Dear My Future   作:湯たぽん

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第八章:帰還

 

暗闇に完全に目が慣れ、暗い地下のシェルターを一直線に走り去る。

大きな分厚い扉を抜け、ツヴァイ屯所に隣接するアインス本部に向かって走りながらツゲは解説を続けた。

 

「 机上でなく4次元を追求しそれを扱おうとする研究。

 アインス内では長老共ばかりが集まってやっている、形ばかりの研究だと思っていたが・・・仲間内では”ドラえもん研究室”って呼ばれてたしな」

先のセントラルでのゴースト発生事件のせいで、アインス内に人は全くいなかった。

一つの都市といえるほどに巨大な建物内をただひたすらにまっすぐ、奥へ奥へと走った。

「 あの研究室は実際には動いてない、ジジイ共の役職名だけのために作られたものだと思っていた。

 部屋自体異常に広いだけで普段人の出入りが全くなかったからな。倉庫にそんな名前をつけて管理しているだけだと──」

 

「 じゃあそこに研究機材があるんだね?4次元の研究、というかゴーストを発生させるための!」

シローがヒソカの背中から叫んだ。その場の全員が頷く。

「 そのはずだ。今はゴーストの発生によりセントラルに人はいないはず。研究内容を確認して、あわよくば研究室を破壊してしまおう!」

先頭に立って走るツゲが士気を高めた。

研究者であるにも関わらず、ツゲの足は現役ツヴァイの4人と同じくらい速かった。どうやら彼もシュロ達と同じ精神波強化スーツを着込んでいるようだ。

一番前で、さすがに息を切らしながらツゲは独り言のようにつぶやいた。

「 俺は武具開発専門だから偉そうなことは言えないが・・・

 俺達研究者よりもお前が一番にこの事をつきとめるとはな」

そして横で並走しはじめたシュロに顔を向け、大きく息を吸い改めて口を開いた。

 

「 すまない、シュロ。ありがとう!」

 

 

 

だがシュロの顔は明るくなかった。ツゲと一緒に先頭を走りながら同じようにつぶやいた。

「 まだ終わっちゃいない。研究室を調べて・・・本当に人類のために必要な、

 ゴーストという副作用をもってしてもやはり止められない研究をしていたとしたら──」

 

ここで遠慮がちにヒソカの背中で緊張した面持ちでいるシローを振り返り

 

「 俺達が消えるべきなのかもしれない。世界のためにそれが仕方ないことなのかもな」

 

気がつけば既にアインスの中央付近を走っていた。シュロの出した言葉の重さに全員が思い悩んだが───

 

 

 

「 知ったこっちゃないね。シュロとシローが犠牲になるくらいだったらこのまま俺達がゴーストと闘ってやるさ。

 二人を逃がして、作戦は失敗しましたといけしゃあしゃあと報告してそれで終わりさ」

モクレンがいつもの調子で威勢よく言った。

それを聞いてイスカも笑いながら調子を合わせた。

「 言うと思ったよ、モクレンらしい意見だ。でも俺も同じ事思った。シュロとシローを犠牲にしてゴーストいなくなって万歳なんて我慢できないね」

さらにヒソカ。

「 私も賛成。でもイスカらしくはない意見ね」

「 うるせ」

 

 

あはは・・・とシローも後ろで気楽な笑い声を立てている。

後ろを振り返って会話を聞いていたツゲが感心したようにつぶやいた。

 

「 うん・・・その通りだな。ドラえもん研究室とやらに何があるか分からないが、

 何があってもやはりシローとシュロを優先して考えよう。破壊するかしないかは別として、二人が生きていても今まで通りっていうだけの事だしな」

 

そしてシュロの方を向き、強い口調でツゲは締めくくった。

「 早まった真似は、するなよ」

 

「 あぁ・・・分かった。ありがとう」

シュロとシローは、神妙な面持ちで頷いた。

 

 

 

 

 

 

目的地の扉は、やけに地味な作りであった。

ツゲが止めないと全員通過していたであろうその扉は、確かに倉庫と思われて当然といったたたずまいだった。

 

「 ゴースト現象がここで仕組まれたのであるなら、セキュリティはまだ生きているはずだ。

 基本的に俺のパスで入れるはずだが・・・気をつけろよ」

ツゲはそういうと、自分のカードで扉のロックを解除した。

 

ドライが警備にあたっていることを予想し、身を硬くして待ち構えたシュロ達の気持ちとは裏腹に、扉は静かに開いた。

 

