椎名静馬のIS学園生活   作:榎本くん

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第二十五話:静馬とIS

「はぁあああああ!!」

 

 裂帛一声。咆哮のように激しいその声は、アリーナのシールドさえ突き破らんばかりに強く唸り轟いた。

 

「これでっ!」

 

 一夏の短くも力強く放った言葉と同時、持っていた刀がついに光を放つ。零落白夜といの名の、体を表すが如く青白い光を。

 

 光は流れるように弧を描き、こちらへと向かって来る。目視では見るどころか、目の端に捉えることさえ適わない程の速度だ。ハイパーセンサーがなければ、こうして回避運動に入る予断すら許されなかっただろう。

 

 中空から一気に天空へと飛び上がった俺は、各部分に取り付けられている小型の推進翼とPICで、何度も強引な推力偏向を図り距離を取った。

 ハイパーセンサーで全天を見渡しつつ、こんな細かい機動をしているせいか酔いそうで仕方がない。

 

「クソッ、逃げるなこのバカ静馬!」

 

「バカはテメーっだってーの、このタコすけ!」

 

 オープンチャネルで飛び込んで来た一夏の声に、反射的にそう言い返す。そんな凶悪な武器を持っているってのに、真正面から挑むヤツがいるか。ただでさえこの『木花開耶姫』は、接近戦用としての武器を持っていないんだから。

 

 しかし白式の機動力に加え、尋常じゃなく鋭い勘を持った一夏からそう長く逃げられる訳もなく。そうしてとうとう距離は縮められてしまった。

 

「ようやく追い詰めたぞ……!」

 

 互いに向かい合い、一定の距離を保ったままサークル・ロンドのように円をゆっくりと描いている。

 

 PIC制御のみでしているこの動きは、今言ったサークル・ロンド、つまり『円状制御飛翔』に至るための、比較的難易度の高い技術だ。細かいことが苦手で練習じゃあ全然出来なかったくせに、無意識ながらに実戦でやってのけるのだから、こいつの才能は計り知れない。

 

「ビットもずっと出してないし、エネルギーがもうヤバいんだろ」

 

 眉を顰めて答える俺を見た一夏は、口の端を上げにやりと笑う。中段で刀を構え、もう逃がさないと言わんばかりに向けられた切っ先。そして更に追い詰めるように、雪片弐型は再び青白く光り始めている。

 

「これで終わらせてやるよ。行くぜ、沈んじまえよ静馬ぁ!」

 

「――ところがどっこいお先に失礼ってな!」

 

 一夏の声に被せて俺がそう叫ぶ同時に、無線型オールレンジ武器『TAB-BIT』を一斉に放出させた。

 

 桜の花びらの型をした八枚のそれは、一瞬の内に一夏を取り囲んだ。仄かに光る花弁の先が今にも、貫こうかと待ち構えている。

 

「ちょっ、おい静馬っ、ビットはエネルギー切れじゃないのかよ!?」

 

「誰がそんなこと言ったよ、ただ出してなかっただけだ。簡単に騙されやがって」

 

「ずりぃ!」

 

「知るかよアホッ。それじゃあ一夏、終わりにしようぜ。撃てっ『TAB-BIT』!」

 

「ちょっ、ま、タンマ――うわああああ!」

 

 一夏の叫び声に次いで、試合終了のアナウンスが響き渡る。

 アリーナには、煙を上げる白式と、目に悪そうなピンク色をした逆さまのハート ――つまり、俺のISだけが浮かんでいた。

 

 

「ちくしょう、あとちょっとだったのになあ」

 

「どこがよ。思いっきり誘い寄せられてたじゃない」

 

「あそこで止まったのが良くなかったね」

 

「それに零落白夜を無駄に使い過ぎだ。当てる瞬間だけ使うよう、織斑先生から散々言われただろう」

 

「冷静さが足りないな」

 

「心は熱く、頭は冷静に。ですわよ、一夏さん」

 

「……スンマセン」

 

 一夏の溢した一言から始まった会話は、一夏がボッコボコにされて幕を閉じた。ちなみに上から、一夏鈴シャルロット箒ラウラセシリア一夏という順番。

 

 公私を分別してるのはいいことだけど、こいつら本当に一夏のこと好きなのか。なんかもうノリだけで言ってたりしないよな。

 どっかにカメラあったりしてさ、「盛大なドッキリでした!」みたいな具合で。IS学園の存在から嘘っていう、世界を跨いだ大がかりなドッキリ。千冬さんが修羅と化す。

 

 そんなことはいいとして。

 

 さて、今俺たちがいるのは、アリーナと更衣室の間にあるブリーフィングルームだ。その通りの意味として使われることは未だなく、こうして雑談に使われる程度となっているというなんとも可哀そうな部屋だが、使われるような情勢にならないのは良いことなんだろう。

