウラ。切り捨てられて涙目一歩手前の麻耶教員。

良い趣味をしているな、俺も麻耶教員を弄めるのは愉しいと思うぞ。

 が、そうして見ていると、銀の少女が織斑千冬の弟の元に足を向けた。

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 自己紹介を終えたラウラは、俺と目が合うと無表情のままこっちに歩いてきた。こらこら、山田先生が涙目じゃないか。

と、そのまま一切の無駄無く右手が振り上げられた。

 

「貴様が・・・ッ!」

 

 振り上げられるラウラの右手。その直後、俺の腕が引っ張られ、振り下ろされた手のひらが空を切った。

 

「おわっ!?」

 

 間一髪(かんいっぱつ)自分の頭の上を通り過ぎる手の風に驚きの声をあげてしまう。

 あまりに突然(とつぜん)で、一瞬何が起きたか解らなかったが、どうやらラウラが俺を平手打ちしようとしたのを小鳥が邪魔したらしい。

 

「ぐぇ、」

 

 勢いのままに俺の肋骨(ろっこつ)(あた)りが机に食い込んで踏み潰されたカエルみたいな声が出る。

 

「・・・貴様、何のつもりだ?」

「こっちの台詞だよ、何が有ったかは知らないが、それ(暴力)は誉められたモンじゃないな」

 

 人が殺せそうな鋭い眼で小鳥を(にらむ)むラウラと、いつかのセシリアの時の様な眼でラウラを睨み返す小鳥。

 

「言いたいことがあるならその口を使え。それさえ出来ないのならお前は獣以下だぞ?」

 

 一瞬にして(こお)りつく教室の空気。

ラウラが睨み上げる小鳥から俺に視線を合わせる。

 

「・・・っ!?」

 

 静かな両目の奥に燃える怨恨(えんこん)の炎。それはまるで俺を焼き尽くす為に燃え上がって、一歩間違えれば喉元を噛み千切られる予感さえした。

 一瞬の間を後にラウラは口を開く。

 

「認めない。私は貴様を教官の弟だとは認めない」

 

 ラウラはそう言うと『フンッ』と息を吐いて自分の席に向かった。

 小鳥も蛇の様な眼でそれを見届(みとど)けると、何事も無かったかの様に教壇(きょうだん)の方に姿勢を戻した。

 

 と、事の顛末(てんまつ)を何も無かったかのように、千冬姉が咳払いをして発破をかけた。

 

「えー・・・HRを終了する!ー確認すぐに着替えて・・・」

 

「「「きゃあああーーー!!!!」」」

 

 さっきここで起きた物に似た悲鳴が聞こえた。2組にしては距離が遠い感じがする、3組か?

すげぇ音圧だな全員ビクッとしてたぞ。

さっきの1組もこんな感じでうるさかったとしたらホントゴメン2組。

 

「・・・ふー。こんな騒音被害に二度も見舞われた2組の連中には同情しかないな」

 

 小鳥が何か小さくため息を吐いていた。

色々訳知りの小鳥の事だ、何か知っているかも知れない。

 

「小鳥、何か知ってるのか?」

「知ってるも何も、お前も知っているだろうが。十中八九俺の同居人だろ」

 

 うんざりしたように答える小鳥。

え?同居人?同居人って・・・

 

「え、刹那!?」

「っ、バカ!声がでかい!」

 

 あっ、と思って口を塞ぐがもう遅い。

案の定周りからの注目が集まっていた。

 

「ねぇ今の叫び声について何か知ってるの!?」

「今“刹那”って言ってたよね!人の名前みたいだけど知り合い!?」

 

 男子の転入生の登場と、3組から響く黄色い歓声、その上『刹那』と言う人名。

色々と情報が多かったせいでか、クラスの噂好きの生徒たちは興奮気味に詰め寄ってくる。

俺は聖徳太子じゃないんだから一気に喋られても聞き取れないし理解出来ないって。

 

「あぁクソ、やっぱり来たか」

 

 苦虫を噛み潰したような表情の小鳥。

そうか、刹那の情報って俺たち以外じゃ先生しか知らないんだっけ。

 だが小鳥の動きはここからが早かった。

 

「さあ一夏、今日の一限目は実習だぞシャルルもほれ付いてこい!」

「え、ちょっと待てよ小鳥」

「ちょっ、手引っ張らないでっ!」

「言ってる場合か!」

 

