椎名静馬のIS学園生活   作:榎本くん

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もう一度言おう。
榎本的にたっちゃんちーちゃんたっちゃんは好き。
ちーちゃん。



第十七話

「またくだらんことばかりしているな、お前らは」

 

 時刻は十時三十分、寮の消灯時間までもう少しだ。このぐらいの時間になると、他の生徒に倣って俺も自室で就寝の準備を始めるのだが、今日に限ってそうすることはなかった。

 

 というのも、千冬さんに呼び出されたからだ。元々は大した話じゃなかったのだが、別の話が長引いて気が付いたら晩酌に付き合っていた。

そして話のネタにと今日の出来事を聞かせたところ、返ってきた言葉がこれであった。

 その千冬さんはというと、ほとほと呆れた様子だ。眉間に強く寄った皺と、大きな溜息がそれをより顕著に表している。

 右手に持ったビールのロング缶を大きく呷り、寸前の溜息よりも大きく息を吐き出した。うん、酒くせぇ。

 

 バッサリと言い切った一言に、俺はついつい苦笑を浮かべてしまう。

なんだかんだで慌ただしかった今日も、この人にしてみれば「くだらん」の一言なのだ。まあこれで手を叩いて「オモロー!」なんて言われた日には、正気どころか正体を疑う。どう考えても偽物。

 

「ちょっとしたおふざけみたいなもんですよ」

 

 ははは、と小さく笑いながら答えるのだが、千冬さんはしかし表情を変えず、それどころかこちらを睨み始めた。防御力を下げるどころか、そのまま眼力に撃たれて穴が開きそうだ。目から怪光線!

 

「そうやってお前が甘い態度をとるのも原因の一つだろうが。相手が更識だろうが、舐められないようにしっかりしろ」

 

「無茶を言わないで下さいよ。一夏ならともかく、楯無さん相手に」

 

「無茶じゃない、私がやれといったらやれ。更識の一人や二人ぐらい伸してみせろ」

 

 言って「ふん」と鼻をならし、やおらにつまみのナッツ掴んで口へと放り込む。とすぐさまビール缶を一気に飲み干した。ぶはぁ、と吐き出る息。

 拍子、黒い下着に包まれた大きな胸が小さく揺れた。

 

 ……しかし誰もが憧れるあの織斑千冬が、眼前で惜しげもなく下着姿を晒しているというのにこの残念な気持ちはなんだろう。見ろよ、これが天下のブリュンヒルデなんだぜ……まるでおっさんみたいだろ。

 なんて考えた二秒後には俺の脳天にナッツが飛んできた。頭弾け飛ぶかと思ったわ。

 

「そんな乱暴な。第一更識の一人や二人って、そしたら簪も入っちゃうじゃないですか」

 

「簪……ああ、更識妹の方か。あいつも更識だ、肉弾戦くらいどうってことなかろう」

 

「楯無さんや千冬さんと違って、簪はお淑やかなのでそんなこと出来ませんよ」

 

「更識姉はともかく、そこでいちいち私の名を上げるな」

 

 やや不満そうな口ぶりで言うあたり、少なからず気にしているということか。

 

「聞きますけど、千冬さんは自分のことお淑やかだと思ってるんですか?」

 

「どう見てもお淑やかだろう?」

 

「下着姿で生徒と酒飲む人がお淑やかなら、束さんすらお淑やかで通りますよ」

 

「おい静馬、服を持って来い。今すぐにだ」

 

 

「束さんで思い出しましたけど、今日電話がありましたよ」

 

 下着姿を意識しないよう缶を傾けながら、俺は千冬さんにそう話しかけた。

 結局「やっぱり面倒だ」と言って服を着ようとしないから、俺が視線を避けるしかないのだ。このずぼらめ……。

 

 前もそうだったけど、俺の事気にしなさ過ぎだろ。注意する意味で「襲いますよ」なんて脅しにかけたのだが「やってもいいが、この部屋から生きて出られると思うなよ」という言葉が帰って来た。土下座して謝った。入ったら死あるのみ、ここはモンスターハウスか。

