Dear My Future   作:湯たぽん

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第七章:裏切

その機体は、一見して機能重視であることが見て分かった。

 

 

「 これが今回の防衛でアインス本部を見事守りきった新兵器だ」

練成場にズラリと並んだ数十体のロボットは、ツゲの紹介で一斉にズシンと一歩前進した。

 

一歩前進といってもどうやらその接地面積の広そうな脚はローラーがついている、歩行用ではない速度重視のもののようだ。

流線型をしたなめらかなボディの横から砲身と一体化している腕が前方へ伸びている。

ゴテゴテと武装をしていない、むしろすっきりとした機動性の高そうな機体は、兵器でありながら美しいとすら言えた。

 

 

「 試作7号。正式名称がないので妙な名前だが、7回目の試作でようやく実用段階に達したので今回の作戦に参加することになった」

 

ロボットがフォーメーションを取った。

直接指示を聞いて行動しているわけでもなさそうだ。動きは滑らかで素早く、無駄がない。

 

 

 

「 動きはいいけれど・・・ゴーストに対する攻撃はどうするんですか?物理的なものは効かないはず」

若い隊員が手を挙げて質問した。

周りも同意するように、質問を受けたツゲのほうをみやる。

 

 

「 その点こそが、この兵器の開発が遅れた原因であり、最大の武器でもある」

淡々といい、ツゲはロボットの正面に立った。

ロボットが砲身型の腕をツゲのほうに延ばす。

その腕を叩きながら、ツゲは振り返り説明を始めた。

 

「 実はごく最近の研究により、精神波を蓄積、増幅し放出するメカニズムを人工的に行うシステムが開発されたのだ。

 これはそのシステムが使われているためにゴースト掃討に役立った」

大きなざわめきが起こった。精神波は当然、生物しかもっていないものであり、生物から離れたところで使う事は全くの不可能とされてきたのだ。

と言っても、ほとんどの用途では”人が使う”という前提であったため誰も意識していなかった。

 

そんな精神波だが。人が赴くには危険すぎる戦場において機械がそれを扱うという事は対ゴーストにおいて最上の策であろう。

精神波による攻撃は相手の精神波を打ち消すものだ。イスカのサイ・バスターも実弾を装填していなければ壁を破壊するなどの工作には全く使えないのだ。

壁と同じように精神波を持たないロボットはゴーストに破壊されることは無い。

 

 

 

「 すごいモン作ったんだなぁ・・・確かにこれがあればどんな状況でも危険はなくなるな」

ロボット見学の輪に混じって、イスカは感嘆していた。

そのイスカを輪から引き離す腕があった。シュロだ。

浮かれている周りとは対照的に、あたりに注意を払い油断していないようだ。

「 輪には入らないほうがいい。それよりも回りに気を配っておこう。モクレンの気配がしたら迷わず行動しないと

 さっきまでアインスのお偉方が司令室にいたんだ。モクレンにとっては都合のいい状況だろう。何かあったらすぐあっちに駆けつけるぞ」

ふと・・・一瞬考え込んだが、すぐに納得し、イスカも入り口近くで意識を集中し始めた。

ヒソカはシローを抱いて少し離れた場所に立っている。

 

 

 

「 これが完全に実用されればゴースト現象によるツヴァイの犠牲者は全くなくなる。

 指示を出す人間が一人いればいい、という戦闘スタイルだ

 万が一の時のための破壊スイッチもある」

ツゲがコントロールキーらしい掌サイズの機械を手に説明を続ける。

疲れきった顔はそのままだが、次第に饒舌になってきている。

釣られるかのようにツヴァイ隊員達もロボットの周りを取り囲んで説明に聞き入った。

 

 

 

「 ・・・ん、何か気付いたかイスカ?」

ロボットの説明に聞き入る隊員達の外に身をおいて冷静に見ていたシュロだが

ふと、隣でイスカがあたりを見回しているのに気付き、声をかけた。

イスカはサイ・バスターへ実弾の装填を終えて油断なく状況を見ていたが、急にその顔に焦りを映し出してシュロに近付いてきた。

寝ているシローを抱えたヒソカも、同じ事に気付いたのか集まってきた。

 

 

「 ロボットの数が・・・増えているぞ」

「 ・・・・!!」

 

シュロも二人にならって周りを見回した。

その通りだった。いまだ少しずつポジションを変えていっているようにも見える。

 

「 これは・・・まさか!」

だが一瞬遅かった。

シュロが口を閉じるより先に―――

 

 

 

練成場を大きな一条の光が貫いた。

 

 

 

「 うわぁああぁぁぁぁ!!!?」

音は無かったがあまりの光量に眠っていたシローも悲鳴を上げながら飛び起きた。

「 はじめやがった・・・!」

まともに目を開けることもできないような巨大な光に照らされ、シュロも身動きがとれなかった。

 

次に目を開いた時

練成場の中央では、ツヴァイ隊員が何人も折り重なるように倒れていた。

どう見ても、ロボット達の武器、イスカと同じサイ・バスターが発射されたとしか思えない。

だがその周りの、直撃をまぬがれた隊員達は現状が理解できず突っ立ったままだ。

 

いつの間にかロボット達は完全にツヴァイ全隊員を取り囲んでいた。

ツゲも姿を消している。

 

「 どういうつもり!!?ツゲさん!」

ヒソカがロボットの向こうへ問いかけた。

他の隊員達はいまだに混乱から抜け切っておらず、ぼうっとヒソカを見つめるだけだ。

 

 

 

「 ・・・君達には辞令が下っている」

ふと、場内スピーカーからツゲの声が聞こえた。どうやらツゲはまだロボットの隊列の向こうにいるようだ。

ロボットは動かず、ツヴァイ隊員達はスピーカーに集中した。

「 ・・・どんな辞令だ」

うなるようにしてイスカが聞き返す。返答は大方察しがついていたが。

 

 

 

