椎名静馬のIS学園生活   作:榎本くん

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餃子食べたい願望が遺憾なく発揮


第二十話:静馬と楯無そのいち

「しーずまくんっ、でーとしましょっ」

 

「……簪、次は醤油のみな」

 

「ん」

 

「無視!?」

 

 食堂で簪とご飯を食べていると、不意に姿を現した生徒会長こと楯無先輩。

正直関わり合いになりたくないほど妙にハイテンションで、あまりの大声に周囲の生徒たちの目を存分に惹いていた。代わりに俺たちは存分に引いていたが。

 

 簪、なんとかしてくれ、姉妹だろ……え? 「私も関わりたくない」って? この前の一件まだ尾を引いてるのか……。

 わかった、じゃあやっぱり無視の方向で。と目で会話を済ませ、俺らは何事もなかったかのようにまた正面へと向き直った。

 

「ねえ二人とも酷くない?」

 

 しかし楯無先輩からは逃げられず、そう言いながらさりげなく俺の隣へと着いた。しかも一夏張りに距離が近く、楯無先輩の香りが鼻孔を掠める。これじゃあ無視することもできない。

 

 けど悪い気もしない。なんて思ってたら簪が凄く冷たい目で睨んでた。先輩離れて今すぐ離れて。それか屋根裏行って。

 

「なんですか、今餃子には醤油か酢醤油かで討論してる最中なんですけど」

 

「……静馬くんって、たまに凄く変なことするわよね」

 

「変とは失礼ですね。わざわざ自分たちで手作りした餃子ですよ、せっかくだから付けダレも二人の好みを合わせたいじゃないですか」

 

「これ簪ちゃんが作ったの?」

 

 少し驚いた声を上げ、視線をテーブルの上にあった餃子へと目を向けた。味は悪くないが、何分経験値が少ないので見た目はあまり良くない。やはり包むのが難しい。

 

 しかしまあ、半分暇つぶしのようなものだったので、味さえ良ければいいのだ。

ちなみに本当は一人で作るつもりだったのだが、同室の簪が「私もやりたい」と言い出したので一緒にやった次第。

 

 一人部屋だった俺が簪と同室となったのは、先日の『狂言相談事変』で楯無先輩が言った俺と簪を同室にする、ということを実行したためだ。

 あと俺も作ったから。

 

「ええ。食べますか……ってもう食べてるし」

 

「あら美味しい。簪ちゃん美味しいわよこれ!」

 

「お、お姉ちゃん、声大きいよ……」

 

 諌めるようには言うものの、顔を赤くして恥ずかしがっていた。何だかんだ言いつつも嬉しそうなのは、簪の雰囲気からわかる。楯無先輩もそれを感じてるのか、表情が凄くだらしない。

 

 初孫で甘やかしいのおじいちゃんというか、娘にデレデレのお父さんというか。最初に仲直りした時よりも、ヤバい方向に進んでる気がする。それとも昔こうだったのが元に戻ってきただけか。

 どっちにしても姉が妹に向けていい表情じゃない。

 

「ごちそうさま、美味しかったわ。そ、それでね簪ちゃん、暇があったらまた作って欲しいなあ、なんてお姉ちゃん思ったんだけど……」

 

「……だめ」

 

「そ、そうよね……。ごめんね、我が侭言って」

 

「ち、違くて、今度はお姉ちゃんもい、一緒に……」

 

「本当に、いいの!?」

 

 楯無先輩の慮外とばかりに大声を上げる。その声は食堂に反響する程で、俺や簪のみならず他の生徒たちもビクリと驚いていた。

 

 直後、周りから囁き合う声が耳へと届く。

「姉妹で……」「取り合い……」「二股……」「修羅場……」「織斑君から乗り換え……」「浮気……」

 

 この学園そろそろIS学園からBL学園に改名すべきだと思う。その方が入学者数も増えて楽しいことになるからさ。

 腐女子、育てます。をキャッチコピーにしてさ。

 

「じゃあ私、生徒会室に戻るから。簪ちゃん、料理の件約束ね」

 

「うん、約束」

 

 微笑ましくも姉妹で指切りをし、楯無さんは満足気に頬を緩ませて帰って行った。

 

 後に残ったのは、小指を眺めながらそっくりに頬を緩ませる簪と、周囲からの囁き声に耐える俺の姿だけだった。

 

 

「アホですかあなたは」

 

「アホとはなによ、失礼ね」

 

 楯無先輩とそんなやり取りが行われたのは、それから一時間程経ってからのことだった。

 

