Dear My Future   作:湯たぽん

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第四章:決別

 

「 第4ブロックの市民のみなさんは大セントラル空港3番搭乗口へお急ぎください!」

空港の入り口。シュロはヒソカと一緒にアインスの正規の警官に混じって市民の避難指示を出していた。

 

 

 

あれから、ツヴァイの隊員として認められたと安心したのか、シローは大人しく一人で避難用ヘリポートへ歩いていった。

できれば全員で見送りたかったが事態はそんな時間すらもシュロ達に与えてはいなかった。

 

午後4時。それまでになんとしても全市民を区域から離脱させねばならなかった。

ゴーストがいかに恐ろしい存在であるとはいえ、あらかじめフル装備で配備されたツヴァイ全部隊が待ち構えていればしのげるはずだ。

 

「 だが!」

ツゲはツヴァイ全隊への指示の際、強調して言った。

「 今日、このまま”セントラル”の住人がゴースト現象に見舞われれば、ゴーストに対する『恐怖』が、全世界を覆うことになる!

 人類が築き上げてきたものが『恐怖』に負けてしまうのを、我々は防ぐ義務があるんだ!

 防がなければ『恐怖』が『怒り』となり、アインスが崩壊してしまうかもしれない。

 アインスが今この世界に絶対必要だとは言わない。だが今のこの平和が『恐怖』と『怒り』から守るには

 この”セントラル”からゴーストを一歩でも出してはならない!住民にその存在も気付かれてはならない!

 全ての人々を『恐怖』から守るために、全力を尽くそう!」

 

 

 

人々はかろうじてパニック状態にはなっていなかったが、荷物の持ち出しを一切禁じられ着の身着のままで芋虫のように連なっていた。

シュロは避難用に緊急離陸する航空機への搭乗口へと市民を誘導しながら聞き耳を立てていた。

この緊急避難命令に対する市民の反応を知っておく必要がある。

「 なぁ君、胃薬持ってないか?・・・我慢できんよ、なんでこんなに急に避難勧告が出るのかね」

「 ・・・発電施設がおかしくなったらしいわよ、爆発するのかしら・・・!」

「 あんな小さな飛行機に全員乗れるのかよ、早くしないとみんな死んじまうぞ」

「 早くしてくれよ!この空港狭すぎだ!」

「 車で逃げれば良かったなぁ。たった10ブロックなのにわざわざ飛行機使う意味なかったなそういえば」

「 空き巣?”セントラル”の第1~10ブロックに住めるような人間にそんな事するのがいるとは思えんね。

 11以降のブロックも上流階級の住まいだ。心配することはないさ」

ここまで聞いてシュロはほっと息をついた。

市民は避難に対して協力的なようだ。これなら間に合うかもしれない。

 

「 シュロ!軍用機も全部使えるそうだ。

 若いのはそっちに回してやれ!」

振り返るとモクレンが走ってきていた。

綺麗な列のおかげでシュロやモクレンらも動きやすく、連絡が迅速に行われたようだ。

”セントラル”でも1~10ブロックはセキュリティも治安も最高で、特別な上流階級の人間だけが住んでいる。

性質的におっとりした人が多いからか、多少の混乱があるとはいえ市民は整然と並んでおり、思いのほか移動は早く進んでいた。

 

 

 

「 よし、これで終わったな」

空港のロビー。人の列がなくなり、シュロはつぶやいた。午後3時。予定よりもかなり早く市民の避難が終了した。

ここからいよいよツヴァイとしての作戦が始まることになる。

「 シュロ!市街地にはもう誰もいない。

 これで全員、避難は完了したようだ」

イスカが戻ってきた。万が一の逃げ遅れや盗難などのために市街地を見回っていたのだった。

「 OK、強化服を着込んで準備しよう。そろそろツヴァイ配備位置につかないとな

 ゴースト発生予測地点の中央、第5ブロックで集合だ」

 

 

 

