「静馬、デートしようぜ!」
「そうだな、今日もいい天気だな。じゃあ一夏また明日な」
「え? いや、静馬そうじゃなくって」
「ああ、わかってるからまた明日な」
「お、おいしず――」
一夏を外へと押し出すと、バタンと音を立ててドアを閉めた。向こう側から何か声が聞こえる気がするが、きっと気のせいだろう。
こうして、俺の休日は平穏を保たれたのであった。
どんとはれ。
「で済めば良かったものを……」
思わず口から漏れた言葉と同時、溜息も漏れた。
目の前にはさっき外に出したはずの一夏。自分で勝手に淹れたお茶を、実に美味しそうに飲んでくれている。それ自体は構わないんだが、俺の部屋に居座る気満々なのは勘弁してほしい。それ持って行っていいから帰れよ。
今まで同室だった簪が元居た部屋に戻り、やってきた初の休日。毎日のように入り込んでいた痴女先輩から解放され、ようやくゆっくりとできると思っていたのに、その矢先の出来事だ。
「ったく、部屋のドア叩いてまで入ろうとするなよな」
「静馬が俺を追い出すからだろ。いいじゃんか、せっかくの休みなんだし。たまには男二人で話そうぜ」
見れば世界中の女子全員が惚れるだろうイケメンスマイルを向ける一夏。でも俺は今すぐその顔を殴りたい。
お前がドア叩きながら「頼むから入れてくれよ」って何度も叫んだせいで、みんな集まって来たんだからな。見ろ、買い直したばっかりのケータイのメールボックスを。内容が『修羅場?』とか『夫婦喧嘩?』とか、ふざけたもので一杯になっただろうが。
箒たちからは『手足いらないな』『目いらないよね?』『肺も二つあるから片方いりませんわね』『じゃあ腸も半分ぐらいでいいわね』なんて殺意を感じるメールが届いた。内臓系攻めるの止めろ。全部いるに決まってんだろ、お前ら臓器ブローカーか。
ちなみにラウラからのメールは『お菓子一年分で手を打つ』という内容来だった。俺もうラウラなら一生養ってもいい。養子縁組ってどうやんだっけ?
届いたメールの数は、十分も経たない内に百を超えていた。着信音鳴りっぱなしで迷惑メールより迷惑。もはや新手の迷惑メールだろこれ。
「だったらもっと普通に入って来いよ。何だよデートって」
「え、静馬デート知らないのか?」
「今すぐここから叩き落とすぞ」
何で一週間もしない内に、こんなくだらない冗談二回も聞かないといけないんだよ。
段々と俺がイライラしてきたのを察したのか、一夏は慌てて謝ると説明し始めた。
「ほら女子ってよく友達どうしで出かけることをデートって言うだろ? だから俺もそれをマネしてみたんだ」
「ふーん。じゃあそこから飛び降りてくれ」
「だから嫌だって! 何で静馬は俺をここから落としたがるんだよ!?」
「金掛からないし早くて簡単だろ」
「牛丼か!」
「じゃあ昼飯牛丼にするか」
「いいけど俺が求めてた答えと違う!?」
と言う訳で、一夏に牛丼作ってもらい二人で食べた。
こういうことしてるから夫婦とか言われるんだということに気付いたのは、盗聴していた楯無先輩に後日言われてからだった。
「で、一夏は何しに来たんだよ」
食べ終わり、お茶で一服。一夏は緑茶と言って譲らないが、食後はやっぱりほうじ茶だ。異論は認めるが、ムカついたから濃く渋いのを出してやった。
「何しにって、たまには男二人で話しでもしようぜってさっき言っただろ?」
「男二人で猥談って生々しいよな」
「ちげーよっ、何で間髪入れずにエロい話にいくんだよ!」
「でもエロい話しすると、痴女が寄って来るから止めた方がいいぞ。現に今もいつ乱入しようか聞き耳立ててるから」
「だからしないって、聞けよ!……ちょっと待った静馬。その痴女って楯無さんのことだよな?」
一夏の問いに、俺は大きく首を縦に振って答えた。大声で三度程「楯無先輩は痴女」と伝えた。そしたら隣の部屋から壁ドンされた。誰だようるさい痴女だな。
