「はーい、それじゃあ今から『専用機持ち限定、ドキドキお部屋チェック』を始めまーすっ、いぇーい!」
俺はそろそろ人間不信になるんじゃないか。
『ドッキリ、大成功!』の扇子を両手に掲げる楯無先輩を見て、そう思わずにはいられない十六の朝。
「実は家とかデートとかの話は全部ウソで、そのクッソふざけたバラエティ企画みたいなものに付き合わせるための方便だったってことですか? ハハッ、顔面ぶん殴るぞおい」
「いやね、さすがにもう騙されないだろうと思ったら、存外あっさりと信じちゃうものだからつい楽しくなっちゃって。すぐ訂正しようと思ったんだけど、どうせならネタばらしも当日の方が面白いかなーって考えたわけなの。どう、驚いた?」
「ええ、今すぐその面地面に擦り付けたくなるぐらいには」
「でもこうしてここに来てくれているってことは、それでも私のこと信頼してくれているってことよね。お姉さん嬉しいわ」
そう言ってはにかむ先輩。けど残念ながら、その信頼は地に落ちるどころか穴掘ってボーリング工事真っ最中ですからね。
もはや束さんを見る箒と同じレベル。
「じゃあそのお礼にその顔一発平手してあげますね」
「……あのね静馬くん、とりあえず私の顔を殴ろうとするの止めない? っていうか女の子の顔を叩くのは良くないと思うの」
「わかりました。じゃあ今から先輩のことは、サンドバッグだと思うことにします!」
「サンドバッグ!? それもう一発どころかボッコボコにする気満々じゃないの!」
「あ、IS展開するんで、ちょっと待って下さいね」
「いやそれボッコボコ通り越して死ぬから」
真顔でツッコむ先輩を見て、俺は仕方なく部分展開した木花開耶姫を再び光へと散らすのであった。
「じゃあ改めて『ドキッ☆突撃★お部屋襲撃大作戦っ』を始めまーす!」
さっきまでのやりとりがまるでなかったかのように、再びバラエティーのタイトルコールみたく声を上げる先輩。
どうしよう、やっぱり一発張り倒した方がいいだろうか。
「静馬くんストップ、ストーップ。戸惑った表情しつつも無言で部分展開するのストーップ」
宙に浮かせていた右手を必死で抑えられ、仕方なく展開しようと収束していた光を散らす。
先輩はあからさまにホッとしているが、こちらとしてはツッコミ切れず物足りないといかなんというか。
どこか消化不良のようなものを残しながら先輩の話を聞けば、どうやらこういうことらしい。
「ほら、今年って静馬くんたち……つまり男性操縦者が入学してきたじゃない? それに合わせたのか偶然なのかは知らないけど、同時に代表候補生等の他国からの生徒が例年より多く入ってきてるのよ。そのことが政府のお偉いさん達は相当心配らしくてね、使わなくてもいい気を使ってくる訳なの。それも、相当ゲスな」
「ハニートラップを疑ってるわけですね」
俺の問いに先輩は「そういうこと」と、首肯して答える。
「あの子たちと接してみれば、そんなこと出来るような子じゃないのはすぐにわかるんだけどね。けど、私がそう言った程度じゃあ政府のお偉いさん方は納得してくれなくって」
「つまり、証拠を持って来いと」
「そういうこと」
はぁ、と嘆息しながら頷く先輩につられて、ため息をこぼす。そんなもの、悪魔の証明じゃないか。
あるものを見つけてくるのは可能だが、ないものを見つけてくるのは、如何に更識が有能だあろうとも不可能だ。
もしかしてお偉いさん方はバカなのか、それともそうである証拠を見つけて来て欲しいのか。肩を竦める先輩の反応を見る限り、後者なようだ。
「ま、そんな訳だから、普通にやるのも気が進まなくって。静馬くんに同行してもらおうと思った訳なのよ」
確かに俺なら更識関係者だし、訓練一通り受けているからちょうどいいってことか。
しかしなるほど。いつにも増して無駄にうるさくてやかましく鬱陶しい程にハイテンションなのは、そういうことか。
いくら更識としての仕事とはいえ、交流ある相手の家捜しなんてやってて気持ちの良いものではないし。ま、暗部としては感情を押し殺すべきところではあるけども。
「でも先輩。そのお偉いさんの理論で言ったら、先輩の部屋も捜索しなきゃならないですよね。だって先輩、ロシアの代表ですし」
「あらやだ静馬くん、お姉さんのお部屋を調べたいだなんて、えっちねぇ」
「正直そこまで先輩に興味ないんで」
「……ウソでもいいから別の反応が欲しかった」
がっくりと膝を落とす楯無先輩。
