IS/ガンダム00 crossing exceptioners   作:A.Tom

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O and lui(彼と彼)

「・・・だ、大丈夫か小鳥、刹那」

「だ・・・大丈夫じゃない」

「ああ・・・大変だった・・・」

 

 ぜひぜひと息を切らせながら一夏からの問いに応える。

本日2度目の逃走は午前中よりも激しさを増し、()き切るまで5分近くかけ、その間走り通しだったせいで息が整わない。

一方の刹那の回復は比較的早く、深い呼吸からは抜け出していた。

 

 ここは学園の屋上。庭園のように花壇やテーブルが整備され、晴れの陽気もあって開放感のあるこの場所で昼飯を食べようと言う事になっていた。

普通学校施設の屋上は事故や事件、自殺の防止として教師の同伴無しでは閉鎖されている物だが、此処(ここ)ではその限りではなく、制限無く解放されていた。

そう言った固定概念の結果か屋上に寄り付く者は(ほとん)()らず、一度(かわ)してしまえば追手の心配は無かった。

 

「・・・・・・」

「おわっ、どうした急にIS出して?」

 

 しかし念には念、と言う物。銀影(ぎんえい)を呼び出して階段に繋がる扉を塞ぐ。

 

「乱入者防止だ。お前らも横入りされるのは御免だろう?」

 

 腰掛けに座るセシリア、鈴音(りんいん)(ほうき)に問いかける。

3人は『お前も邪魔だ』と言いたげな顔をしているが、意に介さない方が賢明だろう。

 

 

『私は気にした方が良いんじゃないの〜?』

(分かった、感謝してるよ)

『もうちょっとちゃんと形にしてほしいなぁ〜』

(面倒くせぇなお前・・・)

 

 それにISが何を欲しがるかなど知りえない、整備か?

そう言う事なら霧幻の取り付けも急いだ方が良いかも知れない。

 

「あ、その子が例の?」

「ん、ああ。刹那、」

「・・・刹那・F・聖永だ、よろしく」

 

 シャルルに対し自己紹介を済ませる刹那。

ちなみに、刹那の歳は学園中で円花に継いで低く、10〜13歳の幼い印象にシャルルと女子達は目を丸くしていた。

 

「え、えーと・・・。どうしてこの学校に?」

「それは──」

「それは昼飯食いながらでも出来るだろ。俺も一夏に聞きたいことがある、席に着こう」

 

 言って、一夏とシャルルの間を割って進み半円の椅子とは逆の、椅子のある方に惣菜パン数個が入った袋を置く。

女子連中の視線が方々から刺さるが、無視して着席した俺は、一夏が席に着いたのを確認して飯を広げる。

今日は本来刹那に学食の案内をするために時間を取らせないよう、売店で売られている弁当を調達していたのだが、図らずもピクニックのような形になってしまった。

ちなみに刹那に渡した学食弁当は、常温放置しても3日は持つ優れ物で、更に保存料なしと言う点は技術の発展の産物と言える。

 

「ん・・・じゃあ俺らも座るか」

「そうだね」

「ああっ、では一夏さんこちらの方に!」

「え?良いのか?窓際の席だぞ?」

「風通しが良すぎると返って身体が冷える。さっさと座れ」

「ふーん。じゃ、シャルルも座ろうぜ」

「うん」

 

 ついて来た3人が席に着こうとすると、女子連中が一夏を誘導して半円のベンチの中央に座らせる。シャルルが一夏の隣に座った瞬間に鈴音の目つきが鋭くなるったのは間違いではないだろう。

流石に後が怖いので刹那の裾を引っ張り、隣の椅子に座らせる。

 

「えーと、箒。弁当、作ってくれたんだよな」

「あ、ああ。これだ」

 

 一夏の振りに応え、箒が風呂敷(ふろしき)に包まれた弁当箱を机に置いた。

包みがある(ゆえ)中身は分からないが、弁当箱としては平均的なサイズ、あるいはそれより少し大きめか。

そんな包みを開き、箒(さく)の弁当が顔を見せた。

 