ただ、

 

「 何だ!どうしたんじゃ!?」

という声を除いて。

 

 

 

慎重に扉をくぐると、そこは確かに広い、綺麗に整った研究室だった。

部屋全体が大きな機械になっているかのように、広い部屋のあちこちをパイプが走り太く束ねられたケーブルが廊下に沿って長く伸びていた。

小さな階段で部屋全体が段々になっており、奥にいくにつれて高くなる機械は、その塊をよりいっそう大きく見せていた。

 

扉が開く音を聞きつけたのだろう、その階段の一番上のほうからサンダル履きのくたびれた白衣姿で現れたのは

とうに還暦を過ぎたであろう禿げ上がった老人であった。

 

 

 

「 なんじゃお前達は。ゴーストが出るという告知を聞かなかったのか?今すぐ避難せい避難!さっさと逃げんか!」

階段を少し降り、その中ほどから精一杯威厳を出して老人は声を出した。

舌は少し回っていないが杖をつきながらもしっかりとした足取りで近付いてきている。

近付くにつれどんどん予想年齢が上がってくる。

その顔にはあまりにも多くのシワが刻まれていて遠くから見るとその影から褐色の肌をしているように見えていた。

 

「 私たちはそのゴーストを殲滅するべく配備された部隊だ。

 貴方こそ何をしているのです?研究者も例外なく全員に避難命令が出ていたはずだ」

逆にツゲが問いかけた。

 

しかしその問いかけには応じず──というか聞いてすらいなかったように思えたが

老人は階段を降り、近付くとこちらを見て小さく驚きの声をあげた。

「 お前・・・もしやシローか?」

ずかずかと近付いてきて、そのシワだらけの顔をヒソカの背中に近づけ頬をつつこうとした。

 

それを途中でさえぎって、シュロ

「 シローの事を知っているって事はゴースト研究の関係者だな。

 あんた誰だ。ここで何の研究をしてるんだ」

 

老人は、いまや100歳も越えるのではないかと思えるシワだらけの顔を今度はシュロに向けた。

 

「 ぬ、こっちはツヴァイのシュロじゃの・・・ということは、もしやお前達・・・」

背を向け、階段を上り始める老人の背中に、今度はツゲが声をあげた。

「 その通りだ。私たちはこの研究室に疑問を持って調査に来た。

 さっきも聞いたが。ここでは何をしている?」

 

このとき、老人が初めてこちらの言葉を聞き入れた。

階段の手前でこちらを振り返り誰に言うともなくつぶやいた。

「 ──分かった。教えるよ。こっちじゃ・・・」

 

杖をつきながらゆっくりと、そしてしっかりとした足取りで老人は一行を上へと導いた。

「 ここへ入ってこれたと言う事は、お前あれじゃな、アインスの研究者だということじゃな。

 アインスの最長老たるワシになんて口きくんじゃ」

相変らず誰も聞いていなくても口に出して言ったんじゃないかと思うような小声で独り言のように老人は呼びかけた。

 

「 アインスの研究者は室長クラスなら全員同格だ。階級差のようなものは無いからあなたに敬意を払う必要はない。

 ・・・あくまでも表向き、だけどな」

最後の一言はツヴァイの5人に向けての言葉だった。

シュロもシローも、ヒソカもイスカもモクレンも、これから起こる事への緊張と不安で常にまわりに気を配りながら警戒を解かずに階段を登った。

 

 

 

階段を登りきると、目の前に現れた光景を見て6人は息をのんだ。

 

「 どうじゃ・・・なかなかのものじゃろう」

 

部屋の中央には、大きな”闇”があった。

直径10m以上はあろうかという巨大な球体が、周りの機械、いやそれどころか空間すら拒絶するかのように闇色に染まっていた。

球体の両脇と上下、そして恐らく背面にもびっしりと機械が配置されており、アームのようなもので挟まれている。

正面をこちらに向けて、挟んだアームで”闇”を安定化し固定しているように見えた。

 

「 これは・・・なんというか陳腐な表現かもしれないが・・・次元の穴っていうやつか?」

ぽかんと口を開けたような、間の抜けた顔のままイスカが呆然と声をあげた。

 

「 正解じゃ。その表現はぴったりじゃな。これからそう言う事にしよう」

年寄りらしく乾いた声でかっかっか、と笑うとアインスの最長老は解説をはじめた。

 

