仙は昼下がりの向かい風を浴びる。
腰まで伸びた真っ直ぐな灰色の髪は風に揺れた。
今の自分は何もない。
果たすべき目的も、身を焼く復讐心も、自分を必要とする人も。
気楽と言えば気楽かもしれない。
だけど仙は怖かった。
何も無い、居る意味すら無くなった自分は消えてしまうのでは無いかと。
陣の所へ行けばいいのかもしれない。
陣は何時だって自分を助けてくれたから。
だけど、それでは意味がない。
陣のところへ行くのは自分だけじゃどうしようも出来ない、自分の力では何も出来ないときだと決めているから。
「やっぱりセンさん居た!」
振り返るとそこには雛実が居た。
仙は雛実を一瞥すると目線を元に戻す。
「どうしたの?」
「?」
「なんか悲しそうな顔してる」
「なんでも」
「ねぇ、センさん。ありがと」
唐突に感謝を伝えだした雛実に首を傾げる。
「何故?」
「助けてくれたから」
「別に良い」
「センさんらしいね」
仙はうなずく。
雛実は仙の顔を覗き込んだ。
髪を伸ばしているからか、その顔は女性的にも見える。
そしてそこには虚ろでも美しく光る目が有った。
鬼の仮面の下がこんな顔だとは誰も思わないだろう。
ましてや業鬼などという仰々しい二つ名が付いているとは誰も思わないだろう。
だが、右目を流れる涙のような傷痕や、放つ雰囲気が百戦錬磨という雰囲気を醸し出していた。
「そう言えばお兄ちゃんがセンさんを呼んでいたよ」
「、、、お兄ちゃん?」
「ごめん。金木お兄ちゃん」
仙は理解したような素振りを見せる。
すると後ろから聞きなれない声が聞こえた。
「あっヒナミちゃんにアマミヤさん」
「お兄ちゃん!来てくれたんだ」
「うん。人に頼み事をするなら自分から行かないとね」
仙の後ろには白い髪の青年、金木がいた。
「アマミヤさん。頼みが有ります」
「僕にはあなたの力が必要です。僕の所に来てください」
仙は一瞬驚いて目を見開いた。
自分を必要としてくれる場所があることに。
そして言う。
「分かった」
「天宮仙。好きに呼んでくれていい」
「よろしく、ケン」
握手をする仙と金木を見て雛実は笑う。
金木は立ち去った。
仙と雛実はまた二人並んで座る。
「ねぇセンさん」
「?」
「あの時、センさんが来てくれてとっても嬉しかったんだ」
「僕もヒナミが生きていてくれて嬉しかった」
雛実は想像して居なかった言葉に驚く。
「ねぇセンさん」
「?」
「好きだよ」
「?」
よく聞こえずに首を傾げる。
雛実は仙にもっと近付いてもう一度言う。
「私はセンさんが好きだよ!」
雛実も、そして言われた側である仙も顔を赤くする。
仙は顔を赤くしたまま言う。
「ヒナミ。僕も好き、、、、ヒナミが」
雛実は一瞬驚く。
そして笑う。
「ヒナミ。僕と一緒に居て、、欲しい」
雛実は先ほどより驚く。
寡黙で無愛想な彼がそう言うことをいうとは思わなかった。
そして雛実は仙の近くに行く。
「えっと、こう言うことを言われたことがないからどう言えば良いか分からないけど」
「私もセンさんと一緒に居たい」
「センさん。付き合って下さい」
「こちらこそ」
仙の頬が少し緩んだ。
そして雛実はそれを見逃さない。
「あ、今笑った!」
「笑って、、ない」
「ううん!笑ってた!」
「凄い綺麗な顔だったよ」
「、、、、うるさい」
自分を必要としてくれる場所が有る。
自分を好きで居てくれる人がいる。
それだけで仙は報われたような気がした。
いや、それだけのことではなくそれほどの事だったのだ。
終わり感でてますが終わりません