「おおー!旨そうだな」

「たまたま今日は早く目が覚めたからな、気まぐれに作ってやった」

 

 白米に(さけ)の塩焼き、ほうれん草の胡麻(ごま)()え、卵焼きに唐揚げ、蒟蒻(こんにゃく)牛蒡(ごぼう)金平(きんぴら)と、素朴だが、王道の唐揚げ弁当である。

 

 忘れがちだがIS学園は曲がりなりにも教育施設。あまりにも浮世離れしていると言えど、流石に家庭科室は存在し、常日頃から生徒に向けて解放されている。

一応寮の部屋にも簡易的なキッチンなどはあるが調理器具類は無い、調理室で作って来たのだろう、健気(けなげ)な事だ。

そんな乙女(おとめ)献身(けんしん)の意図する所が一夏に伝わるか、となると、それは自動拳銃(オートマチック)回転拳銃(リボルバー)より早い早撃ちをするほどに難度が高い。

 

・・・実際一夏の挙動(きょどう)に変わりが無い辺り、伝わってなさそうなのは見て取れた。

 

「あのっ、一夏さん!(わたくし)バスケット(お弁当)、作ってきましたのよ」

「へえ?奇遇(きぐう)ね、私も今日はたまたま早く起きたから作ってきたのよ」

「お、おう。ありがとな」

 

 そして置かれる編み(かご)と茶色いなにかが入っている小さめのプラタッパー。

三人がたまたま朝早くに目覚め、気紛(きまぐ)れに弁当を作った、など途轍(とてつ)もない偶然(ぐうぜん)も有ったものである。

偶然も三つ重なれば必然とも言うが、これを前にしても一夏は『セシリアの料理かぁ・・・』と苦笑いしているのみである。

確かに料理を絵画か何かと勘違いしてるセシリアの料理の味が絶望的なのは同意するが、それにしても鈍すぎるだろう。

 

「ほら一夏、前に食べたいって言ってたでしょ。酢豚、作ってきてやったんだから感謝しなさい」

「ちょ、投げるなバカ!」

 

 一方の鈴音と言えば、乱雑にタッパーを投げ渡す。中身は酢豚のようだ、毎日味噌汁を〜(プロポーズ)のリベンジだろうか。

自分の分を別途(べっと)で買っているセシリアと違い、自分の分まで作って来ている辺り中華料理屋の娘と言った所か。

しかし集まった料理を見てみると和の弁当に中華の酢豚、西洋のバスケット(恐らく中身はサンドイッチ)と量も内容も支離滅裂(しりめつれつ)、一夏一人の腹に収まるかどうか、まぁそうでなかった場合は明日(あす)の弁当にでもなるだろう。

 

「みんな、優しいんだね」

「ああ・・・俺の手に余らなければ優しいで済んだんだけどなぁ・・・」

 

 そう言いながらバスケットを開く一夏、どうやら中身は玉子サンドイッチのよ・・・う?

風下の俺に向かって玉子サンドに似つかわしくないニオイが飛んできた。

 

「セシリア・・・お前そのサンドイッチに何入れた?滅多矢鱈(めったやたら)に甘い匂いがするんだが」

「あら、気付きましたの」

「・・・確かに、なんか甘ったるい匂いするな」

「はい♪隠し味と香り付け、見た目の調整にバニラエッセンスを少々」

 

・・・・・・・・・

 

 金髪の発言を前に、オドリが激怒した。

 

「てメェ巫山戯(ふざけ)てンのか馬鹿がァ!?どこの飯屋にバニラエッセンス入りの玉子サンドイッチがあるってんだよ!イギリス(世界で1番郷土料理が不味い国)の代表に相応し過ぎるわ○○○○(クソが)!」

 

 ロケット弾が爆発する様な勢いで。

 