「 こいつはもう随分と昔からこの場所で管理されてきたものでな。ワシも正確にはいつからか知らん。

 はじめ偶然で出来たもので何なのかはわからなかったが、維持機構はすぐに出来上がったんじゃ。

 これが何なのか、どう扱えばいいかが分かったのはワシがこれを前任者から引き継いでしばらく経ったときじゃった」

 

ここまで聞いて、たまりかねたようにツゲが老人に詰め寄って質問した。

「 こんな丸の歴史なんか真面目に聞く気はない。単刀直入に聞こう、こいつがゴーストを生み出しているのか?」

 

物珍しさに、つい説明に聞き入っていたシュロ達もはっとしてツゲと一緒に前に出た。

今はもう球体の目の前に来ている。”闇”を安定化させるためだけの機械なのか

その周りにあるものにはパラメータ表示のモニターのようなものばかりでコンソールやレバーのようなものは少なかった。

実際に動かすのは別の場所で行うのだろうか。

 

老人は、ツゲの物言いに機嫌を悪くしたようだ。途端に仏頂面になるとさらに”闇”に近付きその偉大さをこの若造に知らしめようと声を荒げた。

「歴史なんか、じゃと?そんなヤツにこの偉大な研究を理解することなどできんぞ」

そして後ろの球体を大袈裟に示すと、威厳を込めた太い声で言い放った。

 

「 これは、歴史そのものじゃ」

 

 

 

「 まさか・・・これはタイムマシンなのか?」

イスカが口を挟み、そしてふとまた陳腐な表現をしてしまった事に気付き赤面した。

「 あんたなかなかいい表現しよるの。研究チームに加えたいくらいじゃなぁ」

再び表情を崩すと、老人は得意げにまた長い解説をたれはじめた。

 

 

「 これは偶然に作られた次元の穴、というのはさっき言ったな。これを利用することによって時空をちょっと曲げて視覚的につなげることができるんじゃ。

 つまり過去を見ることができる。未来は無理じゃがな・・・。そのシステムが20年ほど前に確立された

 というわけで今ひそかに膨大な量の歴史の謎が解かれつつあるのじゃぞ」

喜色満面で話し、聞きもしないのに機械の一つ一つにまで解説を始めた老人を今度はモクレンが止めた。

 

「 じゃあ、ゴーストはそいつの副作用で生まれてきていたって事なのか?ただ、昔の出来事を覗き見するためだけのために!?」

 

それを聞くと、カッとなって老人は駆け出した。”闇”を操作するためのものと思われる大きなコンソールの前まで来るとさっきよりもさらに大きな声でわめきちらした。

「 何を言う!人類は全て過去から学んで今日の繁栄を築いたのじゃ!ゴーストなんぞ必要悪じゃろが!!

 あの戦争の原因も、あの事件の真相も。それどころじゃない今はもう絶滅してしまったあの動物の生態だって間近に見る事ができるのじゃ!

 これほど重要な研究がいままでの歴史にあっただろうか!?あるわけがないじゃろう!」

今度はツゲが声をあげた

「 それは違う!人類が過去を見るのは過ちを繰り返さないためだ。

 何もかも見ようっていうのは単なる個人の知識欲にすぎん!それを知ろうとする事は正しいが、ゴーストという副作用を無視してやっていい事じゃない!

 一般の人々をこれだけ巻き込んでおいて何が繁栄だ!こんなのは研究ではない!

 あんたがやっている事は、未来に残しちゃいけない過ちの歴史だ!!」

 

ぬぅぅぅ、と老人がうなりまた声を荒げた。

その目には明らかに狂気を含み声ももはや人のものとは思えぬほどしわがれた、猛々しい獣のようなうめき声だった。

「 一般人など知らぬ!やつらは知ろうともせぬではないか。ワシら知ろうとする者達の邪魔は許さん!

