「 掃討完了しました。ゴーストの沸きはストップした模様です」
増援部隊の、若い隊長(といってもシュロと比べれば年かさであろうが・・・・)が報告にきた。
装備を外す手を止め、シュロは頷いた。
「 うむ、ご苦労。いい手際だったな。新設部隊とは思えない連携だった」
「 ありがとうございます。自分は、シュロ大尉と一緒に闘えただけで十分です。
自分達新米には及びもつかない動きで、感服しました。
今回もすばらしい活躍でしたね」
興奮した様子で瞳を輝かせ、早口で賛辞を述べる隊長から顔をそむけ、周りを見回しながらシュロはつぶやいた。
「 ・・・それでも誰も助けられなかったな・・・」
戦闘が終結し、静けさを取り戻した山奥の白い街は・・・あちこちに死体が散らばっていた。
戦闘中は気にしないようにしているが、改めて現場を見てみると、外傷もなくただ眠るように死んでいる人達。
彼らは、本当に何の表情もなく倒れている。ゴースト現象を初めて目の当たりにして、恐怖に怯える顔すらない。
精神力を吸われ表情を作り出す力すらないほどに衰弱して死に至るためだ。
増援部隊隊長は、シュロにつられて街の人々の様子を見た途端顔面を蒼白にして目を閉じた。
何の恐怖もなく、無表情な死に顔はむしろ見る者に恐怖を与える。
しかしゾッとしながらもシュロを気遣って、カラカラになった喉からなんとか言葉をつむいだ。
「 ・・・あなたのせいではありません。予報が外れたのです、しょうがありません。
シュロ大尉は、これまで多くの人々の命を、ゴースト現象から守ってきたのです。
しかも誰にもその存在を知られることなく。自分は尊敬しています。どうか気を落とさずに・・・」
「 ありがとう。・・・遺体の処理は任せる。隊員の疲労が激しいので看護車に乗って先に帰還する」
遺体の処理を任され、さらに顔色が悪くなった隊長は、敬礼をひとつしてから部下をまとめはじめた。
ゴースト現象の恐ろしさは、現場を目の当たりにして初めてわかる。
予報、処理方法が既に確立されているにもかかわらずアインスがこの現象を一般人に隠すのはこのためだ。
予報が当たれば事前にツヴァイを配置し、住民には適当な理由をでっちあげて避難させるだけで済むが
今回のような事態が起きればまず間違いなく人口の100%が死滅する。All or Nothingなのだ。
そしてこの街は・・・
シュロは何もかも、心までもが白くなっていってしまうような死の街に背を向け、歩き出した。
「 そういえばあの時、他のゴーストが建物内に進入してこなかったのはなんでだろうな?」
看護車の中、イスカがくつろいだ姿勢でシュロに質問する。
建物内にいた男の子をヒソカとモクレンがあやし、シュロは怪我の手当てをしていた。
イスカの質問に、医者の診察を受けながら肩越しにシュロが答えた。
「 あの具現化していたゴーストが、建物の周りの存在の力を吸収し尽くしていたからだろう。
存在の力を吸い尽くすとゴーストはその場から動けなくなると考えればつじつまは合う。
力が吸い尽くされなくなった場所へ立ち入ることもできないんだろう。
3015年に起きた最初のゴースト事件でもそれを利用して鎮圧したんだろうな」
淡々と自説を説き、最後にやや沈鬱な調子でシュロは付け加えた。
「 ・・・つまり俺達はそんな程度の事もわからずにゴーストと闘っているんだな」
看護車が沈黙に包まれた。4人とも自分に課せられた任務の重さを今さらながら痛感した。
診察を終えてシュロが服を着込んでいると、ヒソカが無理矢理明るい声をあげた。
「 でも今回もシュロの大活躍で無事鎮圧できたってことじゃない。
具現化したゴーストなんて私見た事ないのに!」
大袈裟にはしゃぐヒソカを見て、モクレンも身を乗り出す。
「 あぁ、すごかったよ。