「は・・・え・・・?」

「まず普通に考えれば玉子サンドの何処(どこ)にもバニラの香りはねぇだろォが阿呆(あほ)が!イギリスの3枚舌に味蕾(みらい)は付いてねぇのか!?それとも脳味噌の方がオカシイのか!?」

「っ、流石にそれは聞き捨てなりませんわ!私個人ならともかく、祖国の事まで悪く言われる筋合いはありませんことよ!」

 

 そこまで言われて理解が追いついたのか、彼女も反論を始めた。

 

「大体、食べた事も無いのに美味しいかどうかなんてわかる訳もありませんわ!何事も試してみなければ始まりません!」

「じゃあ味見の一つくらいしたのか!?」

「してませんわ!」

「言い切んな馬鹿!」

「お、おい小鳥、一旦落ち着け」

「オメーは黙ってろ馬鹿2号!大体最初で味見する様誘導できなかったからこうなってんだろうが!」

 

 オドリの言葉一つで項垂(うなだ)れるイチカ。鎧袖一触(がいしゅういっしょく)、と言うモノだろうか。

 

「大体な、最近初めて料理を作ったヤツの料理がどうして美味しいと言い切れる!?」

「教科書通りに出来ているんですもの!美味しい料理の教科書なんですから最終的に完璧になれば美味しいに決まっているでしょう!」

「教科書のどこに『バニラエッセンスを少々』なんて文言が書いてあった!?」

「だって見た目が合わないんですもの!調整は必要ですわ!」

「その調整の結果を確かめろよアホンダラ!」

「人様に出す料理に口を着けるなど恥知らずにも程がありますわ!」

「人様に喰わすからこそだろうが間抜けがッ!」

 

 その間にもオドリと金髪の口論は激化の一途(いっと)を辿り、遂には実力行使にまで躍り出る。

バスケットの中からそれぞれサンドイッチを鷲掴みにした。

 

(らち)が開かない・・・!こうなったら・・・!」

「いいでしょう、そこまで仰るのでしたら特別ですわよ」

 

「喰らいやがれェッ!」

「くらいないさいっ!」

 

 そうしてテレフォンパンチの構えを取った二人は、互いの口を標的にして凶器を押し込んだ。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

「ふ、ふたりとも、大丈夫?」

 

 互いの口にサンドイッチを食い込ませたまま行動を停止させた二人に金髪の男が声をかけた直後。

 

「きゅう」

「うご、ぁ」

 

 二人は元の席について真白(ましろ)な灰のように色を失った。

 

「お、小鳥ぃ!?」

「やめておけ。セシリアの飯を食らったのだ、(しばら)くは意識を取り戻さないだろう」

「え!?失神してるのこれ!?」

 

 驚愕(きょうがく)の事態に金髪の男──シャルルと言われていたな──も声を上げている。

 

「起こすか?」

「いーわよ別に、でもまぁ目ぇ覚ましたらまた口論が起きるから、めんどくさいと思うけど?」

「・・・なるほど」

 

 先刻(せんこく)怒号(どごう)(かんが)みれば、小柄な女子の発言は的を射た物だった。

 

「んで?一夏?このちびっこは何?」

「あ、ああ。小鳥の同室の」

「刹那・F・聖永だ・・・イチカやオドリと同じ。ISが使える男だ」

「そりゃ見りゃ解るわよ」

「そりゃそうだけどさ・・・」

「いや、オレも話さなければならない」

 

 イチカの同情は嬉しいが、それでも小柄な女子の指摘は的確な物であり、それ以上を説明しなければならないのは明白だった。

 

「ただ・・・オレはそこまで口が回るわけじゃない、そちらから質問してほしい」

「ふぅーん、そりゃ良い心がけね。じゃあ質問。いつISに乗れるってわかったの?」

「3月17日」

「・・・?貴様のニュースは聞いた事ないぞ?」

「学園が規制を敷いたのだろう」

「そう、じゃあなんで今の今まで登校してなかったのかしら?」

「オレの調査が一通り無駄になったからだ」

「ふむ・・・」

「──いや(りん)、その説明で納得するのか?」

「するわけないでしょ、どうやって納得しろってんのよ」

 

