皇女戦記   作:山本 奛

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かくて少女たちは巡り合う。


序章 ~ダキア戦役終結
邂逅の時


「…どうしてこうなった」

ターニャ・デグレチャフ少尉は己の運のなさを嘆いた。

 

この幼女、中身は平成の世を生きていたサラリーマン。

それが神を自称する『存在Ⅹ』――彼女は頑固なまでの無神論者であるので、その自称を認めずこう呼んだ――によってこの「ドイツによく似た帝国(第一次大戦前夜風味)」に落とされて数年。

 

この世界で孤児として産まれ、孤児院で育った彼女に「ほどほどの収入、ほどほどのエリートになり安楽な一生を送る」方法はほとんどなく。

前世にはなかった「魔導技術」への適性…魔導適性を活かして軍人となり、栄達を果たすというのが、ほとんど唯一の道であった。

ただ、第一次大戦前夜で不景気真っ只中の帝国の現状を考えると「苦難の中に落として信仰心に目覚めさせる」とほざきやがったあの忌々しい『存在Ⅹ』の目論見通りではないか、と思われはしたが、しかしながらほかに道もなく。

 

かくて彼女は決意する。

「士官学校を出てほどほどの功績を立て、後方勤務――こんな幼女を前線に立たせ続けることはないだろうという目算もあった――となり、そこそこに出世して安楽な余生を獲得する!!これだ!!」と。

 

 

 

 

 

「…それがどうしてこうなった!」

ターニャは再度嘆いた。

 

 

 

 

士官学校で優秀な成績を収めたまでは良かった(計画通り)

 

軍隊の飯は旨いとは言いがたいが、経営難の孤児院に比べれば三食出るだけマシである。

それがおかしくなったのは北方管区研修(半年の予定)からである。

確かに帝国はすでに準戦時体制に移行しており、訓練も平時のそれと比べるとかなり「実戦的」なものになりつつある。とは教官から聞かされていた。

 

だが、仕上げ段階とはいえ、緊張状態にある(開戦したときは)最前線に(なる場所に)士官候補生を送り込むとは誰が予想できただろう?

あまつさえ、よりにもよってこのタイミングで戦端が開かれるなど、誰が予想できようか?

少なくとも、この時点では(・・・・・・)多分に平成のサラリーマン感覚が色濃く残っていたデグレチャフ候補生には無理だった。

 

ともあれ。

彼女は研修のつもりでやってきた北方で戦闘処女を卒業。

この際、一人で中隊を相手するという無茶をやった結果、出血してからのベッドイン(入院)と相成った次第である。

 

表現が卑猥だって?気にするな。嘘は言っていない。

それに9歳児相手に何を言ってるのだねハハハ(

 

 

かくてこの2週間、平成の医療技術とは比べ物にならない治療――なおかつここは帝都中央病院ではなく野戦病院――にうめき声をあげている彼女だったが、話は続く。

 

 

「…銀翼突撃章?」

「そうだ、貴官にはそれが授与されることになった。それも皇女殿下(・・・・)直々に、な」

 

 

まずいぞ…実にまずい

 

 

なにせ銀翼突撃章というのはハードルがなかなかにやばい代物である。

具体的には「殆どが授けられる前に戦死している」、ぶっちゃけ「戦死した時の貢献で特に優秀なものに贈られる」と言って過言でない勲章。

それを生きている状態で、なおかつ候補生段階――開戦と同時に少尉任官しているが、誤差レベルであろう――で授与されるのは前例がなく、そんな勲章獲得してしまうと最前線に送られる可能性が極めて高い!

 

同時に彼女はその明晰な頭脳でこう考えてはいる。

『ま、まあ出世が早くなりやすいという点は変わらないだろうし、出世したら中央に戻れる可能性もあるだろう(震え声)』と。

体のいい現実逃避であるという自覚はあったが、そうとでも思わないとやってられない。

 

 

ただ、同時に良いこともある。とターニャは思った。

さっき、隊長殿は「皇女殿下から直々に授与される」と言った。

つまり、この帝国の指導者層、それも最上位との接点ができるということだ、と。

 

「皇女殿下のお気に入り」とでもなればあるいは軍上層部がその損失を恐れて後方勤務に回してくれるかもしれない。

 

…ただし、いつになるかわからない。

そもそも確実性が極めて乏しい。

 

神頼みなんてもってのほかの合理主義者たるターニャはそう結論付け、諦念の溜息をこぼしたのだが、この「極めて実現性に乏しい可能性」が「不本意な形で」現実のものになることを、彼女はまだ知らない。

 

 

 

 

ところで、ここで読者諸兄に問題。

 

 

 

 

受勲…あるいは表彰において、受賞者はどのような服を着るべきか?

…そう、スーツなり制服、もっと格式が高いところであればモーニングである。

では、軍人の制服とはなんであるか?

…言わずもがな。軍服(そのうちの特に礼装)である。

 

その上で以下の点を考慮いただきたい。

 

①ターニャ・デグレチャフ少尉は満身創痍の重傷者である(大前提)。

 

②重傷者すなわち負傷兵は病院服を着て安静にしているのが仕事である( 脱走してでも前線に戻りたがる(寝てる暇はないぞガーデルマン)激レアケースは参考にならないので無視する)。

 

③病人の着る病院服はゆったりとした、患者に負担にならないつくりである(当たり前だ)。

 

④…で、軍服ってかなりキッチリしてるし、硬いのよね(あっ)。

 

⑤それがめったに着ない儀礼服だったりすればなおさらだよね(あっあっ)

 

④まあ、お古だったり熟練兵のだったらそこそこ柔らかくなってるけどね?(アッー!!)

