IS/ガンダム00 crossing exceptioners 作:A.Tom
赤い瞳、覚えている、あれは、そう、桜が散る景色。
桜にしてはやけに赤い、綺麗な、鮮やかな色あいが目をうるおす。
泣いているこども、だれかな?
夕日の中でうつぶせに寝ている大人を見おろす。
わたしもその人にあこがれていたんだっけ
赤い、あかい・・・
ふふ、きれい
ほら見てよ、強くなったんだよ
赤い夕焼け、赤い血だまり、そこにうつる赤い瞳、その顔は──
『──忘れていろ』
聞き慣れた誰かの声が腕を引く。
そうだ、これは忘れてなければならない記憶だ。
白い雪が夕焼けの上に降り積もる
PM18:22
IS学園生徒用寮棟、ホテルの様な内装の一室で、オレはテレビを見て、オドリは自作の小型端末のキーボードを叩いていた。
ばぎんッ!!
唐突に鳴った音に振り向くと、オドリはペンを咥えたまま首と肩を回して柔軟をしていた。どうやら先の異音は首を鳴らした音らしい。
「っあ゛〜・・・すまん
「了解した」
そう言って席を立ったオドリは、赤い十字の入った小さな白い箱と灰色のコートを手に取り出かけてしまった。
月に一回、多ければ二週間に一回オドリはあの箱を手に外に出かける。
あの箱が何なのか、何が収められているのかは知らない。本人から言わない、と言うのなら知る必要は無いのだろう。
玄関から出て行ったオドリを見送ると、テレビで流れる淡々とした情報の流れが、一つ大きな事象を映し出した。
スタジオの中のアナウンサーが、予定されていた文面を平坦な声音で読み上げる。
『──五年前に王政を復活させたアザディスタンですが、改革派と保守派、王室がどちらを選ぶか。中東各国をはじめ、多くの注目が寄せられています。特派員の
『はい、クルジスとの
特派員がそう言うと、王宮に向かって抗議の声をあげる保守派の群衆が映し出される。
彼らが口にするのは皆同じ言葉。
『聖地に
『神の土地を汚すな!』
『不信仰者に裁きを!』
「不信仰者に・・・裁きを・・・」
これは、神の御前に捧げられる──である
不信仰者に屈服してはならない
我々が────す事によって神の──────だ
伝統を軽んじる不信仰者どもに────槌を下すのだ
「これは聖戦である・・・」
口をついた言葉は無意識だ、意味など無い。
砂と埃、血と夕日の中で壊れた通信機の声が響き続ける。
・・・神は何処にいる?
いや神は──
「小鳥ー?」
「──ッ!?」
不意に意識が引き戻される。
『皇女殿下がどうするかが、今後の中東の
「──今のは」
朧げに見えたあの景色は、一度手放した瞬間からもう見えなくなる。
ドアをノックして声を上げるのは、イチカだろう。
オドリに用なら、追い返さねばならない。ベッドから立ち上がって玄関に向かう。
窓からは雨の音。テレビから発せられる声は、やはり平坦だった。
外は雨、しとしとと降り止まぬ雨が、透明な
現在時刻は午後6時35分。
日も
首に携帯を挟み、自作の端末でメモを取りながら電話をかけ、マイクとスピーカーの向こう側の人物に頭を下げる。
「ああはい。・・・そうですね、開発に関わった人が良いですね。はい」
「・・・!本当ですか、ありがとうございます、はい。御礼は・・・できる限り。いえ、借りたものは可能な限り返す主義なので」
「はい、はい・・・あぁはいはい、アラン・ルー・・・パスカル・マルタン・・・ロジェ・ガルシア・・・・・・」
「はいありがとうございます・・・いえいえ十分過ぎますよ」
「ああはい、ではここら辺で失礼します」
通話終了のボタンを押すと、専門校にいた時に知り合った技術者の名前が浮かぶ。
彼には『デュノア社の話が聞きたいから技術者を教えて欲しい』と頼み込んだところ、
恐らく彼が予想している方向の質問はしないが。
灰色のコートのポケットを
「とは言え足掛かりはできた・・・か」
危険な橋を渡るのは主義ではないが、橋を渡らずにいられない状況にある以上叩き壊す勢いで叩いてから渡るべきだろう。橋が壊れるなら壊してしまえ。
そんな
プラスチックの簡素な作りの箱の上端を親指でスライドさせる。そこから紙で巻かれたペンより短い棒状の物を一本取り出して口に
それは平たく言えば
そう言った事情もあり部屋の中央に
右手の
息を吸って
「あ゛〜・・・まっず・・・」
相変わらずの
健康に気を
ぱつぱつぱっ、透明な屋根の上に雨が止まない。
午後六時五十分、じめじめとした
私こと
「やっと静かになった・・・」
入学してからこっち、色んな人から質問責めにあっていて、正直ゲンナリしていた。千冬姉や一夏兄の私生活が気になるのは理解できるけれど、それでももう少し遠慮とかしてくれませんかね。家族のプライベートって基本的に私のプライベートなんですよ。
そんな訳で私は他の生徒からの逃げ場を探す為に学園の良さげな場所を探していたのだけれど。ついには外に出てしまって、
「ん・・・?」
そこで、私は見つけたんです。無色透明なポリカーボネートの部屋、『
半開きの目、一つまとめの
「・・・」
普通に犯罪では?え、未成年ですよね
小鳥さんはまだ横に居る私に気づいておらず、のんきにタバコをふかしていた。
さて、今私には三つほど取れる手段がある。
一つは今すぐ小鳥さんに声をかけて、注意する。
二つは見なかったふりをして、そのまま立ち去る。
三つ目は短い丈のボトムのポケットから携帯をとり、
パシャッ!