「 なぁシュロ、アインスのゴースト予測ってどんなシステムなんだ?」

第5ブロックへ向かう車の中で、イスカがシュロに質問してきた。

言われてシュロは車の外に目を向けた。

世界の中枢、”セントラル”。建物ばかりではなく、自然もバランスよく配置された世界最高のこの街。

舗装されていない場所もあり、ここでは土も見る事ができた。鳥までもがいつもの通りに公園でさえずっている。

「 ・・・いや、俺も知らん。

 2ヶ月前、シローを救出した時はハズレの予報だったのに、今回はやけに確信を持った予報だったな」

40分後にゴーストが出現するとは思えない綺麗な町並み。

ツゲは本当に焦っていた。ここにゴーストが確実に出現してしまう、と。

「 ここ二ヶ月、シローの対ゴースト体質の研究やってたじゃない。

 その成果で予報の精度が上がったんじゃないの?」

ヒョイ、と手を挙げてヒソカ。

「 だがそれに関する説明を一切うけてないんだよな。

 ここ二ヶ月で発生件数も増えているってのに・・・俺たちに説明なしだ。

 それにゴーストが発生するのが土日に集中してるってのも。あれは・・・」

「 あれは?何?」

モクレンが先をうながす。

「 ・・・いや、そんな事よりもこの街を守ることが先決だ。

 もうすぐで作戦配備位置だぞ。気を抜かずにいこう」

ハンドルを握りながらきっぱりとシュロは言った。

 

 

 

第5ブロックには既にツヴァイ全隊が終結していた。ブロック中央の大型庭園に臨時の作戦本部が立てられていた。

「 ご苦労。空路避難は完了したか」

普段は作戦司令室での指示のみのツゲが今回は陣頭指揮を執っていた。

顔つきも真剣そのものになっている。いつもトロンとしたおっとり学者さんが、今は目を鋭く周囲に配り細かく指示を出す、一人の士官となっていた。

ボサボサの髪もまとめて装甲帽の下に収めてあった。

「 第二部隊はここ、今回の作戦地域の中央、第5ブロックの制圧に勤めてくれ。

 ゴーストの出現中心はアインス本部だが、本部から縦に伸びている立方体形の”セントラル”だからゴースト出現地帯の半分はズレている。

 ゆえにここが作戦地域の中央だ。第十五部隊と共に作戦遂行してくれ」

第十五部隊は二ヶ月前、第二部隊を助けた新設部隊だ。

精鋭の第二部隊と一緒なら戦力のバランスは保たれるだろうが・・・

「 待て、一つのブロックに二部隊も投入していていいのか?」

シュロがツゲに詰め寄る。立場的にはツゲのほうが上官のはずだが、シュロの実力から見れば、同格の口をきいても誰も疑問を持たない。

「 ゴーストの発生中心はアインス本部だろう。ここは作戦地域の中央というだけにすぎないし。

 精神波関係の機材が多く設置されている場所にゴーストが立ち入ればどうなるかわかったもんじゃない。

 アインス本部に割けるだけ人員を割くべきだ。」

西暦31世紀。この世界はほぼ精神波によって支えられた文明となったと言っても過言ではないというほど

人々は精神波のエネルギーを利用して生活している。

当然、アインスでも精神波に関する研究が進められており、それに関する物が多く保管されている。

そこに精神波の塊であるゴーストが立ち入ればどのような作用が起きるか・・・

 

「 大丈夫だ。今回は開発がほぼ終了した新兵器を使う。これをアインス研究施設に配備しておけば

 まず安全のはずだ。ツヴァイは万が一のためだ。アインス本部が危険になるからこそ貴重なツヴァイ戦力を使うわけにはいかないんだ」

ツゲの口調は自信たっぷりだった。

「 試作機だから不安な気もするが猫の手も借りたいときだ。とりあえずは任せてくれ」

新兵器についての説明は言葉少なめに、ツゲは各隊の配置割り振りに入った。

 

 

 

「 ・・・以上、ツヴァイ隊員はこのように配置し、ゴーストの出現に備える事。

 また出現予測時刻まであと40分ほどしかないが、なるべく配置ブロックの間取りを把握しておくように。

 強化服で体力を増幅すればすぐに調べられるだろう。

 大勢のゴーストとたった数人で闘う事になるため、どこに何があるかは最低わかっておく必要がある。

 避難、抜け道など使えそうな場所のチェックを頼む」

指示を終えて、ツゲが特設本部室に姿を消した。

一つ敬礼すると、ツヴァイ全十五部隊、総勢80名を超える軍人が一斉に動き出した。

ゴーストに対抗するため作られた強化服は、ただそれだけではなくツゲが言ったように速度、パワーを大幅に増幅させるためのブースターの役割も持っている。

またたく間に第5ブロックから第二、第十五部隊を残して人が消えうせた。

 

 

 

 

 

 