 

「そもそも何なんだよ、静馬のISは」

 

 不満顔の一夏だが、普通の人からしてみれば一夏の白式も箒の紅椿も一体何なんだと言いたくなる代物だぞ。

 

「あれな、気持ち悪いよな」

 

「い、いや、別にそこまで思ってないけど……」

 

「どう見ても気持ち悪いだろ。なあ、鈴」

 

 話しかけながら隣に座る鈴を見れば、眉を顰めているのが目に映った。

 

「……静馬には悪いけど、正直気持ち悪いわね。特にあの色」

 

「お前ら、せっかく手にした専用機に向かって気持ち悪いはないだろう」

 

 鈴の言葉に被せるように、やや怒り気味の声を上げた箒。

 俺に次いで比較的最近専用機を手に入れたばかりだから、気持ちが入っているのだろう。けど俺が「けどこれ造ったの束さんだからな」と言うと、一瞬にして静かになった。うわ……束さんの信用、低すぎ……?

 

 

「でもあのISの不明瞭さは、ちょっと気になるかな」

 

「私も、同じビット操縦者として大変興味がありますわね」

 

「割れたらモモタロウというサムライとやらが出て来るのだろう!?」

 

 シャルロット、セシリアと真剣な表情で述べるなか、一人おかしいのがいたな。

おいラウラ、てめーのことだ。何だ子どもみたいな純粋な目して、割れたら俺が二つになって出てくるだけで誰か大至急桃太郎の紙芝居と駄菓子持って来い!

 

 この場において皆が注目する俺の専用機『木花開耶姫』だが、はっきりと言おう。ろくでもない。

 

 まず第一に、桃型。もうこの時点で意味がわからない。パワードスーツの概念どこいった。一般的には桃型と通っているが、逆さまのハート、という方が正しい。何せ開発者である束さんがそう言ったのだから、間違いない。

 

 第二に、割れ目の部分から飛び出るビット。下品。もう一度言おう、下品。実際飛び出すのは桜の花びら型だけど、出てくる場所が悪い。わかっててやってんのか。

 

 そして第三に、色。薄い桃色ならともかく、ショッキングピンクとかもうふざけてんのかあのばか兎。科学者じゃなくてバカ学者だよ。乗るのも恥ずかしいし見てる方も色んな意味で目に痛い。

 

 正直変えたいんだけど、それしようとすると束さんから「……色変えちゃうの?」って泣きそうな声で電話きて、変えるに変えられないんだよ。っていうか何でわかるんだ。

 

「それよりも、私は二人の口調の悪さが気になるんだけど」

 

「ああ、それは私も気になったな」

 

 鈴の言葉に、追従して頷く箒。

 

 しかし言われた俺らからすると「そういえばいつもよりちょっと雑だったかな」ぐらいの感覚だった。

 

「まあアレはほら、アレだよアレ」

 

「アレって何よ。ぜんっぜん意味わかんないんだけど。静馬わかる?」

 

「つまりだな、鈴。みんなこいつが何を言っているのか、理解できないってことなんだ」

 

「なるほど、よくわかったわ」

 

「酷くないかなあそれ!?」

 

 とは言うものの、箒は頷いてるし、セシリアとシャルロットは苦笑いしているものの否定はしていない。むしろあれで通じると思ってた一夏の頭の方が酷い。

 

「まあ冗談として、一夏が言いたいのはちょっと気が昂ったせいだ、ってことだよ」

 

「そうそれだよそれっ、俺が言いたかったのは。さすが静馬、俺の事よくわかってるなあ!」

 

「うるせえバカ。一夏はとりあえず山田先生のところ行って日本語教えて貰って来い」

 

「日本語!? 国語じゃなくって!?」

 

 どう考えても国語の前に日本語の勉強からだろ、あれとかそれとかばっかり言って。理解できたのは、昔二人で大乱闘するゲームやってた時同じ風になってたからだ。あれ何でやってるとあんな口悪くなるんだろうな。

 

「でっ、でしたら私がお教え致しますわ!」

 

「ボクも!」

 

「やったな一夏、二人が教えてくれるってよ。教わっとけ、こんなチャンス滅多にないぞ」

 

「そうだな。じゃあ頼めるか?」

 

 二人は喜んで返事をしていたが、鈴と箒は呆れ果てて頭抱えていた。イギリス人とフランス人に日本語を教わる日本人って。俺が振った癖にだけど、さすがにそれはないわ……。

 

 後日、本当に二人から日本語を教わっている一夏の姿を見た。

 千冬さんがガチで泣きそうだった。

 

 

「でもさ、二人ともあれだけ言い合ってた割に、全然ケンカしないよね」

 

「だってよ一夏。久しぶりにケンカするか?」

 

「頼むシャルロット、後生だからちょっと静かにしていてくれ、頼むから」

 

 土下座する勢いで頭を下げる一夏に、シャルロット引き気味。

 

「まあ今静馬と一夏がケンカしたら、一夏ボッコボコにやられちゃうものね」

 

「静馬さん、そんなにお強いんですの?」

 

「……私が木刀を持っていても、勝てない程にはな」

 

 箒は悔しそうに眉間に皺を寄せるが、こちとら更識で鍛えられた身だ、そうそう容易く一般人相手に負ける訳にはいかない、負ける訳にはいかないのだ。負けたら……ヒィイイ!

