椎名静馬のIS学園生活   作:榎本くん

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あけましておめでとうって二週間ぐらい前の榎本が言ってた


第三十一話

「椎名静馬、と名前があったからまさかとは思ったが……」

 

「ども、お久しぶりで」

 

 軽い感じに挨拶をするその先には、釣り目がちの鋭い目つきをしたどこか怖い印象を持つ女性。だが実際はその通り怖い人、大戦乙女こと織斑千冬さんがいた。

 

「色々聞きたいことがあるんだが……とりあえずもっと近くに来い」

 

 そう言いながら手招きする千冬さんと俺の距離は、およそ三メートル離れている。何故かって? そりゃあ怖いからさ!

 

「……突然殴りったりしません?」

 

「いきなり失礼な奴だ。私は暴漢か何かか」

 

「とか言いながら、昔いきなり殴ってきたのを俺はまだ忘れてませんからね!」

 

「そんなこともあったな。若気の至りだ、許せ」

 

「いやもう全く謝る気ないでしょ」

 

 頭下げるどころかむしろ手の骨ならして殴る気満々じゃないですか。更に後ろに下がると、千冬さんは「冗談だ」と小さく口角を上げて笑った。冗談で生命の危機に追いやられたんですけど。

 

「いいからとりあえずこっちに来い……と言いたいところだが、それよりも先に教室に行くぞ。HRに出ねばならんからな……おい、何だその顔は」

 

「……いや、ちゃんと先生やってるんだなあ、と思いまして」

 

「当たり前だろう。これでも慕われているんだからな」

 

「そういえば千冬さん、昔レディースの総長にお姉さまって慕われていえ何でもないです黙りますはい」

 

 ちょっと自慢げに鼻を鳴らす千冬さんが面白くて言ってみたのだが、振りかぶる出席簿の恐怖に一瞬で怖気づきました。この距離で感じる風圧に股の間がヒュッとした。

 

「あまり余計なこと話すと、私もこの後のHRでついお前の昔話をつい話してしまうかもしれんからな。気を付けろ」

 

「絶対脅しになんか負けたりしない!」

 

「例えばそうだな、昔泊りに来た時漏らした話はどうだ?」

 

「ホントごめんなさい学園生活始まる前に全てが終わるんで止めて下さい」

 

 脅しには勝てなかったよ……。

 

 

「私は後ろから入るから、お前は前から入れ」

 

 教室の前に着くないなや、千冬さんはこう言うのだが明らかに言ってることがおかしい。

 普通に考えて生徒の俺が前から堂々と入って、教師の千冬さんが後ろからコソコソと入るなんてどう考えても逆だろう。

 

「普通に前から入りましょうよ。それとも意味があるんですか?」

 

「いや、一夏を驚かそうかと」

 

「子どもですか!」

 

「喧しい、大声出したらバレるだろうが」

 

 もうバレてしまえそんなくだらないこと。いつもだったら堪えるだろうはずのため息さえ、躊躇うことなく口から吐き出す。

 

「何考えてるんですか。もしかして酔ってます?」

 

「さすがに今日は飲んでないわ、馬鹿者」

 

「まあさすがにそうですよね、酔ったまま授業にでるはずないですよね。でもおかしいな、『今日は』って言葉が聞こえたんですけど」

 

「……いいか静馬。犯罪はバレなければ犯罪にはならない」

 

「真面目な顔して何とんでもないこと言ってんだこの教師」

 

 間違っても教師の口から出していい言葉じゃないんだけど。

 

「っていうかですよ。酒飲んで職員室行ったら、さすがにバレませんか?」

 

「その辺は問題ない。栄養ドリンクの瓶に詰めて偽装し、教室に移動しながら飲んでいるからな」

 

 言いながらこっちに向けるそのドヤ顔。確かに賢いっちゃ賢いけど、それ小賢しいっていうやつですから。しかも教師としてアウトな。

 

「そういう悪知恵働くところ、ホント千冬さんって束さんの親友なんだなって思いますよ」

 

「これほどの屈辱受けたのは初めてだ。今すぐ死ぬか死ね」

 

「そのド直球な殺意」

 

「なんなら私が介錯してやる」

 

「千冬さんの介錯とか、こっちが切腹する前に首吹き飛ぶんで遠慮しときます」

 

「ついでに上半身は持っていく自信はあるな」

 

「もはや腹切らせる気すらない!?」

 

 千冬さん新聞載ったら『恐怖!! ISを使わず上半身を屠る脅威のIS教師!』って見出し付くな。しかも一面飾れること間違いなし。

 

「俺の上半身が……こうなったらテケテケになって化けて出ます」

 

「そうしたら今度は叩き潰してやる」

 

 挽き肉ですねわかります。不適に笑うその横顔を見てると、幽霊でさえ叩っ切って肉片に変えそうだから凄いというか怖いというか。ゴーストバスター(物理)。マシュマロマン逃げて!