 部屋に戻り簪と食後のお茶を楽しんでいたところ、荒々しくドアを開けは入って来たのだ。先輩としてはいつもと同じつもりだったのだろうが、今この部屋にいるのは俺一人じゃあない、簪もいる。当然静かに入って来いと淡々と怒られていた。

 

 いいぞ、もっと言ってやれ。ついでに他のみんなにも言ってくれ、俺の部屋をティールームか何かと思ってる奴が多いんだ。

 

 さて、先輩が何しに来たかと言えば、食堂で忘れた用件を再び言いに来るという、実にマヌケなものであった。

 先輩は餃子食べるだけして帰って行ったし、俺は恥ずかしい思いをするだけと何の得にもならない、それどころか損にしかなってない。

 

「それで、何ですかデートって」

 

「え、静馬くんデート知らないの?」

 

「叩き出すぞ」

 

 そんなくだらないこと言いに来たんですか、と続けると、口先を尖らせて「なによう冗談じゃない」なんて言葉が帰ってきた。

 

「俺は、何で急にそんなこと言い出したかを聞いたんですよ」

 

 落ち着こうとお茶を一啜りし、それからもう一度訪ねた。すると先輩は外に跳ねた空色の髪の毛を指先でいじりながら、少し恥ずかしげに話し始めた。

 

「ほら、最近静馬くん私に冷たいじゃない? だからもっと仲良くなりたいなあ、って思って」

 

 小さく絡み合わせた指先を口元に宛がいながら、小首を傾げる。そんな仕草しながらそんなことを言われれば、きっとどんな男であろうと堪らず首を縦に振ってしまうことだろう。

 

 そして止めを刺すような、この一言。

 

「だからね、静馬くん。デート……しない?」

 

 いつもの奔放なそれと違い、甘くどこか艶めかしく誘う声。下から覗くように上目使いと合わさり、まるでサキュバスかと思わせる程これ以上ない誘惑が差し向けられる。

 

 だから俺は――。

 

「はい、嫌です!」

 

 元気いっぱいに断りました。

 同時に隣から笑いを堪え兼ねて吹き出す音が聞こえた。簪だ。

 

「ちょっと静馬くんっ、今のはどう考えても頷くところでしょ!?」

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら、先輩は声を荒げて喋り始めた。

 

「先輩……」

 

「何よ!」

 

「嫌です!」

 

「今聞いた! 二回も言わなくていいわよ!」

 

 そのやりとりでついに簪の腹筋が耐えられなくなったらしく、隣から「ヒヒヒヒヒ」と女子がしちゃいけない笑い声が聞こえてくる。怖い。

 

 背を丸め蹲る姿勢のせいか、くぐもった声が余計怪しく聞こえる。きっと涙流して笑ってるに違いない。簪は普段あまり笑わないが、一度笑い出すと止まらない笑い上戸なのだ。

 

「簪ちゃんも笑い過ぎよ!」

 

「で、でも……だって……ふひゅっ」

 

 息も絶え絶えとはこのことか、まともに喋ることすら出来ずに笑っている。背中摩ってあげたがそれすらも無意味で、ただくすぐったそうに身を捩じらせるばかりだった。寧ろ悪化して笑いが酷くなった。

 

「もうっ、どうすんのよ静馬くん!」

 

「いや、正直ここまでウケるとは思ってませんでした」

 

「そういえば、簪ちゃん結構ベタなギャグとか好きだったわね」

 

「ふとんがふっとんだ、みたいなですか?」

 

「そうそう、まあさすがにそんなんじゃあ――」

 

「ふひゅっ」

 

「あ、駄目ねこれ。完全に入ってるわ」

 

 もはや笑い声さえも聞こえず、蹲ってピクピクと震えるだけの簪。

 この展開、俺はもちろん楯無先輩も予想外だったようで、本気で困っている様子だ。思わず二人で顔を合わせて困惑してしまう程だ。

 

「……とりあえず、出直すわね」

 

「……なんかすいません、楯無先輩」

 

「……いえ、私もなんかごめんね」

 

 そう言って、微妙な空気の中先輩は俺の部屋をそっと出て行った。よくわからんが、前よりも仲良くなった気がする。

 

 後に残ったのは、未だ床で震える簪と、助けを呼びに行こうとする、俺だけだった。

 本音さーん、助けてー!

 




一度でいいからやってみたい、美味しい醤油の一気飲み。餃子は酢醤油派、榎本くんです。

とまあ、二つ目のセリフは「醤油のみな」は醤油だけという意味で、間違っても簪に醤油を飲むよう強要している訳じゃないです。

そういう役は楯無先輩に任せておけばいいんです。醤油はダメでもマヨネーズぐらいならやってくれるに違いありません。

やったねかんちゃん、刀奈が太るよ!
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