「もしかして、この話も聞かれてたりするのか?」
「ああ。あの人盗聴が趣味だからな」
「……そうか」
あからさまに引いた様子で、一夏は視線をサッと横に逸らした。すると同時、何かを訴えるように隣から壁を叩く音が二度ほど響いたが、きっとただの痴女だろうから無視することにした。
「じゃあ静馬の部屋で話しできないな。俺の部屋行くか?」
「いや、変わらないと思うぞ。先輩のことだから間違いなく後ついて来るだろうし」
「……聞きたいんだけど、あの人って生徒会長だよな?」
「ああ、間違いなく性徒会長だな」
一夏は俺の返事にイマイチ納得いかないような様子ながらも、頷いていた。俺が断言したことにか、先輩が生徒会長ということにかはわからないが。
現在進行形で会話が盗み聞かれていると知り、もはや何を話していいかわからなくてってしまったのだろう。一夏はついに喋ることを止めてしまった。そわそわと周りを気にしながら、落ち着かない様子でお茶を飲むばかりだ。
沈黙が続く中、部屋には隣から壁を叩く音だけが響いていた。
あまりにうるさいから、「簪に相談しようかなー」って声出したら一瞬で止んだ。おかしなこともあるもんだ。
「そうだ、それならどっか出かけようぜ。天気もいいしさ」
妙案を思いついたとばかりに、そう言って外を見る一夏につられて俺も窓の外を見れば、若干陰りも見えるが晴れと言って申し分ない程には青空が見えていた。やや不安の残る空模様だが、きっと大丈夫。今日は過ごしやすい一日となるでしょう、とニュースでお姉さんが言っていたから。
一夏の提案に俺は同意し頷かけたが、すぐにあることを思い出した。それは俺らが監視の対象であるということだ。
たった二人しかいないISの男性操縦者だ、街中で何かあってからでは遅い。専用機持ち同様、護衛の意味も含めて外に出る時はほぼ必ず監視がついている。もっとも、留学組の専用機持ちに対しては、監視の意味合いの方が強いらしいが。
変質者のような扱いになっているが、楯無先輩が盗聴しているのも実際はこれが理由だ。俺らの会話の中に、不穏な物がないかを確認しているのだ。まあ事実変質者でもあるけど。
それを説明すると、一夏は知らなかったと物凄い顔をして驚いていた。誰か教えてやれよ……。
「じゃあどうするかなあ。せっかく静馬と二人っきりでいられると思ったのに」
「頼むからその言い回し止めろ。マジで」
何でいちいちほもほもするような言い方なんだよ。
「なあ静馬、どっかないか?」
「どっかって、監視も盗聴もされない所か?」
「ああ。言われたら凄く気になってきちゃって」
そう言って困ったようにはにかむ一夏。イケメン滅びろ。
しかしまあ、普通はそうなるよな。俺の部屋は常に盗聴されている状態にあるが、結局のところ一人だから喋らなきゃいいだけの話だ。
簪と同室の時はなぜか楯無先輩もいたし、その前は普通に楯無先輩と同室だったから盗聴そのものの意味がなかったが。
っていうか先輩。立場的に仕方ないんだろうけど、仮にも親類相手に嬉々として盗聴するってどうなのよ。それならせめて同室にしなさいよ。あ、やっぱ嘘。貞操の危機を感じるから止めよう。
「ってそんな所、さすがにないよな」
「いや、あるぞ」
「ホントか!?」
「ああ。それも、この学園で一番安全で、最も機密性が高い所」
「何だそれ、すげえ! でもそんな場所入って大丈夫なのか?」
「問題ない。俺もよく行ってるからな」
「じゃあ早いとこ行こうぜ!」
「という訳で到着しましたのがこちら」
「おいここって……」
一夏の声を無視し手の平を差し向けた先には、『寮長室』の文字。まあ言わずもがな、一夏の姉である千冬さんの寮室である。
「どうだ。ここ以上に安全な場所は学園どころか、世界中探してもそうはないぞ」