「 なんなんだあんた達?軍人じゃないよな、何やってんだ避難の済んだこんなとこで?なぁなぁ何だよ?教えてくれよ」

第5ブロック北側のチェックを終え、戻ってきたシュロの耳に聞きなれない脂ぎった声が聞こえてきた。

両脇をツヴァイ隊員に抱えられ、引きずるように作戦本部に連れてこられた男は、どこにどうすれば見つからずに隠れていられるんだろうと

疑問に思ってしまうほどの肥満体だった。

でっぷりとした腹をゆすり、左右の隊員を質問責めしている。

「 隠れて残っていた市民だな。あんたこそ何をしている。

 避難命令を無視して、ここがどんなに危険かわかってないな」

イスカが居丈高に質問しかえした。この手のタイプが嫌いらしく、ほとんど目をあわせていない。

「 ジャーナリストだよ。この突然の避難命令が何を意味しているのか。ほとんどまともな説明なしに避難させられてたからな

 スクープの匂いがぷんぷんするね」

自称ジャーナリストのその男は、汗まみれで汚れきった鼻をひくひくさせて言った。

「 まぁとにかく避難してもらおう。今からじゃ間に合うかどうかわからんが、すぐに区域から出てもらうぞ」

モクレンが前に出てきて言うと、ツゲがモクレンを制して手をあげた。

「 いや、我々を見られたからにはただ帰すわけにはいかないな

 アインス本部に来てもらおう」

「 !・・・・どうするんだ、ツゲ?」

意図がつかめずにシュロ。

「 逆に利用するしかないな。適当な映像をでっちあげて今日あった事をコイツに報道してもらおう」

「 待てよ!ウソをつけって事か!?」

モクレンと自称ジャーナリストの男が、同時に声をあげた。(直後、モクレンはかなり嫌そうな顔をしたが)

「 世間に知らせるわけにはいかない。当然の処置だろう」

あっさりとツゲは言い放ち、他の隊員にジャーナリストを連れて行くように命じた。

「 横暴だ!そもそもこの際一部の人間には広めておくべきじゃないのか?」

またしてもモクレンが反発した。

とはいえこの処置はひどいと、シュロやイスカもツゲのほうに視線を送っていた。

「 まだ時期じゃないと言ってるんだ。研究が進むのを待てないのか」

「 しかし・・・・!」

「 あのぅ・・・」

 

二人の争論に、突然割って入った声があった。ヒソカだった。

「 どうした?ヒソカ」

争論を一時中断して、モクレン。

どう言っていいのか迷っているらしく、ヒソカは手を挙げた姿勢のまま立っていた。

「 ヒソカは南側マップチェックだったな。何か問題でも?」

普段からやや控えめなヒソカであったが、近づくこともせずなにやら困っているようにも見えた。

「 その・・・こんなの見つけちゃいました」

 

ヒソカが横へ移動すると、その後ろから出てきたのは―――

 

「 シロー!?」

思わず全員で叫ぶ。

ヒソカが着せたのだろう、取り残された子供用の対精神波服を着てまるまると太ったようにも見えるシローがそこに立っていた。

怯えるように小刻みに震え、うつむいている。

「 ヘリに乗せたんじゃなかったのか。

 シュロが連れてったんだろ?」

と、ツゲ。

「 いや・・・一人で行けるから、って言ったから一人で行かせたんだ

 作戦も急がないといけなかったから」

「 第5ブロックに集合って指示を聞いてたらしくて先回りして隠れてたらしいの」

シローを前に出しながら、ヒソカ。ジャーナリストの男はシローを無関係の一般人と思ったのだろう、こちらは無視して他のツヴァイ隊員に質問しまくっている。

「 ・・・本当に3歳にしてはありえない行動力だな。

 しかし何を怯えているんだ?ゴーストはまだでないぞ」

「 ついさっき、見つけた時からこうだったんだけど・・・」

出てきたときからずっと、シローはうつむき動こうとしていなかった。明らかに何かに怯えている。

広々とした公園の中。

自然に配慮した土の見える、のんびりとした風景。遊具もなく、いろんな種類の木が生えている。

ゴーストもまだ出現していない。

「 どうしたんだ?シロー」

みんなでシローの顔を下から覗き込む。

 

「 ・・・・あの時と同じ」

震える声で、シローがつぶやいた。

「 あの時?」

イスカが聞き返すと、シローは顔を上げ周りを見回しながら言った。

「 あの時と同じなんだ・・・・あの時と同じ空気だ」

ふと気になって、シュロはシローの視線を追って公園内を見回した。

変わらない緑・・・静かな公園。人気はなく、さわやかな風まで吹いている。

だが・・・

 

違和感を感じてシュロは立ち上がった。

いまだ騒いでいる太ったジャーナリストの脇を通り過ぎ、木の幹に触れてみる。

確かに・・・何かを感じる。

 