 

「……そうか」

 

 いくばくか表情を歪ませ、ただ一言、そう呟いた。まあ今の関係を鑑みれば、そんな顔をしたくのはわかる。

 

 もうあの人の行動は文字通り天災だと思って、深く考えない方が精神的安寧のためにいいと思うんだ。台風なんかの自然災害みたいなもの。けど大人はそういう訳にもいかないんだろうな。

 

「ええ。まあ大した内容じゃなかったですけどね」

 

 それどころか人として最低な内容でしたけどね。束さんとの会話の内容を掻い摘んではなすと、千冬さんは一周してもはや笑みさえ浮かべていた。これが般若か。世界一こわいよ!

 

「あの馬鹿は。静馬。次会う時は覚悟しろ、と伝えておけ」

 

「はい。間違いなく伝えておきます、はい。すいません」

 

 はい今死んだ、今束さんの命死んだよ。

 

 

「しかし束がお前とそんなに仲が良いとはな。確かにあいつの中では身内の一人に数えられてはいたが、昔はそこまで言う程でもなかっただろう」

 

 ふむ、と漏らしながら考え込む。あれを仲が良いの一言で済ませていいのかは考えたくない俺は、千冬さんに返答せず缶の中身をゆっくりと飲んで誤魔化した。黒い恵比須様おいしいです。

 

 ところがどっこい、織斑千冬は騙せない。俺の心境を的確に読み取って、責め立てるような視線を俺へと向けて来た。防御力がぐんと下がった。

 

「静馬、お前何か隠しているだろう」

 

「なにも隠してませんよ」

 

「嘘を言うな。あと人の胸ばかり見るな」

 

「見てません、それは言いがかりです!」

 

「それは、ということはやはり嘘をついていたんだな。私を謀ろうなんて五億年早いんだ、ほらさっさと言え」

 

 ぐぬぬ。酔っ払いのくせに、知恵が回る。千冬さんなんて刀持って酒でも飲んでればいいのに。……ただの危ない人だな。

 酒の肴にされるのは癪だが、ここまできたら観念しなきゃならないだろう。俺はわざとらしく大きく溜息をついて、床に向いていた視線を上へと戻した。

 

 千冬さんの顔からは、俺で楽しもうというのは見てすぐ窺える。決めた、悔しいから代わりに一夏を殴って気を晴らそう。

 

「千冬さんが俺を束さんに会わせたのって、俺がまだ小学生の時じゃないですか」

 

「そうだな。……だが、正直後悔している」

 

「今更なんで気にしないで下さい、何だかんだで今楽しいですから。ここに来たおかげで出来た友達もいますからね」

 

「……そうか。ならばそれはそうとして、続きを話せ」

 

 ちっ。このままイイハナシダナー、で終われば良かったものを。

 

「俺が小学生の時、千冬さんたちって高校生でしたよね」

 

「ああ。あの頃は私も若かったな」

 

「はいはい、今も若いですよ。それで小学生ぐらいの時って、年上の人がやたらと大人に見えるじゃないですか」

 

 俺の話に、千冬さんは首肯で相槌を打った。喋るのが面倒になったに違いない。目が完全に俺じゃなくて、ビールとつまみにいっている。話すの止めんぞ。

 

「その現象が、束さんを初めて見た時に起きてしまってですね」

 

 俺がそう言った瞬間、ビールに伸ばしかけていた手が、ぴたりと止まった。視線ゆっくりとこっちに向いて来た。

 

「まあ一目惚れしちゃった訳ですよ」

 

 最後に言ったその一言に、千冬さんは今日最大に眉を顰めた。顰め過ぎて顔がゴリラみたいになってますけど。

 

「で、束さんがいなくなる直前に玉砕覚悟で告白したら、予想に反して大喜びされてしまいまして」

 

「あいつは昔から気に入った相手にはあけすけに気持ちを言うが、言われることは少なかったからな。それが嬉しかったんだろう。元より『身内』に数える人間が少ないから、尚更だ」