「 本日付で対ゴースト任務の全てを、この精神兵器搭載戦闘機部隊”ドライ”に委譲し、最後の任務が終了次第解散のこと」

”ドライ”、とそう名付けられたロボット達はシュロ達ツヴァイを取り囲んで停止している。

その気配を察して、多少落ち着いた声音でイスカ。

「 ・・・その最後の任務ってのがこれ・・・”秘密遵守”、だな」

一瞬の間をおいて、練成場に感情を抑えた声が響いた。

「 ・・・その通りだ。ゴースト現象は現在、一度だけ起こった謎の災害、とだけしか全人類は認識していない。

 世界平和のためにもこれだけは完璧に守らねばならないんだ。・・・分かってくれるとは思わないが決定事項だ」

しん・・・と場が静まりかえった。

第2部隊以外の隊員はもちろん、シュロやイスカ、アインスも警戒すべきと主張していたヒソカですら驚きを隠せない。

 

祈る猶予でも与えようというのか。”ドライ”と名付けられた第三の世界組織。そのロボット部隊はツヴァイを取り囲み一時停止していた。

 

 

 

すると、静まり返った練成場の中で動くものがあった。

「 ! お前たち・・・」

ドライの攻撃で倒れた隊員が動き出したのだ。まだ起き上がる力は戻っていないらしく寝たまま辛そうにしているが、確かに動いている。

 

「 ・・・そうだ。ゴースト対策の対精神波強化スーツがサイ・バスターを防いでくれるはずじゃないか。」

サイ・バスター使いのイスカがつぶやいた。ゴーストもツヴァイ隊員の武器と同様、精神波に直接ダメージを与える作用を示す。

それに対する防御を既に完成させているツヴァイには”ドライ”のサイ・バスター耐性も持っているという事にもなる。

 

「 誤算だったようだな、ツゲ。確かにゴーストを完璧に排除できるような部隊があれば俺達を始末して秘密を守ったほうがいいかもしれないが・・・!」

背中に背負った愛用の銃に触れたかと思うと―――

 

 

 

軽く、振り回しただけのように見えた。

しかしたったそれだけで、イスカ愛用の銃に装填された実弾は、360度全方位の”ドライ”撃ち抜いていた。

間にいたツヴァイ隊員にはかすりもせずに、正確に敵だけを。

余裕たっぷりに銃をおろし、残ったロボット達を前にイスカはニヤリと笑った。

「 俺達の実力ってモノを計算に入れてなかったようだな」

 

 

 

ふ・・・っ

イスカに同調するように、沈んでいた空気が突然、風に変わった。

「 どの道、黙って殺される俺達じゃないぜ」

シュロだった。しかも声が聞こえてきた方向と、姿を現した場所がまるで違う。

空中で、既に蹴りの体制に入っていた。そのまま勢いをつけて後ろ回し蹴りを放つ。

 

 

すさまじい音を立てて、ロボットの頭部が大きくへこんだ。そのままゆっくりと前方に倒れる。

シュロも同時に優雅に着地していた。

「 ぬるいな、ツゲ。訓練されたツヴァイならサイ・バスターを避けることだってできるぞ。この程度じゃあ俺達は倒せない。」

適当に監視カメラのほうを向き、言い放つ。

( どんなスピードしてやがるんだ・・・バケモノめ)

イスカも苦笑いするほどの動きだった。以前よりもさらに速くなっているようにすら思える。

スーツには体力強化機能もついているとはいえ、パワーも桁違いだ。

 

 

 

「 ・・・決裂だな。俺達はこれからアインスを潰しにかかるぜ。何としてもここから脱出して世界にゴーストの事を公表する」

心の中でモクレンにわびながら、シュロははっきりと宣言した。

 

 

 

「 ・・・あぁ、付き合いの長い俺達だ。そう簡単に倒れるはずはないと分かっていたよ」

再び、ツゲの感情を押し殺したような声が練成場に響いた。

と同時に、シュロとイスカが破壊したロボットの後ろから、またズラリと一列に並んだロボット群が現れた。

 

「 だから生産が追いつかなかったんだよ。お前達に対抗するにはやはり数しかなかった・・・」

奥のほうにはさらに待機するロボットが見えた。

そしてふと、今まで無感情を装っているように聞こえたツゲの声に力がこもる。

「 今の人類にはアインスが必要なんだ。お前達を排除しようとしておいて正義だなんて決して言えるもんじゃあないが・・・

 それでも世界に安息をもたらせるのはアインスだけなんだ!潰すわけにはいかない」

 

練成場に一瞬だけ静寂が戻った。

 

最後に、再び落ち着きを取り戻したツゲの声が響いた。

「 ・・・とはいえ、シュロ。お前の第2部隊以外の連中は、果たして本当にドライより優れているのか?」

それに呼応するように”ドライ”がゆっくりと幅を狭め、動き出した。

 

 

 

「 サイ・バスターのフラッシュがやっかいだ、サングラスをかけろ!まず囲みを抜けることを最優先、抜けた後は混乱を誘いながら外部へ脱出!

 なんとしてでも生き延びろ!」

いまだ状況を把握しきれていないツヴァイも、具体的な指示が出されれば一瞬にして顔つきが変わった。

拳、槍、棍棒などおのおのの武器を手にドライとの交戦に備え隊列を組み始めた。

 

 

 

そしてついに、ドライの本格的な攻撃が開始された。

立っているツヴァイ隊員に向け、砲身から白い光が放たれた。

前方にいる者は姿勢を低くし光をかわし、端にいる者は横へステップしてから前方へ、後方の者は高く跳んだ。

はかったかのように放射状に、ドライからの一斉射撃を避け。

ツヴァイの反撃が始まった。

ドライのサイ・バスターが放つ無音の光をかいくぐり、脚や腕の間接部分に武器を叩きつける。

 

 

 

「 俺達はまずツゲを探すぞ。まだロボットの隊列の向こうにいるはずだ。

 シローもいることだし、もしあいつを通じてアインスと交渉できれば・・・少なくともこの状況はなんとかなるはずだ」

当のシローは周りの喧騒に慄いてか、青ざめて座り込んでいたが気を配っている余裕はない。

「 シロー、お前はゴースト耐性があるからこの場は安全だ。ゴースト耐性は精神波防護。サイ・バスターも効かないからな

 余計に動かなければいい。じっとしてろよ」

そう声をかけると、第2部隊の三人は戦闘に加わった。

広い練成場の出口は、既にロボットが密集していて見えなかった。

 

 

シュロが正面から突進し即座に接敵すると、正拳を敵の胴体へ放った。

めき、という音を立ててできた凹みにヒザを突き入れさらにアッパーを追加。

シュロの全力のコンビネーションに耐え切れず、バチッと一つ大きな火花を散らして一体のドライがゆっくりと沈んでいった。

 

