椎名静馬のIS学園生活   作:榎本くん

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第四話

「……ダメだった」

 

シャルロットが俺の部屋に戻って来たのは、部屋を出て行ってからわずか十分にも満たない間だった。

 結果は俺が言い直すまでもなく、彼女の言葉通り。肩をがっくりと落とし、とぼとぼとした足取りで先程までいた位置に座り込んだ。

 その姿に、皆が心配と不安を混ぜ込んだような視線を向けている。

 

「ま、まあお疲れ様。ほら、お茶。これでも飲みなさいよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 鈴から差し出されたお茶を受け取ると、シャルロットはそれをゆっくりと飲み始めた。

 ちなみに出所は俺の部屋の冷蔵庫だ。いつでも冷たいお茶が飲めるのは、俺の部屋だけ。いや、わからんけど。

 

「……このお茶」

 

「静馬の部屋にあったヤツ。常に冷蔵庫にお茶が入ってるなんて、おばあちゃんみたいよね」

 

「ちょっと待て鈴、よりにもよっておばちゃんはとはなんだ」

 

「ねえねえ静馬おばあちゃん、私も静馬おばあちゃんのお茶飲みたいなあ」

 

「楯無先輩は窓にできた結露の水滴でも舐めてて下さい」

 

「それ酷くない!?」

 

 立ち上がってバシバシと叩いてくる先輩を往なしていたら、最終的になぜか後日淹れたてをご馳走することで方が付いた。 

 拒否しようとしたけれど、先輩にウソ泣きされて女性陣全員から冷たい目を向けられたので、それすらもできなかった。俺の部屋なのに何この居心地の悪さ。

 

「静馬さんがおばあちゃんかどうかよりも、今はシャルロットさんがフラれたことの方が大事ですわ」

 

「ああ。シャルロットがどうやってふられたのか、それを確認すべきだ」

 

 あー、この金と銀は的確に人の心を抉るよね。俺はともかく、ふられたとか言うからシャルロットがダメージ受けてるじゃないか。

 隣に座る箒が心配そうに声をかけるが、あまり良い反応はない。

 

「だ、大丈夫かシャルロット?」

 

「……もうやだ」

 

 ほら見ろ、シャルロット拗ねちゃったじゃないか。

 

 

「さて、次のチャレンジャーだけども」

 

「私が行こう」

 

 言葉と同時、スッと手を上げたのはラウラだった。

 

「いいのか?」

 

「ああ、同室の仲間が討たれたのだ、仇を取るのが筋というものだろう」

 

「……なるほど」

 

 なるほどじゃないだろ。お前らどこに向かってるんだ。討たれたとか仇とか、戦争でもしてるのか。ああ、これが恋は戦争ってやつか。

 あとこれ声聞いてるからわかるけど、文字にしたらきっと二人混ざってわからなくなりそうだよな。どっちも漢気……間違えた、男気溢れる喋り方だから。

 

「んじゃあ、次はラウラってことでいいんだな」

 

 俺の問いに、ラウラは銀の長い髪を揺らし頷いて答えた。周りの皆も異論がないとばかりに、同じく頷いてみせる。

 

「しかし、情報がないというのは少々やっかいだな。日本の『彼を知り己を知れば百戦危うからず』という諺の通り、まずは敵の情報を知りたかったのだが」

 

 そう言って隠されていない、右の赤い瞳だけをシャルロットへと向けた。シャルロットは相変わらずいじいじと床に座り込んだままだ。

 あとラウラ。その諺は日本じゃなくて中国のだし、これから告白しにいく相手を敵とか言うな。

 

「こんなこともあろうかと!」

 

 シュバッ、という効果音が付きそうな勢いで再び姿を現したのは、楯無先輩であった。さすが忍者の末裔。え、違う?

 

「こんなこともあろうかと、シャルロットちゃんの告白シーンを撮影したデータがここに!」

 

「え、へ? うぇええええええ!? 嘘でしょ、嘘ですよねえ!?」

 

 掴みかかろう勢いで先輩へと駆け寄るシャルロット。しかし辿り着くよりも先に、足を縺れさせ床へと転び倒れてしまった。

 膝を付き、立ち上がろうとするシャルロットを見下ろしたまま、やおら口を開く先輩。

 

「シャルロットちゃん。安心して」

 

「更識先輩……。そ、そうですよね、生徒会長がそんなことする訳……」

 

「しっかり撮らせてもらったわ!」

 

「うわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 叫び声を上げながら、終には床へと潰れるように倒れ伏してしまった。

 その光景を先輩は満足した顔で見下ろし、そしてそれらの光景を俺たちは物理的にも精神的にも引いた位置で見ているのだった。

 

 合掌。

 

 

「じゃ、さっそく鑑賞会といきましょうか」

 

