二話に切ろうと思ったけど、長い方がお得かなと思い直し止めました。ほら、大は小を兼ねるって言うし。
あとやおい話。
第十九話:静馬とやおい話
「静馬って結構モテるよな」
話は幼馴染であるこいつ、織斑一夏のこの軽い一言から始まった。
どう考えてもケンカ売っているようにしか思えないこの一言。長年一夏と一緒にいるが、その中でも文句なしでイラつきワードナンバーワンに輝く一言だ。
「よし、一夏、ケンカだ。屋上行こうぜ!」
「いやいやいや、何でだよ!?」
立ち上がって言った俺から、隣に座っていた一夏は距離を取ろうと慌てた様子で後ろにいざる。近寄ったら腰を浮かしたまま両手足で逃げるので、仕方ないからその場で話すことにした。
「何でって、一夏がケンカ売ってきたんだろ?」
「……今のどこにケンカする要素があったんだ?」
はて、と首を捻り数秒考え込むが、答えが出なかったのか周りに座する皆に視線を向け尋ねた、が。
「今のは一夏が悪いな」
「ええ、一夏さんが悪いですわね」
「どう考えても一夏が悪い」
「ボクも一夏が悪いと思う」
「さすがの私も嫁が悪いと思ったぞ」
「ひでえ、みんなもかよ!?」
ところがどっこい、返ってきたのは一夏を否定する言葉だった。一夏は驚きの表情を浮かべているが、俺としては予想通りである。自覚がないイケメンってホントやっかいだよな。
ちなみに上から箒セシリア鈴シャルロットラウラの順だ。一夏ラヴァーズ全員集合!
……はいいんだが、なにぶん二人部屋に七人もいるので狭い。おかげで俺の居場所は定位置からベッドの上へと追いやられている。
つまりさっきの一夏とのやり取りは、ベッドの上で行われていたことになるのだ。隣にいた一夏を追い詰める俺。客観的に見たら、どうやっても俺が一夏に迫っているようにしか見えない。鳥肌が立った。誰か場所変わって、早く。
そもそも男二人がベッドの上っていうのがおかしい。一夏はピッタリくっ付いてくるし。違うからみんな、そんな今にも殺しにかかりそうな目で見るな。
「まあいい、百歩譲って今のは勘弁してやる。その代わり今月の昼飯は一夏の奢りだからな」
「ああ、わかったよ……っておい、今月ってまだ始まったばっかじゃんか!」
「つまり許す気はないってことですわね……」
何言ってんだセシリア、精神的ダメージで、直接的な痛みがなくなったんだぞ、いいじゃないか。俺はどっちも嫌だけど。
「けど静馬、あんたが結構モテてるって意見には私も同意だわ」
「女子の男子に対して言う『モテる』程、アテにならないものはないけどな」
同様に女子の『かわいい』ほどアテにならないものはない。一時期流行ったきもかわいい、のジャンルを見ればそれがわかるだろう。なんだったんだあれは。キモいと可愛いは同列しちゃいけないと思う。
「そんなことないよ。現にクラスの女の子たちも、静馬のこといいって言ってるし」
「シャルロットがそう言うなら信じよう」
「それってボクが男の子みたいだからじゃないよね?」
「……シャルロットがそう言うなら信じよう」
「ねえ否定してよ!」
なんてシャルロットは言うが、俺は知っているんだからな。以前していた男装がちょっと楽しくなってきていること。しかもその恰好で学園外に出て、「かっこいい」って言われるのが快感になってきていることも。
そして俺は覚えているからな。一夏にゲイ疑惑が浮上した時、シャルロットが「そういう格好するから」と言っていたこと。
……今度それとなく教えておくか、日本には宝塚って所があることを。ISに飽きたらそこ行くといいよ。
あと今だから言うけど、編入時にしてた男装、あれバレバレだったからな。なんでみんな気付いてなかったのかは不思議でしかたなかったが。
後で聞いた話だと、どうやら千冬さんも気づいていたんだとか。クラスのみんなが異様に盛り上がっていたから何も言わなかったそうだけど、「どうみても女なのに気付かないあいつらに、もはや恐怖すら感じた」と話していた。
千冬さんすら慄く人たちとクラスメイトの俺はどうしたらいいですか。