 

逃走開始である。

 

「あ、小鳥君!逃げないで!」

「何があったのか教えなさいよぉ!!」

 

2人を引っ張りながら逃げる小鳥。

当然のようにその後を追うクラスメイト達。

騒ぎを聞きつけて他のクラスの生徒まで廊下に出始めている始末。

 

「な、なんなんだ一体!?」

 

走りながらも何とか小鳥に話しかけるが、その返答すら無い。

小鳥が走るスピードを上げる。

 

「え、えと、小鳥くん?だよね、この事態は一体!?」

「馬鹿かよ!2人も新規の男子が来たんだ!こうなるのも当然だろうがッ!!!」

 

 シャルルの質問に半分説明になってない説明を放り投げ、廊下を駆け抜ける小鳥。

 

「半分は刹那の方に行ってるだろうが。それでも全校生徒の4分の1が俺達を追ってくると思え!!そして遅刻は即刻『死』を意味するぞ!!!」

「死!?」

 

 驚いた声を上げるシャルル、それもそうだろう。

遅刻したことも本当に殺されたこともないけど千冬姉を前に遅刻でもしてみればイヤでもそう思う。

それこそ、本気で殺されるんじゃないかと思うくらいには。

しかし、そんな事を考えている余裕はないらしい。

背後からは追っ手の足音が迫ってくる。

しかもこれは……10や20どころではないな、30人以上いる。

冗談抜きで命の危機を感じる状況だった。

 

「居た!例の転入生よ!」

「金髪に紫水晶の瞳!とんでもない美形よ!守ってあげたくなる系の!」

「者ども出会えい!出会えい!」

 

 前からも女子がゾロゾロと出てきた。

苦虫を噛み潰した表情で小鳥が零す。

 

「武家屋敷かよ、耳も足も早い・・・ッ!」

 

 全くもって同感だ、あやうくホラガイまで持ってきそうだぞ。

なんて事を考えつつ、横道に逸れて女子の壁を躱す。

だけどこのままじゃジリ貧だ、遠回りにもなるし、捕まったら元も子もない。

 

「ッ・・・どうすんだよ小鳥!このままじゃ遅刻しちまう!」

「──シャルル、お前専用機あるか?」

「え?う、うん持ってるけど」

 

 唐突な問いに一瞬きょとんとするが、直ぐに答えてくれた。

先頭を走っていた小鳥は急停止し、窓の外を眺める。

 

「じゃあサイレントモードにしていろ、先生方にバレると厄介だ」

 

 ひと1人は余裕で通れそうな窓を開けながら指示を出す小鳥。

サイレントモード・・・確か行動不能にする代わりに一時的にISをコアネットワークから外す機能だったっけ。

 

「・・・っておい待て!それってまさか!?」

 

驚いて小鳥に詰め寄るけど、小鳥は既に窓枠に手を掛けていた。

 

「そのまさかだ、校則違反にはなるがバレなきゃ犯罪じゃあないんだよ。みんなで赤信号を走り渡ろうや」

 

 そしてそのまま小鳥は躊躇なく窓から飛び出した。

制服のままIS『銀影』を展開し、バックパックから2本の剣を引き抜き合体させて一本の剣にした小鳥は俺達に告げる。

 

「そら、迷ってる暇は無いぞ!俺が掴んでやるから1人ずつ飛び込んでこい!」

「〜〜ッ!ああもう、男は度胸!」

 

覚悟を決めて飛び込む。

小鳥はしっかりと俺を受け止めて片腕で抱え上げる。

 

「よし、シャルル!来い」

「わ、わかった!」

 

シャルルも遅れて窓枠に手を掛け、小鳥目掛けて飛び込む。

小鳥はそれを難無くキャッチして見せた。

 

「──軽いな、ちゃんと飯食ってるのか?」

「えッ!?そ、そんな事ないよ、少食なだけだしっ!体重管理してるだけだよっ!?」

「女子かよ・・・。まぁ良いか、とにかく行くぞ」

「おう、ほらシャルルもちゃんと捕まっとけよ」

 

 流石に校内でISを展開しているのを見られる訳にはいかない。

シャルルの手を取り、銀影の装甲の掴みやすそうな所に置く。

 どうしたんだぼーっとして。

 