互角だとか危なかっただとか言うけれど、最後は一撃で戦闘不能だったもんな」
「 私もそれだけ強くなれたらなぁ~」
彼女は自分の槍、ソウルランスをもてあそびながら口をとがらせた。
精神力は扱いが複雑なため、ツヴァイの武器はその形態を大きく退化させざるをえなかった。
もちろん、精神力の未熟な男の子に触らせるのは危険なため今度はイスカが肩車している。
「 ふふ・・・帰ったらもっと厳しくしごいてやるか?」
シュロが笑顔を見せる。イスカやモクレンもしかめっつらを返しながらもどこか楽しそうにしていた。
任務の後はどうしても神経がとがってしまうが、普段はこんな楽しいチームだ。
辛い任務もこのメンバーならこなしていける。シュロはこの日初めての笑顔を3人と分け合うように楽しんだ。
車は高地をくだり、既に平坦な街の道路をヘリポートへと進んでいた。
「 ・・・あ~しかしなんだ、えーと」
モクレンがもごもご口を動かしている。彼には珍しく言葉を外に出すのをためらっている。
「 どうした?モクレン」
シュロが聞く。モクレンが話しやすいように軽い調子で声をかけている。
「 あぁ、えぇと・・・すごいよな、シュロは」
「 ん?」
「 あのゴーストなんて、俺は手も足も出なかっただろうな。
シュロが止めてくれなかったらあっという間ににやられてたかも知れない」
「 ・・・何が言いたいんだ?」
モクレンがいいにくそうにしている理由がわからずに、今度はシュロが聞いた。
「 私達と歳は変わらないのに、シュロは抜きん出てるわよね」
ヒソカが察して話をつなげた。
さらにモクレンが言いたかった事を代弁する。
「 ・・・キャリアの差よね。
シュロは12歳のときからこの任務についてたって聞いてる・・・
・・・なんでなのか聞いても・・・いい?」
普段から聞きたかったことなのだろう。
ヒソカもモクレンも、イスカまでもが遠慮がちにシュロをじっと見つめている。
シュロは男の子を複雑な目で見つめていたが、やがてポツリと言った。
「・・・みんなには・・・いずれ話すことになるだろうな。今は・・・まだ整理がついてない」
さっきよりも重い沈黙が訪れた・・・シュロも辛い。
自分のことを隊長ではなく、名前で読んでくれる部下達は信頼しているが、この事実を伝えるのは・・・。
「 ・・・・この子・・・どうなっちゃうのかな・・・」
窓の外を見ながらヒソカがつぶやくのが聞こえた。
「 すまなかったな、予報が外れたか」
ツヴァイの本部に戻ったシュロ達を、彼らの直接指示を与える立場にある”アインス”のツゲが迎えた。
本部は、秘密特殊部隊であるにも関わらず、アインス本部の中に堂々とあった。
アインスはそれぞれの部門の専門家の中から、さらに身分証明や厳しい試験などを経て全てのプロフィールを公開した上で選ばれるエリート集団になっていた。
しかし機密性は高く、人のプロフィールは公開されていても研究内容は秘密にすることができた。
また事実上、研究の後始末を押し付けているアインスはツヴァイに対して負い目がある。
出来る限りの待遇をし、ツヴァイとの連携を深める意味もあり本部を同じくしていた。
「 あぁ、だがおかげで収穫があったよ」
シュロは標準装備についているマイクロカメラのディスクをツゲに手渡した。
「 ゴーストの活動停止か。
仮説としてなら今まで有力なものだったんだがな。これで証明されるな、ご苦労様」
ツゲの言葉を聞いて、モクレンがくってかかった。
「 ちょっと待てよ、仮説として出てたんならなんで俺達に知らせなかったんだよ。
存在の力を吸い取り終わったら活動を停止することがわかっていれば作戦を立てるにもかなり楽になったはずだろう」
広々とした講義室のような作戦室に、声が響く。
「 仮説を信じて命を賭けることは愚かな事だと思わないか?
