「わかっているのなら、頼むから何とかしてやってくれ……!」
恨めしい、という言葉がぴったりな程、怨嗟の籠もった目でこちらを睨みつけてくる相手。長い黒髪が顔全体を隠しているにも関わらず、目だけはしっかりと捉えられるのだから、余計恐ろしさが増して見える。
どっからどう見ても貞子なのだが、それをしているのが千冬さんであることを考えると、怨念という形のないものよりもう数秒後には飛んでくるであろう出席簿を警戒した方が、よっぽど身の安全を守れるというものだ。きっと(出席簿が飛んで)来る。
「私がどれだけ、どれだけあいつの成績を誤魔化すのに苦労していると思っているんだ……!」
「いや、そんなことを俺に言われても――っていうかそれ改ざんですよね」
「そんなことするか馬鹿者。教科担当者に、どうにかならないかと頼んでいるだけだ」
「改ざんよりタチが悪い」
それ頼みごとじゃなくて、脅迫だろ。世界最強から頼まれて、断れる人間なんてこの世に存在するのか、いやいない。
「言っておくが、一夏の成績をどうにかしろ、と頼んでなどいないからな」
俺が言うどころか思うよりも早く、先手を打つように言われてしまった。先読みってレベルじゃないぞ。
「そんな教師としてあるまじき行為、する訳ないだろうが」
驚く俺に、心外だ、とばかりに眉間に皺を寄せながらこちらを見る、というか睨む。
前にも言った気がするが、その教師で学年主任で寮長でもある人が、下着姿で生徒と酒飲んでる時点で教師あるまじきとかちゃんちゃらおかしい。この場を他の先生に見られたら、間違いなく千冬さんクビ吹っ飛ぶぞ。この人なら、それすらもきっと何とかしちゃうんだろうけど。物理的に。
「なら何を頼んだんですか?」
「少しばかり、あいつの勉強を見てやって欲しい。そう頼んだんだ」
「なるほど。で、その結果は?」
「良ければこんなこと言うと思うか?」
ですよねー。そもそもあいつの勉強している姿なんて、授業中以外見たことないし。
「でもまあ千冬さん。国から進級も卒業もちゃんとさせるようお達しが来てますし、極端なこと言っちゃえば一夏は勉強しなくても問題ないですよね」
楯無先輩から暴露された話だが、俺と一夏は例え何があろうとも無事卒業させるよう、特に日本以外から強く言われているらしい。要は正式に所属する国家が決まっていない俺と一夏を、少しでも早く手に入れたいがためだ。どうせ無駄なのにな。
俺のその言葉を聞いた千冬さんは、目を閉じると眉間に皺を強く寄せた。これは一夏が手の平をグッパーするのと同じで、千冬さんがイラついた時、もしくは嫌なことがあった時にする癖だ。つまり千冬さんは今、不快に思っているということの証左になる。
確かに今のは失言だった。という後悔と反省が浮かぶ反面、その表情をすることで必然と鼻腔が膨らみ、面白い顔だなあと思ってしまっている自分がいる。
前に一度指摘したら、羞恥で顔を真っ赤にしながらフルボッコにされたから言わないけど。その時の映像を、どうやってか記録していた束さんと一緒に病院のベッドの上で見たのはいい思い出だ。
『ちーたん可愛いいいよぉおおうはぁうああペロペロしたぃいいピャアアア!』
『折れた骨に響くんで静かにして下さい。それと涎汚いし顔がアウトちょっと離れて』
『しーくん酷い!?』
思い出したらそうでもなかった。
俺の複雑な顔から何かを察したのか、煩わしそうに大きく溜息をつきビール缶を大きく仰いだ。まるでテレビCMのように喉の鳴る音が部屋に響く。本当に上手そうに飲むよな、この人。
「一夏が卒業後、一定期間学園で教師として奉仕活動することが決まっているのは知っているな?」
「……そうでしたっけ?」
「まったく、お前というヤツは……」
呆れた口調で呟く。そんな千冬さんに笑って誤魔化しながら「何ででしたっけ?」と尋ねると、辟易しながらも教えてくれた。
つまり一夏が部屋のドアを何度も壊し過ぎるので、その修理代を肩代わりしていたIS学園がキレてついに「働いて返せ」と言ってきたらしい。
そのことはすでに一夏にも伝わっているらしい。でも今日のあいつの話し方だと、それを踏まえた上で教師になる、と言っているようには思えなかった。まあ忘れてたんだろう。よくあるよくある、仕方ない仕方ない。そう、仕方ない。
「理由は如何にせよ、教師として教壇に立つ以上最低限度の教養というものが必要になる。生徒に質問されて『わかりません』じゃあ、話にならんからな。教えられる側からしても、そんな人間を師として仰ぐことなど出来やしないだろう。担当していない教科ならまだある程度納得してやれる部分はあるが、あいつが目指しているのはISについて教えられる教師だ。ならば束並みにとは言わんが、せめてISについて諳んじれるぐらいの知識は貯えておくべきだ。それに理解もせずただ漠然と乗っているだけで強くなろうなど、誰が許したとしてもこの私が許さん――」
ぐいぐいと酒を口に運びながら、まあ語る語る。色々な酔い方があるが、中でも千冬さんは普段とは比べ物にならないくらい饒舌になるのが特徴か。同時になぜか優しくというか、手が出難くなるもの特徴だ。もうこの人は、常に一杯引っ掛けさせておいた方がいいんじゃないか。アル中になりそうだ。
それとサラッと言ったけど、千冬さん一夏が教師になりたいって知ってるのな。俺だって本人から聞くまで知らなかったのに。
「一夏のことで、私が知らないことなどない」
また俺の表情を読み取ってか、ニヤリと笑いながら自身ありげな口調で話す千冬さん。
「弟の隠し事を暴けられずして、姉など務まるものか。例えそれが、ケータイに入ってるデータだとしてもな」
自信満々な様子で語る千冬さんの表情は、一夏がしたのとそっくりだ。この姉弟は本当にしょうもないことでドヤ顔するな。それと一夏。お前、将来の夢どころか性癖さえ姉にバレてるぞ。
「で、お前はどういうのが好きなんだ?」
「言うと思ってるのかこの酔っ払いは」
「更識姉に聞くか」
「もうホント勘弁して下さい」
タイトルほど大して将来を語ってないよなこいつら。というか一夏を肴にしてるだけ。
いい加減原作に則した話しを書くべきか(原作通りとは言ってない)
2015/2/04 章を削除しました。