標的はどこにでもあった。

ロボットの脚正面にシュロが蹴りを放つ。

損傷はほぼ無いため、ヒザをついたままロボットが撃ってくる光を、シュロは避けざまに得意の回転蹴りを別のロボットに見舞った。

またも脚部に命中した蹴りでロボットは横倒しになると、さらにヒソカの槍で2体のロボットが同じ場所に突き飛ばされてきた。

そこへイスカのサイ・バスターがグレネード弾を放ち一挙に破壊する。

ドライの内部に充填してある攻撃用精神波が波動となってあたりに四散した。

 

 

 

しかし戦況はツゲの言ったとおり、明らかにドライ優勢だった。

薄いとはいえ装甲がある。シュロでさえ、全力の攻撃でなければ破壊するのは至難の業であり

イスカのように銃を持っているものは他になく、逆にサイ・バスターで反撃してくる標的。攻撃を加えるだけでもかなりの危険を伴った。

次第に疲れがたまっていった。

 

「 シュロ!弾がもう無くなりそうだ。隊列が薄い面を集中して突破口を作るぞ」

イスカが叫ぶ。声には既に疲労の色がにじみ出ていた。

ヒソカもシローをかばいながらの戦闘で動きが鈍っているのが分かる。

シュロですら

「 どこでもいいからぶっ放せ!もう余裕がない!」

背後から放たれたサイ・バスターを見もせずにかわし、振り向いた反動でかかとを叩きつける。

疲労のたまったシュロの蹴りには、装甲を破るだけの力は無かった。

倒れながらも銃からは精神波が射出され、別の方向にいるツヴァイがまた一人、倒れた。

間髪入れずロボットのサイ・バスターを踏み砕くと、戦闘不能を自分で悟ったのか、ロボットは自然に動きを止めた。

「 銃か腕関節をへし折るまでは気が抜けないな・・・・くそっ」

 

次から次へと際限なく現れるロボットが放つ光は、次々とツヴァイ隊員を屠っていっていた。

精神波防護にもなるスーツを着用しているとはいえ、絶対に無事生きているとはいえない。

ここで捕まれば生きていようといまいと、始末されるであろうが・・・

 

 

 

「 敵のサイ・バスターだけを狙って攻撃しよう!武器を破壊されたら動きを止めるようだ

 腕を壊すだけなら簡単なはずだ」

シュロは周りに向けてそう叫ぶと、自ら実践しはじめた。

真正面のロボットに走り寄ると、光が放たれる瞬間フックを敵の左腕にひっかけて側面へ回り、蹴りからアッパーへの連携で1本を潰した。

もう1本の腕からの攻撃は跳んでかわし、そのままロボットの頭をつかんで一回転。

そこを支点に強烈なかかとを見舞って右腕を叩き落し、また一体のロボットが完全に沈黙した。

 

ざわわ・・・っ

音はせずとも、シュロの働きで場の空気が一気に盛り上がったのがわかった。

味方の士気がぐっと上がるのを肌で感じて、ヒソカとイスカも隊長に倣い各個撃破、ドライに対抗しはじめた。

 

 

 

・・・だが

「 ・・・しまった!弾が切れた!?」

突然、これまで一番多くドライを破壊していたイスカの叫びが聞こえた。

狙いを左右に動いて外しつつ、槍を腕の関節部位に突き入れ破壊していたヒソカもはじめの頃と比べ疲労で明らかに失速していた。

そこらじゅうに散らばる腕の部品を踏み越えて、ドライは無尽蔵に沸いて出てきていた。

「 ・・・くそ、仲間をこれだけ破壊されてなんとも思わねぇとはね。ドライ(冷酷)とはよく名付けたもんだぜ」

吐き捨てるようにイスカが皮肉を言っている。

・・・他の隊員はものを言う気力も残っていないようにも見えた。

ヒソカもついに攻撃することを諦め、シローを抱きかかえた。

「 せめて・・シローだけでも・・・!」

最後の希望を求めるように、ヒソカはシュロの姿を探した。

シュロだけは忙しく動き回り、なんとか他の隊員が倒されないように自分を標的に、ロボットをひきつけていた。

だが既にロボットを破壊できる者はいなかった。皆倒れているか攻撃を避けてなんとか隊列を保っているか。

 

 

 

皆が諦めたのを察してか、ふとロボットの動きが止まった。

しかし完全にツヴァイを包囲し、シュロさえも身動きとれないほど多くの銃口が向けられていた。

 

「 ・・・シュロもシローと同じ体質だったよね。一人ならシローつれて突破できるんじゃない?」

座り込んだヒソカが声をかけてくる。他の隊員には意味が通じないだろうが、今さら気にすることではない。

「 さすがに無理だろう。シローは小さく的にされないからじっとしてろと言ったが

 完全に防げるとは思えないな・・・撃たれ続ければ耐性ある無しに関わらず死ぬしかないだろう」

まるで他人事のようにシュロ。今度はイスカも近付いてきた。

「 まだ手はあるぜ。精神波ブースターが三つも、な」

モクレンが姿を消した、あの爆発跡を思い浮かべながら、イスカは自分のペンダントを指し示した。

本来精神波を増幅させ武器に使用する精神波ブースター。だが暴走させれば膨れ上がった精神波は物理的な力を持つことになる。

モクレンがやった(?)ように暴発させればこの練成場内のロボットを一掃できるかもしれない。

 

シュロ達三人は顔を見合わせ、誰からともなくふっと笑った。

「 悪くないな・・・シローが自由になるならアインスもツヴァイもゴーストもどうでも良いや」

今まで誰も考えた事すらない作戦だが、シローを助けるためなら。

不思議と恐怖は感じない。遠足の前の日のような気分だった。ワクワクしながら準備を始めた。

 

「 俺なら耐性である程度サイ・バスターの盾になるだろう。ヒソカがシローを背負って俺と一緒に跳ぶんだ。俺の陰から飛び出して出口を目指せ。

 狙われる前に俺とイスカが一人ずつ花火になってやるぜ。」

恐ろしい事を、しかし不敵に笑いながらシュロは指示を出した。

「 それじゃあ奴らが動き始める前に、先手を打つとしましょうか・・・!」

ヒソカがシローを背負って立ち上がろうとしたその時だった。

 

