椎名静馬のIS学園生活   作:榎本くん

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第三話

「じゃあまずは箒からだな」

 

 箒に顔を向けながらそう伝えると、彼女は怒ったように机を叩き立ち上がった。ぼ、木刀で叩き殺されるかと思ったわ。

 

「なっ、何で私からなんだ! 他にもいるだろう!」

 

 上から向けられるドギツイ視線に、思わずいざる。

 いや、正直このまま部屋を飛び出したいくらいだが、今みんなが集まっているのは俺の部屋。ここを出たら俺は今夜寝る場所がなくなってしまう。

 まあまあとシャルロットに宥められ、不承不承といった感じで再び腰を下ろした箒を見て、そっと安堵の息をつく。

 さっきもこんなやり取りしたな。

 

「まあ箒が嫌なら別の誰かでもいいけど……」

 

 俺はそう言うが、誰からも答えが返ってこない。

 恐らく皆も一番に行くには、少々自信と勇気がないんだろう。まあその気持ちはわかる。

 何せあの一夏が相手だ。まともにいったところで、どうなるかわかったものではない。まずは誰かに行ってもらい、その様子を見て対策を練ろうという考えか。

 正に女の闘い。やべ、今更ながらに早まったかもしれない。

 

「じゃあボクからいこうかな」

 

 沈黙を切り裂いて、自然な様子で手を上げたのはシャルロットだった。

 皆が驚いた表情を浮かべる中、彼女はやはり自然な表情でくるりと周りを見て回した。

 

「誰かがいかないと始まらないんでしょ? それなら僕がいくよ」

 

 なんてことないように話すシャルロット。

 そんな彼女を見て、俺は内心「さすがはシャルロットさん」と思っていた。それは勇敢という意味ではなく、抜け目がない、という意味で。

 

 一番は確かに不安だろう。しかし逆に言えば、一番こそチャンスなのだ。

 一番に告白して、もしもそれ成功したならば、他の人からの告白は意味がなくなる。

 一夏の性格からして、後を追うように告白された時皆が同じくらい好きであれば、最終的な決定打にするのは順番だ。

 

 悩みに悩んだ挙句がその結果というのもどうかと思うが、あいつならそうするだろう。大穴で「みんな好きだ!」のハーレムルートもありえるが。

 更に大穴で「実は俺、千冬姉が……」もないとは言い切れないけど。まあ正直好きにしてくれ。個人的に面白そうなのは後者だけど。

 千冬さんの反応が見たい。

 

「っていうことだけど、それでいい箒?」

 

「ああ、構わん」

 

 そっけなく一言。けれど、言葉の端に明らかに安心しているのが感じられた。

 

「じゃあシャルロット。一夏は今自分の部屋にいるはずだ。この時間ならもう風呂も出てるだろうし、けど寝るにはまだ早いからちょっとばかり暇を持て余してると思う」

 

 シャルロットは頷いて応える。俺も頷き返し、また話を続けた。

 

「そして運がいいことに、明日は授業が休みだ。うまくいけばそのまま二人っきりでいられる。これがどういうことかわかるな?」

 

 数秒の沈黙の後、まるで湯気でも出そうかと言わんばかりに目に見えて顔を赤く染めるシャルロット。耳年増の彼女の事だ、またやらしいことでも思い浮べたんだろう。このエロロットめ。

 

「でも待って。今一夏ってあの何とかって先輩と同じ部屋だったでしょ? そこんとこはどうすんのよ」

 

 シャルロット同様に顔を赤くしていた鈴が、ふと気づいたように顔を上げてそう言い放つ。他の四人も、ハッとした様子でこちらを見た。やめろ、揃ってこっち見んな。

 

「そこんとこはもちろん解決済み。ですよね、何とか先輩」

 

「はいはーい」

 

 軽い返事と共にどこからともなく姿を現したのは、その何とか先輩こと更識楯無。不意に出てきたせいでみんな驚いている訳なのだが、その姿を見て実に楽しそうにしている。

 性格が捻くれているこんな人が生徒会長でいいのか、IS学園。

 

「人を呼んでおいてそういう態度は良くないんじゃない、静馬くん?」

 

「人の部屋の天井裏に潜んで、しかも盗み聞きしてたくせに何言ってるんですか」

 

「あら、ばれてた?」

 

 ばれてーら。だからこその『何とか先輩』という扱いなのだ。まあ何とか先輩改め楯無先輩もそれをわかっているため、特に気にした様子もなく飄々として笑っている。

 

 しかし盗み聞き、という言葉を聞いて箒と鈴は眉を顰め睨み、シャルロットとセシリアも二人ほどではないが、あまり良い顔はしていない。ラウラ? ラウラなら俺の隣で潜んでいたのを気付けなかったことにショックを受けてるよ。

 

「まあこの人のことはどうでもいいとして」

 

「せっかく協力してあげたのに、それは酷いと思うんだけど」

 

「はいはい、先輩はちょっと静かにしてて下さいねー」

 

 この人いちいち相手にしてたら、話が進まないんだよ。いろんな意味で。

 

「という訳だから、今夜一夏は部屋に一人きり。心置きなく告白してくるといい」

 

 ムッとして頬を膨らます楯無先輩を無視し、皆に視線を送って話す。

 

「わかった。それじゃあ行って来るよ。あ、先に言っておくけど、みんな恨みっこなしだからね」

 

「もちろんですとも。シャルロットさんこそ、失敗したからといって私達を恨まないで下さいまし」

 

「応援はできないが、悔いが残らないことを祈る」

 

「しっかりやってきなさいよ」

 

「正々堂々とやっているのだ、誰が恨むものか」

 

 各々笑顔を浮かべながら声をかけ合うその姿は、羨ましくも思う。まあ目的が一夏攻略じゃなかったらの話だけど。

 でも実はこれ、みんな内心では「失敗しろ」とか思ってたら怖いよな。

 

「シャルロット」

 

「静馬、いってくるね」

 

「ああ、頑張れよ。ただ、最後に一つだけアドバイス。間違っても誤解されるような言い回しはするなよ」

 

 付き合って下さい、なんて言おうものなら、「おう、どこに行くんだ?」までテンプレなやりとりになってしまう。

 あいつは付き合って、という言葉の意味を絶対勘違いしている。

 

「わかった。本当にありがとう、静馬」

 

 そうして俺と長い握手をした後、シャルロットは胸を張って部屋を出て行った。その姿はまるで、戦場に赴くジャンヌダルクのようでもあった。

 

 ところで楯無先輩、謝るからいい加減髪の毛引っ張るの止めて貰えますか。

 




ジャンヌの最後って……
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