吾輩はモンスターである。名前はまだ無い。
現在、生後2カ月。
生まれた当初は母から与えられた餌を食べていたが、3週間もすると大人とほぼ変わらない体格に育ったため、それ以降は母に狩りの仕方を教わりながら過ごしている。
ちなみに父はいない。子作りが終わった後そのまま別れてそれ以来会ってないらしい。子育てって夫婦でやるものじゃなかったっけ?と母に聞いてみたら、なにを人間みたいなこと言ってるんだと呆れられた。なにか違和感はあるが、母は気にしてないようだし自分の勘違いだろう。
さて、今日も適当な獲物を狩りに行くかーと準備運動をしていたら母に呼び止められた。はい、なんでしょう?
「あなたも、もう私抜きで狩りはできるようになりましたね?」
「はい、問題なく」
実際、ここ1週間は母の手を借りずに狩りをしているが特に困ったことはない。最初のうちは逃げられることも多かったが、慣れてしまえば楽勝である。なんかこの体、他のモンスターと比べてやけにスペック高いし。バッと近づいてガッとぶん殴ればそれでどうにかなってしまう。
「ならば、あなたはもう一人前です。今後は自分の力で生きていきなさい」
「ええと……つまり独り立ちしろと?」
「そういうことです」
ううむ、もうそんな時期なのか。いずれそうしなければならないのはわかっていたが、いざその時になると寂しい気持ちになる。この辺、知能の低いモンスターばかりで母が唯一の話し相手だったからなぁ……。まあ仕方あるまい、遅かれ早かれこうなるのは決まっていたんだ。ここは新しい出会いに期待するとしよう。
「わかりました、母もお元気で」
「ええ、いい返事です。あなたも元気でやりなさい」
そう言うと母は背を向けて去っていく……と思ったらすぐ戻ってきた。え、なに?まだなにかあるんです?
「忘れるところでした。最後に、大人になった証としてあなたに名前を贈ります」
おお、それはありがたい。母と二人暮らしの時は問題なかったが、今後ずっと名無しというのはやはり不便だろう。で肝心のお名前は?
「ボラホーン」
「わかっ……はい????」
「これからあなたはボラホーンと名乗りなさい」
「は…………ハアアァァアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!?!?!??」
それじゃあ達者でね、と今度こそ去っていく母。
呆然と見送る自分。
蘇る前世の記憶。
え、ここってダイの大冒険の世界なの……????
◆
……………………………………………………………………………………
…………………………………………
……………………はっ!
気が付けば母はいなくなっていた。どうやら、しばらく意識が飛んでいたようだ。いやまあ今はそんなことはどうでもいいんだ、重要なことじゃない。
「ショックで前世の記憶とかいろいろ思い出せたのはいいけど……」
よりによってボラホーンかあぁぁ……と、心の中で盛大に溜息を吐く。
言われてみればなるほど、漫画で見た姿そっくりの顔が水面に映っている。でもボラホーンて。どうせ憑依するならノヴァとか、なんならでろりんでもいいから人間の方がよかった。
いや、もちろんスライムとか腐った死体とかに比べれば遥かにマシなのは理解している。ちゃんと言葉だって話せるし、戦闘能力も世界規模でみれば強者に分類されるだろう。上の方は天井知らずだが、原作キャラのなかでも中堅クラスの実力はある。
……あるはず。
……あるといいなぁ(願望)。
「まあ、成ってしまったものはしょうがない。とりあえず原作のボラホーンについて、わかっている情報を整理しよう」
ボラホーン。
竜の騎士バラン直属の部下である竜騎衆の一人にして海戦騎。海の王者。
種族はトドマンだが、体色が通常のトドマンと違い青色なので、実は上位種のグレートオーラスではないか?という説もある。あのバランがただのトドマンを部下にするとも思えないので、それなりに信憑性はある。少なくとも、なにかしら見るべきところはあったのだろう。