「まあシャルロットが男っぽいのはいいとしてさ」
「ボク初めて一夏に殺意を覚えたよ」
「……し、静馬が人気なのはみんなもそう思うだろ?」
冷や汗を流しながらも一夏がそう問いかければ、みんな首肯で答えを返していた。
俺としてそれは大変不本意なんだが、何よりなぜかどやあ、と自信満々な表情をしている一夏がむかつく。
今度一夏名義で、クラス全員の机の中にラブレター仕込んでやろうか。バトルロワイヤルが始まるぞ。
「クラス違うから知らないでしょうけど、二組じゃアンタの事教えてってしょっちゅう聞かれるんだからね」
「あ、ボクもこの前の合同授業の時聞かれた。箒も聞かれてたよね?」
「ああ。幼馴染だから色々知ってるだろうと、新聞部の者に執拗に尋ねられたな」
「それに静馬さん、更識の方々ととても仲がよろしいですわよね」
鈴、シャルロット、箒、セシリアと順に話す。ラウラはついに会話を放棄して、ひたすらにお菓子を食べていた。片手で袋を抱え、もう片手でお菓子を口に一杯に頬張る姿は完全に子どもだ。和む。
「そりゃそうだ、俺はあの二人と親戚だからな」
俺のその答えに、「ええ!?」という驚きの声が三つ飛んだ。横文字三人娘からだ。
「おい、いいのか静馬?」
それに次ぐようにして、一夏が僅かながらに上ずった声を挟できた。
いいのか、とは少しばかり複雑な境遇で育ってきた俺の身の上話を、話しても大丈夫なのかという意味だ。
見れば、事情を知る箒と鈴も心配そうな顔をこちらに向けていた。そのことに、少し嬉しく感じる。
あと一夏、大丈夫だからその頬ずりできる程近づけた顔を今すぐ遠ざけろ。
「いいよ。他の奴らならともかく、こいつらに隠すつもりもないし」
「静馬がそう言うならいいけど」
「……えっと、あまり聞いてはいけないことでしたか?」
そう聞いてきたセシリアは、不安そうに眉を顰めていた。ついこの間変なこと言って鈴に怒られたばかりだからな、そんな表情になるのもわかる。
それを気にさせないよう笑顔をつくり、答える。
「いや、大丈夫。今言った通り、俺と更識姉妹は親戚なんだ。だから仲がいいのも当然だろ」
「苗字が違うってことは、静馬のお母さんが更識の人だったの?」
「ああ。もっとも、母さんも更識直系じゃあなかったけどな」
「しかし静馬。静馬は嫁たちと幼馴染と言っていたはずだが、それはどういうことだ?」
いつの間にやら手を止め、話に加わってきたラウラ。けど良くみたら食べる物がなくなっだけだった。とりあえず口の周り拭こうな、のりしおでべったりだから。
「静馬はもともと俺の家の近くに住んでたんだ」
ラウラの口の周りを拭いていた俺に代わり、一夏が話し始める。驚いてそっちを見れば、いいよなとばかりに頷いた。俺もそれに頷いて答えた。
「けど小学校五年生の時、静馬の母親が亡くなってさ。それで楯無さんの家が静馬を引き取ったんだよ」
「ちょっと待って一夏、静馬のお父さんは?」
「俺が小さい頃に死んでるよ」
ラウラの口を粗方拭き終え、再び俺が回答役に戻る。ちなみにラウラは拭き終えたがすぐ、またお菓子を食べ始めた。物は幸福が戻って来るアレ。
「あ……ご、ごめん、静馬」
「いや、いいよ。顔も思い出せないぐらいに小さい頃だからな」
どういう訳か遺影すら残っていないのだから、もはや二度と拝むことはできないだろう。楯無先輩に頼めば見つかるだろうが、そこまでする気もない。
母さん曰く「写真を撮られるのも見られるのも好きじゃなかった」ということらしい。極端すぎるだろ、せめて遺影ぐらい残せ。
「日本のプライマリースクールで五年目ということは、鈴さんともお会いしているのでは?」
「ええ、会ってるわね。と言ってもすぐにいなくなっちゃったけど」
しかし鈴はそこで言葉を止めず、「でも」と言って話し続けた。
「引っ越した後も頻繁に遊んでたから、あんまり離ればなれって感覚はないのよね」
「鈴が中国行くときも、普通に見送りに来てたしな」
