椎名静馬のIS学園生活   作:榎本くん

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二話同時投稿



第十五話

「あら、随分と遅かったのですわね。私はスコーンでよくってよ」

 

「待ちくたびれたんだけど。あ、私はアイスね」

 

「おー、悪い悪い……っておいお前ら何して……いやちょっと待て、どこから入ったんだよ」

 

 俺が売店から部屋に戻ると、そこにいたのは凰鈴音とセシリア・オルコットの二人だった。自室のようにくつろぐどころか、俺に食い物まで要求してきやがる。お前ら居直り強盗か何かか。

 

「どこって、入口からに決まってるじゃない。窓から入るだなんて、そんな非常識なことしないわよ。ねえセシリア?」

 

「そうですわよ。そんな淑女あるまじき非常識な行為、するはずがありませんわ」

 

「勝手に人の部屋入ってる時点で十分非常識だよ」

 

「そんなことより静馬さん、早くお茶を淹れて貰えませんこと? 私喉が渇いて。あとスコーン早くして下さいませんか」

 

「そうだった、そんなことどーでもいいから私にも早くアイス寄越しなさいよ。溶けちゃうでしょ」

 

「お前ら今そんなことって言った?」

 

 俺の言葉を無視して二人は俺の両手から袋を奪い取ると、中身を物色し始めた。もうお前らが常識語るとかちゃんちゃらおかしいわ。

 

「あんたまた随分と買ってきたのね。はいセシリア、スコーン」

 

「ではこちらのアイスと交換ですわね……って鈴さんっ、スコーンはスコーンでもこれはスナック菓子じゃありませんこと!?」

 

「セシリアこそこれアイスはアイスでもただのロックアイスじゃない!?」

 

「「やってくれる……!」」

 

 なにこれ部屋の主が完全蚊帳の外なんだけど。もう面倒だから寝てもいいかな、いいよな。

 俺はケンカを始めた二人を余所にベッドに潜り込むと、一人夢の世界へと旅立つのだった。

 

 

「私達が悪かったから、せめてベッドの中から出るぐらいしなさいよ」

 

 ようやく寝入ったところを叩き起こされ、一番に聞かされた言葉がこれだった。

 正直めんどくさいから放っておいて欲しい、というのが俺の偽らざる気持ちなのだが、なにせこいつら未だ俺の部屋から出て行く気配がないのだ。

 

 しかも寝ている間にどれだけ食べたのか、俺が買ってきた物が空になってテーブルの上に散らばっていた。少し買い過ぎたか、と思ったぐらいの分量だったんだけど、それをものの見事にすっからかんだ。

 食べ過ぎじゃないか、さすがに。

 

 鈴の言葉で俺は仕方なしにベッドから出て、いつもの定位置へと腰を下ろした。ちなみに場所は壁際。だって寄り掛かれるし。

 

「んで?」

 

 セシリア、鈴と睥睨するように半目のまま視線を送り、一言そう告げる。

 

「んでって静馬さん、もう少し愛想良くしても宜しいのではなくって?」

 

「セシリアお前、これ以上俺に何を求めるんだよ」

 

 人の部屋に勝手に入るばかりか、買ってきたばかりのお菓子全部食べられて寝てるところを無理やり起こされてるんだぞ。むしろ怒られなかっただけでもありがたいと思いなよ。

 

「……冷静に聞くと最低なことしてるわよね、私達」

 

「だろ。明日から聖人君子かガンジーって呼ばれてもおかしくないぐらいだぞ、俺は」

 

「さすがにそのあだ名はどうかと思いますわよ……?」

 

 まあ確かに。やっぱり今まで通りでお願いします。

 

「ってそんなことはどうでもいいんだよ、何で二人揃って俺の部屋に居るのかが聞きたいんだよ。悪いけど菓子ならさっきラウラにあげちゃったから、もうないぞ」

 

「何それずるい!」

 

「静馬さんはいつもラウラさんばかり贔屓して!」

 

「そりゃラウラは俺にとって妹みたいなものだからな。何より可愛げがある」

 

 簪も妹みたいなのだが、年下扱いすると怒られるのでしない。けど最近たまにお兄ちゃんとか呼ばれる不思議。同い年なのにな。もうどうしたいのかよくわからない。とりあえず楯無先輩のせいにしておこう。おおよそ間違ってないはず。

 

「わっ、私には可愛げがないって言うのですか!?」

 

「可愛いけど可愛げはないな」

 

「可愛いだなんてまた正直に。……ハッ! 静馬さん、確かに静馬さんは私にとって大切な方ですが、あくまでもそれは友人としてですので、あなたの気持ちに答えられませんわ。ごめんなさい」

 

「うるせえ、何が『ハッ』だ!」

 

 っていうか何で告白してもいないのにフラれなきゃならんのだ。止めろよリアルに傷つくから。

 

「何地味に傷ついてるのよ」

 

「……一夏の友達やってるとなあ、色々あるんだよ」

 

 女子に呼び出されたから告白だと思ったら「一夏君にこれ渡しておいて」ってラブレター渡されたり、ずっとこっち見てるから何か用かと話しかけたら一夏に見惚れてただけで、挙句俺が勘違いしたと思われてセシリアと同じこと言われるし。

 

 幼かった俺の男心はボロッボロにやられたわ。あ、思い出したら目が滲んできた。

 

「……なんかごめん」

 

「……ああ」

 

 

「実はお話があって来ましたの」

 

 今日何度目になるか、セシリアの言ったこの台詞。思わず顔を顰めてしまうのも、仕方がないだろう。

 

 しかし正面に座る二人はそうは思わなかったようで、どうした、とばかりに首を傾げていた。俺はそれに何でもないと答え、首を横に振った。嫌な予感しかしないことを散らせるように。

