「あ、静馬。よかった、まだいたん……キャアアアア!」
「失礼だろおい」
突然人を訪ねてきて突然悲鳴をあげたのは、常識人のように見えて意外と抜けているところのあるシャルロットだった。
今俺がいるのは男子ロッカールーム。特別男子用とされている訳ではないが、暗黙の了解で女子はここを使うことはない。そんな所に勝手に入ってきて悲鳴あげるって、むしろ悲鳴あげるの俺の方だぞ。
「ご、ごめん。でもなんで静馬は裸なのさ!?」
「裸じゃなくて、ちゃんとパンツ履いてるだろ」
「わかったから見せなくてもいいよ!」
これぐらい男装してた時に何度も見ただろうに。それどころかさっきまで着てたISスーツの方が、ピッチピチで恥ずかしい恰好だぞ。なんだその『下着は恥ずかしいけど水着は恥ずかしくない』理論みたいなの。表面積一緒だろーが。
「何だよまったく。さっきまで一緒に訓練してたんだから、着替えてるのぐらいわかるだろ。シャルロットもせめてノックぐらいしてくれよ」
「そうだけど、一夏が外にいたからとっくに着替え終わったかと思ったんだよう!」
響く涙声に俺は溜息をつきながら、脇に置いてあった制服のズボンとパーカーを羽織って「いいぞ」と声をかけた。
シャワーを浴びたばかりでまだ体が熱いのだが、シャルロットがずっと後ろを向いたままなので仕方がない。
「もう、静馬は変なところで大雑把だよね」
「男なんてこんなもんだろ。一夏なんてもっと酷かったし」
「……そだね」
来たばかりの時を思い出してか、苦笑い浮かべて肩を落としていた。
嫌がるシャルロットに、やたらと目の前での着替えを強要する一夏。どう見ても変態である。ちなみに一夏はその時裸。もうお前楯無先輩の後継げるよ。
レジェンドオブ変態~楯無へと続く道~。
千冬さん、こっちです。
「そんなことはどうでもいいんだ。ボクは静馬に聞きたいことがあって来たんだよ」
「聞きたいこと?」
「うん。まあ正確には相談っていうか……」
「悪いなシャルロット、さすがの俺も性転換技術は持ってないんだ」
「違うよ! 何で一番にそんなことが出てくるの!?」
だってシャルロットから相談って言われたら、それぐらいしか思いつかなかったし。
「そりゃこの前のことがあるからな。相談って言われても、まともなこと言ってくるとは思えないだろ?」
「うっ……」
俺の言葉に罪悪感を受けたのか、たじろぎ苦々しい顔をした。
俺としては別に嫌な思いだとか、ムカついたりした訳じゃあないが、いきなり相談と言われても疑ってしまうのは仕方ないことだ。
「そうだよね。この前はごめん、静馬。でも今日は本当に真面目な相談だから」
「わかった、俺も茶化して悪かったよ。そうだな、そしたらまずはタイに行くか。性転換するのにはそこがいいらしいから」
「だから違うよ! 別にボクは男になりたくて静馬に相談しに来たんじゃないって!」
「え……?」
「何その意外そうな顔っ、さすがのボクも怒るよ!?」
俺の隣に大人しく座っていたシャルロットだが、立ち上がって声を荒げた。
そうは言うけどさ、たまに男装して出かけてるの知ってるんだし、そっち方面のことかと思っちゃうじゃん。
それを伝えると、焦った様子で「えっ、えっ、何で? 何で知ってるの!?」と周章していた。「これでも暗部の末端だからな」と更に言うと、「ジャパニーズニンジャ……恐ろしいね」と慄き半分尊敬半分の視線を向けられた。
シャルロットにとって暗部は忍者と同じらしい。まあ間違っちゃいないけどさ、辿ればそういう家系だったろうし、更識って。
そういやあシャルロットってフランス人だったんだよな。普通に日本語喋ってるからつい忘れがちになるけど、こんなしょうもないところで再認識するとは思わなかったわ。
「じゃああれか、一夏の好みとか性癖とか?」
「ちがうっ……って静馬そんなことまで知ってるの!?」
「まあ男同士だとそういう話もするからな。気になるか?」
「えっと……気にならないって言ったらウソになるけど……。ボクがこういうこと聞いたって、誰にも言わないでくれる?」
首肯して答えると、シャルロットは頬を赤くしながらも仄かに笑った。照れてるんだろうけど、それ一夏に性方面で攻めるって宣言してるようなもんだぞこのエロガッパ。
「それで、一夏のその……どういう人が好きなのかな」
「そうだな。まず性格は冷静で厳格、けど頼りがいのある姉御肌タイプ」
「うぅ……ボクと全然正反対だ」
「見た目はスラっとしていて、身長一六五センチぐらいのモデル体型、けど出ているところは出てる人。釣り目がちで美人」
「身長はともかく、体型ならなんとかなる……かな?」
