椎名静馬のIS学園生活   作:榎本くん

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こんなんばっか書いてる


第何話にしようか困るどうでもいい話

「例えばだ」

 

 急に深刻な表情を浮かべ、そう一言前置いたのは世界最強彼女、織斑千冬さんだ。あ、この場合の彼女は代名詞的な意味であって、間違っても俺の彼女――恋人って意味じゃあない。ないったらない。

 

 右手に掴んだ缶を、いつものようにぐいと煽る。中は空だったらしく、眉を寄せ顔を顰めると、やはりいつものようにそれを俺に押し付けてきた。ちゃんと自分で捨て下さいよ……。

 

 空き缶をゴミ袋――ゴミ箱という殊勝な物はこの部屋にない――に放り込み、再び千冬さんへと目を戻す。

と、そこにはこちらに手を差し出す千冬さんの姿が! ……要するに、新しい酒を寄越せということだ。自分で取れやこのズボラぁ! まあ言えませんけどね。

 

 ため息を大きく吐き出しながら、新しいビールのロング缶を手渡す。満足そうに一つ頷くき受け取ると、徐にプルタブを開けやはりいつものようにグイと煽り飲み始めた。

 

 プハーッと美味そうに、そして名残惜しそうに息を吐き出し、ゆっくりとそれをテーブルの上に置いた。

 

「……で、何だ?」

 

「何だはこっちのセリフだこの酔っ払い」

 

 言おうとしたこと頭からスッ飛んでるじゃねーか。それだけ溜めておいてこれかい。

 

「この私に向かってその口の利き方とは、いい度胸だな静馬」

 

「いやもう口の利き方とかいいんで、さっさと話進めません?」

 

 目を細め、不機嫌そうに俺を睨む千冬さんだが。こちらとしてはもうビール缶六つ分はしょうもない話に付き合ってるんだ、さっさと話してもらって、さっさと部屋帰って寝たい。

 

「……まあいい。次生意気な口利いたら、その首貰いうけるからな」

 

「武将か」

 

「いいや、ブリュンヒルデだ」

 

「うるせえ。いいからさっさと話せこの酔いどれ戦乙女」

 

 

「例えばだ、一夏が嫁に行ったとするだろう?」

 

「もうその仮定から意味わかんないんですけど」

 

「茶化すな馬鹿者」

 

 茶化してないです。本当に意味がわかんないんです。もう誰か助けて。

 

「あいつは家事は万能、顔も悪くなく性格も私の教育のおかげでまともに育った。私の教育のおかげでな」

 

 何そのドヤ顔。酔った千冬さん本当めんどくさいな。

 

 けど千冬さんが教育というか、幼い一夏を育てるのを頑張ったのは事実だからなあ。昔母さんもしきりに感心してたのを、未だに覚えてる。

 

「しかしそのせいもあって、あいつは女によく惚れられる」

 

 しかめっ面を隠そうともせず、そう言い捨てる。けど顰め具合だったらさっきビール切らしてた方が酷かった。つまり一夏<酒ということか。一夏泣くぞ。

 

「それに関しては、お前の方がよくわかっているだろう」

 

「おかげさまで。手足の指じゃ足りないぐらいラブレター代わりに渡して、数えきれないぐらい呼び出しの伝言受けましたからね」

 

 最終的に俺の机に『織斑一夏専門受付窓口』とかいう紙が貼られるぐらいだった。役所か。

 

「どうだ私の弟のモテ具合は。凄かろう」

 

「確かに凄いですけど、何が一番凄いかっていうと本人がモテてることに一切気づいてない上に、好意すら理解していないっていうところなんですけどね」

 

「……凄かろう」

 

 酷い吐き気でも催したかのような表情をして、顔を逸らしながら小さくそう声にした。この話は止めよう、はいさい止め止め。

 

「話を戻しましょう。一夏が結婚したとして、どうしたんですか?」

 

 俺がそう話をふると、気付けとばかりにビールを一気に飲み始めた。一気飲み、良くない。

 

 開けたばかりだったはずのロング缶はあっという間に空になり、掌で包み込むようにしてテーブルに叩きつけられた。残ったのは、上から踏んだかのようにペシャンコになった空き缶が一つだけ。……なにこの人、アルミ缶とはいえ手の力だけで缶を縦に潰してんだけど。

 

 内心戦々恐々とする俺に対して、もはやこちらを睨むように見つめる千冬さん。え、俺殺されるの?