「 あの時?空気?何も感じないけど・・・」

ヒソカ達は全く気付いていない。

だがシュロはおぼろげながらシローと感覚を共有していた。

一人そっと足を引き力の入る幅に開き、拳を胸の高さで構える。

「 確かに・・・いつもと違うぞ。構えろ!」

空気を察知したのではなく、シュロへの信頼が全員に構えをとらせた。

瞬間的に展開し、全方位に対する警戒態勢が整う。

 

「 ど、どうしたんだ!?何が起こるんだ」

ジャーナリストが叫ぶのを見て、モクレンがハッと顔を上げた。

「 しまった、そいつを早く避難させろ!」

その瞬間、シローが小さく、そして鋭くつぶやいた。

 

「 ・・・くる!」

 

変化は一瞬だった。ジャーナリストの脂ぎった顔から見る見る生気が失われ、そのまま座り込むように倒れた。

アインス本部を中心とした大規模なゴースト現象。予想は的中した。

円状に展開していたツヴァイ隊員が一斉に動き出す。ほとんどが徒手空拳のブレイブ・ナックル使いだった。

ゴーストは5体くらいの塊ごとに沸き始めていた。

シローのすぐ近くに4体のゴーストが沸いた。

「 2ヶ月前のゴーストより実体が濃いよ!」

シローが叫ぶ。その言葉が終わらないうちにシュロ達がシローをかばい、前に出た。

 

シュロは遠間から左拳をゴーストの胸に叩き込み、左下段払いから遠心力をつけての裏拳を叩き込み、一体を倒した。

確かに2ヶ月前とは手ごたえが違う。

だが精鋭のツヴァイ第二部隊にはかなうはずもなく、モクレン得意の回転蹴りで一体、ヒソカのソウルランスに貫かれて二体が消えた。

イスカは第十五部隊の援護までする余裕を見せていた。

 

「 ゴーストは人型。それ以外のはなさそうだね。数は多そうだけど」

ついさっきゴーストと聞いて倒れた、トラウマを持った赤ん坊はどこにもいない。

一人の立派なツヴァイ隊員として、シローはそこに立っていた。

どうやらシュロがゴーストを消し去るのを見て吹っ切れたようだ。震えもなくなっている。

「 シュロ!俺は第十五部隊に護衛を頼んで本部へ行く。ジャーナリストの死体を始末せねばならん。

 第十五部隊はすぐに戻す。それまでここは頼んだ!」

ツゲが公園の反対側から叫んできた。

「 ・・・わかった。引き受けよう」

シュロが承知すると、すぐにツゲと第十部隊は姿を消した。

 

「 ・・・」

モクレンが珍しくツゲに文句を言わずに彼が消えたほうを見つめている。

首から下は止まることなくゴーストの攻撃を受け流し、打撃を加えていた。

「 シュロ!あれでいいのか。作戦地域の中央、第五ブロックを一部隊に任せていいわけないだろ

 モクレンも今こそ文句を言うべきだったろ。何故黙っている!?」

イスカがサイ・バスターを連射しながら叫んだ。彼の銃の扱いはもはや人知を越えるほどになっていた。

乱射しながらも全弾命中という信じられない使い方をしている。

「 大丈夫!なんとなくゴーストの出る場所がわかるよ。

 次は噴水のところにゴーストが沸くよ、すぐに行って!」

シローが叫び、シュロが噴水へ駆け寄る。出現した5体のゴーストはまたたく間に消え去った。

「 やっぱりそうか。

 シロー、お前はゴーストの気配がわかるんだな?」

モクレンが聞くと、シローはコクリとうなづいた。

「 ツゲはその事を知らない?」

さらにモクレンはシローに顔を近づけた。再びシローはうなづき

「 うん、多分・・・僕も今ゴーストを目の前にして気付いたくらいだから」

 

