Dear My Future   作:湯たぽん

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第三章:決意

「何みてるの?シュロ」

 

シュロが振り返ると、青い半ズボンに白の袖なしのシャツという、いかにも3歳児という格好のシローがニコニコして立っていた。

対するシュロも、対ゴースト用の分厚い装備ではなく、ジーンズにラフなYシャツを着ている。

この子を救助してから2ヶ月。

シローの体質の研究はデータを取るだけで頓挫しており処遇はいまだに決まらず、従ってシュロ達ツヴァイ第二部隊には出動命令が出ることもなく、暇な毎日を過ごしていた。

 

「 あぁ、ここ数年のゴースト現象のデータを見てたんだ。

 俺達が出動してなかった分もあるから」

シュロがコンピューターの画面から目を離して答えた。シローが最もなついているのはシュロであった。

シュロの背中に飛びつくと、シローは画面を見た。

画面とは言っても立体映像、ホログラフになっている。この時代のコンピューターの形はもはやキーボードだけになっていた。

それすらも精神波を利用した思考操作コンピュータの出現により、過去のものとなりつつあった。

扱うデータが膨大なためネットワークに接続していないと使えないのが難点ではあるが。

 

「 あれ、まだOS変えないの?WindowsSP3がでたよ」

シュロのYシャツをつかんで、上へ這い上がろうとしながらシローが言う。

救助したてのときは、恐怖で口を開くこともできなかったが

シュロ達と一緒に生活していくうちにシローは三歳児とは思えないほどの明晰な頭脳を発揮しだしていた。

話す言葉もはっきりしており、詩など朗読させればそれだけでお金を取れそうなほどだ。

 

「 いいんだよ、このままでもなんとか使えるから」

シュロが冷や汗をかきながら言う。早くもコンピューターに関する知識でシローに敗北を喫していたシュロだった。

「 しかし・・・増えてるな、ゴースト現象の発生数・・・この二ヶ月で18回も起きてるのか」

「 でもどれも山中とか砂漠とか・・・・あ、海の中もあるね。何も被害を受けない場所で起きてるから大丈夫だよ」

シュロの頭の上にしがみついてシロー。どうやらここが彼のお気に入りの場所のようだ。

不意に、談話室の扉が開き、声と一緒にモクレンが入ってきた。

「 あぁ、そのおかげで助かってるようなもんだな。二ヶ月前の任務以来、発生数は増加したが

 都市での発生は一つもない。そうでなかったら今頃アインスにマスコミが詰め掛けてるとこだ」

彼は戦闘装備をしていた。白く、分厚い服を着ている。ダウンジャケットのようにも見えるが、対ゴースト用の戦闘ジャケットだ。

精神波を増幅して身体能力を飛躍的にアップする機能も備えている。

戦闘ジャケットを脱ぎ、汗を拭きながらモクレンは椅子に座った。何故か青い顔をしている。

 

「 おう、起きたか。マスコミに騒ぎ立てられるべきだと思ってるんだろう?モクレン」

シュロは笑いながら振り返って言った。

水を飲みながらシローを乱暴に抱きしめ、モクレンは真顔で頷いた。

「 あぁ、そうだな。それだけの数起きてるんだ、いい加減一般にも警告しておくべきだ」

モクレンの汗臭さに閉口して、シローがシュロのところへ戻ってきた。

「 いいからさっさとシャワー浴びてこいよ。シローが嫌がってるぞ。

 頬も腫れ上がってるから手当てしとけよ」

再びシローに背中を登られながら、シュロがシャワールームを指差した。

「 けっ、叩きのめした本人が言うセリフかよ」

「 訓練に誘ったのはお前だ」

「 失神したヤツをほっといて勝手に着替えてパソコンいじりなんかするか?普通」

モクレンはぶつぶつ言いながらシャワールームへ消えていった。

 

再びホログラフの世界地図に目を戻すと、シュロはゴースト発生地点と日時のチェックをはじめた。

「 ほとんど全世界だな・・・ここ二ヶ月ではツヴァイ本拠地に近い場所で起きてるから救いはあるが・・・

 またいつ人が住む場所で起きるかわからんな、これじゃあ」

世界地図に表された丸い点は、どこも戦闘員を配備しやすい地点であり、住民もいないような場所であった。

が、謎の自然現象に都合のいい場所で起こることを期待するわけにはいかない。

「 だが、ここ二ヶ月では北半球でしか起こっていないな・・・発生場所が絞られてきている?」

シュロも馬鹿ではない。アインスのゴースト研究チームに入れてくれと言うだけあってIQは高くデータ解析能力に長けていた。

ただし機械には何故か弱い。今年も、シュロが使っていた二台のコンピュータが意味もなく壊れた。

 