ゴーストそのものを研究することはできない。
証明もできなかったし、それを伝えて君達が油断するのは避けたかったのだ」
モクレンの詰問をさらりとかわしてツゲは続ける。
「 隠していたわけじゃないんだ。君達のためだよ。そうつっかかってくれるなモクレン」
「 しかし・・・!」
ガチャリ
モクレンはまだ何か言おうとしたが、作戦室の扉の音に止められた。
扉の向こうから入ってきたのは、先日の作戦で増援部隊としてシュロ達を助けたあの隊長だった。
続いてツヴァイの隊員が次々に入ってくる。
「 全員集まったか。じゃあ始めよう」
ツゲがモクレンから目を離し、教壇へ向かった。この作戦室は実際の講義室としても使われる。
当然、ツヴァイ隊員に対するゴースト現象の説明だ。
「 今回、シュロ大尉の第二部隊の任務中、重大な事実が判明した。
まだデータ解析が途中であるため確実な事は言えないが、ゴースト現象は存在の力を吸収しつくすと
一時、その進行を停止するようだ」
ツヴァイ隊員が全員席についた後、ツゲが講義を始めた。
元々作戦司令室ということもあり、ツヴァイ隊員にとっては自分の命に関わることであることも手伝って、場は真剣そのものであった。
「 皆、知っての通りゴースト現象は精神波武器による攻撃でそれ以上増えることを抑えるという形の消極的な対処法しかない。
つまり自然にゴーストの出現が止まるのを待つしかない。
先の研究でゴースト現象が続く時間・量はその土地に住む生物の量に比例して増えていくということがわかっていたが
どれほどの沸きであろうとも闘い続けなければならなかった。長ければ4時間ずっと戦闘状態が続くこともある。
だが今回の発見により作戦の幅はひろがるはずだ。
ゴースト出現地の予測が外れ、その沸きが予想よりも激しいと思われる場合、しばし時間を置き交戦することが望ましい」
隊員の間にざわめきが起こった。いずれも百戦錬磨の、いわば戦闘に関するエリートだけで構成されているツヴァイだが
やはり命は惜しい。危険な状態に陥ったときに撤退命令が下せるか否かで、生存率は断然違うだろう。
「 しかしその場合、これも今回シュロ大尉からの報告にあった存在の力を吸収しつくした具現化ゴーストに注意しなければならない」
ツゲが一旦口を動かすのをやめ、後ろのスクリーンにシュロのデータディスクの内容が映し出された。
シュロの動きを見て、感嘆の声を漏らす隊員達の中で、シュロだけはゴーストの動きだけを修行僧のような面持ちで見つめていた。
あれ以上力を蓄えたゴーストが現れたらどうすれば・・・そう考えると周りからの羨望の目なんか気にしてはいられなかった。
「 見ての通り、すさまじい戦闘力だ。
その他のゴーストは、通常のものよりは強いが警戒していれば問題はないだろう。
この一体が独占して存在の力を吸収した結果だと思われる。
だが我々の見解では、これは具現化したゴーストではない」
シュロがハッと顔を上げると、周りの隊員のざわめきも大きくなっていた。
ゴーストが存在の力を吸収し、それによって戦闘力が上がるのは隊員達もみんな気付いていることだった。
だが存在の力を吸収しつくすとどうなるのか・・・それも、あの作戦以来シュロの頭から離れない疑問だった。
「 これは、データから解析したところまだ具現化といえるほどのレベルではなく、いまだ精神体のゴーストだ」
確かに映像を詳しく見てみると、ゴーストの足が畳からたまに浮いて見えたり、逆に沈んでいるように見えるときもある。
いままで静かに聞いていたシュロだが、たまりかねて手を挙げた。
( ・・・あれ以上のものが出てきたら俺は勝てないかもしれない・・・多分他の誰にも)
「 じゃあゴーストが完全に具現化したらどうなるんだ?」
質問を聞いて、全隊員の視線を浴びたツゲは、一呼吸置いてから再び説明しはじめた。
「 ・・・ゴーストが完全に具現化することはないはずだ。
皆、勘違いしているかもしれないがアレはただの現象だ。災害だ。
人間や野獣の形をとって襲い掛かってくるように見えるが、あれはあくまでも精神波。
やつらが吸収しているのを仮に存在の力と呼んでいるが、今ではあれも精神波を吸い取ることにより生物を死に至らしめ