今度は噴水と反対側の人口林の中から沸いたゴーストの塊を、シローの指示でイスカが確実に仕留めた。

「 そういえばアインスがやたら本部を俺たちから隠そうとしてるのも気になるな。新兵器の事も」

続いてヒソカが4体のゴーストを葬った。彼女も5回の突きを一呼吸で出せるというすさまじい技を持ったツヴァイ有数の戦士だった。

綺麗な容姿とは裏腹に、かなり攻撃的な戦闘法を用いる。

強化スーツで体力の底上げをするだけではこの戦闘力を得ることはできない。

力を強化された状態の自分の体を完璧に制御できるようになった者だけが到達できる域に、シュロ達4人は達していた。

「 自分達だけで動けるようにしといてかえって良かったかもね!上手くアインスの思案を探れないかしら」

「 アインスの本部へ忍び込んじゃおう!僕がいればここのゴーストの出現位置がわかるからゴーストはすぐにやっつけれるよ。

 その間に誰かが忍び込めばいい」

シローが言い、さらにゴーストの気配をみなに伝えた。

街からだんだんと生気が失われ、ゴーストに吸収されている。

さっきまでさえずっていた鳥達は地面に伏し、木の葉もみずみずしさを失っているように見えた。

そんな中でもシュロ達は精力的に闘った。生気を失いつつある街で自らの力を振りまくように。

「 よし、俺とモクレンがアインス本部に向かう。

 アインスの思案というより、これほどの広範囲にわたるゴーストの発生中心を見ればゴーストに関する何かが分かるかもしれん。

 あとの三人はゴーストの掃討を頼む。他の隊が来たら俺達は別のブロックの見回りに行ったと言っておけ」

シュロとモクレンは走り出した。

 

 

 

「 第五ブロック、あそこをたった二人に任せて大丈夫なのか?」

走りながら、モクレンが聞いてきた。

「 三人、だ。シローも立派に闘ってくれるだろう」

こちらも走りながらシュロ。

既に公園を出て、大きな道路沿い。体力を増強してあるので、走っていてもアインス本部まではあまり時間はかからない。

しかし、ゴーストと戦いながら、さらに他の隊員に気付かれずに走るのは意外と難しかった。

今回のように街の一部のみを戦闘区域とする場合、第10ブロックから先へ入れないように定点ブロック。

そうでなければいくつかのポイントに分かれて待ち伏せ、各個撃破の形をとる。

移動しながらゴーストと闘わねばならないのは経験の豊富な二人にとっても初の体験だった。

 

「 ・・・シローか。あいつ本当に三歳なのか?三歳児があんなにはきはき喋ってる時点でありえない。

 どうなってるんだろうな、シローの頭」

心底疑わしげにモクレン。

「 ・・・俺も似たようなもんだったよ」

「 シュロも?まさかぁ。今だってシローに負けてるだろ」

「 頭じゃないよ。俺も子供の頃から体力が図抜けてた。3歳の時には既に格闘技を始めていたし

 12の時には大人相手でも負けることはなかった。ツヴァイとして作戦に参加しだしたのもそのころだ」

シュロの話を聞いて、モクレンは立ち止まった。

つられて立ち止まり、振り返るとモクレンは顎に手を添えて考えにふけっていた。

「 ・・・頭脳か体力か。どちらかが異常に発達している子供でないと、ゴーストの耐性はもてないってことか?」

「 ゴースト耐性なんて世界に二度しか例を見ないものだからな。なんともいえないが・・・

 そのくらいのものを持っていないとゴーストから生き延びるのは無理って事だろうな」

言うと、シュロは再び走り出した。

「 でも、考えてみればアインスはその極めて稀な実例を二人も得ていて、何も成果を示していない。

 ・・・本当に成果を見つけれなかったのかどうか疑わしくなった。

 それを含めて俺自身がゴーストを探らなきゃいけないんだ」

モクレンも思考を終え、走り出した。

「 そうだな。ゴースト現象の解明をアインスだけに任せておけるか」

 

近くのブロックから他のツヴァイ部隊の戦闘音が聞こえる。

第5ブロックもイスカとヒソカ、それにシローがついていれば安心できる。

この街をゴースト現象から守ることはできる。シュロはそう確信した。

 

だがアインスからも守らなければならなくなるかもしれない。

ツゲの言葉。本部に配備されたという新兵器。ゴーストの出現地を知らせるシステム。

アインスを信頼し、あこがれていたシュロにも理解ができなくなっていた。

そしてモクレンは元からアインスを信用していなかった。

シュロの思い描いていた、ゴースト現象の解明。その一番の本拠であるはずのアインスが、彼の中で大きく揺らぎ始めていた。

だが逆に、自分が解明するという強い意思も生まれた。シローも、第二部隊のみんなもいる。

この5人となら前に進める。シュロは自らの力でゴースト現象を解明する決意を固めた。

 

 

 

「 ヒソカ!そっちに大きな塊がいるよ!」

シローに指摘されてヒソカが指差された方向に振り向くと、全く無駄のない動きで立ち上がり、駆け出した。

だが・・・

 

「 ・・・いないよ?」

ヒソカが戻ってきた。キョロキョロと見回しながら、ランスを手でもてあそんでいる。

「 あれ?向こうに大きな気配があるんだけど。今も・・・

 そうか、もっと遠くのほうなのか・・・ここまで届くほどの気配があっちに・・・」

その時、シローは公園の奥のほうを指差していた。

―――アインス本部のある方角を。

 

 

 

 

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