 

「千冬さんの妖怪ブッチャー!」

 

 そう言い返そうとした、その瞬間だ。

 

「あの、お二人とも……いい加減さっさと中に入って頂けませんか?」

 

 俺が声に出すよりも早く、間に割って入る声が聞こえたのは。

 

 揃って顔をそちらに向ければ、佇む一人の女性の姿。俺らの言い合いは全部教室の中まで響いていたそうな。背後に般若を浮かべる、その女性の言うことには。

 

 俺らはその静かに怒りを湛える女性の笑みに、素直に頷くことしかできなかった。

 

 後になってこの女性が副担任の山田先生だと知るのだが、俺はこの一件から千冬さんさえ従わせる怖い先生だと思い込み、実は温厚で優しい良い人だと知るまでの間、兵卒が如く従っていた。

 

「あ、織斑先生は後でお話がありますので。」

 

 絶対に山田先生を怒らせてはいけない。絶対にだ。

 

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。できない者にはできるまで指導してやる。いいな。あと趣味は酒だ」

 

 きっと毎年これを言っているのだろう、舞台上で台詞を吐くように、すらすらと述べていく千冬さん。

 

 最後の一言だけちょっとよくわかんないけど。開き直ってなにぶっちゃけてんだ。PTAに怒られるぞ。モンスターペアレントだぞ。……モンスターvsモンスターの図の完成するだけだった。

 

「千冬様っ、本物の千冬様よ!」

 

「お酒好きだなんてワイルドで素敵!」

 

「酔った勢いでいいから抱いて!」

 

「……まったく、毎年よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。それとも何だ、私のクラスにだけ馬鹿者が集中させているのか?」

 

 まあ千冬さんを筆頭に考えれば、あながち間違いではないかもしれない。酒入ったまま授業やる教師ですし。声に出して言えないけど。

 

「お姉さま、もっと酔って叱って罵って!」

 

「でも時には素面でいて!」

 

「そして飲み過ぎないように自重して!」

 

「……考慮しよう」

 

 生徒に言われ、素直に頷く千冬さん。いや、いいことなのだけど、違和感しか覚えないのは俺だけだろうか。HRでするやり取りじゃない気がする。

 

 ほら見ろ、一夏が困惑を通り越してもう思考放棄してるぞ。完全に視線が窓の外に向いてる。遠い目してるなあ……。

 

 ちなみにさっきまで睨むように一夏を見ていた箒だが、今は完全に違う目を向けている。姉に振り回される、同士を見る目だ。苦労してるなあ……。

 

 面倒な姉同盟、俺も加わりたい!

 

 

「――と、一度ここで区切ります。ここまでの内容はすでに皆さん習った内容ですね。少し難しいところですけれど、入試試験でも出ましたし、わからない人はいないと思います」

 

 眼鏡をくいと上げ、そう話す山田先生。教室を軽く首を動かして見渡すと、納得したように小さく頷いてみせた。と思ったら。

 

「織斑君、大丈夫ですか? 何かわからないところありました?」

 

 最前列ど真ん中、教卓真ん前の一夏に声をかけた。まあ後ろから見ててもわかるぐらいあれだけ落ち着きない動きをしていれば、声もかけられるってものだ。

 

 最後列の俺の後ろ、授業の様子を見ている千冬さんが、歯ぎしりしながら馬鹿者馬鹿者呟くぐらいわかりやすい。呪詛吐いてるみたいで怖い。

 

「はい! 全部全てまるっとわかりません!」

 

 元気よくそう言う一夏と、後ろからボールペンがブチ折れる音がしたのは同時だった。破片が後頭部に当たった。後ろ手に代えのボールペンをさりげなく差し出したら、それも一瞬で握り潰された。折るんじゃなくてすり潰すって……。