自らの精神波と同調させて強化していると考えられている。
しかし所詮は実体を持たない精神体、理論上今回シュロ大尉と戦ったものより強くなる事はない。
これはゴーストの行動範囲と吸収精神波量との計算によって証明されている」
ツゲの言葉を聞いて、シュロはホッとしたが他の隊員は複雑な顔をしていた。
結局あのゴーストに勝てるのはシュロだけなのが分かっているからだ。それだけシュロの力はぬきんでていた。
「 今回の発見については以上だ、各隊で今後の作戦の立て方について十分参考にしてほしい」
そう言うと、ツゲはデータを鞄にしまい、解散を命じた。
「 あ、シュロ大尉は残ってくれ」
「 あぁ・・・わかった。みんな先に戻っていろ」
シュロは答えてツゲと共に別室へ入っていった。
さっきの事もあって、モクレンはまたツゲに何か言いたそうにしていたが、やがて憤然として作戦室を出ていった。
「 何噛み付いてるんだよ、モクレン」
イスカが追いついてモクレンをなだめる。
モクレンとは違って、彼はアインスを信用し、ツゲにもそれなりの恩を感じていた。
「 アインスあってのツヴァイだろ。
彼らがいなければ俺達は装備を整えることもできないんだ」
「 俺は・・・あいつらが間違った事してる気がするんだ。
一般人に隠すためにツヴァイに尻拭いをさせてるような連中なんだ、信用できるか」
ツヴァイ本部では、どこでも戦闘ができるように、通路でも戦闘訓練が行われる事がある。
その白く丈夫な壁を力任せに殴りつけてモクレンは吐き出すように怒りをぶちまけていた。
「 一般人のために隠してるんだ。知らせたってパニックになるだけだ。それくらいわかるだろ」
「 でも・・・俺はこの世の中のために戦いたいんだ。
そのために軍からこのツヴァイに移籍してきた。
一般人を守るために。これじゃあアインスを守るための戦いじゃないか」
いまだ怒りを隠しきれないモクレンを気遣いながら、今度はヒソカが疑問を出す
「 私もイスカと同じでアインスは信用してるけれど・・・
今日はツゲさん、妙にカリカリしてたわね。
いつもはあんなに突き放した言い方はしないのに。
モクレンとも毎回納得するまで話しあってくれるのに今日はすぐに帰っちゃって・・・」
「 研究の毎日だ。疲れることもあるんだろう。
ある意味俺達よりも真剣にゴーストと戦っているんだ。研究することによってな。
モクレンも感謝すべきなんだよ」
イスカの説得に、しぶしぶモクレンが黙る。
彼は自分の思想のために軍に入り、そこでツヴァイにスカウトされたのだ。
アインスに従うことに疑問を持つのは当然の成り行きだった。
三人は廊下を歩き、ツヴァイ部隊の屯所にある、各部隊に一部屋ずつあてがわれている談話室についた。
自動扉が三人の”精神波”を感知して開く。
精神波には個人差があり、指紋と同じように区別することができるシステムが既に成立していた。
同様に武器なども登録した精神波を持つ人間しか使えないようになっていた。
イスカなどは精神波がサイ・バスターのシステムにうまく同調し、シュロ、モクレン、ヒソカもそれぞれの武器に合った精神波を持っている。
「 それよりも、あの男の子はどうなるんだ?」
談話室は豪華なつくりではなかったが、広く快適なつくりであった。
特にシュロ大尉率いるツヴァイ第1部隊は優遇されており、他部隊より広い。
丸いテーブルに乗り、椅子に足を引っ掛けた状態でモクレンは次の疑問を口にした。
「 ・・・ゴーストに襲われた子だ。
アインスが保護することになるだろうな」
イスカの冷静な答を、ヒソカが沈んだ声で肯定した。
「 確かに・・・世間に公表するわけにはいかないもんね。
かわいそうに・・・」
イスカがさらに付け加える。
「 あのゴースト現象の中生き延びていたんだ。
特殊な体質を持っているとしか思えないしな。アインスの研究にも協力してもらうことになるだろう。
以前にも同じ例があったらしいぞ。赤ん坊がゴースト現象の中で元気に生きていたってな」
「 その子は今どうしてるの?」
ヒソカが不安そうに尋ねる。あの男の子のことでもあるので本気で心配しているようだ。