 

 またしても溜息と一緒に語る千冬さんの声には、憐憫のようなものが含まれている気がした。

 確かにあの性格に境遇だ、告白なんて受けたことはないだろうし、あっても無視しただろうことは考えるまでもなくわかる。

 

 告白した頃には俺も『身内』として見られていたが、初めて会った時は完全無視扱いだった。千冬さんの紹介がなきゃ、ずっとそのままだったろう。

 

「その後はもう大参事ですよね」

 

「わかった、もういい」

 

 手で払うような仕草を見せながら、そう言い捨てた。反対の手は額に宛がわれ、精神的疲労が一気に溜まったのがだろうことがよくわかる。なんだよ、自分から聞き出したくせに。

 

「お前と束を引き合わせたことを間違いとまでは言わないが、せめて私が一緒にいるようにしなかったのが失敗だった」

 

「そうですね。ヘタレ少年だったんで、千冬さんがいれば告白なんかしなかったでしょうね」

 

「……お前は私を追い込んで楽しいか」

 

「正直ちょっと楽しいです。こういう時しか仕返しできませんから」

 

 思わずにやにやと顔が歪んでしまう。弱気な千冬さんなんて、滅多にないからな。なんて思ったものの、さすがブリュンヒルデと呼ばれた女性だ。次の瞬間には目を光らせ、狙われる側から狙う側へとなっていた。

 目を細め、口角を上げる千冬さんの顔が目に入る。

 

「そうか。ならば私もそれに倣おうじゃないか。授業中覚えていろよ、静馬」

 

「ちょっ、それズルくないですか!?」

 

「安心しろ、ただ実習で的になるだけだ。ああ、後は座学で教科書一冊読ませるのもいいな」

 

「いやいやいや、全くもって安心できる内容じゃないでしょ。的ってあいつらの手加減のなさ知ってますよね。特に鈴と一夏、あいつらバカだから躊躇しながらも二秒後には忘れてフルスイングしてきますよ」

 

 最初は躊躇いながらも、「授業だし織斑先生の言うことだから」とか言って剣向けてくるのが簡単に想像できる。

 

「わかった、凰と織斑にはそう伝えておく。剣を振り回すことしかできない馬鹿だとな」

 

「曲解もいいとこですよねえ!? 教科書だって一冊何ページあると思ってるんですか。授業丸一日使って何とか読み終わるぐらいですよあれ」

 

「一日で読み終わるのか、ならば問題ないだろう。明日山田先生と相談しておこう」

 

「あるでしょ、あるでしょう! 山田せんせー、山田せんせーっ、助けて最後の良心!」

 

「やかましい奴だ。お前は黙って酒でも飲んでろ、ほら」

 

「全裸で生徒に酒勧めてくるとかもう教師あるまじきですよね――って、何この人、いつの間に全部脱いでんの!?」

 

 

 その後、消灯時間過ぎても部屋に戻らない俺を捜しに来た一夏にこの場を見られたのは、もうわかりきっていたことだ。

 

 




蛇足。
「ほら天丼とかしてないでいいから、早いとこ助けろおい、お前の姉だろ。こんなビールばっかりガブガブ飲ませやがって、次から麦でもしゃぶらせとけ。それが嫌ならパン食わせとけパン。同じ麦だから。しかも思春期男子の前で全裸とか、女性以前に人としてどうなんだよ、これ俺じゃなきゃ終わってるぞ。どっちがって? そりゃ襲った側が死んで終了に決まってるだろ! おれ部屋片付けるから、一夏はさっさと千冬さんを……なに、俺は見なかったことにするから、千冬さんを頼むって? 次そんなこと言ったら、明日の朝一夏お前を全裸にして教室に投げ込むからな。……よし、わかればいい。ほら、片付けるぞ」


とりあえず酔うと脱ぐちーちゃん。んあー。

あと静馬が束さんに告白したのも過去のことだから。小学生の時のことだから。思い出すだけで身悶える過去のことだから。月光蝶働いて。
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