「 ダメだ・・・ダメだよ」

シローの声。今まで青い顔をして身動き一つ取れずに震えていたのだった。

「 大丈夫だ、シロー。俺達の事は気にするな。お前の頭を持ってすれば未来は明るいんだ、安心していられる」

「 やめてよ・・・ダメだ、やれないって・・・」

より一掃顔を真っ白にして、シローはヒソカの背中で震えていた。

 

「 ありがとな、シロー。元気で生きていけよ・・・!」

シュロはそう言うと、ロボットの残骸を踏み台に高く跳んだ。

ヒソカもそれに合わせて、背中のシローと共に跳ぶ。眼下には吐き気がするほどのロボットがひしめきあっていた。

 

全ての銃口がシュロに向けられ―――そして本体ごと爆発した。

 

 

 

「!?」

何事もなく着地し、4人は慌てて周りを見回した。

「 何今の!?全然違う方向から弾が・・・!」

爆発は続けて起こった。頑丈なつくりの練成場がミキサーにかけられた果物のように各所ではじけ飛んでいく。

ロボット達も同じようにして次々に破壊されていった。

 

「 どんな大部隊に取り囲まれてるってんだ、こりゃ・・・撃ち過ぎだ・・・

 何故自分が生きているのか分からん・・・」

死を覚悟していた事も忘れて、シュロは呆然とつぶやいていた。

彼の言うとおり、全方位から無作為に砲撃を加えているだけのように見えて、ツヴァイ隊員には少しの被害も無かった。

飛び散る破片さえも計算しつくされたように人間を避けている。完全に無害であった。

 

 

 

「 この撃ち方が出来るのは・・・多分あいつしかいないだろうな・・・」

欠けたメガネを捨てたイスカは、シュロよりは状況が見えていた。

ロボットが次々と爆竹のようにはじけ飛ぶ様を、どの順番で撃たれるか分かっているかのように目で一体ずつ追っている。

「 あいつ?イスカの知り合いなの?」

ヒソカの背中から降りて、シロー。

顔は青ざめて今にも泣き出しそうになっているが、その尋常でない頭脳は流石に聞くところは聞いていた。

「 ん?あぁ・・・そうだな。そうか、お前達は知らないか」

質問されて、なぜか意外そうにイスカは答えた。

 

「 軍にいた頃の仲間?ツヴァイで拳闘しかやってこなかったシュロ達じゃあこんな真似はできないもんね」

ヒソカがいい、シュロに小突かれている間には既に、練成場を埋め尽くしていたロボットの半分ほどは原型をとどめていなかった。

もっとも、外からまだ入ってきてはいたが。

 

「 もういいだろう?俺達の分の武器も持ってきたんだろうし早く出て来いよ」

イスカに呼びかけられて、重火器を山ほど積んだカートを引きながら現れたのは

 

 

 

「 イスカには分かっちまうだろうとは思っていたけどな。その他の反応が面白いからつい、な」

モクレンだった。

 

シュロとヒソカ、シローの三人の驚いている顔を楽しみながら、モクレンは外から入ってくるロボットをろくに狙いもせず撃ち破壊していた。

「 もともと、コイツは市街戦のプロだったんだよ。軍じゃあ拳闘ができても目立つというだけで、やっぱり実力として見られるのは銃撃メインだからな

 ツヴァイがどいつをスカウトするか判断する実力ってのは銃撃戦闘能力でしかないわけだよ」

話を続けながらも、シュロとヒソカはモクレンから大型の銃を受け取り準備を整えていた。

二人ともまだ納得はいかないようだったが。

 

「 大人数で囲んで一斉に撃っているように思えたんだがなぁ。あんな事が出来るんならモクレンもサイ・バスターを使えたんじゃないか?」

「 相性の問題だろ。俺の精神波が合わなかっただけだ。拳闘がやたら強い隊長さんがいるって聞いて第二部隊を選んだわけだしな。

 それに・・・早い話がイスカのほうが銃の扱いに長けていたって事」

淡々としたモクレンの話を聞いて、シュロもヒソカもゾッと背筋が冷たくなるのを感じた。

「 あれで・・・イスカのほうが上なのか」

「 工作用にちょっと実弾が装備されてるだけのサイ・バスターで俺が駆けつけるまで防いでたんだろ?

 最高の効率で一発一発、何体も巻き込むように撃ってたって事だ。そんな戦い方世界中探したって誰もできないだろうぜ」

言われてイスカを見てみると、モクレンから受け取ったのは一番小さな銃だった。

再び敵のサイ・バスターが打ち込まれてはきていたが、しかし確実にロボットの急所を撃ち抜き練成場の外にまでドライ隊を追い出している。

 

「 おしゃべりしてる場合じゃないぞ。片付き次第ツゲを追うんだ、装備をすぐ整えろよ」

イスカに背中越しに言われ、シュロとヒソカは慌ててマガジンをかき集めはじめた。

 

 

 

「 で・・・お前が姿をくらませたのは、やっぱりドライに対抗する武器を軍隊に借りにいっていたからなのか?」

シュロも銃を手に練成場内のロボットと闘い始めた。遠距離から仕留められるとなればサイ・バスターを避けるのに難の無いシュロならば余裕だ。

モクレンなどは敵に狙われる前に撃ち抜いているため、ほとんど足を止めて闘っている。

「 借りに行くなんてもんじゃなかったけどな。あの時、セキュリティールームでツヴァイ第一部隊がロボット達に殺されるのを見たんだ。

 その場にツゲも見えた。このままじゃ俺達も始末されると思ってな。死んだことにして別行動をとろうと思ったのさ」

 

 

 

 

「 おおかた片付いたな。突破するぞ!」

隊長のシュロが合図を送り、5人は一斉に出口へ走った。

他の隊員のことも心配であったが、持ってきていた武器を渡してある。基地から脱出することは出来るだろう。

 

銃の扱いに慣れていないシュロがシローを背負い、イスカが先頭、モクレンが後衛となってロボットが詰め込まれるように並んでいる廊下を突進した。

「 これだけの数ロボットを吐き出す、俺達が存在を知らなかった場所があるはず。どこかにツゲだけが知っていた口があるはずだ。

 ロボットの列の先にツゲがいる!」

先頭を走るイスカが叫び、全員が頷いた。

 

―――万が一の時のための破壊スイッチもある。

 

ツゲはロボットを停止させるというスイッチを持っていた。

まずドライを何とかしなければ。ゴーストどころではない現状だ。

 

「 今は説明を聞いてる場合じゃないが、ツゲを見つけたらシュロ、頼むぜ!