「 さぁ?俺も知らないよ。話で聞いただけだからな。
記録を調べればわかるはずだが、ゴーストに関するものだからな・・・俺達にも触れないだろう」
「 その子も元気でいるといいんだけど・・・」
ヒソカがシュロのいる作戦室のほうを向いてつぶやいた。
「 またその話か。ダメな事はわかっているだろう?」
一方、シュロはまだツゲと話していた。
「 推薦してくれるだけでいいんだ。試験は絶対に通ってみせる。
俺をアインスの研究チームの一員にしてくれ!」
シュロは必死の形相でツゲに頭を下げていた。
ツゲは検討することもなく即答した。
「 無理だ。推薦することもできない。
アインスの新規メンバーは全てマスコミに公開することになっている。
プロフィールもだ」
「 そんな事、いくらでも・・・」
「 無理だ。ツヴァイの隊員っていう経歴だけじゃない。問題は他にある」
ツゲはシュロの言葉をさえぎって否定した。
さらに、やや声のトーンを下げて続ける。
「 ・・・お前が世間に出るだけで大変な事になってしまうんだ。
何度も言ってきたことだ。わかっているだろう?お前は・・・」
その先は言わずに、シュロをじっと見つめる。
シュロもこれ以上は反論できずにうつむいている。
「 お前の人生を決めてしまったゴーストの研究だ。
自分の手で決着をつけたいのはわかるが・・・
お前はツヴァイでがんばってくれ」
なぜかとても暗い、哀れみをも含んだ悲しい瞳でシュロを見ながら肩をたたき、ツゲは後ろを向いた。
ふとシュロは思い出し、ツゲに疑問を投げかけてみた。
「 ・・・そういえばあの街で俺達が保護したあの男の子はどうなった?」
シュンッ
談話室の扉が開き、シュロが入ってきた。
「 あ、シュロ。どうだった?あの街で助けた男の子」
待ちかねたヒソカが飛びついてくる。
モクレンとイスカもテーブルを囲んだ椅子に座りながらも、心配そうに見ている。
「 あぁ、あの子だがな・・・」
シュロは自分の後ろを気にしながら答える。
と、シュロの後ろからあの男の子が飛び出してきた。
「 ウチの隊で面倒を見る事になったぞ」
その瞬間、隊員全員が固まった。
事態を理解できず、三人一斉にぽかんと口をあけてとりあえず聞き返してみる。
「 ・・・・・・・・なんだって?」
「 この子、名前はシロー。俺達4人でこの子の面倒を見ろとの命令だ」
律儀に詳しい内容を繰り返し、シュロは男の子:シローを前に出す。
「 シロー。三つ。」
男の子が可愛くお辞儀をして、自己紹介した。まだ言葉が片言だ。
つられてイスカをも含めた三人もお辞儀をした。
「 よ、よろしく・・・言葉喋れたっけ?この子」
ヒソカがシローを抱き上げ、疑問を口にする。
「 あぁ、三歳と言えば言葉をしゃべれて不思議じゃないんじゃないか?
俺には全然わからないが。
何故か保護したときは喋れなかったが、だんだん言葉を話すようになったらしい」
「 あぁ、そうか・・・恐怖か何かが原因だったんだろうな」
出てきた疑問はとりあえず解決して、黙る三人。
突然、ハッとしてイスカが立ち上がった。
「 って、なんで俺達が面倒見るんだよ!?非公式ではあるが、俺達は軍隊みたいなもんなんだぜ
シローを軍人にしろって事なのか!?」
それを聞いて、シュロがニヤニヤ笑いながら答えた。
「 ははは・・・そうだな。説明不足だった。すまん
この子の処遇が決まらないからそれまでの間だけ預ってくれとのことだ。
その間この部隊には出動命令は一切下されない」
シローを用意されたベッドに寝かせるとシュロも3人と同じ丸テーブルを囲んで座った。
「 なんだ、そうだったのか・・・てっきりこの子を軍隊として訓練するのかと・・・」
モクレンがホッと息をついて座りなおした。
この男、意外と子供好きなのかもしれないな、とシュロは思いながらあとの二人を見た。
ヒソカも納得した様子でシローの寝顔に見入っている。
イスカは・・・椅子に座ったまま考え込んでいる。まだ納得していないようだ。
シュロを見返してまた質問してきた。
「 でもゴーストをよせつけない体質はアインスの研究に役立つんじゃないのか?