「更識に居候させて貰ってたけど、特に制限とかなかったし。強いて言えば、暗武両道を義務付けられてたぐらいで」
おかげでこんなに逞しくなりました。更識家に男児がいなかったから、俺が来た途端みんなで寄ってたかってフルボッコですよ。男相手だから手加減ないし。
落ち着け、今の世は女性の方が強いんだ。
「だから静馬、やたらと強いんだね」
「昔ならともかく、ケンカしても今じゃ俺絶対敵わないもんな」
「ISでも格闘戦が強いなんて、反則よ」
その分射撃系は得意じゃないけどな。
それよりも誰か暗武両道ってところ拾えよ、何でそこはスルーしてるんだよ。更識でやらされた『対暗部』の特訓どれだけ辛かったと思ってんだ。誰か聞いてくれよ……。
「そういえば、相棒は教官とも仲が良いな」
ふと思いついたようにそう言ったのは、ラウラだった。せっかく話が違う方に向かってたのに、余計なことを言いやがって。ほら、これやるから黙っててくれ。最後までチョコたっぷりだもんな、すげぇよな。
「あ、それボクも思った」
「それは私も前々から感じてたけど、静馬は千冬さんとも幼馴染みたいなもんだから別にそこまで不自然じゃないんじゃない?」
「ですが鈴さん、それがとある情報筋によりますと、お二人は毎晩お会いしているらしいですわよ。それも、織斑先生の部屋で!」
「キャー!!」
興奮した様子で頬を紅潮させ、甲高い声を上げるシャルロット。うるせえな、女子か。女子だった。
うんざりしながらふと隣の一夏に視線をやると、うんうんと一人頷いていた。そのむかつくぐらい穏やかに微笑む表情は、まるで「俺は知ってるからな」とでも言うようだった。
とりあえずビンタ一発かましといた。
「勘違いしてるようだから言っておくが、それは単に連絡事項があるからそれを伝えに行っているだけで、思ってるようなことは何もないからな」
「しかしそう毎日連絡事項などあるものか?」
静観していた箒が、不意に声を挟む。頼むから余計な事言うのは止めれくれ。
はあ、と溜息を溢しながら、再びチラリと一夏に視線を向ければ、今度はニヤニヤとした顔つきでこちらを見ていた。とりあえずグーで殴っておいた。
「……まあ学級日誌みたいなもんだよ」
「学級日誌って何ですの?」
「その日の学校であった事を纏めた、日記みたいなものよ」
鈴の説明に、セシリアは興味深そうに頷いていた。イギリスの学校には学級日誌はなかったんだろうか。
「でもIS学園に学級日誌なんてないよね?」
「だからみたいなもんだって。あんまり詮索すると、千冬さんから聖剣で叩っ切られんぞ」
そう言っただけで、三人は揃って口を閉じた。あれで頭を叩かれた時の痛みときたら、ゼウスがアテナを生むんだ時よりも酷いもんだろう。
ちなみに叩かれるのは間違いなく俺。なぜだ。
実際毎晩何しに行っているかといえば、今言った通り学級日誌のようなものだ。但し、内容は一夏限定だが。
その日の一夏の行動を、細かく教えるよう厳命されているのだ。一度だけ面倒だから直接聞けば、と言ってみたが「そんなこと聞けるか」と僅かに頬を赤くしながら、照れ隠しに聖剣で脳天一撃ぶっ叩いてきた。俺の頭からも何かが生まれるのかと思った。
「じゃあ織斑先生が静馬にだけ名前で呼ぶのを許してるのって、それと何か関係があるの?」
小首を傾げるシャルロット。確かに皆が『織斑先生』と呼ぶ中、俺一人だけ『千冬さん』と呼んでいる。授業中はさすがに先生と呼んでいるが、他は基本的に『千冬さん』だ。
「あー……それは単に、負い目があるだけじゃないか」
「負い目、ですか?」
セシリアの問いに、頷く。
俺を束さんと会わせた、負い目。
「……ああ、静馬は姉さんからも好かれていたな」
「おい止めろ箒、止めろ」
その話はしちゃいけない。怖い話すると霊が寄って来るていうだろ、災厄兎の話すると束さんが寄って来るぞ。怖いぞ、束さんだぞ。
「箒のお姉さんっていうと、篠ノ之束博士だよね?」
「あの方に好かれるなんて……静馬さん、あなた何したんですの?」