 ワシは・・・ワシは全てを知るのだ!ハハ・・・この地球の知識す、全てを・・ななにもかもををワわシのモノにするるんじゃゃ・・・ゃがが・・」

 

 

 

「 ・・・・おい、このジイさんもう壊れちまってるぞ」

イスカが遠慮がちに、だが冷めた口調で言った。

 

「 もういいよ。ここを調べて、破壊できるなら破壊してしまおう。

 こんな狂気じみた研究のためにゴーストと闘わなきゃならないなんてバカバカしくてやってられんぜ」

シュロがそう言い、部屋の中にある資料や機械に触れ始めた。

他の5人もそれにならい、物色しはじめた。

 

 

「 ひぃひゃ、ままて壊すの、こぁすのはゆぅ許さんぞ!」

老人がコンソールの前から怒鳴る。既にシローが老人のすぐそばで恐ろしく正確な手つきでコンソールを調べ、データを見ていた。

 

「 ワシの夢じゃ!何をするじゃあやめんかぁ!」

 

 

 

「 何が夢だよ!うるさい黙れ!」

突然甲高い声がだだっぴろい部屋の中に鋭く響いた。

 

シローだった。かつてシュロにつっかかって来た時のようにはっきりとその瞳に意思の光をともし老人を睨みつけている。

 

 

 

「 こんなくだらない事のためにゴーストを呼び出して人を殺しておいて・・・

 僕らをこの時代に勝手に呼び出しておいて何だ!お前なんかに人の生き死にを決められてたまるか!

 僕はお前なんかのために生まれてきたんじゃない!絶対にお前なんかの命令で殺されもしないぞ!」

 

 

 

思わぬ反撃に言葉を失い、大人しくなる老人。シローはさらに語気を強くしてまくしたてた。

 

「 ゴーストって!この機械で覗き見た過去のせいで時間軸がねじ曲がってごちゃごちゃになって出てくるんだろ!

 そんなねじ曲がった歴史なんか見てどうするんだよ!しかもな!ゴーストの事おまえ何も分かってないだろ!

 過去からの記憶っていう時点でもうまともな存在じゃないんだ。それをさらにツヴァイに殺させてるんだぞお前は!

 人やら動物やら色々ゴーストにもあったようだけど、ゴーストにされて、しかも殺される。二度も殺されるってことなんだぞ分かっているのか!」

 

ダン!とコンソールを乱暴に殴りつけシローは声を搾り出すようにつぶやいた。

 

「 壊してやる・・・こんなもの全部壊してやるよ!」

 

 

 

それを聞いて、ふと老人の目に正気が戻ってきた。シローから離れるとからからと笑い声をたて、元に戻った聞き取りずらい声で話し始めた。

 

「 壊すか!お前がこれを?あははははははは・・・

 壊してどうする?この世界でまともに生きていけると思っているのか?」

 

「 ・・・・?何が言いたい」

シローに変わって今度はシュロが尋ねた。

皆部屋を調べる作業を一時中断して周りに集まってきた。

 

「 シュロか。シローとお前と二人の抹殺命令を出したのは伊達じゃないのだよ。

 シローが保護されてからこの装置の安定性が下がってな。揺らぐようになったのだよ」

抹殺命令、と聞いてシュロ達はツゲを見たが、彼は首を横に振った。

「 俺達がゴースト現象の核になっていることは聞いている。

 だが精神の在り方は少し違うかもしれんが俺達はもはや実在の肉体を手に入れてこの世界に同化している。

 今俺達が住むこの世界のために、コイツは破壊しなきゃならん。壊せば揺らぎも何も無くなるから安心して隠居しろ」

 

半分嚇しをかけたつもりだったが老人はひるむ様子も無く、ひとしきり笑ってから言葉を続けた。

 

「 ははは・・・甘い甘い。では聞くが、

 元々時空の離れたところにあるお前の精神は本当にこの世界に同調できているのか?

 ここにある次元の穴をふさいだところで、お前達が持つその精神自体がこの穴と同質のものではないのか?」

 

老人の言葉にハッとして、ツゲが驚きの声をあげた。

 

「 そ・・・そうか!ゴーストと同じ過去の記憶から生まれたシュロとシローがいたらこの穴を塞いでも

 時空はねじまがったままなのか!?」

 

それを聞いて満足げに老人は頷き、シュロの肩を叩いて上機嫌に語った。

 

「 その通りじゃ。お前達がここを破壊しても、この世界のどこかにまた同じ穴ができるかもしれんのう?