 小柄な女子──リンと呼ばれていたな──がイチカの言葉を切って捨てる。

・・・確かに、彼女の言うように、オレが今話した情報だけで必要な情報が得られるとは思わない。

むしろ何か秘密があると思う方が自然だろう。

 

「え、えーと。じゃあ刹那くん、君はどこから来たのかな。中東周辺だよね?」

 

 シャルルが質問を投げる。

オドリも前に似たような質問をしていたな。

 

「わからない。オドリもそれについて調べていてくれたが、覚えていないし、何も分かっていない」

「・・・えーと、刹那。言っても大丈夫か?」

「?何をだ」

 

 イチカが身を乗り出し、机越しに耳打ちする。

 

「記憶喪失の事だよ」

「?皆知らないのか」

「ああうん・・・」

「そうか、チフユは皆に伝えると言っていたが」

「たぶん先生方にしか伝わってないんじゃないか?」

「成る程」

「俺から言うぜ?」

「ああ、任せる」

 

 そうして席に戻ったイチカは、神妙な面持ちで語った。

 

「実は・・・刹那は記憶喪失なんだ。小鳥から聞いた話じゃ、3月17日にISをつけた状態で学園に墜落してきたらしい。その

機体も調べてるけど、分からないことが分かっただけ。だそうだ」

「ふぅーん・・・」

「成る程・・・それならば説明にも納得できる」

「・・・」

「──どうした」

「え?あ、僕?」

「ああ、何か考えているようだったからな」

 

 金髪の男は見当がついていなかったようだが、すぐにその答えを出す。

 

「えっと、その年頃なら・・・ううん、僕と同じ事情じゃないんだなって思ってただけ」

「・・・そうか」

 

 どこか言い(よど)んだ金髪の男だが、すぐに言い直す。

 

「ああ・・・えと、刹那について他に質問はあるか?」

「──無いわ、聞いても知らぬ存ぜぬなんでしょ?聞いても意味無いわ」

「・・・そうだな、思い出せんのなら聞く必要はあるまい。これから思い出せばいいんだ」

「──じゃ、俺から皆に質問だ」

 

 オレの右から手が伸びた。

・・・オドリだ。

 

「お、小鳥、起きたのか」

「今しがた・・・で、気を失ってた間にどこまで行ってたかは知らんが・・・自己紹介したか?」

「え・・・うん刹那の方は」

「逆だ、刹那に、だ」

「うん?」

「俺とお前は前に紹介してるが、刹那は3組だ、全員の名前知らんだろ」

「え゛」

「ああ、どう呼べば良いのか分からなかった」

 

 そんなオドリとイチカの話の隙を突いて、金髪の男が話を始めた。

 

「えっと、じゃあ僕から。僕の名前はシャルル・デュノア。君や一夏と同じ、ISが使える男子で、フランスからきたんだ、これからよろしくね」

「ああ、(よろ)しく頼む」

 

 シャルル・デュノア、彼から差し出された手を握り返し、返答する。

オドリやイチカとはまるで違う。細く、繊細な印象を与える指の感触。同じ生き物と思えない感触に困惑するが、他者からの話は続く。

ポニーテールの女子から、

 

「私の名前は篠ノ之(しののの)(ほうき)、一夏とは小学生の頃からの縁がある。聞いてわかると思うが日本人だ、宜しく頼む」

「シノノノホウキ、か。こちらとも宜しく」

 

 やや古風(こふう)な印象を覚える言い回しと、それが故に非常に堅い雰囲気が特徴のシノノノホウキに続き、小柄な女子が自己紹介をした。

 

「あたしは(ファン)鈴音(リンイン)、故郷は中国、一夏とは小学生の頃からの腐れ縁よ」

「そうか・・・イチカは顔が広いんだな・・・宜しく」

「ん、宜しく」

 

 ファン・リンインはそう言って快活そうな笑顔を浮かべた。こう言う女性も世の中にはいるのだな。

 