驚きの表情をもってそう聞かれるが、俺は答えずに押し黙った。言えるはずがないだろう、初恋の人で告白までした、だなんて。
一応断っておくが、返事自体は貰ってないから恋人云々という風になった訳じゃない。
けれど、今ではそれで良かったと思ってる。あの人と恋人になろうなんて、昔の俺は何を考えていたんだ。
「この前も電話あったもんな……」
「……あれか」
一夏の言葉で箒は先日のことを思い出し、あきらかに苦い顔をしていた。あんな色んな意味でとんでもないこと言われれば、そんな顔にもなろう。何だ複座型のISって。
「その後静馬宛てにも電話があったんだよな」
「へえ。静馬と篠ノ之博士って、二人だとどんな話してるの?」
「私、気になりますわ」
興味方位というか、野次馬的というか。女子たちはグータンヌーボ的なコイバナを期待する表情になっていた。箒を除いて。
迫るように近寄られ、思わず後退さる。隣に座っていた一夏も、何か危機感を覚えたのか同様にしてベッドの端まで下がっていた。そのまま落ちてしまえ。
「……言ってもいいけど、世界がなくなる可能性があるぞ」
「何よそれ。何であんたが篠ノ之博士との電話の内容を話しただけで、世界がなくなるのよ」
電話の内容を話す→箒がドン引く→束さんと断交する→束さんが絶望し、IS暴走→世界滅亡。
これを伝えるとそんなまさかと笑っていたが、一夏と箒はあまりにありえそうな流れに顔を青ざめさせ冷や汗をかいていた。
そんな二人の様子を見て悟ったのか、それ以上食い下がってこなかった。
「でもほら、やっぱり静馬モテてるだろ?」
「とてつもなく偏ってるけどな」
世界最強に天人災々と暗躍誑人、どれも間違っても普通とは言い難い人達だ。
しかしこの人たちが結婚して家庭を築く、という図が全くもって想像つかない。これはあれだ、いっそ千冬さんと束さんが結婚して、子ども役に楯無さんが入れば万事解決するんじゃないか。
……だめだ、過剰戦力も甚だしいわ。楯無さんが偵察に出て、それを以て千冬さんが斬り込み、束さんは拠点を守る。何この最強の布陣。
「じゃああんたはどんな人ならいいのよ」
「そうだな……」
鈴に言われて考えてみるも、パッとは思いつかない。俺が好きになった人はと恋愛遍歴を辿るが、どうしようもないので却下。初恋からおかしなことになってる。
じゃあ最近は、と思いながら周りを見る。この場にいる女子たちみんな美人ではあるが、正直恋人にはしたくない。
何でかって、そら一夏のフルボッコ具合を見てればな……。一度顔腫らした状態で逃げて来た時は、さすがに酷いと思ったわ。まあセクハラかました一夏が悪かったんだけど。
と、その辺を鑑みるとだ。
「優しくて普通の子がいいなあ……」
美人とかじゃなくていいから、一緒にいて和める人。
「ああ、それわかる。なんか素朴な感じの子っていいよな」
「うるせえ、お前が好みとか語るんじゃねえ」
「酷くね!?」
一夏に好みとか語る権利はない。それが発端でまた面倒なことが始めるんだから。ほら見ろ、そこの五人がもぞもぞ動きだしちゃっただろうが。
「ねえ一夏、ボクどうかな。フランスの片田舎で過ごしてたことあるんだけど」
でも見た目素朴じゃなくて美少女もいいとこだろ。
「私なんて中国の辺境に行ったことあるわよ!」
行っただけかよ。
「わ、私は神社の跡取りだぞ!」
知ってる。はい次。
「わわわ、わたくしはどうしましょう」
貴族止めれば。
「この煎餅というのは素朴な味がするな」
そうだな、だからちょっと黙ってろ。
「なあ静馬、みんな何言ってるんだ?」
「知らん」
そんなことを話して終えた、とある休日。
後日談として。
一夏の好みが素朴な子というのが伝わったせいで、翌日から女子の自分田舎者アピールが始まった。
黒髪にしたりすっぴんにしたりするのはわかる。けど伝わらない程の訛り止めろ。意味不明すぎて一夏が混乱してるから。
みんな素朴を勘違いし過ぎ。
やまなし
おちなし
いみなし
以上、やおい話でした。
次はがんばります。