 ゴーストの何かをつかんだんだろ?」

モクレンが言う。

彼は姿を消す前の、ゴーストは止められるというシュロの言葉を信じて戻ってきたのだ。

「 あぁ、そうだ。シローを保護してから暇になっちまった時から考えていてな。少しずつ考えがまとまっていってたんだ」

シローを背負いながら隊列の真ん中でシュロは強く頷いた。

 

 

 

「 ゴーストは・・・アインスが作り出していたんだ!」

「 !!?」

 

かろうじて足は止めなかったものの、全員凍りついたような表情になった。

「 ま、まぁ・・・詳しい話は後だ。見ろ、司令室の横に階段が出来てるぞ」

動揺して舌を噛みそうなしゃべり方になっていたが、先頭のイスカが抜け道を見つけた。

司令室の扉のすぐ横に暗い空間が口を開けていた。

 

 

 

「 ここからロボットを出していたようだな・・・もう打ち止めか?」

ツヴァイ本部全域にロボットが排出され、司令室に戻ってくるだけでもかなりの数の戦闘を行ったが、入り口の向こうは静かなように見えた。

 

「 ・・・明らかに入ってくれと言っているよな」

モクレンが嫌な顔をしている。確かに今まで隠していたはずの通路をこれほど開放したままにしている理由が他に見当たらないが。

「 でも入るしかないな。行かなきゃ何もできないまま終わりだ」

 

 

 

アインスでは昼も夜も同じだけの明るさを確保しており、建物がつながっているツヴァイ兵舎でも同じだが

司令室の横に出来た階段は、完全に闇が支配していた。まるでそこでアインスが闇の研究でもしているかのように完璧な闇が。

 

「 ・・・入るぞ」

隊列そのままに、イスカを先頭にしてヒソカ、シローをかついだシュロ、モクレンの順に音を立てずに一行は階段を下りた。

 

 

 

短い階段だった。

「 あっさりおりれたな」

静かな声とは裏腹に、シュロは焦っていた。

アインスのした事、その罪をつかんでいながら、しかしそれをどうツゲに伝え協力を請うか決めかねていたのだ。

深い闇と、考える時間を与えなかった階段に焦りを増幅されながらも、シローをかついだシュロは辺りの気配をさぐった。

空気の流れ、圧迫感からそこがそれほど広くない部屋である事が感じ取れた。

しかし、これは・・・

 

同じ事を感じ取ったのか、イスカが宣言するように声を上げた。

「 こりゃあ、照明弾を使う必要はなさそうだな──!」

 

 

 

イスカの言葉が終わるのと同時に、あたり一面が光に包まれた。

4人と、ヒソカに背負われたシローは通路の四方へ飛び出した。

 

「 やはり待ち伏せていたか!しかも念入りだな」

視界をまぶしく照らしたサイ・バスターは───

広い空間を狭い通路に感じさせてしまうほどに配置されたドライのロボット団から放たれたものであった。

 

「 ツゲっ・・・・!」

サイ・バスターの光の中に、一瞬だけツゲの姿が見えた。手になにやら持っている。さっき練成場で見せたロボットの停止スイッチだろうか。

 

「 諦めて捕まれ、シュロ!こいつらはさっきまでのロボットと違うぞ。機動性を強化して肉弾戦もこなすようになっている!」

再び闇に包まれた部屋からツゲの声が響く。

言葉のとおり、ロボットはただ撃ちまくるだけではなく、闇の中を移動しこちらに向かって体当たりを仕掛けてきた。

だが言うなりに捕まるわけにはいかない。シュロは攻撃をかわしながらツゲに呼びかけた。

 

「 どうして今さら俺達を始末しようとするんだ!?ツヴァイを引き継ぐ部隊ができたからってだけじゃあないよな。

 アインスに何か後ろめたい事があるんだろう!どうなんだツゲ」

ロボットの装甲がすさまじい勢いで迫ってくるのを、勘だけでかわし敵の背後から足払いを放つ。

ロボットがバランスを崩したところへイスカからの銃弾が見事に命中していた。

闇を全く気にかけない完全なコンビネーションだった。

 

だが、向こうから聞こえたツゲの声は戦いぶりにもシュロの言葉にも動じない静かなものだった。

 

「 後ろめたいと言えば・・・そうかも知れんな。俺は一度嘘をついたしな。

 だがツヴァイの解体には明確な理由がある。やらねばならんことなんだ」

 

ツゲがゆっくりしゃべっている間にも激しい戦闘は闇の中続いていた。

ドライの装甲にも有効な重火器を持ったツヴァイ最強の部隊は、強化されたドライ部隊をも難なく倒していっていた。

 

「 知ったこっちゃないね!俺達はここを生きて脱出するんだ。ドライの制御スイッチを押させてもらうぞ!」

声をあげたモクレンは、天井を走っていた。それも常人には見る事すらできないほどのスピードで。

信じがたい身体能力と、さらに信じがたい射撃能力。暗闇の中銃を乱射して全弾敵のみに命中していた。

 

「 ダメ!私は納得いかない」

今度は別の場所からの言葉。これはシローを背負ったヒソカのものだ。

 

「 なんでこいつらツヴァイじゃないシローまで狙ってきているのよ!

