「センさんは右から回って」
「了解」
敵を捕捉して羽赫で狙い撃つ。
大きく膨らんだ羽赫は勢い余って周りにいた雑魚を蹴散らした。
仕事は滞りなく進み、仙は標的の人間を殺し、その肉を喰らおうとした。
だが、しかし喰種の赫子によって防がれた。
目の前には紫色の鱗赫を持った壮年の喰種が立っていた。
「ほう。お前、隻眼か」
殺気、眼光、立ち姿、声。
間違いない。
この喰種は強い。
「センくん。目の前にいる喰種、排除して」
雛実ではなく包帯の少女の声。
何故、彼女が出てきたのかは気になる。
しかしこの相手と戦えるということは嬉しい。
センも鱗赫と羽赫を出す。
駆け寄ってくる男。
仙は男の足元に分離させた鱗赫を撃ち込み、牽制する。
「甘い」
壮年は分離赫子を赫子で振り払い仙に迫る。
赫子と赫子がぶつかり合う。
紫と白は残像を残しながら闇を切り裂く。
男の動きの隙を読み結晶を撃ち込む。
しかしそれが直撃することがない。
「中々やるな」
「あなたも」
男の赫子は二本から四本に増える。
仙の赫子もそれとともに大きく膨らんだ。
「まさかお前、細胞を操作するのか」
小声で呟く男。
そして男は不敵な笑みを浮かべ、更に速く間合いを詰める。
目で追えない。
仙は大きく膨らんだ赫子を振り回し、男を襲うが全てを男は全てを避ける。
そしてそのままのスピードで仙の身体を刻む。
避けたため傷は浅く済んだ。
しかし男は何度も仙を攻撃する。
「頭はキレるようで、力もある」
「しかし何故俺に勝てないか、解るか?」
男の声を聞きながら必死に攻撃を防ぐ。
反撃の隙を探るが、隙は全くと言っていい程無い。
「答えはな、経験だ」
男の赫子が仙の腹を抉る。
仙は負けじと男の赫子を力で無理矢理押しきり、攻撃をする。
しかし頬を掠めただけだ。
全く歯が立たない。
「お前に足りてないのは経験だ」
赫子の守りも破れ、更に深く腹を抉る。
身体の傷が限界に達した。
これ以上戦闘を継続するのは無理だろう。
赫子は赤い煙になって跡形も無くなった。
「中々楽しかったぞ」
男は赫子を仙に向けた。
不味い。
死ぬ。
死ねない。
こんな所で死ねない。
ー貴方に力をー
頭に響く霞の声。
そうだ。
何時だって自分はなにもしない。
隻腕の情報だって見つかるのを待ってばかり。
あの時だって何もしなかったのは僕だ。
今も相手に隙が出来るのを待っていた。
経験。
そんなものは無くても強い奴は強いんだ。
霞、僕に戦う力を。
次こそは負けない。
仙の身体は嘗て無いほど速く再生し、赫子は大きく、そして強く膨らんだ。
「なに?おかしい」
頭は冴えきっていた。
考えろ。
計算しつくせ。
男の赫子を撥ね飛ばした仙は起き上がり、冷静に男を見据える。
もう一度、もう一度始めからだ。
雛実に教えたように、相手の位置を考えろ。
男はスピードを活かして攻撃をする。
目で追えないなら、それを何かでカバーするしかない。
研ぎ澄ました感覚で男の一手先へ回り、攻撃する。
仙の赫子は男を捉え、脚を飛ばした。
脚が無ければ走れない。
瞬時に男は再生したが、その一瞬の隙は見逃さない。
太く強大な赫子は男の腹を貫く。
「おかしい!まるで別人だ!」
再生する男。
再生するならその分もまた斬る。
相手が立てなくなるまで徹底的にやる。
やがて、男は再生出来なくなり弱々しく倒れた。
「見事だ。出来るじゃないか隻眼」
「俺に足りてなかったものはなんだ?」
多分、経験も有るのだろう。
状況判断も最適だった。
それでも負けた理由。
それは
「死ねない理由」
そう言うと男はカラカラと笑った。
「そうか。それは確かに無かったな」
「意味もなく殺戮を続けるなかで、そんなものはどこかに置いてきたな」
「そうか。ゴミだと思っていたそれは力だったか」
男は笑い終えた。
そして仙は男の首を飛ばした。
目の前に有るのは強敵の死体。
また自分は強くなれる。
仙は男の死体に食らいついた。
すると駆け寄る足音と、声が響いた。
「センさん!無事ですか!」
「無事」
「良かったぁ」
安堵する声。
そう言えば何故この少女は自分が無事だと安堵し、自分が傷付くと必死に助けるのだろう。
「じゃあ帰ろうよ」
「うん」
雛実と揃って歩き出す。
「あ」
そう言って雛実は立ち止まり、一緒に立ち止まった仙の前に出てきた。
そしてハンカチを取りだし、仙の目元を吹いた。
「血、付いてるよ」
「、、、。ありがとう」
自分より幾分か背の低い雛実は手を伸ばして、仙の目元を拭う。
そしてまた二人揃って歩き出す。
それを後ろから見つめる影が一つ。
「セン。成長したな」
その声は仙に聞こえることは無かった。
そして影は闇に消えていく。
「お前ら、地下に戻るぞ」
「はい」
「りょーかーい」
「帰るかー」
それから数日後。
アヤトは仙と雛実に告げる。
「今度マダムどもの護衛をやる。オークションでかなりの人数が集まるみたいだ」
「ヒナミには耳をやってもらいたい」
「そしてセンは冴木と一緒に俺と来い」
「分かった」
「ヒナミ。明日から護衛の日まで訓練の時間を伸ばす」
「うん!」
仙の淀みは更に深くへと仙を引き込んで行く。
唯一の光も呑み込んで。