 そしたらここと同じように制御することなどできんぞ。ゴースト現象はさらに増えるかもしれんなぁ。どうする、ん?」

 

 

 

「 ・・・・・・」

 

老人の陽気な声以外、部屋の中は重い空気がただよった。

ただこの”闇”を文字通り闇に葬ればゴースト現象は収まり二人が普通の生活に戻れるだろうと思っていた。

しかしゴーストから人へとなってしまったシュロとシローは存在だけでこの世界では異質のものとなっているのだった。

老人の言うとおりこの”闇”と全く同質のものと言える。

 

 

 

黙っていると、老人はさらに調子づいたようだ。

「 どうするね。ただしこのまま壊さなかったとしてもこの穴が不安定になっているのも確かな事での。

 お前達二人がここに影響を及ぼしているのも、最近分かったことじゃが確実での。そのままにしとくのも危険なんじゃがなぁ・・・

 二人が大人しく抹殺命令に従っていればゴースト現象も抑えられ、新しく作られたドライ部隊だけで安定すると思うぞぃ」

 

「 くっ・・・この野郎。どうすりゃいいんだ・・・・」

ツゲも困り果てた様子でうつむいている。

ヒソカにモクレン、イスカの三人は対照的にふてぶてしいほど堂々としていた。

 

「 そんなの考えなくてもさっき答は出したでしょ。二人を優先してここを予定通り壊せば良い」

ヒソカが胸を張って宣言した。モクレンとイスカも頷いている。

 

「 話を聞いてなかったのか?この穴を塞いでも世界のどこかに同じように穴が開いて制御ができなくなるだけだぞ」

ツゲがおろおろしながらヒソカに詰め寄った。

それをなだめながらイスカ。

「 そうなったら世界中探してまた穴を埋めてやるさ。どの道このくそじじいに管理をさせるよかマシだぜ。

 ゴーストもこの”闇”も、まとめて全部俺達が面倒見てやるよ」

 

調子を合わせて今度はモクレン

「 過去を覗く方法が分かるまではここで安定化させるだけでゴースト現象は起きなかったんだろう?

 はじめて現象が起きたのが19年前だからな。どっか他の場所で穴あいてた方が気楽かもしれないぜ?」

ここまで言われてはツゲも反論ができなくなってしまっていた。

 

(こいつらの絆がこれほど深いとは・・・)

 

心の底からうらやましいと思った。それは”闇”の正面でぽつんと一人残された老人も同じだったかもしれない。

 

「 よし、そうと決まったらさくっと壊しちまおうぜ」

威勢よくモクレンが言うと、まわりも同調しそれぞれ機械の解体の準備を始めた。

 

 

 

「 ・・・待ってくれ」

ふと、今まで黙っていたシュロが声をあげた。

 

いつの間にかシローを肩に乗せてシュロが全員に顔を向けている。

 

 

 

「 それじゃあリスクが高すぎる。元々次元に穴が開いているだけで相当危険じゃあないか。

 それを利用しようとすまいと危険には変わりないんだ。完全に消滅しないとダメだ」

ゆっくりと、かみ締めるように皆に言い聞かせる。肩の上でシローも頷いていた。

 

「 だがシュロ、他に手はないじゃないか。アインスに任せるわけにはもういかない。この”闇”をここに置いてはおけないぞ」

いまやすっかりツヴァイに溶け込んで、シュロとシロー保護に頭が染まっているツゲが反論した。

全員が頷き、口々に言い合う。

 

「 そうだよ、俺達がこの後なんとでもするって。絶対二人が安全に暮らせるようにするから安心しろよ」

「 うん、アインスの下で働くより、世界中飛び回ってこれを追いかける方が私達にあってる。はやくこれを破壊しましょうよ」

「 何をするにしても急がなきゃ今しかチャンスはないんだぞ。急いで破壊しようぜ」

ツヴァイの三人の意見も耳に入らなかったかのように、シュロは”闇”に向かいシローと一緒に歩いていった。

 

 

 

「 ・・・いや、手はある。この”闇”を破壊して完全に消滅させゴーストも無くし次元のねじれも直す手が」

 

重い調子で続けるシュロに反論できなくなって、全員シュロが”闇”に近付いていくのを黙って見守るしかできなくなっていた。

そして次元の穴の目の前まで来ると、シュロは肩にかついだシローをおろし、振り返って言った。

 

 

 

「 俺達二人が、この穴と一緒に消えればいい」

 

 

 

「 え・・・!?」

全員、しぼんだままうずくまっていたアインスの最長老まで立ち上がり驚きの声をあげた。

「 ちょ・・・待て!お前消えるってどういうことだよ!?自殺なんて考えるな!お前達が死んだら何のためにここまでやってきたんだか!」

モクレンがわめく。

「 そう!死ぬなんて考えないでよ!二人のためなら私達喜んで世界中飛び回ってあげるからさ!」

ヒソカも悲鳴をあげている。既に顔中涙で濡れていた。

「 死ぬって言っても精神がどうなるか分からないだろ。単にお前達がここで自殺したって穴とは直接関係ないかもしれないぞ!やめるんだ!」

イスカとツゲも必死で止めにきた。

 

