頭が痛い。
白く鱗を纏った赫子は無意識の内に身体を飛び出し、仙の細く白い身体を突き刺してはかき混ぜた。
もう慣れきったこの痛みに何も思わない。
だけれどこいつも言うのだ。
あの包帯の少女の様に
「全てお前のせい」
と。
そしてそれが何よりも仙を傷めるのだ。
雛実との仕事が始まって約二週間が経った。
相性はかなり良いらしく、順調に仕事は進む。
しかし未だに自分の求める強敵、それと隻腕の喰種捜査官の情報は無く、収穫はほとんどないまま日々は過ぎていった。
「その通りを真っ直ぐ進んで、二番目を右折して」
「了解」
「敵対喰種が三体」
「確認した。殺す?」
「お願いします」
赫子を出す音、悲鳴、頭が落ちる音が三つ。
仙の無事を確認した雛実は安心するがそれも束の間、自分の肩を弾丸が掠めた。
驚き振り返ると、そこには肩から赫子を出した喰種が居た。
「お前ら、アオギリだな!クソッ!よくも俺の仲間を!」
赫子を出して応戦しようとするが、時既に遅し。
自分の身体を無数の弾丸が襲おうとしていた。
しかし弾丸が届くことは無かった。
そして雛実の背後からは紅い結晶が飛び、先程の喰種を蜂の巣にした。
「慣れないことはしない方がいい」
無機質で無気力な声が自分の横を通り過ぎて行く。
この青年の教育担当になって二週間。
何も出来ない。
いつも助けられてばかりだ。
という感情は何時になっても消えない。
「私、何も出来てない」
倒した喰種を喰ら続ける仙のいる闇に雛実は呟いた。
「上手に言えない。けど、ヒナミはヒナミの出来ることをすれば良い。それで充分助けられている。だから何も出来ていないわけではないと、、思う」
思えば仙の妹もこんな風に悩んでいた。
その度に今のように慰めていた。
妹のことを考え出した仙は頭を振った。
また眼から赤が零れそうだ。
仙から思わぬ言葉を掛けられた雛実は一瞬驚くが、直ぐにそれが隠された優しさだと気付く。
「ありがとう」
「それを言う必要はないと思う」
「それでもありがとう」
場所は変わり、東京の某所。
薄暗いビルの地下に片腕の無い男が入っていく。
薄汚い格好をして、帽子を目深に被った喰種は男を見るなり嬉しそうに声を掛けた。
「よぉ。また喰種に会いに来たのか?捜査官さんがよぉ。あのコクリアだかに情報持ってる奴は山程いるんじゃねぇのかよ」
「放っとけ」
「捜査官が喰種とつるむのはどうなのかねぇ」
「放っとけと言ってるだろ」
「つれないねぇ」
血を匂わせた喰種は男に酒を注いだ。
男は黙ってそれを受け取り、一気に飲み干すと、現金が入った銀色のケースを差し出した。
「気前が良いじゃないか」
「捜している喰種がいる」
「へぇ、どんな。特徴を言ってみろ」
少し間を置いて男は話し出す。
「灰色の髪の喰種だ」
「聞いたことないねぇ」
「他に特徴は?マスクは?」
「鬼。鬼のマスクをしていた」
すると男は何かを思い出したように眼を開き、言う。
「ああ。そう言えば最大の特徴があった」
「なんだい。言ってみな」
「隻眼。隻眼の喰種だ」
「それまた大物じゃないか」
「どっちの眼さ」
「右目だったな」
「灰色の髪で、鬼のマスクで、隻眼。ああ。喰種の中では中々に有名じゃないか。喰種喰らいの隻眼ってな。白狼なんて呼ばれてた時期もあったね」
「そいつが今どこに居るのか出来るだけ早く調べろ」
そう言うと男は首から下げたペンダントを撫でた。
「待ってろ。直ぐに仇を取ってやるからな」
静かに放たれたその声は誰にも届くことはなく消えた。