事実、当時すでに人類トップクラスの魔法使いであったポップのメラゾーマをあっさりかき消したり、ベタン喰らってもほぼノーダメージだったりと決して弱くはないことが伺える。
天下無双の力を自称していたが、ヒュンケルに力負けしたうえ、クロコダインはお前の倍以上の力があるぞと煽られたりと、パワータイプとしては正直微妙。むしろ、ブラッディースクライドが腹に直撃しても普通に生きているタフネスの方が特筆すべきかもしれない。そのタフネスもギガブレイク2発喰らって生きてるクロコダインの前には霞んでしまうが。
最後はポップを人質にヒュンケルを殺害しようとするも、卑怯な行為を嫌ったラーハルトから鎧の魔槍を投げられ死亡する。総じて卑怯者、噛ませ犬といった評価である。一応、卑怯者という点については擁護できなくもないが。
そもそも人質を取ったのはすでにガルダンディーは死亡、ラーハルトも満身創痍、まともに動けるのは自分だけという状況であり、いくら消耗しているとはいえ格上のヒュンケル相手では勝ち目が薄かったこと。
また、同じ竜騎衆の一人であるガルダンディーとは違って殺す前に無駄に痛めつけることもなく、あくまで敵の殺害(=主であるバランの障害を取り除くこと)を目的としていたこと。
もしもの話だが、この人質戦法が成功していたならヒュンケルとポップは死亡し、バランは何の問題もなく目的(=ダイの奪還)を達成していたであろう。そう考えるとむしろラーハルトの方が個人的な感情を優先して任務を妨害したとも言える。まあさすがにそれはボラホーンを贔屓目に見すぎているが、卑怯な手段をとったとはいえ外道の類ではなさそうである。
「さて、問題はこれからどうするかだが……そもそも、今って原作のどの辺の時期なんだ?」
時間軸を詳しく覚えているわけではないが、確か原作でダイは12歳だったはず。当たり前の話だが、ダイが生まれるのはバランがアルキード王国の王女ソアラと出会い結ばれてから。そして、その前にバランは魔界で冥竜王ヴェルザーと戦い、同時期に地上では勇者アバンVS魔王ハドラーの戦いがあったはず。つまりまとめると、
魔界でバランVSヴェルザー、地上でアバンVSハドラー(15~20年ぐらい前?)
↓
バラン、ソアラと結ばれる(13~15年ぐらい前?)
↓
ダイ誕生(12年前)
↓
原作開始
だいたいこんな流れになる。
原作でボラホーンが何歳だったかはわからんが、少なくともラーハルトよりは年上だったはずだから……30~35歳ぐらい?そうなると最初の重要イベントであるハドラーの地上侵略まで、あと10年ぐらいはある計算になる。ボラホーンが対ヴェルザー戦に参戦していたとは思えないので竜騎衆にスカウトされるのはおそらくもっと後、バランがアルキード王国を滅ぼして大魔王陣営についてからの話だろう。
「原作通り竜騎衆のスカウトが来るかどうかはともかく、まずはハドラー襲来までにしっかり鍛えておかないとな」
今はまだ、モンスターたちも普通の動物のように過ごしている。まあ、中には元々血の気が多い奴らもいるが、基本的には狩りのときだけ警戒してればいい。
だがそれもハドラーが来るまでの話、ヤツが来ればモンスターは支配され凶暴化する。
そうなったら、普段はおとなしい連中もこっちに襲い掛かってくるかもしれない。1対1なら負ける気はしないが四六時中群れで襲われたりすると厄介だ。たとえそうなっても、まとめて蹴散らせるぐらい強くなっておきたい。
……いや、待てよ?そもそも自分だってモンスターなんだからハドラーに支配される可能性があるのか? 原作ボラホーンがかつてハドラーの支配下に置かれていたような描写は無かったから大丈夫だとは思うが……。
いくら魔王とはいえさすがに自分より強い奴は支配できない、よな?