 私じゃない、明らかにこの子を狙ってきているようにしか見えない。何でこんな事を!?」

ヒソカを狙うドライは常に背後から攻撃を仕掛けていた。無論そこには彼女に背負われたシローがいる。

それを感じ取ったのか、ヒソカは烈火のごとく怒っていた。

シローをかばい背中をひねると、振り向きざまに迫ってきていたロボットに集中砲火を浴びせ、部屋のどこかにいるはずのツゲに向かって叫んだ。

「 こんな小さな子を殺す理由なんて世界中どこにもあるわけないじゃない!今すぐ止めてよこんな奴ら!」

 

さして広くない部屋にヒステリックなヒソカの声が妙に重く、悲しく響いた。

「 ・・・しょうがないんだ」

シローの事を責められ心を動かされたのか、その日初めてツゲが感情のこもった声を発した。

 

 

 

「 アインスの、上からの命令は絶対だ・・・お前達が考えている以上にアインスは世界の中心なんだよ。

 お前達がここから脱出し、アインスの事を訴えるということは、世界を滅ぼそうと考えるのと同じだ」

その声自体はさっきまでと同じく淡々としたものであったが、ツゲの腫れ上がった目からは涙があふれ出ていた。

ツヴァイとドライの戦いのさなか、ツゲはゆっくりとロボットの間から姿をあらわし、部屋の真ん中に立った。

 

モクレンが天井を、まるで重力が逆転したかのように自然に駆け回り

イスカは壁に背を押し付け、大型ライフルを瞬時に組み立てると当たるを幸いの乱射を続けていた。

ヒソカはシローをかばうためにイスカの固定砲台の周りを行き来し

シュロは部屋全体を縦横無尽に駆け回りロボットを破壊してまわっていた。

誰一人として傷を負っておらず、明らかにツヴァイが優勢。

 

で、あるにも関わらずゆっくりと部屋の中央に陣取ると

ツゲはゆっくりと涙をぬぐい、胸を張りいつもの真剣な顔に戻り、大きく息を吸って声を発した。

「 シュロ。お前アインスで自分のゴーストに会ったな?」

 

「 ・・・あぁ、そうだ。モクレンも目撃している」

──しばしの逡巡の後、シュロが応えた。

「 その事から何が分かった?」

ツゲも見ていたのだろう、当然のように次の質問に移った。

 

 

 

質問の意味を吟味し、シュロは自分で見出した答を放った。

 

「 ゴーストは、過去の生物が何らかのきっかけで力を持って現世に現れたものだ。

 もちろん俺にそんな記憶はないから実際に時間移動したのではなくその記憶か残留思念か何かが具現化したものだろう」

今度は即答したシュロ。夢の中で見たゴーストの手の感触がまだ残っている。

 

実体も無くしなにもかも分からない時代へ送り込まれ・・・ゴーストはこの時代に吸い寄せられた。

攻撃でしか自分を表現できなくなってしまった哀れな者達。それがようやくシュロに理解できたゴーストの正体だった。

 

「 よし、そこまでは正解だ。ところで今回発生したゴーストはいつの時代のものだと思う?」

矢継ぎ早にツゲの質問。

この時もはやドライは半壊状態であった。それだけシュロ達の実力が傑出していたようだ。

とにかくも一瞬だけでも考える余裕を与えられ、シュロはゆっくりと応えた。

「 俺のゴーストだったわけだから、当然ここ数年のものであっただろうな。俺のほかにも知人のゴーストを見た者もいたんじゃないのかな」

 

ツゲを見やると、彼はもう一度顔をぬぐい、はっきりとシュロを見つめて言い返してきた。

 

 

 

「 違うな。今回出現したのは起源1世紀頃。ローマのコロッセオ闘士たちのゴーストだ」

「 何・・・っ!?」

よどみなく応えるツゲの答えに、シュロとモクレン、そして一瞬遅れて事態を飲み込んだ3人の驚愕の声が起こった。

 

「 じゃあ、あれは・・・俺の前世の記憶がゴーストに・・・?」

自分自身と戦った記憶を懸命に思い出しながらシュロは食いついた。

 

だがこの答にもツゲは首を縦に振らなかった。

 

「 それも違う。あのゴーストは前世などではなく、間違いなくお前だよ。

 我々の認識が正しければあれ、いやお前シュロとシロー───」

 

そこまで言ってツゲは一拍置いた。シローの事をヒソカに指摘されてからずっと、ツゲは迷っていた。

これを伝えるのは命令に含まれていない。シュロもシローも指示通り自分の手で消さなければならない。伝えようと伝えまいと。

どちらにせよ許されない事であるには変わりないが───

 

ここで自分を抑える事などできはしない

 

 

 

「 お前達二人は、具現化したゴーストだ」

 

 

 

ズシン・・・!

 

ドライの最後の一体が床に沈んだ。

と同時に、戦闘音も止み地下室に重い空気が流れた。

 

 

 

「 ち、ちょっと待てよ・・・じゃあシュロとシローの抹殺指令ってのはもしかして・・・」

ふと何かを思いついたように、大型ライフルを放り出し、イスカが声を上げた。

 

「 あぁ、多分イスカが考えた通りで正解だ。

 現在頻発しているゴースト現象は、具現化した二人、つまり・・・

 シローとシュロを核に起こっていると結論づけられた」

 

次々と明かされる真相に追い討ちをかけるように、ツゲは言葉を続けた。

 

「 今回の抹殺指令もゴーストの核が無くなれば現象の発生頻度も抑えられるだろうとの判断だ」

 

 

 

自分はゴースト。そして世界中を脅かしている脅威の現象の素。

 

 

 

敵のいなくなった床に、シュロはヒザをついて座り込んだ。シローはシュロにしがみついてきている。

すぐにイスカ、モクレン、ヒソカの三人も走りよってきた。

「 シュロ・・・シロー」

 

三人に助け起こされながら、シュロは多少勢いの抜けた声ではあったが、ツゲに向きなおってわめいた。

 

「 だがもう止まるわけにはいかない!

 ここのロボットはもう片付けた。外で危険にさされているツヴァイのためにも、ドライの停止スイッチを押させてもらうぞ」

 

ロボット部隊を紹介するとき、ツゲは確かにそのスイッチの存在を説明していた。

この先どうするにせよ、仲間のためにそれは押さねばならない。

 

「 停止スイッチ?・・・もしかしてこれの事か」

しかしツゲはあっさりとポケットからそれを取り出した。手のひらサイズのボタンがそこに現れる。

余りにも意外で思わず気をとられてしまったが、シュロはさらに歯を食いしばるようにして声を絞り出した。

 

 

 

「 俺がゴーストであるかどうかは別にして、あんたはもう俺達に対して手はないはずだ。大人しくそれを押してくれないか」

 

プレッシャーをかけるように、ゆっくりと一歩ずつツゲに近付きシュロは言った。

 