フラッシュを光らせてその姿を撮る事。
・・・なんとなくだけど、私はこの人が嫌いだと思う。
千冬姉や一夏兄の顔色を見ながら自分の利益になるように立ち回り、他者に当たる時なんかはゆるされる範囲でコソコソ動き回り、それで人を巻き込んでも我が物顔で通りを歩く。
貴方が命の恩人なのは、まぁ疑いありませんが。今日の練習を一夏兄に任せた時のあしらい方とかを見て確信した。貴方は恥も外聞も捨てて自分の得を取れる人だ、自分の事情を最優先に友情を軽々利用出来る人間で、私に関わるのも千冬姉に恩を売りたいからなんだと。
「・・・・・・。──」
そんな理解できない、いや理解したくもない生き方をする人は、私の方を向いて
「いやあの、弱みを握られた人の反応ですかそれ!?」
思わず喫煙室に入ってそんな事を言ってしまった。
もちろん、反応を見せて欲しかったと言うわけではないのだけれど、
「・・・別に、俺は何も悪い事はしてねえからな」
「いや・・・せめて手に持ってる物の火を消してから言ってくださいよ・・・」
手に持ったタバコには未だ
高校生って大体タバコ吸える年齢じゃないですよね。何
肩を落とす目の前で貴方の口はタバコを咥えて煙を吸いこんでいる。
「ちょっとー?言った目の前で何吸ってるんですかー?」
「悪いな、これは人生の薬なんだ。
「少しは悪びれてくださいよ・・・」
「安くないんだ、100円払ってくれたら止めてやるよ」
が、がめつい・・・それでもって全然悪そうにしてない。鋼鉄で出来てるのかこの人の心臓は。
違法行為だってわかってるんですかね、私が写真をどうするかで千冬姉からの制裁が降ったりしますよ?
小鳥さんの左側、彼の黒い傘の隣にビニール傘を置いて座る。
外は雨のせいで白みがかって、静かに、けれど確かに降り続けて、外と内の境界線を嫌でも押し付けてきて、静かさが浮き彫りになる。
「・・・・・・。────」
そんな中でも小鳥さんは煙を上げて息をし続けている。貴方の健康はどうでもいいんですけど、私の健康を少しくらい考えてもバチは当たりませんよ?
「副流煙とか・・・それ以前に吸う事自体ダメですよね」
「残念、俺はもう23だ、
「え゛」
「・・・何以外な顔してんだ。俺と一夏が同い年だとでも?」
「いやだって、え?こ、高校生ですよね?」
「無論だ、通信制の高校は18以上でもいいだろ」
あっけらかんとした表情で話す小鳥さんは、タバコの灰を灰皿に落として、もう一度吸い口をくわえる。その長さは半分も無い。
じりじりとタバコが焼けていく様を見続けるしかない私に、言葉が投げかけられた。
「ああだが・・・俺は
「は、はぁ」
「──まー・・・そんな
ふぅー・・・。と白い息を吐き出して、その終わりに煙の輪っかを吐き投げると、たゆたう煙は輪っかに巻き込まれて、壁に付く前に
「・・・そんな大人が、制服で教室にいるのって・・・恥ずかしくないですか?」
「言うなよ」
鼻で笑った貴方の恥ずかしそうな口元。
いつも私の事を上から目線で
そんなイジワルな感情を抱く私の顔を
「・・・なんだその顔」
「いえいえ~。貴方の弱みが知れて嬉しいとかそんなんじゃないですよ~?」
「・・・」
べしっ、とチョップが飛んできた。
「大人をおちょくんな。俺はこれで許してやれるが、千冬こんな事やった日にはお前、血の雨を見ることになるぞ」
「まぁ小鳥さんに
「
もう一度チョップが飛ぶ、全然痛く無い。
〜〜♪〜♪〜〜〜♪
どこからか流れてくるチャイムの音が日没を知らせる。そっか、もう七時か。
気づけばもう辺りは暗く、
呆れ顔の小鳥さんはもう一度だけタバコを吸って、火元を消し潰した。
「話はここまでだ。そら、コドモは家に帰る時間だ。オトナには時間が足りないんだ」
「じゃあタバコ辞めたらどうですかね。金と時間の節約になりますよ?」
「そいつは無理な話だな。コレとは一生付き合っていく事になるだろうしな」
そう言って、手に握られた四角い箱を振って見せる。中からは柔らかいものがぶつかる音がした。
あるいは、それは小鳥さんの大人の証明。
それが意味するイヤミな意味に顔をしかめたりはしません。
勝ちほこった、
「・・・まぁ良いです。私としては小鳥さんが割と歳がいもなく学園生活送れるハズカシイ人だと知れたので」
「うっせぇ。
「はいはい、じゃあ時間の無いオトナに変わって余ってる時間を無駄なく楽しみますよだ」
一瞬で傾いた
貴方の思う通り、私は子供です。大人にどうしても言いくるめられる、未熟で足らない、そんな子供です。
でもそれでも意地の一つや二つ、あるものなのです。
そんな言葉を胸に押しとどめて、私はドアノブだけが銀色の扉を開けて、歩み寄る雨音に消えないように貴方に告げる。
「また明日」
「・・・食堂で会わないようにな」
「台無しですよ」