IS/ガンダム00 crossing exceptioners   作:A.Tom

39 / 41






Caché stay hidden(秘密 未だ秘密につき) 2/2

 赤い瞳、覚えている、あれは、そう、桜が散る景色。

桜にしてはやけに赤い、綺麗な、鮮やかな色あいが目をうるおす。

泣いているこども、だれかな?

夕日の中でうつぶせに寝ている大人を見おろす。

わたしもその人にあこがれていたんだっけ

赤い、あかい・・・

ふふ、きれい

ほら見てよ、強くなったんだよ

 

赤い夕焼け、赤い血だまり、そこにうつる赤い瞳、その顔は──

 

『──忘れていろ』

 

 聞き慣れた誰かの声が腕を引く。

 

そうだ、これは忘れてなければならない記憶だ。

 

白い雪が夕焼けの上に降り積もる

 

 

・・・・・・・・・

 

 

PM18:22

IS学園生徒用寮棟、ホテルの様な内装の一室で、オレはテレビを見て、オドリは自作の小型端末のキーボードを叩いていた。

 

ばぎんッ!!

 

 唐突に鳴った音に振り向くと、オドリはペンを咥えたまま首と肩を回して柔軟をしていた。どうやら先の異音は首を鳴らした音らしい。

 

「っあ゛〜・・・すまん刹那(せつな)(しばら)く外す。俺に用がある奴が来たら追い返してくれ」

「了解した」

 

 そう言って席を立ったオドリは、赤い十字の入った小さな白い箱と灰色のコートを手に取り出かけてしまった。

月に一回、多ければ二週間に一回オドリはあの箱を手に外に出かける。

あの箱が何なのか、何が収められているのかは知らない。本人から言わない、と言うのなら知る必要は無いのだろう。

 

 玄関から出て行ったオドリを見送ると、テレビで流れる淡々とした情報の流れが、一つ大きな事象を映し出した。

スタジオの中のアナウンサーが、予定されていた文面を平坦な声音で読み上げる。

 

『──五年前に王政を復活させたアザディスタンですが、改革派と保守派、王室がどちらを選ぶか。中東各国をはじめ、多くの注目が寄せられています。特派員の池田(イケダ)さん、現地はどうなっているのでしょうか』

『はい、クルジスとの併合(へいごう)以降、アザディスタンでは議会を開けないほど治安が悪化していましたが、王政を復活させて以来国民の意識は王室に集まりつつあり、えー、治安も安定してきていました。しかし、マリナ・イスマイール皇女殿下が太陽光発電エネルギーの取り入れに前向きであるとわかると、(ふたた)び国民の意見が分かれる事態になっています』

 

 特派員がそう言うと、王宮に向かって抗議の声をあげる保守派の群衆が映し出される。

彼らが口にするのは皆同じ言葉。

 

『聖地に余所者(よそもの)を立ち入らせるな!』

『神の土地を汚すな!』

『不信仰者に裁きを!』

 

「不信仰者に・・・裁きを・・・」

 

これは、神の御前に捧げられる──である

不信仰者に屈服してはならない

我々が────す事によって神の──────だ

伝統を軽んじる不信仰者どもに────槌を下すのだ

 

「これは聖戦である・・・」

 

 口をついた言葉は無意識だ、意味など無い。

砂と埃、血と夕日の中で壊れた通信機の声が響き続ける。

 

・・・神は何処にいる?

いや神は──

 

「小鳥ー?」

「──ッ!?」

 

 不意に意識が引き戻される。

 

『皇女殿下がどうするかが、今後の中東の分水嶺(ぶんすいれい)となりそうです』

「──今のは」

 

 朧げに見えたあの景色は、一度手放した瞬間からもう見えなくなる。

 

ドアをノックして声を上げるのは、イチカだろう。

オドリに用なら、追い返さねばならない。ベッドから立ち上がって玄関に向かう。

窓からは雨の音。テレビから発せられる声は、やはり平坦だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 外は雨、しとしとと降り止まぬ雨が、透明な樹脂(じゅし)でできた天井(てんじょう)壁面(へきめん)()らしていく。