・・・・・・。

 

「・・・・・・それで、そこの金髪は何者なんだ」

 

 視界の端で、恐らくは手料理の味のショックに耐えきれず、灰になったまま小さく「そんな」「(わたくし)はかんぺきに・・・」と呟いている金髪を見遣る。

 

「ああ〜・・・ほらセシリア、アンタのことお呼びよ〜」

「あぅ・・・(わたくし)・・・わたくしはぁ・・・」

「ダメっぽいわね・・・」

 

 ファン・リンインが金髪の頬を突くが、胡乱(うろん)な表情を浮かべたままの彼女は、変わらず絶望した台詞を呟き続けている。

そんな彼女に代わりファン・リンインが紹介した。

 

「コイツはセシリア・オルコット、イギリスの元貴族らしいわ。あたしと同じで国家代表候補生よ」

「──そうか」

 

 全員の自己紹介が終わったところで、イチカが口を開いた。

 

「じゃあ、みんなの自己紹介も終わったけど、シャルル、何かもうちょっと言っときたい事あるか?」

「ううん、嫌いな物はあんまり無いから、他の事はおいおいね。ほら、これ以上時間使ってたら午後にも影響出るから、ご飯食べよ?」

「そうだな、じゃあ」

 

 言って、イチカが両手の掌を顔の前で合わせた。

 

「?イチカ、何をしてるんだ?」

「ん?『いただきます』をしようとしてたんだが・・・あ、もしかしてお祈りとかある?」

「いや、食前で宗教的儀礼をしていた覚えは無い」

「中東圏は十字教みたいに長いお祈りはしないよ、えっと、でもお祈りの言葉辺りはあった筈だよね」

「覚えがないなら、する必要も無いだろう」

 

 シャルルが説明してくれたが、オレに覚えが無い以上、何をしていたのかは考えない方が良いだろう。

 

「オドリが言っていたが、日本には『郷にいらば郷に従え』と言う(ことわざ)があるらしいな。ならオレもその『イタダキマス』をした方が良いか?」

「あー、好きにして良いぞ。結局の所『頂きます』も言ってしまえば日本流のお祈りだ。過去を気にするならしなくても良い。それは個人の自由で保護される範囲だ」

「成程」

 

 オドリのフォローを受け、自分の自由を行使しよう。

両手を合わせる。

 

「・・・!じゃ、いただきます」

「「「「「いただきます」」」」

 

 一夏の音頭(おんど)に合わせて、全員が昼食を食べ始めた。

 

 

・・・・・・・・・

 

「・・・そうだ、一夏。一つ聞いても良いか?」

 

 唐揚げ弁当と酢豚に舌鼓(したつづみ)を打っていると、小鳥が話をかけてきた。

セシリアのサンドイッチの味を誤魔化すように惣菜パンを口の中に突っ込んで食べてたせいで、誰よりも早く食い終わっていて、その手にはパンの包み紙とが無造作に握られている。

 

「あー、なんか俺に聞きたいことがあるって言ってたよな。なんだ?」

「千冬先生とラウラ・ボーデヴィッヒ、ひいてはドイツ軍との関係について、だ」

 

 なんとも軽い口調で小鳥はそんな事を聞いてきた。

多分、ラウラと千冬姉との関係から弱みの一つくらい握っていたい、と言う事なんだろう。

 

「うーん・・・先に言っとくけど、そんなに俺も千冬姉とラウラの関係を知ってるわけじゃないんだ。千冬姉がドイツ軍で教育官やってた、て言うのも最近聞いたばっかだし」

「・・・それはネグレ・・・情が無さすぎじゃないか」

「あはは・・・一応その時期にもちゃんと給料が振り込まれてたから。それなりに気にしてくれたとは思う」

「ふぅーん、それで一時期千冬さん家にいないことが多かったんだ」

「ああそうそう、俺も円花も『海外で仕事してくる』としか聞かされてなかったから面食らったよ」

 