 

「……えーっと、全部全てまるっとどこまでも、ですか?」

 

 さっきまでの優しい笑みではなく、引き攣った笑みを浮かべる山田先生の声は、どこか掠れたようにも聞こえる。後ろから聞こえる怨嗟の声が怖い。

 

「はいっ、全部全てエブリシングです!」

 

 そして躊躇いなく響く一夏の声。もう完全に開き直ったんだろうな、無駄に通る爽やかな声だ。

 

「あ、あの、入学前に郵送で渡した「参考書はどうした」」

 

 いい加減耐えきれなくなったのか、山田先生の声を遮って、静かに声を放った千冬さん。

 

「入学前に必読と書かれた参考書を自宅に送っているはずだ。それはどうした?」

 

「ふ、古い大技林と間違えて捨て「馬鹿者!」」

 

 またしても、言い終わるより早く一夏の声に被さるように、千冬さんの声が響き渡った。いつの間にか立ってこちら側を向く一夏の顔が、完全に怯えに入ってる。まあ怖いだろうなあ。俺だって後ろにいられるだけで怖いんだもの。

 

「再発行してやる。一週間以内に覚えろ」

 

「い、一週間!?」

 

「お前に出来るかね?」

 

「い、いいですとも! 一生かかってもどんなことをしても覚えます!きっと覚えますとも!」

 

「それを聞きたかった」

 

 そう言って瞼を落とし、フッと小さく笑う千冬さん。姉弟でBJごっこするの止めて貰えませんかね。

 

 なんて俺は内心突っ込むも聞き届けられるはずもなく、千冬さんは何事もなかったかのように教卓の前へと進んで行った。一夏の真ん前。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と既存の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしない為の基礎知識と訓練だ。理解ができなくとも覚えろ。そして守れ。規則はそういうものだ」

 

 良いこと言ってるんだけど、前言のやりとりがアホ過ぎてボケの前フリにしか聞こえない不思議。でも周りの女子たちは尊敬の目を向けているのだから不思議。

 

 そんな中、一夏は違うことを思ったのだろう。いや、俺も無意識に顔に出ていたのかもしれない。

 

「……『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」

 

 言ったその言葉の先は、俺か。それとも一夏か。あるいは両方か。

 

「望む望まざるに関わらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」

 

「そうか。だから千冬さんは人間離れしてて、友達いないんだなあ……」

 

 無意識だったんだろう、頭に浮かんだ言葉を思わず呟いてしまったのは。だってそう思ったんだもの。

 

 手刀で人を半分こに出来るんだから、人を止めてると言っても過言ではないはず!

友達も束さん以外見たことないし。舎弟ならいっぱい見た事あるけど。

 

「そそ、そんなことありませんよ織斑先生っ、いいえ、千冬先輩! 私は千冬先輩の友達ですからね!」

 

「おいよせ、麻耶」

 

「俺もだぜ千冬姉! 俺だって千冬姉の友達になるからな!」

 

「落ち着け一夏、お前は私の弟だ」

 

「では、わたくしも淑女として友達のいない織斑先生と御学友に!」

 

「いきなり出てきて喧嘩売ってるのかオルコット」

 

「じゃあ私も織斑先生と友達に!」「なら私も!」「あたしもなる!」「私もよ!」「私も!」

 

「お前らも落ち着け」

 

 次々に立ち上がると、大きく声を上げながら我先にと友達宣言をしていくクラスメイトたち。しかし千冬さんの制止も届くことなく、クラス全員が満場総立ち状態。

 

 ついには

 

「友達!」「友達!」「友達!」「友達!」

 

 と謎コールさえ始まった。新しい宗教みたい。

 

 周囲が盛り上がる最中、顔を赤らめプルプルと僅かに肩を震わせながら、俺を殺さんばかりに睨む千冬さんを見て、明日の朝日は拝めそうにないなぁ、と覚悟を決めるのだった。

 

 放課後しこたま殴られた。

 




>「望む望まざるに関わらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」
>「そうか。だから千冬さんは人間離れしてて、友達いないんだなあ……」

正直今回はこの件が書きたかっただけ。


せめて月一で更新頑張る。
頑張れ明日からの榎本!
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