だがツゲはまたしてもあっさりとした口調でスイッチをかかげ言った。

「 ・・・これはドライの停止スイッチなんかじゃない。このツヴァイ本部を跡形も無く吹き飛ばすための引き金だ」

「 なっ・・・・!?」

5人、声が揃った。

完全にもてあそばれた。全てツヴァイの中心と言ってもいいシュロの第二部隊を導くためのシナリオだったのだと、拳を強く握りながらシュロは悟った。

 

食いしばった歯の間から怒りを絞り出そうと一歩、シュロはまた前に出た。

「 この地下室はシェルターか!貴様、そうまでして・・・そうまでして俺達を───」

 

「 殺したいと思っていると?俺がそんな事を思っているというのか。」

不意をつかれた。いつの間にかツゲはシュロの目の前までやってきていた。

さっきまでのあっさりした口調は一変し、涙で濡れた顔は瞼と言わず頬といわず全体が真っ赤に腫れあがっていた。

 

「 ・・・立場は違えど俺だって何年もお前達と一緒にゴーストを追いかけてきたんだ。

 シュロがゴーストだとか何だとか、そんな事はどうでもいいんだ。

 お前達はどうか知らないが、俺はお前達を本当の仲間だと思っているよ。殺すなんてできない。」

今まで殺しあっていたことも忘れ、シュロはこの数年来の友が泣き崩れるのを黙って見つめていた。

殺せないといいながら精神波ブースターなど持ち出すその真意もはかれなかった。

 

「 ドライ完成後の出世だって約束されたよ・・・でも俺の居場所はツヴァイと一緒の研究室、あそこしかないんだ。

 モクレンみたいにアゴでこき使う嫌なやつって思ってたのも結構いたけれど・・・それでも仲間だ。

 踏みつけて俺だけ前に進むなんて・・・できない」

ツゲは座り込んだまま、うつむいて独白を続けた。

「 じゃあ・・・どうして?」

たまりかねてヒソカが聞くと、ツゲはゆっくりと立ち上がった。

こちらに背を向ける方向へ、これもまたゆっくりと歩きながら答え始めた。

 

「 命令は下ってしまったんだ。逆らう事はできない。しかも俺自身に全ての計画を任されたんだ。

 だが俺にはドライのロボット共がツヴァイ全員に勝てるとは思ってなかった。少なくともシュロ達第二部隊にはかなわないだろうとね。

 お前達を殺したくはない。それは本心だが・・・でもゴーストの核である事に変わりはなく、任務は遂行せねばならない。

 そう考えて・・・・ふと思いついた」

ヒソカに背を向けてしばらく歩きながら話していたツゲは、地下室の反対側で立ち止まり振り返った。

 

「 コレを使えば良い」

振り返ったツゲの手の中には例のスイッチが握られていた。

「 あ・・・まさか!」

すぐに気付き、即座に奪おうとするシュロをスイッチに指をかけ掲げることで牽制すると、今度はモクレンに向けてツゲはしゃべりだした。

「 さっきの騒動で、モクレン。お前は精神波ブースターを暴発させて自爆したように見せかけたな。

 実際はあんな事無理なんだよ」

疑問符を浮かべ、イスカ達はモクレンに視線を集めると、モクレンは顔を赤くして白状した。

「 あぁ・・・確かに。危険とされるレッドゾーンギリギリに精神波を増幅させただけなんだ、あれは。

 ためしにやってみたら範囲は狭いけどあそこまでの威力が出たから誤魔化せるだろうって。誰もやった事なかったしな・・・」

「 そう。本当に精神波を限界を超えて増幅した場合・・・」

そこでさらにスイッチを持つ手を高くかかげ、思いつめた表情でツゲは宣言した。

 

 

「 ツヴァイの、この建物ほぼ全域が塵と化す。それがこのスイッチの力だ。

 これは精神波暴発専用のブースターだ」

 

 

───数秒、沈黙が続いた。冷や汗を垂らしながらもシュロ達は動けなかった。

「 ・・・すまない。俺ごと皆、消えてくれ」

無理に動けば何のためらいも無くツゲはスイッチを押すだろう。今の言葉で、その憶測は確信へと変わった。

 

「 なんでそうなるのさ!別のやり方があるはずでしょ!」

口を挟んだのはシローだった。ゴースト騒動の時からずっと白い対精神波服を丸々と着込んでいて饅頭のようになっている。

夏だというのにこんな服を着せられ、汗でふやけたようになりながらも必死な顔で前に出る。

今までずっと恐怖で動けなかった分、タガが外れたようにまくしたてている。

「 シローか・・・」

「 僕らが殺しあう理由が分からないよ!皆でゴーストが出なくなるように研究すればいいじゃないか。

 僕がゴーストならはじめからそう言ってくれたって構わなかったよ。僕が普通の人間になれるようにしてよ!」

 

 

 

「 ・・・その点については謝るほか無い。俺達の力では全く解決の糸口すら見出せなかったんだ。

 でも、それももう無理なんだ。研究はほぼ打ち切られてしまったようなもので・・・。

 結局俺は何もやり遂げることができなかった・・・これが一番良い方法なんだよ。

 せめて俺に決着をつけさせてくれ・・・」

諦めたような声音でツゲはシローを諭した。ゆっくりと締めくくると、ツゲは目を閉じ、ゆっくりと指をスイッチに押しあてた。

「 やめろ、ツゲ!」

シュロ達の制止の声も効果は無かった。スイッチはみるみる沈んでいった。

ツゲを抑えようと前に飛びだす四人の背中に、シローのひときわ大きく、やけに澄んだ声が響いた。

「 やめろーーーっ!!!!」

 

 

 

カチッ

 

 

 

小さな音と共に、ツゲの指先から閃光がほとばしり・・・

───そして収まった。

 

「 ・・・・??」

閃光以外に何事もなく、ツゲを羽交い絞めにしてスイッチを奪ったが。

「 不発・・・?」

スイッチは確かに押し込まれていた。しかし大きな閃光は確かに放たれていた。精神波が増幅されたのは間違いないようだが・・・

 

「 ぐっ・・・シロー、お お前・・・か?」

荒い息を吐きながらその場に倒れこみ、ツゲが絞り出すようにして声をだした。

 

当のシローは自分自身をくまなく調べるようにあちこちを不思議そうに触っていた。

疑問符を浮かべ言葉を失っているシローの代わりに、イスカが声を発した。

 