俺達が預かってていいのかな」
「 研究はシローの処遇が決まってからなんだとさ」
シュロが気軽に返答すると、突然モクレンが顔の色を変えて怒鳴った。
「 なんだよそりゃ!」
3人の視線が集まるのをしばし待ってから、芝居がかった仕草で足をテーブルに乗せ、悪態をついた。
「 ハッ!耐性体質のガキは”二人目”だから研究は後回しでハイもういらないよってか!
やっぱりこれがアインスの本音なんだ!
ゴーストの処理は全部ツヴァイに押し付けていればいいと思って適当にしか研究してないんだ。
俺達はやっかい事引き受け隊としか思われてないんだよ!」
シローが起きないか気にしながら、シュロは静かにモクレンに声をかけた。
「 大丈夫だよ、研究のは確かに必要だが
それよりもシローの心のケアが先だとツゲが言っていた」
一瞬、モクレンはたじろいだが、その後は大人しく座った。
「 む・・・そうか。ならいい。
・・・・すまん」
「 いいさ、モクレンのアインス嫌いは相変わらずだな」
シュロは笑った。元々仲のいい、付き合いの長い隊員だ。
意見が違うことはあってもまたすぐに打ち解けてみんな笑うことができる。
こいつらと一緒ならツヴァイも悪くないか。
アインス入りをまたも断念せざるを得なかったシュロも素直にそう思った。
ひとしきり笑ってから、シュロはふと真顔に戻って、モクレンに聞いた。
「 二人目?さっき二人目って言ったよな。何が?」
「 シローと同じ体質を持った赤ん坊が過去にいたらしいのよ」
代わりにヒソカが質問に答えた。シローのベットに向かい、うつむいたまま。
シローの事を自分の子供の事のように心配しているだけに、過去の事例が何より気になるらしい。
しばらく面倒を見ることができるってだけなのに・・・シュロはむしろそのことが気になった。
「 ゴースト現象から助けられて、その子それからどうなったのかな・・・」
「 元気にしてるだろうさ」
うつむいたままのヒソカにシュロに気軽に答えると、今度はイスカが口をはさんできた。
「 真面目に考えろよ、シュロ。モクレンみたいな言い方で好きじゃあないが
一時だけとはいえ軍隊に子供を預けるようなアインスだぞ、俺達がしっかりこの子の将来に責任を持ってやらないといけない」
「 だがこの子のゴーストの力を全く受け付けない体質はツヴァイの軍人としても有用だ
”一人目”の子もゴーストと戦う立場にあるのかもしれない。シローもそうなるべきかもな」
突然、シローを見ていたヒソカがカッとなったのか、振り向いてかみついてきた。
「 シローにそこまで要求するつもり!?
ゴーストに襲われたからってその後の人生まで決められるわけないでしょ!」
「 シローにとっても、一人目のその子にとってもゴーストは自分を孤独にした憎い敵なんだ!
自分がどんな目にあってもそれを解明してくいとめたいと思うはずだろ!」
さすがにシュロも我慢できなくなり、テーブルに手をついて大声をあげた。
「 ”一人目”と同じ人生を歩めっていうのも間違ってるわよ!
この子にはこの子の人生があるの!」
「 だが”一人目”はそうやって生きてきたんだ!」
モクレンとヒソカに加えてシュロの怒号も部屋に響き渡る。
叩き付けるように押し付けている拳のおかげでテーブルは真っ二つに割れるかと思うほどきしんでいた。
しかし―――
「 ・・・ちょっと待て。シュロ」
一人冷静に話を聞いていたイスカが口を開いた。
「 ”一人目はそうやって生きてきた”だって?