「シャルル?」

「ふぇっ!?い、いやなんでも無いよっ!!うん!なんでも!!」

「準備が良いならとっとと行くぞ」

「う、うん!」

「わかったけどさ、どうやって校舎に入るんだ?正面からは入れないと思うんだけど」

「アリーナのピットから入る。誰にも見つからないならそこが1番リスクが低い」

 

 空中でそう言い切った小鳥は、俺達を小脇抱えて飛翔した。

PICを広めに展開しているのか、速度の割にGはかからず、自転車の急ブレーキくらいの体感で飛んでいく。

 地上100mほどの高さから学園を見下ろせば、なんだか背筋が震えた。

 

「そらっ、もう着くぞ」

 

 誰も居ないアリーナに降下、ピットに転がり込む。

 

「ふぅ・・・到着だな」

「こっちとしては心臓に悪いから事前に言って欲しいなぁ・・・」

「仕方ないだろう、進路を塞ぐ連中に文句を言うんだな」

 

俺の口に軽く返しながらも、小鳥はISを解除した。

 

「それで、これからどうするの?」

「どうするもこうするも、ピットの更衣室で着替えて、そのまま下に降りてグラウンドに出る。エレベーターがあるから、途中経路は気にしなくて良い」

「な、なるほどね」

「じゃあ早速行こうぜ」

 

更衣室に3人の男子で入っていく。

更衣室はガラガラで(他に誰かいたら怖いが)、男子3人が広々と使える分の広さがあった。

奥からシャルル、俺、小鳥の順でロッカーを使う。

 時計を見ると・・・うわやば、5分無いじゃん

 

「んじゃ、さっさと着替えようぜ」

 

 そう言いながら制服のボタンを外し、Tシャツを脱ぐ。

と、シャルルが驚いたように声を上げた。

 

「うわぁ!?」

「ん、何だよそんな驚いて」

「い、いや、別に」

 

顔を赤らめ、視線を逸らすシャルル 男同士なのに何を照れてるんだろう。

 

「早く着替えないと遅れちまうぞ?」

「う、うん・・・で、でもちょっとあっち向いてて。その、恥ずかしいから・・・」

「???別にジロジロ着替えを見るつもりはないけど・・・シャルルはジロジロ見てるな」

「み、見てない!見てないよ!?」

 

 両手を前に出し必死に否定するシャルル、別に見られても減るもんじゃないし、なんとも思わないんだけどな、変なヤツ。

 

「つべこべ言わずに背中向けてやれ」

 

 そう思っていると、小鳥が肩を掴みシャルルに背中を向けさせた。

見れば小鳥は既にダイバースーツみたいに全身を覆うISスーツをつけていた。

 

「早いな・・・」

「時間がかかるんでな、制服の下に着けてるだけだ」

「え!?良いのかそれ?」

「良いも悪いも、制服の下につける物は校則で決められてないんでな。違反も何もありゃしねえだろ」

「そ、そうなのか・・・ゴワゴワしないのか?」

「慣れると気にならんぞ、下着としても優秀なんでな」

「ふーん」

 

 どうしよう、今度やってみようかな。

そんなことを考えている俺を尻目に小鳥は『遅刻するなよ』とだけ残して行ってしまった。やばい、本格的に急がないと。

俺は慌ててISスーツの上部分に袖を通し着替えを続ける。

ズボンも脱ごうとしたところで、背後に視線を感じた。

 振り向かないでとりあえず聞いてみる。

 

「・・・シャルルさん?」

「ふぇっ!?」

「俺の勘違いじゃなければ俺のこと見てないか?」

「いっ、いや全然!?そんな事ないよッ!!!」

「・・・・・・・・・おう」

 

 そんな強く否定されると逆に怪しいんだよなぁ。

・・・まぁ気にしないでおこう、そんな事をするほどシャルルは悪い奴じゃなさそうだし。

と言うか千冬姉の授業に遅刻したら冗談にならない。

 上着のファスナーを上げ、ベルトを外し、ズボンを脱いで、パンツに足を通し、上げて・・・

 

じー・・・

 

上げ・・・

 

じー・・・

 

・・・

 

「シャルルさん?」

「な、何かな!?」

 

 やっぱり視線がある様な気がして振り返ると、そこにはもう着替えを終えたシャルルが居た。

 

「早いな・・・着替えるの」

「そ、そうかな・・・・・・って一夏まだ着てないの?」

 

 シャルルの格好はすでにISスーツを身に纏っていた。

一方の俺は腰骨にまで届いただけで、完全には着けきれていなかった。

 

「うんまぁ。ほら、裸だから着づらいだろ、ひっかかって。なんかコツでもあるのか?」

「ひ、ひっかかって・・・!?」

 

 俺の言葉に何故か顔を赤くするシャルル。

なんだ?さっきから様子がおかしいけど大丈夫だろうか?