 

「仮に一夏が結婚したとしてだ。そうなると、私は完全な独り身になる訳だろう?」

 

「そ、そうですね。養う相手がいなくなる訳ですし」

 

「ということはだ、私も結婚できる訳だ」

 

「千冬さん。一応言っておきますが、いくら女性上位の今の世でも、女性同士は結婚できませんからね?」

 

「……今すぐつまみ三品作れば許してやる。それが嫌だと言うなら、今日で最後の命だと思え」

 

「今日でって、あと二分でてっぺん……はい、今すぐ作らさせて頂きます」

「出汁巻き卵は絶対だからな」

「はい喜んでぇー!」

 

「世界最強とかふざけたこと言われているが、これでも女のつもりなんでな。少なからずの結婚の願望ぐらいある」

 

 言いながら小さめの陶器のコップを傾ける千冬さんの視線は、先ほどの俺の言葉に対して明らかに抗議の意が含まれていた。ちなみに飲んでいるのは日本酒らしい。

 

 数分前、俺が出来上がった卵焼きを出すや、千冬さんはふむと一つ頷きながら「とっておきを出すか」と呟き何もない中空から一升瓶を取り出した。

 

 その光景に唖然としていた俺に、いたずらっぽくニヤリと笑い「束のヤツに頼んでな」とそれだけ言って右手にあったその一升瓶をドンッとテーブルの上に置いた。

 曰く、量子化していたらしい。技術の無駄使いハンパねえ。

 

「飲むか?」

 

「いえ、さすがに。けど、千冬さんが結婚って正直ピンと来ないんですよね。だって千冬さんあれですよね、『私より強い奴でないと結婚しない』とか素で言っちゃう人ですよね?」

 

「静馬、お前という奴は……。まったく、この馬鹿者が。そんなこと言う訳ないだろう」

 

「あれ、でも高校生の時告白してきた猛者に『私より弱い奴と? 鼻で笑う』とか言ってフったって話を聞きましたけど」

 

 路肩の犬糞以下の目で見られたその人は、その後一か月休んだとかなんとか。俺もそんなことされたら、間違いなく心折れるわ。

 

「その話、誰から聞い……いや、言わなくてもいい。その私を詳しく知っているヤツなど、一人しかいないからな」

 

 そう言って、猛禽類の目つきで笑う千冬さん。あ、これ死ぬパターンや。束さん殺されるパターンや。

 

 後ろを向き、中空を睨み見る千冬さんの視線の方向に手を合わせ合掌。成仏してくださいね。

 

「まあいい。あの頃私は若かった、というやつだ。今も若いがな。だが今の私はさすがにそんなことは言わん」

 

「選り好みしている場合じゃないからですか?」

 

「死にたいなら素直にそう言え」

 

「っ痛ぇ……」

 

 中身の入った一升瓶で頭頂部ガツン。それはマジで死ぬやつですから。手加減してるでしょうけど、普通の人はそれで死ねるんで。

 

「結婚どうこう言う女性が、一升瓶振り回さないで下さい」

 

「たかだか三キロぐらいだろう」

 

 鼻で笑いながら言う千冬さん。普通の女性は三キロの瓶を片手で軽々とぶんぶん振り回したりしないもんなんですけどねえ。

 

「重さの問題じゃなくてですね。ほら、お淑やかさとか、上品さっていうものが……あっ、すいませんでした」

 