・・・その子の事を知っていそうな口ぶりだな」
シュロがハッと顔を上げた。
ヒソカとモクレンもそのことに気付き、食い入るようにシュロを見つめていた。
「 まさか・・・その子」
「 軍人にでもなってるっていうのか・・・?」
ヒソカとモクレンが真っ青になって呆然とつぶやいた。
二人が可愛がっているシローの将来。
まだ満足にしゃべりもできないこの子にも、そんな重い運命が待っているかもしれない・・・
イスカとシュロも、その事実に心を暗くしていた。
しばらく、誰も口をきけなかったが・・・
「 シュロ。その”一人目”について知っているなら話してくれないか・・・本当に軍人になったのか?」
意を決して、モクレンが口を開いた。
しかしシュロは黙っている。テーブルに額を押し付けて、なかなか話そうとしなかった。
「 ・・・シュロっ」
「 あの街で、ゴーストが動かなくなった時な。あぁそうかって俺は納得してた」
ふと、シュロが話しはじめたのはシローを助けた街でのことだった。
身を起こし、テーブルを見つめながら淡々と、物語でもするように。
「 ツゲがあのことを仮説として有力だと言ってた事も俺は以前から知っていた」
たまりかねてモクレンがシュロの体を起こし、額を押し付けるほどに近づけて言った。
「 話をそらさないでくれ。俺達はシローの将来に責任を持たないといけないんだ。シュロだってわかっているだろ?」
「 ・・・あの時もゴーストは止まっ―――」
「 そらすなって言ってるんだよ!」
モクレンがシュロの体を揺さぶろうとするのを、イスカが止めた。
「 あの時っていつの事だ。シュロ」
「 3015年、ゴースト現象が最初に起こった時だ。俺自身は覚えてはいないんだがな」
「 ・・・っ!」
三人が揃って立ち上がり、戦慄した。
「 まさか・・・シュロ・・・」
「 ―――そうだ。俺が生まれたのも3015年8月。俺もゴースト現象を生き残った人間の一人だ・・・」
いつもはにぎやかなはずの談話室が、この時ばかりは完全に沈黙に包まれた。
シュロは恐れていた。自分の過去に。
ゴーストに対する意識が他の三人と違うのは元から自覚していた。
イスカとヒソカは一般の人々を守るため。モクレンも同じだが、アインスを毛嫌いしている。
そして自分は、人生のために闘っている。自分の人生を狂わせたものと。
その意識の違いがはっきりしてしまえば、もう一緒に闘う事はできなくなるかもしれない。
それがシュロをためらわせていた理由だった。
沈黙の後、何が起こるか・・・シュロは想像して、ぶるっと身を震わせた。
と―――
「 ・・・ぷっ」
それが何を表す言葉なのか、はじめシュロには全く理解できなかった。
「 は、はははは!!!」
それはモクレンの笑い声だった。
モクレンは笑うだけ笑うと、涙をぬぐいながら言った。
「 いや、すまんすまん。それじゃあシュロが鬼のように強いのも当然だなと思ってね」
モクレンにつられてイスカとヒソカも笑っていた。
「 確かにそうだ。小さい頃からずっとゴーストと戦ってたんだな。色んな意味で・・・」
「 すごいね、シュロは」
口々にシュロを褒めたたえ、今度はシローのベッドを見た。
「 でも今日からは他人事じゃないぞ。シュロは勿論だけど、シローだってもう俺達の仲間なんだ。ちょっとの間だけどな。
ゴースト現象の原因をつきとめて、二人を呪縛から解放しないとな!」
シュロは呆然としていた。こんな反応がくるとは思ってもみなかった・・・
「 みんな・・・」
安堵と嬉しさで涙がこぼれる。
自分の過去を話したのはこれが初めてだった。
「 悪い方向へ考えてたみたいだな。俺たちはそれほど冷たい人間じゃないぞ」
いつの間にかイスカがすぐ隣に来ていた。起きていたシロー肩車して。
「 変わらないさ、シュロの過去に何があろうと。そのくらいの時間は共有してきただろ?俺たち」
みんながシュロを囲んでいた。モクレンも、ヒソカもイスカもシローもみんな笑っていた。
「 やるしかないな・・・」
シュロもつられて笑っていた。