 上機嫌で端末へとデータを移し、映像を中空へと映し出す。

ISにより機械工学が著しく発展した現代ではあるが、それでも空間への投影は最先端をいく技術だ。ISには標準で備わっているものの、個人で持ち合わせることができる程安い代物ではない。

 

 しかしそれができる先輩は伊達に更識を、そして楯無を名乗っている訳ではないということだ。無駄遣いも甚だしいけど。

 映し出されたその先に見えたのは、言うまでもなくワンサマこと一夏。特に何をするでもなく、ベッドの上に寝転んだままケータイを覗き込んでいる。

 

「おお、嫁だ」

 

「……ところでこれ、犯罪じゃないの?」

 

「ま、まあ今回は特別ということで、よろしいんじゃないでしょうか」

 

 なんて呟くのは鈴とセシリア。言うまでもなく盗撮は犯罪なのだが、いいとか言っちゃうセシリアはだいぶ毒されている。

 

「時間を見る限り、私達が話し始めた頃か」

 

「そうみたいだな。先輩、これ早送りってできます?」

 

「もっちろんよ。ポチっとな」

 

 箒の言を受け尋ねると、先輩は外に跳ねた水色の髪を楽しげに弾ませながら映像を先へと送ってみせた。

 それから画面を流すこと数秒。一夏が動き出すに次いで、画面の端にシャルロットの姿が入り込んだ。

 

「先輩、この辺で」

 

「はいはーい」

 

 いったい何で操作しているのやら、返事をすると同時に画面は早送りから通常の流れへと切り替わった。気になって視線を先輩へと向けるも、返ってきたのは悪戯っぽく細まった赤い瞳だけだ。まあ、後で教えて貰えばいいか。

 そんなことを考えながら、流れる映像へと視線を戻した。

 

 

『なんだ、シャルか。どうしたんだ?』

 

『うん、ちょっと話があってね。入ってもいい?』

 

『ああ、いいぞ。その辺テキトーに座ってくれ。それで、話ってなんだ?』

 

『えっと、その……』

 

『そうだシャル、いいお茶があるんだ。ほらこれ。冷蔵庫に入れたばっかりだからちょっと生ぬるいかもしれないけど、それでも美味いんだぜ』

 

『へえ、そうなんだ。いただきます。あ、ホントだ、美味しい』

 

『だろ。実はな、静馬に淹れて貰ったんだ。あいつ、お茶淹れるの本当に上手いよな』

 

『う、うん。それでね一夏』

 

『おっといけね、静馬から貰ったお茶請けもあるんだった。ちょっと待っててな、探してくる』

 

『も、もう探しながらでいいから聞いて。あのね、一夏』

 

『んー、なんだー?』

 

『あ、あのね、ボク、実は……好きなんだ!』

 

『おー、俺も大好きだぞ!』

 

『ほ、ホントに!?』

 

『ああ。もうなきゃ生きていけない、ってぐらい好きだな』

 

『う、嬉しい……』

 

『一生手放せないよな』

 

『い、一夏ぁ……』

 

『このお茶』

 

『……ふぇ?』

 

『お、あったあった。何だよ静馬のヤツ、こんなわかり難いところに置いて。お待たせ、シャル。このお茶請けも美味くってさあ、お茶との相性抜群なんだよ。本当、好き過ぎてなきゃ生きていけないよなあ……ってどうしたんだシャル?』

 

『……一夏の』

 

『へ?』

 

『一夏のバカァ!』

 

『待てシャル、湯呑みは当たるとマジでヤバ――!?』

 

「以上、シャルロットちゃん、静馬くんのお茶に敗れるの巻でした!」

 

サラッといい笑顔でそう言ってのける会長は、ホント外道だと思うわ。なんか怨みでもあるのか。

 

 真後ろに立つ先輩から、首を回して皆へと視線を戻す。が、どういう訳か返って来たのは恨めし気な視線が四つ。あ、これあかんパターンや。

 

「……まあ案の定というか、やっぱりあんたが悪い訳ね」

 

「自分から協力を申し出ておいて裏切るとは。中々悪党じゃないか、相棒」

 

「一夏さんの前に、まず静馬さんをどうにかしなければいけなかったようですわね」

 

「そういう訳だ、静馬。幼馴染として、私が引導を渡してやろうじゃないか」

 

 ようし待て、それは良くない。確かにお茶を渡したのは俺だが、それをシャルに飲ませたのは俺じゃない。

 ああ、なるほど。だからさっきシャルはお茶に反応して、しかも苦々しい顔をしたんだな。そうかそうか。

 少しばかりすっきりしたところで、それじゃあ。

 

「おやすみなさい」

 

 そう呟いた直後、四度の衝撃が俺の意識を暗闇へと誘うのだった。

 

 おい、これマジで死なないだろうな。

 




シャルロットは犠牲になったのだ。
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