「 ツゲ・・・シローはゴーストの大発生の時にゴーストの気配を察知する能力を身につけていた。

 今のも・・・それかもしれん。」

精神波の吸収、といったところであろうか。

倒れ、消耗しきっているツゲを見るに、ブースターは確かに働いたようだ。

だが爆発はしなかった。シローが無意識のうちに能力を発現させたのだろう。

暴発する前に精神波を吸収し、ツゲの消耗も死に至る手前で終わっているようだ。

 

 

 

自分の事だと理解していないのか、シローだけが事態を分からずあたふたしている。

とりあえずイスカがそのシローを抱き上げると、なだめるように背中をさすった。

数体残っていたロボットも動かないようだ。もしかしたらツゲと一緒にロボット達に蓄積されていた精神波も吸収したのかもしれない。

「 もう一つある。俺とシローがゴーストで、それを抹殺しようとした事からはっきりした」

今度はシュロがツゲに近付いて、自分で確認しながらゆっくりと話し始めた。

「 シロー。お前と以前ゴーストの出現記録を見ていた時、お前はゴーストの発生日がある曜日に集中してると言っていたな?」

言われてシローが頷くのを満足そうに見、先を続けた。

 

 

「 ツゲ、ゴーストの核が俺達という事まで分かったというからにはある程度現象のメカニズムが解明できているという事か?

 分かる範囲で教えてくれないか」

ドライの一件の事など無かったかのように、シュロは穏やかにツゲに話しかけた。

「 ・・・それに関しては、また済まないと言わなきゃならんな」

さほどダメージがないのか、息をゆっくり吐きながらツゲはなんとか立ち上がった。

だが顔だけは辛そうに・・・シローからのダメージではなく心の痛みからだろうが・・・先を続けた。

「知っての通り、ゴーストは世界中に漏れてはならない最重要機密だ。

 その研究機構も内部の人間にすら容易には整理できないように多岐にわたってガードがかかっている。

 俺は対ゴースト戦術・装備の開発担当責任者だが、ただそれだけであってゴーストとの戦闘以外の事は何も知らされてないんだ。

 どこで何の研究が行われているかも知らん」

 

ツゲの言うとおりだった。アインスは世界機関として、その全ての研究を公にしながら進めなければならなかったが

逆を言えば、公開できない研究は何としても隠さなければならないという事。

シュロ達も事実そのような研究がある事を知っていたし、それに関するゴシップニュースはいくらでもあった。

 

だがむしろそれを聞いて安心したように、シュロは再び話し始めた。

「 アインスで見た俺自身のゴーストを倒した後、俺の意識は一瞬だけそのゴーストとシンクロしたんだ。

 俺が知るはずのない両親の顔・・・あれは今じゃあない、俺の元の時代でのゴーストの記憶だ」

話しながら、シュロの手にはあの時のゴーストとの握手の感触がよみがえってきた。その感情すらも・・・

「 あのゴーストからは戸惑いと悲しみと、怒りが感じ取れたよ。

 大きな、自分ではあらがう事のできない大きな力によって強引に知らない世界へ放り出された哀れな男の感情がね。

 そこには自然の力なんてものは感じなかった。冷たく、身勝手なうねりに流された不条理さへの怒り、悲しみ、戸惑いだ。

 それを感じて俺は直感したよ・・」

 

シュロは一拍置くと、その場の全員に向けて宣言するように大きく言い放った。

 

 

 

「 ゴーストは、アインスの実験によって無理矢理出現してしまったものだったんだよ」

 

 

 

自分がゴーストであったという事実、それすらからも自分の仮説を裏付けるものとなっていた。

シュロは確信していた。自分という人とゴーストの間のような者を作り出し、二度も自分を時空の狭間へ飛ばしたその真の敵を。

 

だがツゲは納得いかないようだった。シローに精神波を吸い取られ衰弱しながらも、乾いた笑いをとともに否定の声をあげた。

「 ・・・は、はは、そんな馬鹿な。そんな突拍子も───」

 

「 無いと思うか?今のアインスならそのくらいやるだろう。俺達にした仕打ちを忘れたとは言わせない」

間髪入れずに返されて、ぐ・・・っとツゲが押し黙る。

責めようとして出した言葉ではないが、ついツゲに向かって強い口調になってしまった。

 

しかし、顎に手を当てて改めて真面目に考えたツゲはふと思い当たったかのように口を開いた。

「 そうか、もしかしたら精神波の研究を進めるための一つの目標・・・対象としてゴーストを作ったんじゃないか。

 今までゴーストの被害に実際あったのはたった2件。それらをでっち上げれば負担なく精神波の研究になると考えたのでは──」

ツゲの予想ももっともなものだったが、シュロは手を振ってそれを否定した。

「 いや、その被害にあった二つの村ってのは俺とシローの村だ。

 シローの村については俺達が実際に確認した。あれだけの犠牲者をでっちあげるなんて事はできない」

 

「 じゃあ・・・何の目的でアインスはゴーストなんか作り始めたんだ?」

そこまで大人しく聞いていた第二部隊の4人も、たまりかねて口を挟みはじめた。

腕を組みシブイ顔のモクレンを振り返り、またその場の全員を見回してから、ツゲに向かってシュロは

 

「 重要な研究の副作用としてゴーストが生まれちまったと考えたらどうだ?

 ゴーストが過去の記憶や思念からうまれるって事は・・・次元とでも言うのかな。それに関する研究だ」

 

それを聞いてツゲが勢い良く顔を上げた。

「 ・・・ある!確かにあの研究室ならやりかねないな。

 こっちだ!」

そのまま全員を誘導し走り出した。

 

 

「 ようやくケリがつけれそうだな」

ツゲの後を追いながら、モクレンがつぶやいた。

「 まだ気を緩めるなよ。アインス内部から、というのはあくまでも仮説だ。

 それに今日のゴーストで何か異変が起きてるかもしれん」

シュロが鋭く意見する。言われてモクレンも、はっと気付いたようだ。再び気を引き締め足をはやめる。

 

モクレンに言ったとおり、シュロは事態をまったく楽観視してはいなかった。

だが事態は動いている。これから先一すじの気の緩みも禁物と心得て、シュロは走りながら自分の頬を張り気合を入れた。

相変らず地下のシェルターは暗いままだったが、シュロははっきと前を見据えて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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