「おい今何で謝った。私に淑やかさや上品さがないとでも言うのか」

 

「前も言いましたけど、パンイチでさえアウトなのに更に一升瓶振り回す人がなんでお淑やかになれると思うんですか。お淑やに喧嘩売ってますよね」 お淑やかに喧嘩売ってますよね

 

 実は千冬さん。さっきからずっとショーツのみだったっていう。せめてブラぐらいしろ。けど一升瓶を頭上でこん棒みたいに振り回す姿……。それ、完全に鬼の恰好そのものじゃないですか。誰だこれで女のつもりとか言ったの。

 

「……まあ淑やかさぐらいなくても結婚は出来るからな」

 

「確率は減ると思いますけどね」

 

「そんなものは単なる目安だ。後は勇気で補えばいい」

 

 なにその勇者王理論。何を勇気で補うつもりなのかは知りませんけど、間違ってもお淑やかさと上品さは勇気じゃ補えませんからね。

 

「それに、少しぐらいはすっ葉なのが好みと言うやつも中にはいるだろう」

 

「ああ、一夏とかはそういうの好きそうですね」

 

 上品過ぎると気がねする、って本人も言っていたし。一夏の中で鈴や箒が特別化してるのは、幼馴染ということに加えてそういう訳もある。

 

 ちなみにそれを聞いたセシリアが、スケバンみたいな恰好して登校してきたのだが、それはまた別のお話。

 

「静馬、お前はどうなんだ?」

 

「男の前で平然とオーガスタイルしちゃう人はちょっと……」

 

「いいだろう、私に喧嘩を売ったらどうなるかわからせてやる」

 

 いつの間に飲み終えていたのか、空になった一升瓶をポイと投げた立ち上がる千冬さん。気合を入れるように音が鳴る程に顔を叩くと、ニヤリと笑って言葉を続けた。

 

 俺は必死にいざるが、歩いて近寄る相手に逃げきれるはずもなく。あっと言う間に目の前に立たれてしまった。

 

「知っているだろうが、格闘技が総じて好きでな。もちろんプロレスもだ」

 

 

 確かに恰好だけ見れば確かにプロレスラーのそれだけども!

 

「橋本○也はいいぞ。彼の垂直落下式DDTは、もはや芸術だと言える。一度は私もやってみたいと思っていたのだが、生憎相手がいなくてな。だがこうも運よく好機が巡って来ようとは思わなんだ」

 

 代わりに俺には死期が巡って来てますけどね。

 

「千冬姉、ちょっといいか?」

 

 なんて思ったちょうどそのときだ。例の如く、ドアの向こうから一夏の声が聞こえてきたのは。助かった!

 

 ……なんてことはあるはずもなく。腹を踏みつけられて、その場に固定された。止めて、吐く、吐くから。

 

「こんな時間になんの用だ、一夏」

 

「い、いや、静馬いないかなーって思って来たんだけど……」

 

「こいつは今から私とプロレスをするんだ。明日にしろ」

 

「プロレス……ああ、うん、プロレスだな。わかった。頑張れよ静馬」

 

 去りゆく気配に絶望を感じる最中「俺もおじさんになるのか……」とドア越しに聞こえて来たその声と、悪鬼の如く歯を見せ笑う千冬さん。

 

 俺はついに今日で命を諦めるのだった。

 

 

 

 命は絶対防御のおかげで何とかとりとめた。ISを開発した束さんに感謝するべきか、絶対防御すら発動させた千冬さんに慄くべきか。

 

 とりあえず言えるのは、この人たち揃ってやべえ。

 




今回は千冬さんをオーガスタイルさせたかっただけの話。
『椎名静馬のIS学園生活』は脱いでもエロくない健全な作品です。


しかしちふゆんをこれほど雑な扱いしてる二次創作もそうないと思う。ごめんねちふゆん!



あとえのもとプロレス詳しくないけど、垂直落下式DDTはやばいと思う。
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