 

「二人ともか?」

 

「私はただの付添い」

 

 今更ではあるが、珍しく一緒にいると思えばそういうことか。犬猿の仲とも思える二人だが、何だかんだで仲がいいよな。好敵手と書いてライバルというヤツか。

 

「セシリアがどぉーしても付いてきて欲しいっていうから、仕方なく一緒に来てあげたのよ」

 

「そんなこと言ってませんわ!」

 

「わかったからそんな耳元で大声ださないでよ」

 

「鈴さんが出させたんでしょう!」

 

「……いいからさっさと始めてくれよ」

 

 このまま放っておいてもいいんだが、そしたらまたさっきと同じことの繰り返しにしかならないのが目に見えている。

 ため息を一つ溢しながら、早いとこ話すように促した。

 

「それでは、ご要望にお応えして」

 

 その言葉に次いで、丸めた手を口元に宛がい咳払い。演技染みた流れではあるが、絵になってしまうのはセシリアだからか。美人って何しても見て映えるからズルいよな。

 

 セシリアが妙な溜めを作っている間、俺が頭の中でぼんやりそんなことを考えていた。いいからさっさと話して欲しいところなのだが、やはりその演技染みた演出に酔っているのか、中々話し出そうとしない。

 

 いや、これは演出というより、そうしている自分に酔ってるのかもな。こいつナルシストだから。隣に座る鈴は、明らかにイライラしているみたいだ。こいつせっかちだからな。

 

 そうしてたっぷり一分間、そろそろ鈴が叫びだすんじゃないかという頃になって、そこでようやくセシリアは再び口を開いた。

 

「私、実は静馬さんと姉弟でしたのよ!」

 

 その声だけが、部屋に響いた。

 

 

「あんた何言ってるの……?」

 

 僅かばかりの沈黙の後、一番早く声を上げたのは鈴だった。立ち上がり、笑みは引き攣り、声が震えている。

 徐々に目が細まり、ゆっくりと頭に血が上ってるだろう様子が、目に見えてわかる。

 俺が何かを言うよりも早かったのが、それを表している。

 

「ど、どうしたんですの鈴さん、そんな怖い顔して」

 

「どうもこうもないわよ。あんた、静馬にそんなこと言うのがどういうことか、わかってんの?」

 

 徐々にヒートアップしていく鈴の様子に、周章するセシリア。どういうことかわかっていないのだろう、狼狽し助けを求める視線が俺に向けられている。

 

 しかしながら残念。正直俺も訳がわからない。

 けれど鈴はそんな俺の内心をわかるはずもなく、喋り続ける。

 

「いい、セシリア。今セシリアが言ったのは、亡くなった静馬の両親を侮辱してるのよ」

 

「……え?」

 

 セシリアの表情を表すなら、呆然、という言葉がピッタリだろう。けどそれもそうか、と思う。

 

 俺の両親――と言っても父親は見たことないが――が既に死んでいることは、この学園に来てから話したことがないからだ。

 

 鈴だけでなく一夏や箒、千冬さんに束さんといった昔馴染みの人たちは必然と知っているが、この学園に来てから出会った人たちはそのことを知らない。ちなみに更識姉妹に布仏姉妹は別事情から知っている。

 

 そのことを鑑みればセシリアが冗談とはいえ、あんなことを言ってしまうのも仕方がないのかもしれない。 

 

 本来ならば止めに入らないといけないんだろうが、鈴が今までに見たことない様子で淡々と怒りを見せていて止めるに止められない。いつもみたく暴れられるより怖いかもしれん。

 

 俺のために怒ってくれているのはわかるんだが、別に姉弟とか言われるぐらいじゃ別に怒らないって。親無しとか言われればさすがに怒るけど、セシリアのそれはどう考えても冗談か何かってこともわかる。

 何を考えて言ったのかはよくわからんけど。

 

「静馬のおば……お母さんにはね、私も色々お世話になったのよ。私だけじゃないわ。一夏はもちろん、千冬さんだってあの人のお世話になってるんだから」

 

「あ、あ……ちがっ……私そんなつもりじゃ……!」

 

「前もって聞いておかなかった私も悪かったわね。……ごめん静馬」

 

 そう言って鈴は頭を下げると、今にも泣きそうな顔をしたセシリアの腕を掴み強引に引っ張って行ってしまった。

 セシリア何かを言いたそうに何度もこちらを振り返っていたが、終ぞ何も言うことなく出て行ってしまった。

 

 残された俺は、終始置いて行かれたやり取りに、一人何とも言えないもやもやを抱えたままどドアの方を見続けていた。

 

 

 結局あいつらが何しに来たのかはわかたなかった。

 

 

 一応後日談ではあるが。

 

 セシリアはこっちがドン引くぐらいの勢いで謝りにきた。まさか生涯初のジャンピング土下座がイギリス名門貴族のお嬢様で、更にIS代表候補生にされることになるとは思いもしなかった。

 

 セシリア曰く「日本ではこれが最上級の謝罪なのでしょう?」とのことだ。聞けばやっぱり楯無先輩が悪の根源らしかった。

 

 もうそろそろ呼び捨てでいいんじゃないかと思う。なあおい楯無、てめーのことだよ。

 

 あ、うそですすいません。だからどうかPCフォルダのことだけは――。

 




セッシーごめん。


誰がいいか考えた時、一番ちょうどよかったのがセシリアなんだよ。ラウラとシャルは入学前に静馬の情報得てそうだし。

あと鈴のことマジで『りんいん』じゃなくて『いんりん』だと思ってた。鈴ちゃんマジエロテロリスト。
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