同格以上の相手も支配できるなら、人類側についたクロコダインとか真っ先にやられてるはずだし。
うん、万が一に備えて目標はハドラー超えにしておこう。
原作主人公だってわずか数か月で大魔王倒せるぐらい強くなったんだ。
10年以上あれば魔王超えもなんとかなるって。いけるいける(自己暗示)。
「よし、なんにせよ方針は決まった。このあたりのモンスターは雑魚ばかりだし、これからは世界中旅しながら武者修行といこう」
せっかくダイの大冒険の世界に来たんだし、ついでに観光なんかもできると良いな。お城とか見て回るのが楽しみだ。
◆
そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
いや、よく考えたら原作で出てきた場所って基本的に陸の上じゃん。
まだハドラー来てないとはいえ、モンスターがのこのこ歩いてたら一発でアウトよ。スライムとかならともかく、見た目からして凶悪そうなのもマズい。すぐに警備隊なりなんなり呼ばれて騒ぎになってしまう。無意味に人間と敵対する気はないが、陸上だと鈍足なので逃げ切ることもできないし、残念だが諦めるしかないか……。
そんなわけで陸が無理ならせめて海だけでも制覇しようと、全世界を泳ぎ回りながら強そうなモンスターがいたら片っ端から喧嘩売って過ごす日々。
東にだいおうイカがいれば刺身にして食べ(醤油が無いのが残念だが美味かった)
西にガメゴンロードがいれば甲羅を鍋にして食べ(〆のご飯が無いのが残念だが美味かった)
南にダンジョンえびがいれば素揚げして食べ(天ぷらの材料が以下略)
北にじごくのハサミがいれば無言で茹でて食べ(ry)
そんな食べ歩き、いや修行の日々を送っていたのだがいまいち強くなったような気がしない。
もちろん、まったく効果がなかったわけではないのだが……
片手だけで戦ってみたり
10分間敵の攻撃を避け続けてから戦ってみたり
10分間敵の攻撃を防ぎ続けてから戦ってみたり
弱点を見極めて其処を突くように戦ってみたり
逆に甲羅などの堅い部分をあえて力で叩き潰すように戦ってみたり
いろいろ工夫をして戦闘経験を積んできたおかげか、一方的に『獲物』を狩るのとは違った『敵』との戦い方が身についてきたと思う。また、キャラデザ繋がりで亀仙流を思い出してからは常にガメゴンロードの甲羅を背負って生活しているため、最近では体つきも一回り大きくがっしりしてきた。肉体的には順調に成長していると言っていいだろう。
じゃあ何が問題なのかというと、まず1つ目は技術面、もっといえば必殺技である。
アバンストラッシュをはじめ、ブラッディースクライドやら獣王会心撃やら……強者というものは得てして格上にも通用するような切り札を持っているものである。
それに対して自分はどうか。原作の『
とりあえず修行法が分かっている大地斬を試してはいるが、残念ながら武器がないため仕方なく素手でやるはめに。疲れ切った状態で余分な力が抜けた正拳突きを繰り返す。確かに岩は砕けるが、別に普通に殴っても砕けるので、これであっているのかは疑問である。かといって直接アバン先生に教わりに行くわけにもいかないし、そもそも現時点ではまだアバン流殺法自体生まれてない可能性が高い。なかなか都合よくはいかないものである。
2つ目の問題は、闘気が習得できてないという点である。
正直これはかなり深刻な問題と言えよう。
なにしろ闘気はダイの大冒険世界において攻防の要である。これが使えるのと使えないのとでは戦闘力が1~2段階は変わってくると言っても過言ではない。ラーハルト?あいつは例外だから。なんだよハーケンディストールって、単なる衝撃波でオリハルコンも切断可能ってどういうことやねん。
それだけ重要な闘気だというのに、具体的にどうやって修行すれば身に着けられるのか原作では書いてない。マジかよ。
メインの近接キャラは大体みんな使ってたので、このまま鍛えていればそのうち自然と使えるようになるのかもしれないが確証はない。いったいどうしろというのか。こうなったら自分も衝撃波出せるように修行した方が良いのかもしれない、とちょっと真剣に悩んだ。
◆
なんか都合よく覚醒したりしないかなー、とふざけたことを考えながらいつものように獲物を探して泳いでいると、海底の方で何かがキラリと光ったのが見えた。
気になったので確かめに行くと、近づくにつれてなにか巨大な神殿のような建物が見えてくる。え、なにこれ?原作でこんなのなかったよね?