現在時刻は午後6時35分。

日も大分(だいぶ)(かたむ)いている(はず)だが、5時半頃から暗雲が押し寄せ空の夕日の琥珀色(こはくいろ)は失われたまま。恐らくはこのまま落陽(らくよう)を向かえるだろう。

 

首に携帯を挟み、自作の端末でメモを取りながら電話をかけ、マイクとスピーカーの向こう側の人物に頭を下げる。

 

「ああはい。・・・そうですね、開発に関わった人が良いですね。はい」

 

「・・・!本当ですか、ありがとうございます、はい。御礼は・・・できる限り。いえ、借りたものは可能な限り返す主義なので」

 

「はい、はい・・・あぁはいはい、アラン・ルー・・・パスカル・マルタン・・・ロジェ・ガルシア・・・・・・」

 

「はいありがとうございます・・・いえいえ十分過ぎますよ」

 

「ああはい、ではここら辺で失礼します」

 

 通話終了のボタンを押すと、専門校にいた時に知り合った技術者の名前が浮かぶ。

彼には『デュノア社の話が聞きたいから技術者を教えて欲しい』と頼み込んだところ、(こころよ)く技術者3名の名前と電話番号を教えてくれた。

恐らく彼が予想している方向の質問はしないが。

 灰色のコートのポケットを手探(てさぐ)りながら、呟く。

 

「とは言え足掛かりはできた・・・か」

 

 彼が想像している使い方(メカニックとしての質問)はしないが、無論悪用する気はない。むしろ悪事を働く人間に掣肘(せいちゅう)を喰らわせてやろうと思っている俺が責められると言う事はあるまい。

危険な橋を渡るのは主義ではないが、橋を渡らずにいられない状況にある以上叩き壊す勢いで叩いてから渡るべきだろう。橋が壊れるなら壊してしまえ。

 

 そんな思索(しさく)(めぐ)らせながらポケットから取り出したのは赤十字の入った手のひらに収まる箱。

プラスチックの簡素な作りの箱の上端を親指でスライドさせる。そこから紙で巻かれたペンより短い棒状の物を一本取り出して口に(くわ)える。

 

それは平たく言えば煙草(たばこ)と呼ばれる物で、上下左右を透明な樹脂で(かこ)うこの部屋は(まご)う事なき『喫煙室』だった。

 

教室棟(きょうしつとう)の裏側に併設(へいせつ)されたこの喫煙室の存在を知る物は少ない。そもそも、俺以外に喫煙者がこの学園に居ない。

 そう言った事情もあり部屋の中央に鎮座(ちんざ)する灰捨て筒(アッシュボックス)は、俺がこの学園に来るまでささやかな使命を果たす事もなくここに放置されていたようで、今でも俺以外の灰が積もる気配は微塵(みじん)も無い。

 右手の示指(じし)中指(ちゅうし)で咥えた煙草を(はさ)み、左手で掴んだコートの内ポケットに隠したライターの火打石(ひうちいし)を火種に小さな炎を起こし、我ながら慣れた手つきで煙草の先端に火を移す。

 

 息を吸って紫煙(しえん)()み、吐き出して、その味の感想は、

 

「あ゛〜・・・まっず・・・」

 

 相変わらずの(ひど)い臭いと喉の感触に顔を(しか)める。

健康に気を(つか)うのであれば多少の味の悪さには眼を(つむ)れる物だが、ここまで吸わせる気の無い味は死活問題(しかつもんだい)だろう。

 

ぱつぱつぱっ、透明な屋根の上に雨が止まない。

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

午後六時五十分、じめじめとした湿(しめ)()が身体を冷やしていく。

 

 私こと織斑(おりむら)円花(まどか)は、人混みを避けながら学園を探検している内に教室棟の外側にまで来てしまっていた。

 

「やっと静かになった・・・」

 

 入学してからこっち、色んな人から質問責めにあっていて、正直ゲンナリしていた。千冬姉や一夏兄の私生活が気になるのは理解できるけれど、それでももう少し遠慮とかしてくれませんかね。家族のプライベートって基本的に私のプライベートなんですよ。