まあ半分はウソだけど。というかだ、先輩の部屋なんて以前にも入っているし、それこそ更識のお屋敷の私室にだって入っているのだから、今更だろう。
それに女性の部屋に対する夢は、千冬さんが木っ端微塵に打ち砕いてくれましたんで。
服どころか、下着さえも散乱する部屋。そのとき感じたのが興奮じゃなく、干してある近所のおばちゃんの下着を見ちゃったような、何ともいえない感覚だったのだからもうね。
IS関係者って、その関連性が強い程人として何かを捨ててるよな。
先輩然り、千冬さん然り、一夏然り。そして、束さん然り。
「私たちは今、篠ノ之箒さんの部屋の前に来ております……」
「何ですかそのアイドルの寝起きドッキリみたいなのは」
閉じた扇子の先を口元にあてがい、それをマイクに見立てて喋る先輩。これ扇子を持ってる右手を、下からドーンと押したら面白いことになららないだろうか。
何てこと考えていたのはバレバレだったらしく、「それやったらさすがの私も怒るわよ」とジト目で釘を刺されてしまった。ちっ、残念。
「でもバラエティ的には美味しいわよね、それ」
「いいから先に進めろよ」
数秒で前言を翻す先輩のケツを蹴って部屋の中へと押し込み、その後を追従する。
そういうことばっか言ってるから簪に「芸人みたいで面白い」とか言われんだよ。十七歳の女子が面白いって言われて喜んでどうするんですか。
文句を言う先輩をテキトーにいなし入った部屋の中には、当然のことながら誰もいなかった。
まあ普通に考えてこの任務は政府からの依頼ではあるものの、IS学園にさえ察知されるわけにはいかない内容だ。
見つかればその時点で任務として失敗だし、不正に侵入したことがバレれば学園側から審問を受けることは間違いない。
ふざけながらやっているが、これは暗部『更識』として遂行すべき任務なのだ。
俺はIS学園の生徒というスイッチを切るように目を閉じ、更識の者としてスイッチを入れるように目をゆっくりと見開いた。
六感までもが研ぎ澄まされる、この感覚。
「やーん箒ちゃんのベッドいい匂いー」
という俺の意識の切り替えを、全て台無しにしてくれた当主がこちらです。
恐らく箒のであろうベッドの上をごろごろと転がり、枕をクンカクンカする変態の頭に踵を一つ叩き落とした。
「ぬわおあああぁ……!」
今度は違う意味でベッドの上を転げ回る変態を、半目で見下ろし視線を送る。
「な、何するのよ静馬くん……」
「それはこっちのセリフですよ。何頭悪いことしてるんですか」
「普通にバカって言われるより傷つく言い方……。だってせっかく女の子の部屋に来たのよ、これをするのは通過儀礼ってものじゃない?」
「真顔で何言ってんだこいつ」
「静馬くんも嗅ぐ?」
枕を差し出しそう宣う先輩に、もう一度踵落としをぶちかましてやろうか。そう思ったのだが先にそれを察したらしく、素早くベッドの上から降りられてしまった。
このあたりはさすが先輩である。
「生徒会長に向かって踵落とし二発決めようとはよい度胸じゃないの、静馬くん」
「任務遂行中に変態行為決めてる暗部当主よりは大したことないですよ、刀奈さん」
こちらを見て不適切……じゃなかった、不敵な笑みを浮かべる先輩に合わせ、俺も笑みを浮かべてみせる。
互いの視線が交差し、緊張が生まれる──が、それも僅かのこと。示し合わせたかのように同時にふぅと息を吐き出し、張りつめていた意識を霧散させた。
肩を竦め、苦笑し合う。まあ不毛というか、無駄だと互いに理解したからだ。
「じゃ、さっさとやることやって、こんなしょうもない任務終わらせちゃいましょうか」
「そうですね。それじゃあ、何から調べましょうか?」
「もちろん、箒ちゃんの下着からよ」
そう言って衣装箪笥へと向かう先輩の背を目掛け、俺はそっと『TAB-BIT』を展開した。
「そも箒ちゃんは日本人なんだから、いくら専用機持ちとはいえ調べる必要なんてある訳ないじゃない。それに加えて、代表候補生ですらないんだし。なら何でここに来たかと言われれば、それはほらあれよあれ、そこに山があるから、みたいなものよ。通り道にあったからなんとなく。それにほら、箒ちゃんのおっぱいって大きくて山みたい……あ、ごめんウソ、冗談だからそのフルチャージしたビット仕舞いましょう、お願いだから、ね?」
続かない。
>不正に侵入したことがバレれば学園側から審問を受けることは間違いない
確か静馬の部屋に屋根裏から不法侵入してたやつがいたな。
楯無「困ったものね」