いきなり中には入らず、外周をぐるりと回って様子を窺う。しかし、残念ながら外からだとよくわからない。さてどうするか。一番簡単なのは見なかったことにすることだろう。原作で登場しなかったということは放っておいても特に問題はないはずだし。
とはいえ気になるのも事実。もしかしたらテランの湖の底にあった竜の騎士の神殿みたいなやつかもしれない。あそこは竜の騎士しか入れなかったはずだし、念のため入れるかどうかだけ確認しておこう。決して、地上の名所を観光できなかったからせめて海底だけでもとかは考えてない。
まさか入ろうとしただけでキラーマジンガ×2とかは出てこないだろうが、最大限警戒しつつ入口からこっそり入る。
……問題なく入れたな。ということは少なくとも竜の騎士関連ではなさそうか。
海底にあるにもかかわらず神殿の中は空気で満たされている。ざっと周囲を確認してみるが構造はそんなに複雑ではなさそうだ。エントランスホールの先、中央から通路がまっすぐ伸びていて左右にはいくつかの部屋がある。そして通路の先には美しい彫刻が為されたひときわ大きな扉があり、いかにも重要そうな雰囲気が漂っている。加えて、
「これ、何の音だ?」
通路の先の部屋、扉の奥からなにか風の通り抜けるような、あるいは唸り声のような、もっといえばいびき声のような音が聞こえてくる。いくら神殿内部が空気で満ちてるとはいえ海底で風が吹くとも思えないし、なにか生き物が居るのだろうか?
「……確かめてみるか」
これがゲームならほかの部屋をすべて探索してからメインの部屋に行くのだが、現実だとそうもいかない。ここが放棄された無人の施設ならともかく、主がいた場合、挨拶もなしにいきなり家探し始める侵入者とか敵対必至である。どんな相手かわからない以上友好的に接触できる可能性を潰したくはない。
息をひそめて静かに扉を開け隙間から中を窺う。なるべく音を立てないようにしたが、それでもギ、ギ、ギと軋むような音が鳴ってしまった。マズいと思ったが、幸い気づかれずに済んだようだ。
(まさか本当にいびき声だったとは……)
見えたのは整然と並ぶ天井を支える太い柱と、奥の方の一段高い位置にある豪勢な玉座、そして玉座で眠る巨大なモンスターの姿だった。モンスターは全長5mクラスの半魚人、あるいは人魚(♂)のような見た目をしており、手にはサスマタのような形の槍を持っている。
(というか、あいつグラコスでは?)
DQ6に登場する大魔王デスタムーアの部下にして、ムドー、ジャミラス、デュランと並ぶ4人の魔王の1人。ダイの大冒険には登場しなかったはずだが……
(そういえばジャミラスは北の大地で黒の
ならこいつが居てもおかしくはない、のか?
だとするとムドーやデュランもこの世界のどこかにいるんだろうか?もしデスタムーアまでいたら完全にお手上げである。原作後の続編としてダイが新生竜騎衆とともにバーン、ヴェルザーに次ぐ第3勢力と戦う魔界編なんて話もあったが、バーン様どうにかしても大魔王おかわりとか勘弁してほしい。いや冗談抜きに。
まあ今すぐどうこうはならないはずなので、魔界編の話は一旦脇に置いておく。
それよりも今は目の前で寝こけているグラコスをどうするかだが……。
正直なところこのまま見なかったことにして帰ってしまいたい。というかそうした方が良いんじゃないかな?原作で出番がなかったってことは、案外地上の騒動に気づかずそのまま寝続けてた可能性もあるんだし。触らぬ神に祟りなし。仮に起こしたところでエスタークみたいに眠りを妨げたな!と襲われても困るからな。
どうか起きませんように、と祈りながら少しづつ扉を閉めていく。
巨大な扉の重さゆえか、開けたときと同じくギ、ギシッ、ギシッと軋んだような音が鳴る。
まだこちらに気づいた様子はない。
(頼むからそのまま寝てろよ……)
だがその祈りは届かず、あと少しで完全に閉まる、という所でギィッ!!と、ひときわ大きな音が鳴る。
マズい!と思うも時すでに遅く。目が覚めたグラコスとばっちり目が合ってしまった。