「 ま・・・でもこんなとこかな。データ見てるだけじゃ解明なんてできるわけないか」

コンピュータのスイッチを切ろうとするシュロ。

ふいに、シローが画面を指差して言った。―――シュロの頭の上から。

「 なんでだろ?ゴースト現象ってほとんど土曜日と日曜日に起きてるみたいだよ」

「 ・・・・あ、確かに・・・」

日付を確認し、スイッチを切る。確かに、ほぼ全てが土日に集中していた。

シローを頭に乗せたまま昼食のために扉に向かい、シュロは小さくぼやいた。

「 ・・・まさか、な・・・」

 

 

 

 

 

 

『 ツヴァイ全隊員、作戦司令室に集合せよ!』

大音量で、滅多に使われることのないツヴァイ本部全館放送を聞いたのは、シュロが隊員+シローみんなで昼食をとっているときであった。

「 私達も?」

ヒソカがパスタをからめたフォークを置いて首をかしげる。

「 そうだろうな。シローは静かな子だし、作戦室に連れて行っても大丈夫だろ」

と、気軽にシュロ。

「 ま、どの道俺達に出動命令が出ることはないんだ。いかなくてもいいんじゃないか?」

と、やる気なさげに言うイスカはリゾットを食べていた。

「 ま、一応行ってみよう。俺達はツヴァイだ」

 

 

 

 

作戦司令室についたシュロ達を迎えたのは、異常に殺気立った隊員と、それ以上に目もあてられぬほどに狼狽したツゲの姿であった。

「 あぁ、シュロ!すまないがお前達も出撃してくれ!」

そのまま首を絞めにくるんじゃないかと思うほどの勢いで突進してきて、ツゲはシュロの肩をつかんだ。

「 どうしたんだ、ツゲ?」

状況がつかめず、シュロが尋ねると、ツゲは今度は顔を近づけてきた。

勢い余って頭突きをくらい、シュロがうずくまるのも目に入らない様子で、狼狽しきったツゲは叫んだ。

「 どうもこうも、ゴーストが発生するんだよ!」

「 ・・・いつもの事じゃないか。

 最近はほとんど毎週といっていいほどの発生数だな」

と、シュロを助け起こしながらイスカ。

「 違う、そうじゃない!」

「 ・・・発生しないのか?」

いつもは冷静なツゲがこの時ばかりは混乱していた。

矛盾するツゲの言葉が何を伝えたがっているのかなかなか理解できずにシュロ達は首をかしげた。

 

「 落ち着いてよ、ツゲさん。他の隊員もみんなパニックになってるみたいだから、あなたが落ち着いて指示出さないと大変な事になっちゃうわよ?」

ヒソカがツゲの顔を覗き込むようにしてなだめている。

同時に、シローがビクンと体を震わせた。

シローは検査だの何だのと言って連れまわしていくこの男の事を嫌っており、今日もモクレンの足にしがみついて前に出ようとしなかった。

だがツゲの顔から何かを感じ取ったのだろうか、恐る恐る口を開いた。

 

「 もしかして・・・ここに出るの?」

「 ここ?」

するとその言葉に反応して、ツゲが半ばヤケになって叫んだ。

「 他に何があってこの俺がこんなに慌てるっていうんだ!?

 そうさ、ここ、この街、この世界の中枢”セントラル”にゴーストが出現するっていう予報が出たんだ!今度は間違いない!!」

「 !!!?」

ツゲの慌てぶりに呆れていたシュロ達の目が大きく見開かれた。

アインスの本拠であり、ツヴァイの本部であり、全世界の首都である地球最大の都市”セントラル”。

一昔前であれば、考えもしないほどの巨大さである。

この街にゴーストが出現するとなれば被害は尋常ではすまない。

この巨大都市には1億を超える人が暮らしていた。

アインスの本部も巨大な研究施設だが、それを支える住居、交通網、経済全てが揃った街が必要になった。

世界が一つになったのだ、全ての国の首都も一つに重なったようなもの。”セントラル”はまさに全ての中枢となっていた。

そこにゴーストが出現すれば・・・

「 一般市民はどうする!?」

「 予報ではゴーストは午後4時頃。ブロック10~1、アインス本部、ここにも出現する。

 ブロック10までの市民には既に避難命令は出しているが、時間ギリギリなんだ・・・!」

「 くっ・・・!」

うなって爪をかむシュロ。ツゲが慌てるのも無理はない事態だった。

 

 

 

「 っ!シロー!!」

突然、イスカが叫んだ。

シローは顔を真っ青にして、床に倒れていた。

「 シロー!どうしたんだシ・・・」

「 動かすな!ここは触らずにすぐに医務室へ運んだほうがいい」

不意に冷静になったツゲが指示を下した。さすがに事件を目の前にとらえると判断は早いらしい。

戦闘準備のため騒がしく行き交う隊員を押しのけ、シュロは医務室へ走った。

未曾有のゴースト事件を目前に控えて、殺気立っている隊員もシュロの顔色を見て次々に道を開けた。

背負ったシローの体を動かさないよう、細心の注意を払いながら全力で医務室へ向かった。

走りながら、シュロは猛烈に後悔していた。またしても迂闊な事をしてしまった。

シローが倒れた原因ははっきりしていた。

「 ・・・考えてみればシローはゴーストに、両親も友達も、自分が生まれ育った街全てを奪われたんだ・・・

 同じ境遇の俺がそれに気付かないなんてな・・・」

 