 

「じゃあ織斑先生と生徒会長さんには勝てる?」

 

「シャルロット、俺らは人間相手の話をしているんだ」

 

 生態系ピラミッドの頂点突破して、ピラミッドをまるごと潰し兼ねない力の持ち主たちだからな。俺なんて瞬きしてる間に首刈られるわ。

 

「昔は俺の方が断然強かったのになあ」

 

「そういえば一夏に泣かされていたな」

 

 一夏も箒も懐かしむように言うけど、それ俺にとっては恥でしかないからな。

 

「ええっ、静馬が!?」

 

「……信じられませんわ」

 

 今と比べれば確かに驚きもするだろうが、その時は今見たく身長差がある訳でもないし、格闘技も習っていなかった。それどころか一夏の方が運動神経が良い上に剣術を習っていたとなれば、どうして俺がケンカに勝てようか。

 

「その上どういう理由だろうと、千冬さんから『喧嘩両成敗』と言って拳骨されるからな」

 

「不幸は決して単独ではやって来ない、だね……」

 

「そのせいで静馬、一時期千冬姉見るだけで泣いてたもんな」

 

「あの頃の千冬さん、何もしなくても怖かったんだぞ。そんな人に理不尽に殴られてみろ、トラウマにもなるわ」

 

「……よくそれで仲直り出来たわね」

 

「さすがに毎回泣いて逃げられるのは堪えたらしく、脅さ……じゃなかった謝られたんだよ」

 

「静馬あんた、今脅されたって言いそうになったわよね?」

 

「言った」

 

「素直に認めるのだな……」

 

 だって事実だし。

 いきなり現れたと思ったら、急に掴み上げて「次泣いて逃げたら殺す」だぞ。子どもにさえ容赦ないとか、あの人悪鬼か何かか。そういう訳だから、鈴が言うように正しくは仲直りした訳じゃない。

 

「ま、今更ケンカになるほど仲違いすることがない、っていうのが一番の理由だけどな」

 

 こいつといると達観というか、諦観の念を抱くからな。もうどうでもよくなる。合言葉は『一夏だから仕方がない』。

 

「万が一何かあったとしても、今ならISで戦って決めればいいだけだし。な、静馬?」

 

「え、嫌だ。俺IS乗りたくないし」

 

「まさかの乗りたくない宣言!?」

 

「授業の時とかどうするのさ!?」

 

「一夏から白式借りる」

 

「俺が乗るものなくなるだろ!」

 

「あんたそんな教科書借りるみたいに……」

 

「じゃ、じゃあ行事の時はどうしますの?」

 

「お腹痛いことにして休む」

 

「女子か!」

 

「中学の時いたわね……」

 

「千冬姉が許さないだろ」

 

「酔わせてその間に言質取る」

 

「千冬姉、すぐお酔っぱらうからな……」

 

「ねっ、姉さんに――」

 

 

 そんな会話をしている内に、休み時間は過ぎていった。

 

 ちなみに専用機である『木花開耶姫』は、多方面からの要望により薄い桜色に塗り替えられることが決まった。

 

 束さんからマジ泣きの電話が入ったのは、その次の日のことだ。

 

「ねえねえしーくん酷くないかなあっていうか酷いよしーくんはこの束さんがしーくんのために誠心誠意心をこめて造ったっていうのにそれをゴミ共の手で弄られるなんてもはやレ○プだよレ○プしーくんは束さんがしーくん以外にそういうことされても平気だっていうのかいあでもちーちゃんなら吝かでもないかなうへへってそういう問題じゃないんだよしーくんわかってるのかなしーくんにあげたさっちゃんには私の愛が詰まってるんだそれこそネジ一本どころか原子にまで染みこませ――」

 

 うるさいから寝た。

 




・ちょっとだけ戦わせてみたよ!
・ラウラは桃太郎の件から駄菓子に夢中で話しに参加してない。
・冷静に考えた時、静馬のISは酷く卑猥なんじゃないかって思った。

の三本。



2015/2/04 脚のスラスターとかいう、存在しない部位で推進する謎行動を削除。割れ目部分にはきっと物凄いスラスターがある。傍からみたら完全におなら。
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