 その分いつ家に帰ってくるか分からない千冬姉に俺も円花も鈴もどぎまぎしてたんだけど。

しっかし少しぐらい教えてくれても良いんじゃないかなホント、そしたらこっちから荷物の一つや二つくらい送れたのに。

 

「ふむ・・・一夏、なんで千冬がドイツ軍で働いたか、理由は解るか?」

「やっぱ聞くよなぁ・・・」

 

 目ざとい小鳥の事だから、きっと聞いてくると思ったんだよなぁ。

正直言って、あの事は俺にとってトラウマだからあまり話したくない。

 

「・・・俺もよくわかってないから、話半分で聞いてくれるか?」

「──構わん、話せ」

「千冬姉が第二回『モンド・グロッソ』を決勝戦で棄権したの、理由はわかるか?」

「いや知らん」

「だよな、話は多分そこまでさかのぼるんだけど──」

 

 あの日、日本代表の親族として優待券をもらった俺は謎の組織に誘拐(ゆうかい)された。

謎の組織、なんて番組の中の悪党みたいな響きだけど、でもそうとしか言いようがない、少なくとも俺の中では呼べない連中が俺を会場から連れ去ったんだ。

思い出したくもない、けど忘れることもできない記憶だ。千冬姉はそれを聞きつけて、決勝戦を放り投げてまで俺を助けにきてくれたんだ。

同じ事を言うけど、あの景色は絶対に忘れないと思う。暗闇の倉庫の中、突き破った天井から降り立つ、日の光を浴びる千冬姉の姿を。

 

「──で、誘拐された俺の居所を掴んだのがドイツ軍で、それがきっかけで日本との契約を切られた千冬姉を雇った、って事らしい」

 

 まぁ多分俺が誘拐されなかったら2回連続『ブリュンヒルデ』の座をとってただろうからラウラは俺を恨んでるんだろうな。

 

「・・・お前がシスコンな理由がわかったってだけだな」

「う、まぁそれはそうだけど・・・」

「って言うかそんな事があったのになんで今まであたしに黙ってたのよ、今初めて聞いたわよその話」

「いやだって千冬姉から話すなって・・・」

「じゃあ話してんじゃねえよバカ・・・」

 

 しまった、そりゃそうだ。千冬姉が警戒すると言ったらそりゃ普通に危ないヤツじゃないか。

小鳥も鈴も頭を抱えている。

 

「す、すまん。みんななら大丈夫だと思って・・・えっと、この事は口外無用って事で・・・」

「当たり前だ、まったくこの馬鹿者は・・・」

 

 箒の遠慮のない言葉が胸を貫く、セシリアの事といい、今日はこんなんばっかだな。こんなん困難・・・なんちゃって。

 

「一夏」

「なんかくだらない事考えてるでしょあんた」

「い、いやそんな事ないですよ?」

「なんだその口調」

「亜熱帯では普通でございますよ」

「もう(しばら)くの間黙ってろ」

「・・・すいません」

 

 ちくしょう幼馴染にボケで誤魔化(ごまか)したら友達から痛烈(つうれつ)なツッコミが返ってきやがった。俺はサンドバッグじゃないんだぞ。

こうなったら話題を変えるしか・・・!

 

「そ、そうだ。男子もこんなに増えたんだし、もしかしたら大浴場の調整もしてくれるかもな。あー楽しみ楽しみ」

「そ、そう?一夏がよかったら良い事だね・・・?」

 

 あれ、シャルルくん言葉に詰まってるけどそんなに嬉しくない?

 

「嬉しいのか、そうか」

 

 刹那くん?なんでそんな他人事なの?自室の風呂って湯船狭いよね?

 

「すまん、俺シャワー派だ」

「おおい!銭湯、大浴場は日本人の心だろ!」

「オレは日本人ではない事は確かだ」

「僕フランス人だし」

「人種差別はんたーい」

 

 くそぅ、銭湯の入り方の作法教えてやんないかんな!







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