「いや、確かにそうかもしれないけどさ」
一夏はどこか不服そうではあるが、例え二三四一本のミサイルが飛んできても千冬さんなら何とかしてくれる、というこの安心感のある場所はここ以外にありはしない。
「まあとにかく中入ろうぜ、念のため一夏からな」
「何だよ念のためって」
「いやさ、開けた瞬間千冬さんが着替えてたりとかしたら怖いじゃん」
「静馬お前な、言うに事欠いて人の姉の着替えを怖いって何だよ」
普通ならサービスシーンだけど、千冬さんの場合は命に関わるからだよ。
「なら一夏は平気なんだな?」
「ごめんなさい俺も怖いです」
それ見ろ。でも結局一夏に開けて貰うことになった。最悪一夏に「お姉ちゃんの裸に興味あったんだ!」とでも言わせれば何とかなる。
ビビる一夏にそう言って後押ししたら、「代わりに社会的に俺が死ぬわ!」って言い返された。やかましい、イケメンは全員社会的に抹殺されてしまえ。
「あ、開けるぞ」
僅かに震える手で、ドアノブへと手を伸ばす。一夏にとってただ姉の部屋に入るだけなのに、ドアの開け方がお化け屋敷で次の部屋に入る時と同じだ。
「鬼が出るか蛇が出るか……」
「ちょ、静馬止めろって」
俺がぼそりと呟いた一言に、思わずその手を止めてこちらに顔を向けてきた。口が半笑いになってる。
「何だよ、早く開けろよ」
「しっ、静馬こそ何だよ、鬼が出るか蛇が出るかって」
「だってそうだろ。ここを開けて天使が出てくるなんて思ってるのか、一夏は」
「思わないけどいくら何でも鬼はないだろ」
「じゃあコンボイ」
「ぶっ、そ、それはもっと駄目だって!」
とか言いつつも一夏も思いっきり笑ってんじゃんかよ。
「せめてこう……オーガとかビーストとかさあ」
「それ妥協してんのか」
「じゃあ魔王ってのはどうだ?」
「そしてら寮長室じゃなくて、魔王の部屋だな。いや、魔王城か」
「それだ!」
「それだ、じゃないわこの馬鹿者共が!」
その声と同時、隣からグボンッ、という人体から決してしてはいけない音が聞こえた。
「いっ、いちかああああ!?」
「ゴビゴベゴボ」
あ、これダメだ。呼びかけても返ってくる声が普通じゃない。その上頭を押さえて床をのた打ち回って、なんかもう陸に上がった魚みたいにビタンビタンしてるし。さよなら一夏。
「ち、千冬さん……?」
「男子二人が揃って人の部屋の前にいるから、何事かと思えば……」
「その殺気立った雰囲気を抑えてっ、ままままずは話し合いません? 人間は話し合うことで互いに理解し合えてですね」
「ほう、いいことを言うな。しかしお前らの言い分だと確か、私は鬼か魔王なのだろう。鬼や魔王に相互理解を求めても仕方ないと思わないか?」
あ、これダメだ。話しかけても返ってくる言葉が尋常じゃない。その上逃げ道を抑えて先手を打ってるから、なんかもう袋の鼠みたいになってるし。
「……千冬さんって女神みたいですよね!」
「そうか。それで、どこをやられたい? 脳か心臓、どちらがいいんだ?」
サラッと流された。っていうか何その二択、選択肢与えておきながらどっち選んでも死ぬし。あ、わかった。この人俺の事生かす気ないわ。
「……一思いにやって下さい」
「わかった。なら眠れない程の苦痛を与えてやる」
「いっそ殺して」
許してもらう代わりに、寮の掃除をすることになった。これぐらいで命が助かるなら千冬さんの部屋だって掃除するわ。
「ところでそこの変質者さんは何してるんですか?」
「誰が変質者よ! ……私も盗み聞きしてたのバレて、掃除させられてるの」
「おい暗部」
イケメン見るととりあえず殴りたくなる、それが椎名静馬という男。病院行け。
あとたっちゃんが暗部してないけどちーちゃんがチートちゃんなだけで、たっちゃんはちゃんと暗部してるから。
那珂ちゃん育てようと1-5-1連戦してたらこんなに時間経ってた。