「……………………あ、どうもおはようございます」
「……………………ブクルルルー、なんだお前は?ここをこの海魔神グラコス様の居城と知って入ってきたのか?」
どうやらいきなり襲い掛かってはこない模様。
ならこのまま適当に話を合わせて、折を見てとんずらするべきか。
「ブクルルルー、おい貴様聞いてるのか、いったい何の用でここに来たのだ」
「あ、えーと、それはですね」
「おい、そんな遠くで話されてもよく聞こえんぞ。もっと近くに来て喋れ」
手招きをするグラコス。
ここで話を切り上げるのも不自然なので仕方なく部屋に入って事情を説明する。
「ブクルルルー、海を泳いでいたらこの神殿を見つけて、気になったから入ってきたァ?」
「ええ、まあそうなります」
「フン!つまり単なる興味本位で、わしに用があったわけではないということか!せっかく気持ちよく寝ていたのに下らぬことで起こしよって……」
あ、なんかまずい流れっぽい。
「じゃ、じゃあそういうことなのでそろそろお暇しようかな~、なんて」
「待て、勝手に入ってきて勝手に去っていくつもりか?その前に詫びの一つも入れていくのが筋というものだろう?」
ニヤリ、とグラコスが笑う。完全に獲物を見る目だ。
何があってもすぐ対応できるよう、さりげなく態勢を整える。
「詫び、と言われても……どうしろと?」
「今わしは数十年ぶりに起きて腹が減っているのだ。ここはひとつ、貴様をこのグラコス様の腹の足しにしてやろう!」
「チッ!?結局こうなるのかよ!」
槍で突いてきたのを後ろに跳んで回避しながら悪態をつく。
こうして、原作にない強敵との想定外のバトルが始まった。
◆
「げはげはげは!そらそら、どうした!逃げてばかりおらんでかかってこい!!」
「好き勝手言いやがって、くそったれ!」
連続して突き出される槍をかろうじて避ける。
かかってこいと言われても、もともとの体格差に加えてあちらは槍、こちらは素手という如何ともし難いリーチの差がある。次々と繰り出される槍をすべて回避しながら素手の間合いまで接近するなど早々できることではない。
相手はあの巨体なのだから動きは鈍いはず、と足でかく乱しようとしたがそれも失敗。よく考えれば体が大きいということは歩幅もでかいということ。こちらが2~3歩動く距離をあちらは1歩で詰めてくるのだから上手くいくはずがなかった。
間合いを詰めれないのなら遠距離から、と『
(どうする?どうにかして拳が届く距離まで近づく必要があるが、そのためにはヤツの槍をかいくぐらねばならん。あの手数の多さから見てすべて避けるのは不可能、かといって防ごうにも素手ではどうにも……)
と、そこまで考えてハタと気づく。そうだ、あれがあったか!
思いついたら即実行、足を止めて大きく息を吸い込む。
「げはげはげは!また
当然あちらも気づいて『氷の息』で相殺しようとしてくる。
だがそれこそがこちらの狙い。
「ブハアァァァーーーーーーッッ!!」
「ゲハアァァァーーーーーーッッ!!」
2種類の
その隙に、背中に背負っていた甲羅を下ろし盾のように構えて突進する。
修行用の甲羅がこんなところで役に立つとは。
「ヌゥッ!?」
霧の中から飛び出してきた俺に向かってとっさにグラコスが槍を突き出してくる。
「甘い!!」
だがその一撃を甲羅の丸みを利用して受け流す。
慌てて槍を引き戻そうとするがもう遅い。
「貰ったァ!!」
懐に飛び込み、勢いのままに拳を振るう。
倒せなくとも大ダメージは与えられると確信できる一撃。
「なっ!?」
だが返ってきたのは柔らかいゴムのような感触。
予想外の出来事に一瞬思考が止まった隙を突き、グラコスが力任せに拳を振るってくる。
かろうじて盾で受けるも、吹き飛ばされてまた間合いが開いてしまった。
「げはげはげは!残念だったなァ!」
「今のは……!?」
「ブクルルルー、わしの自慢の肉の鎧を前にしては貴様のちんけな打撃など無駄無駄無駄ァ!」
勝ち誇ったように高笑いするグラコス。
(くそったれ、なにが肉の鎧だ、ただの脂肪じゃねーか!どこのハート様だてめぇは!)
