「と言う訳で、みんなで一夏に告白してみて貰いたい」
「ななななにを言っているんだお前は!」
俺の言葉に一番に反応してみせたのは、一夏が言うところのファースト幼馴染、篠ノ之箒であった。
正面に座る箒は頬どころか顔全体を朱くして、元々鋭かった目つきを抜き身の刀のように鋭利にし、それをこちらに刺し向けている。刺すような視線、とはこのことか。
それを皮切りに、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、ラウラ・ヴォーディッヒと声を荒げて反論してきた。右隣に位置する凰鈴音に限っては、無言で立ち上がり肩を回し始めた。止めろ、その部分展開された甲龍を元に戻せ。
「まあ聞いてくれって。つい昨日の話なんだけど、一夏が俺に『自分は鈍感なんじゃないか』っていう相談をしてきたんだ」
「えっ……あの一夏が!?」
唖然、と口を開けそう言ったのは、シャルロットだ。他のメンバーも見れば、同じく「信じられない」「またまたご冗談を」とばかりに驚きを通り越して呆気にとられた表情をしている。箒に限ってはそのきっかけに心当たりがあるため、少し複雑そうな表情だ。
「そう、あの一夏が。箒はもう気づいているみたいだけど、この前箒に言われてとうとう自覚し始めたみたいでな」
「へえ、箒も言うじゃない」
「ま、まあな。私も言う時は言うからな」
鈴音――鈴の言葉に、箒は「ふふん」と得意げに鼻を鳴らし答えるが、視線が明らかに泳いでいるのを俺は見逃さなかった。
もっとも口より先に手が出るタイプの箒だ、それを鑑みれば口撃から木刀による攻撃へのコンボであったのは容易に想像がつく。事実、俺の部屋に来た時の一夏は大層ボロボロだった。それにしてもよく生きてるな、あいつ。
「なるほど。飴ばかりではなく、稀に鞭を与えるのが効果的なのか。私も嫁に試してみよう」
ラウラは一人そっと呟いたつもりなのだろうが、隣に座る俺には丸聞こえだ。
ラウラよ、一夏の幼馴染としてお願いする。それだけは止めてやってくれ。箒も大概だが、ラウラの鞭では確実に一夏を殺し兼ねない。だから一刻も早くそのナイフを仕舞うんだ。
「つまり、今であれば告白の意を理解して貰えるかもしれない。そう言いたいのでしょう、静馬さんは?」
「その通り。セシリアが今言ったように、今がチャンスだ。いや、むしろこんなチャンス、今しかない」
セシリアに追従してみんなに声を振り撒けば、重々に面々、なるほど、と神妙に頷いて応えた。目がマジだ。
「一人でもやると言うのなら、俺はできる限り協力しよう」
「先に聞いておきたいんだけど、いいかな」
そう言って、シャルロットはまっすぐ俺の視線と目を合わせた。
「なんで静馬はそこまでボクたちに協力してくれるの?」
頷くより早く、言葉を継ぐ。真剣な目だ。周りにも目を向ければ、同様の視線が四つ。
「シャルロットたちのためって言うより、一夏のためだな。もちろんみんなを応援したいからっていうのもあるぞ。……実際問題、一夏はかなり危なげな立場にあると思う。初のIS男性操縦者というのはもちろん、千冬さん……ブリュンヒルデの弟であること。更には束さんと縁が深いっていうのも、関係者の間では有名な話だからな」
それと加えるなら、交友関係もだ。
皆が皆国の代表候補であり、貴族や社長令嬢、IS開発者の妹や軍の部隊長と、一般人からすれば一歩どころか、二歩三歩と気後れして後ろに下がってしまうような立場にいる人物だ。
どうやったらこんな人たちと密な関係を築けるのか不思議なところだが、IS学園という特殊な場所と、一夏という特殊な存在だからこそだろう。
「一見この二人が後ろに付いていることで安全だと思うけど、寧ろこの二人が身近な存在だからこそ危険だと思うんだ。なぜならそれだけ一夏がISを動かせる『何か』を持っている、という証左に他ならないからな。嫌な言い方になるけど、そんな時一夏を守ってくれる存在が欲しいんだよ。俺や千冬さんはもちろん、一緒に一夏を守ってくれる人が。そんなの当然、って顔しているけどさ、いざというとき無条件で誰かを助けるのって、きっと難しいと思うんだ。特に専用機持ちであるみんなの場合、国や政治的なものが介在してくるかもしれない。そんな時にさ、迷いなく一夏の隣を選んでくれる人がいて欲しいんだよ、俺は」
長々と語ってしまったが、これは偽らざる俺の本音だ。
一応言っておくが、別にそんなことはできないからといって、一夏を諦めろとは言わない。だけど、できる限りそうであって欲しいと思うのは、幼馴染として当然のことだろう。
何より一夏が選んだ相手であれば、誰であろうと両手を叩いて祝福を送るつもりだ。
「ふーん。なんだかんだ言っても、静馬も一夏のこと考えてるんじゃない。それも顔が赤くなるぐらいに」
俺が喋り終えてから、沈黙に包まれていた空気を鈴が切り裂いた。にやにやと笑っているのは、言葉の通り俺の顔が赤いからだろう。
シラフで友情を語るなんて恥ずかしいに決まっている、顔ぐらい赤くするわ。
「うん。静馬はドライな性格してると思ったんだけど、実は情に深い人だったんだね」
それに頷きながらそう話すのは、シャルロットだ。彼女も珍しく、少し揶揄するような笑みを浮かべている。
「あまり舐めないで下さいまし。そんなこと言われなくてもこのセシリア・オルコット、とうの昔から心構えはできていましてよ」
「私だってそうだ。嫁のためならたとえたとえ 火の中 水の中 草の中 森の中土の中 雲の中 あのコのスカートの中。どこへだって一緒に行ってやる」
セシリア、ラウラと真剣な表情でこちらに視線を送ってくる。
ああ、俺はみんなを見誤っていたようだ。感情ばかりが先行しているように思っていたのだが、思っていた以上にみんな一夏のことを真剣に考えていたんだな。
ところでラウラにその歌教えたヤツ、あとで説教だからな。
「みんなお前が思っているほど甘くはないということだ」
思っていたことが顔に出ていたのか、箒が腕を組みながらそれを肯んずるかのように頷いた。
「それじゃあ静馬の思いに応えるためにも、みんなで頑張ろう!」
「「「「おー!」」」」
シャルの掛け声に、皆握った拳を揃って天へと向けて突き上げた。
さすが、今まで何度も危機を乗り越えてきた仲間である、チームワークはバッチリだ。少し羨ましくなる。
……でも君たち、みんなで頑張っちゃだめだろ。恋敵なんだから。
もちろん声に出すことなど出来るはずもなく、俺は心の中でひっそりとツッコミを入れるのだった。
思っている以上にみんな一夏のことを(いかに自分のものにできるか)真剣に考えてる。