 

「っと急がないとな。んしょっ・・・と」

 

 腰骨のISスーツを上げてパンツを穿ききる。

 

「これで良し。さ、行こうぜシャルル。小鳥も言ってたけど千冬ね・・・織斑先生は怖いんだ」

 

 おっとっと、この呼び方を学園ですると千冬姉怒るんだよな。

 

「う、うん・・・」

 

 手を取ってグラウンドに向かって走り出す。

低体温なシャルルの手は、まるで絹の様な肌触りで、男同士なのになんだかドキッとした。

 

 

・・・・・・・・・

 

 

「遅い!」

 

 俺が列に加わってから大凡3分、チャイムの音と共に現れた一夏とシャルルは担任兼鬼教師、もとい我らが千冬先生からの叱責を喰らっていた。

と言っても俺もかなり遅い部類であり、列の後ろから三番目程に並んでいて、その次に遅かったセシリアからしきりに一夏に関する情報を聞かれていたが。

そのセシリアが最後尾に着いた一夏に話しかける。

 

「ずいぶんとゆっくりでしたね、スーツを着けるだけでどうしてこんなに時間がかかるのかしら?」

「ムチャ言わないでくれよ・・・」

 

 ISスーツは一般的に(と言うかそれ以外があり得なかったのだが)女性用である。

耐刃、対弾性能に優れたそれの大方はレオタードやワンピースに似ているが、皮膚表面の電位差を検知、伝達することにより、IS操縦をより繊細な物にする役割がある。

肌の露出が多いが、基本的にISのシールドバリアが身体の大半を守備する為、特段問題は無いらしい、零落白夜を見ていると不安で仕方がないが。

 

「俺らのISスーツはめちゃくちゃ着づらいんだぜ?長袖長ズボンみたいモンだし、首まで覆うもんだから着替えづらいんだよ」

 

 俺たちのように男性のIS乗りと言うのは現状世界に3人しか居ない(公式的には2人だが)。

そんな訳で、実験的に作られた男性用ISスーツと言うのは手探りな状態であり、上下ともにロング丈、一夏はツーピースタイプのだからまだいいが、俺に関してはモロダイバースーツのワンピース、しかも指抜きグローブ付きである。

そう言った事情も加味して言ってもらいたい物だ。

 そんな思いも込めて後ろに向かって口を開く。

 

「シャルルの事もあったんだ、クラス外の女子共に追われてた状態で本礼に間に合ってだけでも十分だろうに」

「そうそう、小鳥がいなかったらどうなってたかわかんなかったんだぞ?」

「そうでしたわね、一夏さんは女性との縁が多いようですから?そうでないと初対面の女性から叩かれたりはしませんよね」

「う・・・」

 

 嫌味を言われて押し黙る一夏。

と、そんな俺たちの背後から聞き覚えのある声が上がった。

 

「なに?またなんかしたのアンタ?」

 

 が、バカはその声の主に気づかず、驚いてキョロキョロと見回すばかり。

 

「後ろにいるわよバカ!」

 

 一夏のふくらはぎにトゥーキックを入れ、憤慨するのは一年二組が代表、(ファン)鈴音(リンイン)である。

 

ザッザッザッ

 

セシリアは鈴音の疑問に答える。

 

「こちらの一夏さん、今日来た転校生の女子にはたかれましたの」

「はぁ!?アンタなにしたのよ!?いきなりはたかれるって相当なバカやらかしたんじゃないの!?」

「───バカをやらかしてるやつなら私の目の前に二人いるぞ」

 

あーあ、言わんこっちゃない。

 

スパーンッ!!!

 

 千冬先生の接近に気づかず話し続けた二人は、仲良く出席簿による制裁を喰らったのだった







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