内心で罵詈雑言を吐くも、実際問題として状況は悪化している。
体への打撃が通じないのであれば、後は脂肪に覆われていない頭部あたりを狙うしかないが、そこはやつもわかっているのかさすがに警戒しているらしく隙が無い。
(打撃が駄目ならいっそ噛みつきでも試すか?幸いこの体には立派な牙もついているが、あの脂肪の塊にちゃんと牙が刺さるかは賭けだな……)
これならいっそ、ぶよぶよの脂肪よりカチカチの筋肉相手の方がマシだった……ん?
そうか、柔らかいのが駄目ならカチカチに凍らせてやればいいのか。まさかここで原作ボラホーンの必勝戦法が活きてくるとは。
こちらの『
だがそれでもまだ1つ問題が残っている。
遠距離から撃っても今まで通り相殺されるだけなので、迎撃不可能な距離まで近づかなければならないのだが、先ほどと同じ手はもう使えまい。
相手の間合いの外から隙を作る必要がある。なお
(甲羅の盾を投げつける……いや、駄目だな防御手段を手放すのはマズい。どっかに槍よりもリーチがある武器とか都合よく転がってないものか)
振り回される槍を防いだり避けたりしつつサッとあたりを見渡す。
当然そんな都合のいいものは転がっておらず、視界に映るのは玉座と柱だけ……柱?
(あったよ!柱が!!)
思わず、でかした!と叫びそうになりながら近くの柱に大地斬もどき(拳)をぶち込む。
「貴様、何を!?」
「オラァッッ!!!!」
グラコスの驚愕した声が聞こえる。
無視してへし折った柱を抱えると、これが天下無双の力じゃー!と言わんばかりに振り回してヤツの頭部に叩きつける。
さすがに予想外だったのか直撃を食らって意識が飛んでる様子のグラコス。
もちろんその隙を逃す理由などない。
即座に懐に潜り込み、『
「グワァァーーーーーーッッ!!??」
痛みで激しく暴れるグラコスから一旦距離をとる。
だがこれで均衡は破れた。
このまま油断せず「もう許さんぞ貴様ァ!ここからは全力で戦ってやろう!!」え?
グラコスが槍を掲げる。
マズい!あの槍の効果は……!
「纏え、堅鎧!」
その言葉に応えて槍が光り、グラコスの体をその光で包み込む。間違いなく
グラコスの槍はクロコダインの真空の斧と同じく魔法を封じてある希少な武器だが、ただでさえ攻撃が通じにくいこの状況で
こうなると、凍らせたところで打撃が通じるのか。そもそも凍らせることが出来るのか。
表情に出さないようにしているが、どうしても焦りから顔が歪んでしまう。
「ブクルルルー、どうしたその顔は?絶望したか?だが今更後悔しても遅いわ!」
「はっ、ぬかせ!」
そうして再び膠着状態が訪れる。
予想通り(当たってほしくはなかったが)こちらの攻撃は効かず。
かといって相手の攻撃もこちらには届かない状況。
だがその均衡も長くは続かない。
幾度となくヤツの攻撃を防いできた甲羅の盾はすでに限界が近づいている。
盾が砕ければもはや間合いに入ることもできなくなり、すなわち詰みである。
(盾で防げそうなのはあと1回、次がラストチャンスってわけか……)
狙うのは頭部。
だがたとえ頭部を狙おうと攻撃力が足らないのはこれまでの攻防でよくわかっている。
つまりこれは単なる悪あがきに過ぎない。
ヤツもこちらの攻撃を恐れる必要はないと理解しているのか、先ほどから碌に防ごうともしていない。
攻撃が効かないとわかっているのに無理に攻めてこないのは、警戒しているのではなく単に少しでも長くこちらをいたぶろうとしているだけである。
(こんなとき、闘気さえ使えれば……)
いや、ないものねだりをしてもしょうがない。
かぶりを振って弱気な考えを振り払う。
どうせ後はないんだ、この一撃にすべてを込めてやつのニヤケ面をぶん殴る!!
「オラアアァアアァァァーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!」
「げはげはげは!なんだ、わざわざ自分から食べられに来たのか!!」
勝利を確信した顔で槍を振るうグラコス。
盾が砕けるが構わない、ここまで持っただけで十分だ。
ヤツの顔面目掛け跳躍し、拳を振りかぶる。
時間の流れが引き延ばされる。
動きがスローに見える。
体が熱い。
振りかぶった拳に違和感。
ヤツの顔がニヤケ面から一転、驚愕に染まるのが見える。
疑問に感じるもそのまま拳を振りぬく。
「グワアアァアァァァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!?!??!?」
「えっ」
さっきまで効かなかったのになぜか吹き飛ぶグラコス。
顔面は完全に陥没しており生きてはいないだろう。
だがそれよりも目に映る光景が理解できない。
なぜか黒い鉱物のような何かに覆われている振りぬいた拳。
というか体半分ぐらい覆われてない?え、なにコレ怖い。
攻撃が通じたのって多分これのおかげなんだろうけど、なんなのかわからないのがすごく怖い。
これまさか闘気じゃないよね??闘気が物質化するとか聞いたことないんだけど……
混乱しているうちにスゥーと空気に溶けるようにして謎の鉱物は消えていった。
マジで何だったんだ。
「しかし、疲れたなぁ…………」
緊張が解けたら、ドッと疲れが押し寄せてきた。
そのまま倒れ込んで体を休める。
謎の現象のおかげでかろうじて勝てたとはいえ、薄氷を踏むような勝利だった。
最初から
最後に謎の鉱物が発生していなければ
勝敗は逆になっていただろう。
いや、そもそも数十年ぶりに起きて体が鈍っていた上、その間食事もしておらず本調子ではなかったのにあの強さだ。今回勝てたのは運がよかったとしか言えない。
「魔王の名は伊達じゃない、か……ハドラー超えが目標だったがまだまだ遠そうだ」
それはそうと疲労感がやばい。
そろそろ意識飛びそう。
おや、すみ…………。
◆
さて、その後の話であるが。
グラコスの死体はさすがに食べる気にならなかったので燃やし、槍は戦利品としてもらっておいた。もうグラコスの物ではなくなったので、海魔神の槍とでも名前を変えるべきだろうか?
また、グラコスから海のモンスターの支配権を継承したのが感覚的に理解できた。原作ボラホーンも海の王者を名乗っていたが、これで名実ともにそうなったと言える。
海底神殿のほかの部屋も調べてみたが、めぼしいものは特に無かった。まあ槍が手に入っただけでも良しとしよう。実際ダイの大冒険世界において魔法の武器はかなりの貴重品だし。
砕けた甲羅もすぐに代わりを用意した。普段は修行に使えていざという時は盾にもなる便利アイテムである。今後も重宝するだろう。
想定外の戦いではあったが得るものは多かった。
だがすべてが順調だったわけではない。
結局あの謎の鉱物に関しては何もわからなかった。もう一度出そうとしてもうんともすんとも言わない。あの力が自在に使いこなせるようになれば目標に大きく近づくのだが……。
グラコス以外の魔王がいるのかどうかも不明のままだ。かといって魔界に行く方法なんて知らないし、調査は不可能だろう。
まあこの辺は仕方ない。
どうせ考えたってわからないものはわからないんだ。
なら何が起きても対処できるよう鍛えている方がよほど建設的というもの。
やることは変わらない。
まずはこの槍を使いこなす修行から始めよう。
さぁ……
Q.槍使うとかラーハルトとキャラ被らない?
A.鏡見ろ
はい、この後どういう流れにするか思いつかなかったので打ち切りエンドになりました。
もったいないので書いた分だけは投稿することに。
長編書いたりとか毎日投稿してる作者の皆様方は凄いなと改めて思った。