 そんな訳で私は他の生徒からの逃げ場を探す為に学園の良さげな場所を探していたのだけれど。ついには外に出てしまって、軒先(のきさき)の貸し出しビニール傘の下で雨の中を歩いていた。

 

「ん・・・?」

 

 そこで、私は見つけたんです。無色透明なポリカーボネートの部屋、『喫煙室(きつえんしつ)』と書かれた看板(かんばん)がつるされた部屋の中で、火のついたタバコをぴこぴこと(くわ)えた人影。

半開きの目、一つまとめの茶髪(ちゃぱつ)、パーツは悪くないのに全体的に人相は良いと言い(がた)小鳥(おどり)(ゆう)さんがそこにいた。

 

「・・・」

 

 普通に犯罪では?え、未成年ですよね貴方(あなた)、なんでタバコ吸ってるんです?

小鳥さんはまだ横に居る私に気づいておらず、のんきにタバコをふかしていた。

 

さて、今私には三つほど取れる手段がある。

一つは今すぐ小鳥さんに声をかけて、注意する。

二つは見なかったふりをして、そのまま立ち去る。

三つ目は短い丈のボトムのポケットから携帯をとり、

 

パシャッ!

 

 フラッシュを光らせてその姿を撮る事。

 

・・・なんとなくだけど、私はこの人が嫌いだと思う。

千冬姉や一夏兄の顔色を見ながら自分の利益になるように立ち回り、他者に当たる時なんかはゆるされる範囲でコソコソ動き回り、それで人を巻き込んでも我が物顔で通りを歩く。

貴方が命の恩人なのは、まぁ疑いありませんが。今日の練習を一夏兄に任せた時のあしらい方とかを見て確信した。貴方は恥も外聞も捨てて自分の得を取れる人だ、自分の事情を最優先に友情を軽々利用出来る人間で、私に関わるのも千冬姉に恩を売りたいからなんだと。

 

「・・・・・・。──」

 

 そんな理解できない、いや理解したくもない生き方をする人は、私の方を向いて(まゆ)を少し上げたと思ったら、すぐに正面を向いてタバコを吸い始めた。

 

「いやあの、弱みを握られた人の反応ですかそれ!?」

 

 思わず喫煙室に入ってそんな事を言ってしまった。

もちろん、反応を見せて欲しかったと言うわけではないのだけれど、流石(さすが)に何かしら反応してくれないと予想外過ぎてこっちもどう反応したら良いのか分からないじゃないですか。

 

「・・・別に、俺は何も悪い事はしてねえからな」

「いや・・・せめて手に持ってる物の火を消してから言ってくださいよ・・・」

 

 手に持ったタバコには未だ緋色(ひいろ)の明かりがついて、白い煙が登っている。

高校生って大体タバコ吸える年齢じゃないですよね。何堂々(どうどう)と法律違反してるんですか。

 

 肩を落とす目の前で貴方の口はタバコを咥えて煙を吸いこんでいる。

 

「ちょっとー?言った目の前で何吸ってるんですかー?」

「悪いな、これは人生の薬なんだ。受動喫煙(じゅどうきつえん)は自分でなんとかしろ」

「少しは悪びれてくださいよ・・・」

「安くないんだ、100円払ってくれたら止めてやるよ」

 

 が、がめつい・・・それでもって全然悪そうにしてない。鋼鉄で出来てるのかこの人の心臓は。

違法行為だってわかってるんですかね、私が写真をどうするかで千冬姉からの制裁が降ったりしますよ?

 

 小鳥さんの左側、彼の黒い傘の隣にビニール傘を置いて座る。

外は雨のせいで白みがかって、静かに、けれど確かに降り続けて、外と内の境界線を嫌でも押し付けてきて、静かさが浮き彫りになる。

 

「・・・・・・。────」

 

 そんな中でも小鳥さんは煙を上げて息をし続けている。貴方の健康はどうでもいいんですけど、私の健康を少しくらい考えてもバチは当たりませんよ?