 

⑤そもそも候補生で儀礼用なんて持ってないから一種軍装になるけど、それでもまあ新品に近いのは変わらないのよね(もうやめてあげて!!)

 

 

ここまで言えば、お分かりになるだろうか?

ついでにオマケ情報(ト ド メ)

 

⑥重傷者であるターニャ・デグレチャフ少尉(メンタル男性)は自分で着替えることができません。 あ と は 分 か る な ? (幼女のライフはもうゼロよ!!)

 

 

 

 

かくて目からハイライトの消えた幼女が爆誕した。

 

士官学校での騒ぎを知るレルゲン少佐あたりが見たら目を疑うに違いない。

そのレベルで目が死んだ。

 

 

 

無論、軍医殿は渋った。

しかし、重傷の少尉に勲章を授与するため、皇女殿下御自らこの野戦病院を慰問あそばされるとあっては止めようがない。

たとえそれがプロパガンダにするためと分かっていても、である。

 

そして、病院なのに死にそうな顔をしたターニャの意識がもうろうとし始めた時。

 

 

――こちらです殿下

――ご苦労、中佐。大尉…

――こちらに…

 

 

 

廊下からそんな声がして、入ってきたのは絶世の美少女だった。

 

 

 

ターニャは思う。

王族とは遺伝子レベルで美男美女の集まりなのだろうか(けっ)、と。

そう思わせるほどの美をその少女は身にまとっており、それでいて成人前のあどけなさというか、幼さというか…何とも言い難い「艶」と言うべきものを、持っていた。

 

 

 

 

皇女、ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルン

 

 

 

 

統一暦1907年の生まれの御年16歳。

皇帝の一人娘にして皇太女。

 

それだけならただの「年若い皇女」だが、それでは片づけられぬいくつかの噂話がある。

 

曰く、1歳で言葉を話し始め、2歳でほぼマスターした。

曰く、家庭教師――帝国において、高位の貴族そして皇族は学校なんぞには行かない――が7歳までにお役御免となった(教えることがもうない)

曰く、「皇帝の座を継ぐ以上、最低限の軍事知識は必要」と押し切り、士官学校に在籍していた(ただし、偽名で)。

曰く、ここ数年病気がちな皇帝に代わり、ほとんどの公務を代行――言われてみると、ターニャはラジオで皇女殿下の動静は聞いたことがあるが、皇帝のそれは聞いた覚えがない――している。

 

等々。

ちなみに魔導師適性も持っており、航空魔導師の資格も持っているとか…。

まぁ、帝国の皇女ともなると、前線勤務などまずないだろう。実に羨ましい限りである。

 

 

そんな化け物皇女。それが帝国皇太女ツェツィーリエなのであった。

あまりの化け物伝説に、ターニャは自分と同じ転生者じゃないかと疑っているがそれはともかく(ご明察)

 

 

そんな彼女は、病室に入るなりこう言った。

 

「…中佐。デグレチャフ少尉は重症で入院中と聞いていたのだが?」

「はっ!そのとおりであります!!」

だからアンタにわざわざ来てもらってるんだが…と愚痴る――心の中でのみ。顔はどんどん青ざめている(それどころじゃない)――ターニャだったが。

 

 

 

 

「馬鹿者!!!!!」

 

 

 

 

病室が、揺れた。

 

 

 

「貴様ら、重傷者を軍服に着替えさせてさらに身を起こさせるなどと、何を考えている!!銀翼突撃章らしく授与前に殺すつもりか!!」

 

ちなみにここまで息継ぎなし。

肺活量すげーな。と他人事のように思う――と、いうか意識が飛びかけている――ターニャを、柔らかな手がそっと寝かしつける。

それが皇女の手だと気づいたときには、その顔が目の前にあった。

 

「すまない。私が授与するとなるとこうなってしまう可能性を失念していた。許せ」

口調はお姫様と言うより軍人なのだな。と、ターニャは思った。

それもそうか、一応士官学校を出ているんだし…。予備役扱いなのかな、うらやましい。とも。

「帝国軍人たるもの。これしきの傷――」

「鏡を見たまえ少尉。死にそうな顔になっているぞ」

言われずとも分かる。

が、こういう思いやりをされて嫌な人間はいない。

「…申し訳ありません殿下。正直に申して、意識がもうろうとしています」

「だろうな。…皆の者。勲章授与は明日以降に延期だ」

「な…、殿下。それでは日程が…」

「構わん。私が風邪をひいたことにすればよい」

 

やだこの人イケメン

 

ターニャは思った…後日撤回することになるが。

 

「それでは、少尉の体調が回復したら連絡してくれ。…くれぐれも、次は軍服を着せるなよ?もちろん寝たままで、だ」

 

 

そう、念押しして皇女は去った。

…らしいのだが、ターニャはもうほとんど意識を失っており、覚えていなかったりする。

 

 

ともあれ、これがこの物語の主人公二人の邂逅であり。

 

歴史家の誰も気づいていないが、歴史の転換点だったのである。

 




2019/07/16改稿



こんな感じで始まります。
週一更新目標ですが、早くなったり遅くなったりするかもしれません。

ミリオタらしいものが書ければな、と思いますが果たして。

なお、皇女の名前は抵当なのをひらめかなかったため、以下の実在の皇女をもじりました。

ツェツィーリエ・フォン・プロイセン(Cecilie Prinzessin von Preußen, 1917年9月5日 - 1975年4月21日
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