「職業は教師で、厳しいながらも生徒からの支持は篤く、ISの技能も優秀」
「なんか、それって……」
「世界最強で、二つ名がブリュンヒルデだと尚良し」
「織斑先生のことだよね!? それ絶対織斑先生だよねえ!?」
いやいや、あくまでもそういう人というだけで、千冬さんではないよ。限りなく千冬さんに近いけど。
ついでにズボラでブラコン照れ屋に人間凶器、酔うと脱ぐ癖のある人だともう一夏は尻尾振って大興奮。諸手を上げて喜びます。
俺は両手上げて逃げ出します。
「それでね、聞きたいことっていうのは」
所変わって俺の部屋。
始めこそシャルロットの部屋の予定だったんだが、ラウラが銃刀法違反コレクション広げてたから流れて俺の部屋になった。
正直いつ一夏や楯無先輩が乱入してくるかわかったもんじゃないから、避けたかったけどまあ仕方がない。その時は諦めてシャルロットを差し出そう。シャルロットは犠牲になったのだ。
「さっき静馬が言った通り、一夏のことについてなんだ」
「性癖のこと?」
「ちがっ……くないけど、それは後で聞くとして」
聞くのかよ。
顔を赤くしたまま咳払いをして、シャルロットは再び話し始めた。
「一夏について、色々詳しく教えて貰いたいんだ。昔どんな子どもだったかとか、よくしていた遊びとか、よく行った公園とか、好きだったおもちゃとか食べ物とか絵本とか――」
ストーカーか。乙女の顔から完全犯罪者の顔になってるからな。
しかし俺からしてみれば「またか」という思いでいっぱいだ。この学園に入ってから、いったい何人の女子にその質問をされたことか。
その度に俺は溜息を漏らし、そして同じことを言ってきた。
「なあシャルロット。好きな人のことっていうのは人に教えて貰うんじゃなくて、自分で知って行くもんだと俺は思うんだけど」
――と。一夏のことを教えるのは全くもって構わない。それが性癖だろうが弱点だろうが、好きな食べ物だろうが。いや、さすがに性癖は本当には言わないけどな。
ちなみに最近は女教師。千冬さんに報告するよう昔から言われてるんだけど、これはさすがに言えねぇ……。何で本人より俺の方がビクビクしなきゃならんのだ。
「そ、そうなんだけどさ」
「ああ、そうか。シャルロットは一夏のこと調べるのがライフワークだもんな、なら直接聞くより又聞きの方がいいのか」
そう言って笑うと同時、俺の真横を黒い何かが一瞬にして通り過ぎていった。後ろで何かを打ち砕く音に次いで、室内で感じるはずのない風が背中を扇いだ。
振り向けば、穴。
「ハハハッ……静馬、次ふざけたこと言ったら、今度は君の脳天にぶち込むよ」
「わかった、俺が悪かったから、そのグレー・スケールを仕舞ってくれ、今すぐにだ」
ラウラ戦で見せた灰色の鱗殻を両手でがっしりと構え、こちらに躊躇うことなく向けられている。これを見て、いったい誰が逆らうことができようか。
ISのパワーアシストがあって始めて打てる武器なので、今のシャルロットには引鉄を引くことすら叶わないだろう。けれどその圧倒的な迫力には抗えない。
でも一番怖いのはシャルロットの笑ってない笑顔。もしシャルロットが病んだ暁には、包丁じゃなくてパイルバンカーで刺されるのか……。
おいフランス、これ早いとこ取り上げろ。死人がでる。
実に中途半端だが、シャルロットからの相談はここで打ち切りとなってしまった。
というのも、パイルバンカーを放った衝撃で出た音と衝撃で皆が集まってきてしまったからだ。当たり前だ。
ここで起きた問題は、部屋の修繕に当たり俺がどこの部屋にいくかということだ。
一夏と楯無先輩は頑なに「自分のベッドに来るといい」と言っていたが、危険を感じたので全力で拒否した。まずお前ら同じ部屋だし、そもそもベッドっていうのがおかしい。
後に千冬さんが「私の部屋に来い」と仕方ない体で言っていたが、汚部屋の片づけ要員としてチラッチラ見られていたので全力で逃げた。
シャルロットが責任を感じて自分の部屋にと言っていたが、銃器に囲まれて寝るのは怖いので丁重に断った。
最終的に決まらなかったため、そのままそこに住むことが決まった。穴はブルーシートで隠してある。
世界で二人しかいないIS操縦者な割に、扱いが雑だと思いました、まる。
中途半端なのはパイルバンカーではなく、本当は榎本のせい。本当にすいません。シャルロットごめんなさい。
そしてオチ軍団の便利さ。
一夏楯無千冬がいれば大抵オチつく。
本当は箒を主軸にもってきたかったけど、シャルロットの方が先に思いついたからシャルロット。こうしてまた箒が遠ざかっていく……