ダイノジ。
「家族みたいだ」
後で聞いた話だが、どうやら一夏は俺にそう言おうとしたらしい。
何でそうなったのかはよくわからないが、一夏が言うことには「静馬と千冬姉からは同じような感じがする。俺と千冬姉は姉弟。ってことは、俺と静馬も兄弟みたいなもの。つまり俺と静馬は家族だ!」ということらしい。
言いたいことはまあ分かる。俺=千冬さん、千冬さん=家族、つまり俺=家族、ということだろう。
何でそういう発想に至ったのかは全くもって理解し難いが。
あいつの頭の思考回路はショートどころかもはや基盤ごと派手に飛び散っているんじゃないか。
だがしかし一夏がRG、リアルゲイじゃなくて良かったという安心感。本当に良かった。
随分と騒がしくなったが、何だかんだでIS学園の日常とはこんなもんなのであろう。
「――以上が、先日起きた出来事の概要です」
「……そうか」
俺の報告にただ一言答え、今までに見たことない程のしかめっ面をしてみせたのは天下無双のお姉さん、織斑千冬だ。
言葉を繰り返すが、今まで十年以上の付き合いがある中でこんなにも苦渋に満ちた顔を見たのは初めてだ。
……まあ弟がゲイかもしれないなどと聞かされれば、こんな顔にもなろう。
「一応聞いておくが、一夏は大丈夫なんだな?」
「頭以外でしたら大丈夫だと思いますよ」
「ならいい」
いいのか。いや、比べればたしかにいいのかもしれないけど。
千冬さんはふう、と一つ息をつくと、目の前にあった缶ビールを手に取りぐいとそれを呷った。五百ミリ缶を一気だ。
正直危ないから止めて欲しいのだが、そんなこちらの考えなんてなんのその。続けざまにもう一本を躊躇いなく開けると、やはり容赦なく喉の奥へと流し込んでいった。
「ところで千冬さん」
もう何本飲んだのだろうか、転がった空き缶たちの中心に座る千冬さんにやおら声をかけた。
顔どころか首回りこそ真っ赤になってはいるものの、やや舌っ足らずな口調になっている程度で存外はっきりとしている。酒にすら打ち勝つ強靭な意志。どこ目指してるんだこの人。
「なんだ」
そして返って来た言葉はそっけないが、意識ははっきりとこちらへ向いている。まあ無理やり付き合わされて俺も飲んでいるのだ、これで無視されようものなら泣いて帰って一夏に文句を言うところだ。
「千冬さんってレズビアンなんですか?」
「……今まで遠回しに女の方がいいのか、と聞いて来たヤツはいたが、こうもストレートに聞いてきた馬鹿はお前は初めてだ」
そもそもこんなバカなことを聞いた人間がすでにいることに、こちらとしては驚きだ。世界最強として名高いブリュンヒルデにこんなこと聞く人間なんて、命知らずか変態ぐらいなものだ。
「じゃあ千冬さんの始めては俺が頂きましたよっと」
「……静馬お前、酔ってるな」
「そりゃお酒を飲んでるんですから、酔っぱらうに決まってんじゃないですか」
「まあ飲ませた私にも責はある、か。まあいい、戯言に付き合ってやる」
珍しくノリがいい、と思ったが、この人は俺以上に飲んでいるのだから、普段とは違う面が出て来ても不思議ではない。
っていうかすでに下着姿の時点で普通じゃないんですけどね、この人。
「で、どうなんですか?」
「……その前に聞きたいんだが、そもそもお前は私をどういう目で見ているんだ?」
半眼でやや呆れたような声音でそう問い返す千冬さんに、俺は間髪入れずに答えた。
「サイヤ人」
「馬鹿者」
即行で殴られた。クソいてぇ。
しかし千冬さんがサイヤ人を知っているとは意外だ。もしかしてあれか、昔かめはめ派の練習とかしちゃった人か。
でもこの人なら頑張れば出来そうな辺りが凄く怖い。
「というかだ。弟がゲイで姉がビアン。本当にお前らは私達姉弟を一体どういう目で見てるんだ」
まあまともな目では見てないでしょうね。共に腐りきった目で見ているに違いない。
そもそも千冬さんのそれに関しては最初のHRの時点でそれが発覚しているんだから、今更という気もするが。
「だったら早いとこ結婚でもすればいいじゃないですか」
「ふん、一夏が成人するまでするつもりはない」
「四年後は千冬さんも三十路間近か……」
「おい静馬、相手がいないなら私が付き合ってやってもいいぞ」
「すいません、下着姿で生徒と酒飲んじゃうような人とはちょっと……」
「わかった、脱げばいいんだな。この下着を脱げばもう『ブリュンヒルデは篠ノ之博士とできている』だなんて噂から解放されるんだな。よし、静馬手伝え!」
「ちょ、止めて下さい千冬さんっ、代わりに俺が警察に束縛されます! っていうかそんなことも噂されてたんですか!?」
「お前にわかるか、お偉方との会議で束の話になった時のあの居た堪れない視線が! 噂を信じて女でハニートラップを仕掛けられる私の気持ちがあ!」
「すいません、なんかよくわからないけどすいません! だからとりあえず、あ、待った、下はダメです、下は絶対に脱いだらダメですって!」
「なあ千冬姉、ここに静馬来てない……か……。……うん、ごめん。それじゃあな千冬姉、静馬義兄」
「おい待て一夏、誰が静馬兄だ。っていうかそのちょっと納得した感じの顔で出て行くの止めろ。っていうか戻って来て一夏お願いだから!」
「何だ静馬はやっぱり一夏の方がいいのか! 一夏来い、静馬を賭けて勝負するぞ!」
「何言ってるんだこの酔っ払い! ああもう誰か助けてくれ!」
翌朝、恐らく史上初織斑千冬に土下座された男になった。
ISの二次小説中、こんなくだらない理由で千冬さん土下座させたのは私が初めてだと思う
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