「 この子の前でゴーストゴーストって連発するなんて、俺達は・・・俺はなんて無神経だったんだ・・・!」

 

天才とはいえ三歳の子供の、その心に負った傷はあまりにも深かった。

それを対ゴースト部隊と一緒に暮らしていればそのうち慣れるだろう、などと考えていた自分を、シュロ達4人は心の底から恥じた。

 

 

 

医務室へ駆け込むと、シローの顔を見るなり医者はただの貧血だと診断した。

「 すまんが俺はツヴァイへの戦闘配備指示をしなきゃならんからもう行くぞ」

と言い、ツゲが医務室から出ようとすると、ベッドの脇で寝顔を見守っていたシュロがポツリと言った。

「 シローを一般人に・・・こんなところから出して元の生活に戻してやってくれ、ツゲ」

「 ・・・わかった」

ツゲは振り返ると、はっきりとうなづいた。

「 ・・・!いいのか」

「 あぁ、俺にどれだけの事ができるかはわからないがお前達の気持ちは良くわかる。出来る限りの事はするよ」

「 すまん」

「 いいさ」

 

 

 

「 ・・・いやだ」

突然聞こえてきた否定の声に、シュロ達は驚いて立ち上がった。

声の主はシローだった。

「 シロー・・・起きたの。いやだって何のこと?」

ヒソカが優しい言葉をかけても、聞いていない様子でシローはシュロにしがみついた。

「 シュロはここでゴーストと戦うんでしょ?僕も残る。

 僕もツヴァイになる!」

「 ・・・だめだ」

シュロが静かに、だがきっぱりと否定した。

「 子供だからってみくびるなよ!」

突然声を荒げたシローに、シュロ達も、医務室を出ていこうとしていたツゲも驚いて戻ってきた。

「 僕だってゴーストをこの世から無くしたいんだ。アインスでもツヴァイでもいい。

 シュロと一緒にゴーストと闘うよ!一生!!」

とても三歳児とは思えない決意の表明に、その場の全員が声を失った。

ベッドから見上げるシローの眼には力強い光があった。

「 ・・・それは・・・シローが決めればいい。すまなかった。

 とにかく今日は大事件だ。お前は避難していろ」

「 嫌だよ、今言ったじゃないか、シュロと一緒に闘う」

「 それだけはダメだ」

頑固なシローを必死でシュロは説得にあたった。

シローはもうベッドから起き上がって、さっきまで真っ青だった顔を真っ赤にして主張する。

「 でも!僕は」

「 死なないって言いたいんだろ。だが死なないだけで戦闘力にならない子供を戦場に置くわけにはいかない」

「 ・・・・」

「 それにゴーストの打撃は生身には効いてしまうんだ。逆は精神波を利用しないと無理なのにな。

 だから俺達は格闘術を訓練した。運が悪ければお前だって狙われるかもしれないだろ」

さすがのシローも納得したようだった。ベッドに座りなおしうなだれて、うなづく。

「 な、だから市民と一緒に避難していてくれ。必ず迎えにいくから。

 そしたら一緒に訓練して、ゴーストと戦おう。今日のところは我慢してくれ、な?」

再度うなづくと、シローは抱きついてきた。

「 みんなは大丈夫なの?今日のは危ないんでしょ?」

と、今まで黙っていたモクレンがシローを抱き上げた。

「 何言ってるんだ。俺達はツヴァイ最強の部隊だぜ?負けるわけねぇ」

「 でも二番隊なんでしょ」

今度はヒソカに抱き付いてシロー。

「 ん~・・・隊長のシュロが若すぎるからね・・・でも実力的には一番は私達なの!」

普段は控えめなヒソカもVサインを出している。微笑みながらツゲが医務室から出て行くのが見えた。

最後にイスカがシローをかかえ上げて頭上にかかげた。

「 お前のそのよく回る頭がいずれきっと役に立つ。それまで俺もお前も死ねないんだぞ。

 絶対、ゴーストを止めてやるんだ。俺達でな」

 

シローの顔に笑みが戻るのを見て、シュロは立ち上がった。指示内容はツゲが紙に書いてそっと置いていっていた。

「 よし!ツヴァイ本隊へ合流するぞ!全員A装備で、”セントラル”ブロック5へ直行!

 シローは俺がヘリポートまで送っていく!」

 

「 おぉ!」

ツヴァイの、真に最強の部隊がここに結成された。

涙と笑いで顔をくしゃくしゃにしながら、シローも4人と一緒に敬礼した。

 

 

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