 

「副流煙とか・・・それ以前に吸う事自体ダメですよね」

「残念、俺はもう23だ、コレ(煙草)との付き合いも2年目になる」

「え゛」

「・・・何以外な顔してんだ。俺と一夏が同い年だとでも?」

「いやだって、え?こ、高校生ですよね?」

「無論だ、通信制の高校は18以上でもいいだろ」

 

 あっけらかんとした表情で話す小鳥さんは、タバコの灰を灰皿に落として、もう一度吸い口をくわえる。その長さは半分も無い。

じりじりとタバコが焼けていく様を見続けるしかない私に、言葉が投げかけられた。

 

「ああだが・・・俺は(すで)に高校の課程(かてい)を終えて居るからな・・・ISパイロットの課程以外は実は免除されてるし。厳密にはIS学園に(せき)を置いているだけの一般人と言うのが正しいのか」

「は、はぁ」

「──まー・・・そんな(とこ)だ。千冬に告げ口しても大して意味無いぞ」

 

 ふぅー・・・。と白い息を吐き出して、その終わりに煙の輪っかを吐き投げると、たゆたう煙は輪っかに巻き込まれて、壁に付く前に(ほど)けて消えた。

 

「・・・そんな大人が、制服で教室にいるのって・・・恥ずかしくないですか?」

「言うなよ」

 

 鼻で笑った貴方の恥ずかしそうな口元。

いつも私の事を上から目線で誘導(ゆうどう)してくる貴方に一つ白星をつけれたような、そんな気がして満足できる。

 

 そんなイジワルな感情を抱く私の顔を(のぞ)きこんで、小鳥さんはふてくされたような声をあげる。

 

「・・・なんだその顔」

「いえいえ~。貴方の弱みが知れて嬉しいとかそんなんじゃないですよ~?」

「・・・」

 

 べしっ、とチョップが飛んできた。

 

「大人をおちょくんな。俺はこれで許してやれるが、千冬こんな事やった日にはお前、血の雨を見ることになるぞ」

「まぁ小鳥さんにそういう事やる(血の雨を降らせる)度胸は無さそうですしね」

五月蝿(うるせ)ぇな。一夏と違ってリスク管理出来るんだよ」

 

 もう一度チョップが飛ぶ、全然痛く無い。

(ばつ)としてはあまりに軽すぎる気はしますが、殴られたい訳ではないので好都合ですし、これは(だま)っておくとしましょう。

 

〜〜♪〜♪〜〜〜♪

 

 どこからか流れてくるチャイムの音が日没を知らせる。そっか、もう七時か。

気づけばもう辺りは暗く、

呆れ顔の小鳥さんはもう一度だけタバコを吸って、火元を消し潰した。

 

「話はここまでだ。そら、コドモは家に帰る時間だ。オトナには時間が足りないんだ」

「じゃあタバコ辞めたらどうですかね。金と時間の節約になりますよ?」

「そいつは無理な話だな。コレとは一生付き合っていく事になるだろうしな」

 

 そう言って、手に握られた四角い箱を振って見せる。中からは柔らかいものがぶつかる音がした。

あるいは、それは小鳥さんの大人の証明。

 

 それが意味するイヤミな意味に顔をしかめたりはしません。

勝ちほこった、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「・・・まぁ良いです。私としては小鳥さんが割と歳がいもなく学園生活送れるハズカシイ人だと知れたので」

「うっせぇ。精々(せいぜい)こうならないように青春満喫してやがれ」

「はいはい、じゃあ時間の無いオトナに変わって余ってる時間を無駄なく楽しみますよだ」

 

 一瞬で傾いた機嫌(きげん)のことは、隠して見せてあげません。

 

 貴方の思う通り、私は子供です。大人にどうしても言いくるめられる、未熟で足らない、そんな子供です。

でもそれでも意地の一つや二つ、あるものなのです。

 

 そんな言葉を胸に押しとどめて、私はドアノブだけが銀色の扉を開けて、歩み寄る雨音に消えないように貴方に告げる。

 

「また明日」

「・・・食堂で会わないようにな」

「台無しですよ」







  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。