 

 

だがシローとシュロの決意は固いのだろう。穏やかな顔のままゆっくりと首を横に振った。

「 死ぬっていう事じゃない。闇と一緒に消えればいいんだ。俺達とこいつが同質のものならばそれができるはずなんだ。

 そうだろうシロー?」

 

肩から下ろされて、シュロのヒザくらいの高さから、相変らず年齢設定が間違ってるとしか思えない明瞭さでこの三歳児は口を開いた。

「 うん・・・今は僕と同じっていうのが良くわかる。この”闇”・・・

 僕らがこの内側からこの穴を閉じれば次元の乱れは無くなるはずだよ。

 それに・・・僕とシロー、それぞれの生きた時代に戻れるような気がする」

 

「 それは確かなのか!?」

4人の声が揃った。あれだけ二人の事を心配していたのだから、元の時代に戻れるならば喜んで送り出すだろう。

だが、その可能性がどれほどあるか・・・

 

 

 

「 分からない。でもそうするのが一番だと思う。いつまでも僕らの精神がこの世界に同調していられるか分からないし・・・

 大丈夫、きっと上手くいくよ」

そう言って、シローはシュロの背中によじ登った。シュロが肩まで誘導してやると、二人は陽気に手を振った。

 

「 アインスの事は任せるよ。ゴーストの事はもう心配いらない」

 

シュロの足がどんどん”闇”に近付くのを見て、たまりかねたイスカ、ヒソカ、モクレン、ツゲの4人は駆け出した。

「 待て!待てったら!お前達が犠牲になるのは許さないって言っただろ!戻れよ!」

だがどれだけ急いでも、既に目の前にいたシュロが”闇”に入るのを止めるのには間に合わなかった。

 

 

 

「 大丈夫、犠牲になるわけじゃないよ。言ったろ?ただ自分達の時代に戻るだけさ」

 

 

 

「 ダメ!許さない!こいつ壊して世界中をまわろうよ!一緒に旅しようよ!いきなりここで消えるなんてそんなの許さない!」

4人とも涙でべたべたになりながら、間に合わないと知りつつも”闇”にへばりついた。

だが”闇”は4人を拒絶して中に入る事をこばんでいた。ギリギリのところで手がとまり、奥に居るシュロとシローの所にまで手が届かない。

どうしても先へは動かせなかった。

 

ゆっくりとした足取りで、”闇”の中央まで歩いていくと、真っ黒のはずの闇の中でも何故かはっきりと見える二人は最後の言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

二人の言葉が終わった瞬間、その場にいた5人は意識を失った。

巨大な光に包まれたとも、大きな地震で吹き飛ばされたようにも思えたが、数分後に目覚めたときはやけに頭の中がハッキリしていた。

 

ゆっくりと身体を起こし、ツゲが呆然として言った。

 

「 本当に・・・消えちまったな」

言うとおり、周りにさっきまで目の前にあった真っ黒の球体は綺麗さっぱりなくなっていた。

機械はそれでもまだ動いており、目的の物が無くなった今もむなしく駆動音を響かせていた。

 

 

 

「 本当に自分達の過去へ帰れたんだろうか・・・・シュロとシロー」

つぶやき、ツゲが周りを見回すと

ツヴァイの三人は既に立ちあがっていた。

何故か三人は泣いていなかった。晴れ晴れとした表情で”闇”のあった方を向いて笑っていた。

 

 

 

「 当然じゃない。二人の最後の言葉覚えていないの?」

顔はまだ濡れていたが、にこにこしながらヒソカが語りかけてきた。

 

ふと言葉を思い出すと、ツゲもなんだか一緒に笑いたくなった。

 

「 は・・・・そうだな。心配はいらんだろうな

 むしろ俺達がこれからがんばらないといけないんだったな。逆に心配されてるようじゃ・・・はは」

そう言うとツゲは立ち上がり、服の汚れを払うと頬の涙をぬぐった。

確かに二人の心配はいらない。これからアインスを改善するための仕事がある自分達こそしっかりしなくては、そう思った。

 

 

 

思い出す二人の顔は、自信に満ち溢れた表情であり、確かにこう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう、僕らの未来・・・』

 

 

 

 

 

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